インタビュー: 覚前 輝也 -頼れる存在であり、目標でもある仲間と共に-

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 2017年も残すところあと一週間。年の瀬である。

 多くの人が2017年を振り返り、来年の展望を描いていることだろう。しかし、マジックのプロプレイヤーたちは少し違った感覚で過ごしている。

 なぜならば、プロプレイヤーにとっての「一年」は“マジックのシーズン”なのだ。

 筆者が「2017年を振り返って、いかがでしたか?」と尋ねると、少し困った顔をしながら「僕にとってはまだシーズンの半ばなので」と一人のプロプレイヤーは答えた。

覚前 輝也

 覚前 輝也。

 Team Cygamesに所属するプロプレイヤーで、昨シーズンのチームシリーズで優勝を果たしたMUSASHIの一員でもある。

 これまでに何度かインタビューを申込んだことがあるのだが、その度に覚前は真摯に言葉を返してくれる。Team Cygamesの9割勝てるマジック講座での物静かで柔らかな印象と共に、その言葉は筆者の心に強く残っている。

 今回も、まったく同じだ。

 困りながらも、彼は思考を巡らせてから丁寧に言葉を紡いでくれた。ここで綴られるのはプロプレイヤー覚前 輝也の”心からの言葉”と、筆者は信じている。

覚前「思い返してみると、いろいろなことがありましたね。まず印象的なのが“シーズンの切り替わり”です。少し悔しい思い出でもあるんですけど……」

 それでは、始めよう。覚前 輝也が振り返る、2017年の思い出。

覚前の、新たなマジックとの付き合い方

覚前「昨シーズン、プロポイントが33点だったんです。ゴールド・レベルは35点からなので、あと一歩足りなかったんですよね。なので、とても悔しかったです。これが2017年の大きな思い出です。あと、昨シーズンはマジックとの付き合い方を少し変えたんですよ」

――「そうなんですね。どのように変えたのですか?」

覚前 輝也

覚前海外遠征を控え目に、グランプリは国内とアジアだけにしていました。そして、プロツアー。これだけでゴールド・レベルに到達する、というものです」

――「なるほど。海外遠征を控えめにしても、それだけのプロポイントを稼ぐ、ということですね」

覚前「そうですね。そして、そういうプロでありたい、という目標です。ですが、結果的にはゴールドレベルに一歩届かなかったので、まだまだ足りていない、と」

――「そういった付き合い方になったのは、何かきっかけがあったのですか?」

覚前無理してやるマジックは楽しくない、と思ったんです。海外遠征を繰り返して必死にプロポイントを集めるというのは、少なくとも今の僕には合っていないんですよね」

――「そういった”海外遠征を繰り返す”という時期もあったのですね」

覚前「ありました。グランプリ・神戸2014、そしてグランプリ・オークランド2015で優勝してゴールド・レベルになったのですが、その次のシーズンですね。レベルを維持するためにも、とにかくがむしゃらに海外に行っていました。でも、結局ほとんど実りがなかったんです」

――「疲労の方が大きかった、という感じですか?」

覚前 輝也

覚前「まさにそのとおりですね。僕はマジックが大好きなんですけど、その時期は楽しめなかったんです。なので、『ここまでしてやるマジックは、楽しくないな』と思ったので、プロツアーはどこで開催されるとしても参加しますが、グランプリに関してはアジアのみにしてみました」

――「それが、覚前さんの新しいスタイルなのですね」

覚前「そうですね。もちろんこれで勝てたらベストですが、残念ながらこのゲームはそこまで甘くないですけどね」

――「遠征を減らした、とは言っても、プロツアーがあるので3ヶ月に一度は長距離移動があるわけですよね。旅疲れのようなものって、やはり試合に影響がありますか?」

覚前「僕の場合、大会前に疲れることはほとんどありません。飛行機の中でしっかりと眠れますし、現地に着いてからも早目に休むように心がけているので、体力に余裕があるんですよ。ただ、帰国後はさすがに影響があります。それでも一日泥のように眠れば、すっきりとできますけどね」

――「なるほど。それが覚前さんのベストな過ごし方なのかもしれないですね」

覚前「今のところは、そうですね。帰国後の疲れに関しては、やはり避けられないですね。今年のプロツアー『破滅の刻』のように日本だと楽なのにな、とは思います。ただ、その楽な部分に甘えてしまった部分もある、というのは反省点ですね。特に、今年はチームシリーズにも影響がありましたから」

大きな存在 -チームシリーズと、MUSASHI-

――「2017年の覚前さんにとって、やはりチームシリーズ、そしてMUSASHIの皆さんの影響は大きいですよね。改めて、チームシリーズ優勝、おめでとうございます」

覚前「ありがとうございます! チームシリーズによって、練習方法が大きく変わりました。これまでも仲の良い人に聞く、ということはありましたけど、チームとして動くということありませんでした。ほとんど一人でMagic Onlineがメインでしたからね。ですが、今はMUSASHIの存在があります

――「大きな存在ですよね。チームとして過ごしてみて、何か発見のようなものはありましたか?」

覚前 輝也

覚前「そうですね……少し変な言い方になってしまうのですが、みんな練習してるんですよ。練習している素振りを見せないんですけど、とにかくすごく練習しています」

――「たしかにプロプレイヤーの皆さんって、『必死に練習している』という印象はないですね。でも、やっている」

覚前「そうなんですよ。ヤソ(八十岡 翔太)のような実力者も、しっかりと練習しているんです。これは凄く感銘を受けました

――「ちなみに、MUSASHIで一番練習するのはどなたなのですか?」

覚前ナベ(渡辺 雄也)です。間違いなくナベですね。明言できます」

――「おお、はっきりと」

覚前「凄いんですよ、とにかく。例えば、全カードリストが出た段階ですべてのカードのプロキシを4枚ずつ用意して、その日のうちにスリーブに入れてあるんです

――「ええ!? その日のうちに!?」

覚前凄い熱意ですよね。コピーして、それを一枚一枚切る。さらにスリーブにも入れておく。物凄い手間だと思うんですけど、彼は平然とやるんです。これに勝とうと思ったら、並大抵の努力じゃ足りません。実力も、意識の差も」

――「殿堂プレイヤーの強さの秘密ですね……」

覚前「そうですね。チームとして、ナベに引っ張られている部分が大きいですね。聞けば答えてくれるし、どんなことでも相談できる、頼れる存在です」

――「リーダーシップもある、頼れる存在なのですね」

覚前「そうですね。もちろん実際のリーダーはヤマケン(山本 賢太郎)ですけどね。ヤマケンは基本的に一人でやりたいタイプだと思うんですけど、Magic Onlineでの調整結果や、意見を都度チームに投げてくれるんです。その意見に助けられることが多いですね」

山本 賢太郎

――「二人のリーダーが居る、という感じですね」

覚前「そこまではっきりしたものではありませんが、とにかく、みんなしっかりと意見を持っていて目標となるプレイヤーです。そして『自分もしっかりしないと』と思わせてくれる、大切な仲間ですね」

チームの一員として

――「では最後に、まだまだシーズンの途中ですが、今シーズン、そして来シーズンも含めた2018年の目標を教えていただけますか?」

覚前 輝也

覚前「自分の考える最適な付き合い方――無理な遠征をするのではなくて、楽しいと思いながらマジックに触れていきたいですね。楽しむことを忘れずに、ゴールド・レベルを目指すことが目標です。MUSASHIの、そしてTeam Cygamesの一員として、精一杯楽しんで仲間と一緒に頑張りたいと思います」