By Genki Moriyasu
見事全14回戦のスイスラウンドを勝ち抜いた8人の戦士たち。
今年最後の大一番にして、スタンダード・レガシーの2種混合戦という稀なるフォーマットで実力を示すのは、容易なことではないはずだ。
古くから確かな戦績を築いてきた小澤 毅(宮城)も、両フォーマットで勝ち進んできた1人だ。
グランプリ・山形2006準優勝。グランプリ・仙台2010トップ8。今年のグランプリ・静岡2017春にて復活したプロツアー予選(プロツアー『破滅の刻』予選)でも優勝しており、競技前線に立ち続けているようだ。
スタンダードで使用するティムール軸の黒入り「4色エネルギー」は、同郷である“Kumazemi(Hareruya Pros・熊谷 陸プロ)が使えって言ったから。”と選択理由を語る。レガシーの「グリクシスデルバー」を”簡単そうだったから選んだ”と語るのは、プレイングに関する地力の高さあってのものだろう。
対する高橋 太朗(埼玉)もプロツアー・名古屋2011の参加経験を持つ強豪だ。
スタンダードはスゥルタイを軸にした赤入り「4色コントロール」。レガシーも同じカラーリングの「4色コントロール」と、選択に一貫性を見出しやすい。
スタンダード・レガシーともにかなりの枚数・構成が似通っている2人のマッチアップとなった。
スイスラウンド上位の有利としてフォーマット選択権を持つ小澤だが、ジャッジから手渡されている高橋のデッキリスト2枚をにらむように見つめ続ける。かなりの時間をかけて悩み続けているようであった。スタンダードを選んでもレガシーを選んでも、若干の不利を感じているというところだろうか。
――The Last Sunの決勝トーナメントはスイス予選を経たシングルエリミネーションだが、先手後手の決定権はランダムで決められる。
スイスラウンドの順位が決勝ラウンドでのフォーマット決定権のみに影響するのは、世界中で開催される大会を見渡しても珍しい部類だろう。そして更にプロツアー決勝戦や神決定戦と同じく、BO5(3本先取マッチ)制だ。リスト公開制も含めて、これまでのスイスラウンドとその雰囲気を大きく変える要素の数々である。
その諸々を加味した上で、小澤は自らの命運を託すフォーマットをスタンダードに決定した。
Game 1
先手後手の決定はダイスロールで行われた。結果、小澤が先手を掴む。
先手なればと《隠れた茂み》タップインから《導路の召使い》展開。《霊気との調和》で3枚目の土地を探しつつエネルギーも確保して《牙長獣の仔》を追加。淀みなく戦線を伸ばして対応を迫っていく小澤。
対して、《ならず者の精製屋》が初動となった高橋も2枚の《ヴラスカの侮辱》を握っていて暫くは耐えしのげそうだ。しかしここに小澤の《逆毛ハイドラ》が突き刺さる。既にエネルギーは潤沢にあり、着地の地点で既に隙はない。
高橋は《逆毛ハイドラ》へ直接対応することは後回しにし、《ヴラスカの侮辱》を《牙長獣の仔》に当て、《スカラベの神》をプレイして耐える算段をつけた。
だがこのタップアウトのタイミングで、小澤は切り札をつきつけた。通常破壊されても舞い戻る神に対して、《慮外な押収》。
本来、突破困難なブロッカーを配下にするという形で退けた小澤が、総員アタックを仕掛ける。
《ヴラスカの侮辱》2枚や《蓄霊稲妻》といった除去ハンドの高橋だが、小澤の戦線に対応しきるためにはプレイするためのマナが決定的に不足していた。
小澤 1-0 高橋
Game 2
BO5の特徴として、Game 2もメインボードで行うというものがある。
高橋「先手の利を活かしきられましたね」
使い切れなかったカードを手に、悔やむに悔やみきれない高橋が洩らした。今度は待望の先手番でのスタートだ。
高橋のオープニングハンドの土地は《竜髑髏の山頂》、《沼》、《霊気拠点》。しばらくは順調に土地がおけそうだが、初動として予想できる《ならず者の精製屋》には色マナがかみ合わない。そこまでに(緑)マナか(青)マナを引ければ間に合う想定でキープを宣言した。
対する小澤は1ターン目《霊気との調和》から2ターン目《牙長獣の仔》プレイ。3ターン目《ならず者の精製屋》と再び順調な滑り出しだ。
高橋のセットランドは《竜髑髏の山頂》、《霊気拠点》――そして3枚目に、《沼》。2回のドローでも色マナを増やすことが出来なかった高橋は、《牙長獣の仔》と《ならず者の精製屋》の攻撃を甘んじて受けるしかない。
1ターン遅れて《水没した地下墓地》を引いたことで《天才の片鱗》でハンドを整えることを優先するプランに切り替えたが、この間に、小澤の元に《牙長獣の仔》がもたらし続ける大量のエネルギーの消費先としての《つむじ風の巨匠》が用意される。
高橋が初めてのメイン・アクションとしてとった《ならず者の精製屋》が着地するのに対応して、飛行機械・トークン4体が生成された。
《ならず者の精製屋》1体で支えるにはあまりに横に長い小澤の戦線であり、その《ならず者の精製屋》自身も《削剥》されると、高橋は自らのデッキの動きを殆どしてみせることなく、ライフ20点をなくしてしまっていた。
小澤 2-0 高橋
メインボード戦は小澤の2連勝となった。これは小澤自身にとっても望外の、高橋にとってみればそれこそ慮外の結果だろう。
高橋「押し切られるなあ…―でも、これでサイドですね!」
3ゲーム先取というルールは現状、高橋にとってみれば3ゲーム連取という条件に繰り上がったが、目の前のゲームに全力を費やすということはどちらにせよ変わらないのだ。気を取り直した様子でサイドボーディングに挑んでいた。
高橋は《反逆の先導者、チャンドラ》や《秘宝探究者、ヴラスカ》といったプレインズウォーカーに対するため《否認》を多めにイン。
小澤は《アズカンタの探索》や《多面相の侍臣》、《自然に仕える者、ニッサ》といったアドバンテージ源となるカードを多めにイン。
お互いに長期戦への仕込みをしっかり行った、というあたりだろうか。
Game 3
《沼》、《竜髑髏の山頂》、《水没した地下墓地》と再び(緑)マナのないハンドを1マリガンでキープした高橋。だが今度は《蓄霊稲妻》も用意しており、マリガン占術では《否認》も見えていてしっかりとリアクションで動けそうだ。
1,2ターン目お互いに動きはない。
再び運命の3ターン目。高橋のセットランドされた土地に(緑)マナを生み出せるカードは――ない。セット・ゴーの宣言はどこか力ない。小澤も《ならず者の精製屋》を初動とする、スロー・スタートなゲームだ。
4ターン目の高橋、ここで引いたカードは《霊気との調和》――! 普段であれば追加の土地としてもカウントしやすいスペルだが、それも唱えてこそ、だ。これ自身は(緑)マナを生み出さないし、ハンドに抱えた《天才の片鱗》に繋がる4マナ目でもない。
小澤は《霊気拠点》を置いてエネルギーを3つにしてから《逆毛ハイドラ》を唱えた。
そのまま次ターンには《多面相の侍臣》が追加の《逆毛ハイドラ》として用意され、高橋は盤面を取り返すあらゆる手段が間に合わないことを自覚した。
小澤 3-0 高橋
小澤、3連勝! 4卓同時に開かれている準々決勝において最初の勝ち名乗りだ。一番乗りで準決勝へ駒を進めた。
高橋「残り、頑張ってください」
土地に恵まれず本領を発揮しきれない展開の続いた高橋。まだまだやれるはずだったという感覚も、薄くはないだろう。
それでもめげることなく小澤の勝利をたたえ準決勝を応援する姿は、敗者として美しい。
その高橋の応援に小澤もハッキリ頷き、次戦へのモチベーションを示してみせた。自らが勝つということは、誰かを負かすということなのだ。
十数年来マジックの競技シーンに身を置きつづける小澤は、誰よりもそれを知っているようだ。
小澤 毅、準決勝進出!