By Yuya Hosokawa
レガシー。
パワーナインなど一部のカードを除きほぼすべてのカードを使用することのできるこのフォーマットは、強力なカードの饗宴という派手さと奥深さを兼ね備え、今では人気フォーマットの一つとなっている。
グランプリなども各国で開催され、盛り上がり続け、そして2018年。『チーム構築戦』の内の一つとしてプロツアーでもレガシーが行われることとなった。
グランプリはともかく、プロツアーでもプレイされることとなるレガシー。ともなれば、プロプレイヤー達もこのレガシーフォーマットについて、これまで以上に研究しなければならなくなったということだ。
レガシーという奥深いフォーマットについて、プロプレイヤー達はどう考えているのだろうか。
ところで、このThe Last Sun 2017は、スタンダードとレガシーの混合フォーマット。
今大会のためにレガシーの準備をしてきたプロプレイヤーが会場にはいるはずだ。レガシーについての話を聞くまさに絶好の機会と言えるだろう。
レガシー日本選手権2度の優勝経験を持つ、日本が誇るトッププロが一人、Team Cygames所属・市川 ユウキ。まさに質問の答えをすべて持っているプロプレイヤーだ。
早速レガシーのことを聞いてみようとした矢先、なんと市川はスタンダードラウンドを全勝で終えていることが発覚した。
というわけで今回は、市川がプロプレイヤー視点で見るレガシー、そしてこの二日で勝ち続けてきたスタンダードのデッキについて、それぞれ聞いてみることにした。
プロプレイヤーの考えるレガシー
--「早速なのですが、レガシーについてお聞きしてもよろしいですか?」
市川「そうですね。レガシーについて言えることは、とにかく『覚える』ということですかね」
--「覚える、ですか?」
市川「レガシーってセオリーを知っているかどうかで全然違うんですよ。すごい簡単なところでいうと、《渦まく知識》はフェッチランドと一緒に使うと効果的。まあこれは誰でも知ってると思いますけど、問題はこれと同じレベルの問題が無数にあって、どれもが知っていないと致命的なんですよ」
--「なるほど」
市川「ANTと当たったときに打ち消しが1枚しかなかったら、何を消すべきか。これを知っているかどうかで1ゲーム変わるじゃないですか。そういうことをきちんと知っていないと何回でも負けられる。それがレガシーですね」
--「いわゆるわからん殺しされたり、ということですか」
市川「それもありますね。後はセオリー知ってないと、サイドボードもできないんですよね。もうその時点で2本落としちゃうじゃないですか。ほら負けた。セオリー知らないと一瞬で負けるんですよ」
--「マジックのセオリー、というよりはレガシーのセオリーを知っていないといけないんですね」
市川「そうです。逆に言うとマジックのセオリーを知っている人ってコンバットとかは知っているじゃないですか。そういうコンバット技術とかはレガシーであまり重要ではないんです。だからプロプレイヤーが突然練習なしでやろうと思うと、なかなか上手くいかないんじゃないかなって思います」
--「戦場での戦いより呪文での戦いの方が多いぐらいですよね」
市川「そうですね。呪文の応酬になりがちですけど、結局それもどのスペルが重要か、セオリーを知っていないとわかりませんから。ここでもレガシーのセオリーを知っておくことが重要になってくるというわけです」
プロツアーフォーマットの一つ、チーム構築戦
--「プロツアーレベルのイベントでレガシーが行われるのは本当に久しぶりですよね。市川さんは初めての経験になると思いますが、いかがですか?」
市川「ちょうど僕はチーム構築でレガシー担当ですね(笑)経験もあるし、普段からMagic Onlineでちょいちょいやったりしてますし、適任だと自分も思っています」
--「この間もMagic Onlineで勝っていましたよね!」
昨日はMOでデスタク組んだのでWMCの裏でレガシーチャレンジ出てました。デスタク今良いよ(自信は無い pic.twitter.com/YjygxJG3s2
— Yuuki Ichikawa (@serra2020) 2017年12月4日
市川「結構やってますね。で、プロプレイヤーがレガシーに真剣に取り組むことになるので、個人的には新しいデッキができるんじゃないかな、という楽しみがあります」
--「おお、レガシーの新しいデッキですか」
市川「グランプリレベルなら既存の強いデッキをアップデートすればいいですけど、プロツアーですからね。プロプレイヤーたちも本気で勝ちに行こうとしますから、新しいデッキが生まれるんじゃないかと思ってます。そういう意味ではめちゃくちゃ楽しみですね、プロツアー」
--「レガシーをプレイすることにポジティブですね」
市川「やっぱり新しいデッキが出てきたら、そのフォーマットは活性化しますしね。単純に楽しみですよ」
--「逆に、不安な要素はありますか?」
市川「そうですね。普通のプロツアーと違って、デッキが読めない相手が多いなっていうのは不安です。今までだったら、例えばPV(パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ)とLSV(ルイス・スコット・ヴァーガス)は同じデッキを使っているだろうし、この間のプロツアーでいうなら、まあラムナプレッドかエネルギーだろ、とアタリがつきますよね。でもレガシーではそれがまるでない」
--「確かに、まったく読めませんよね」
市川「あと、それこそレガシープレイヤーも参加するじゃないですか。海外のめちゃくちゃレガシーが強い人が何を使っているかなんて想像もつかないし、多分今までで一番知らないプレイヤーが多いプロツアーになるんじゃないかなって。しかもその人たち、絶対レガシーの達人ですから!」
--「確かに怖いですね」
レガシー、ずばり自信は
--「やっぱり市川さんはレガシー、自信ありますか?」
市川「まったくないです!(笑)」
--「え!?」
市川「いやー、今回使ったデッキは弱かったし、もうどうしようかなって。スタンダードは全勝したんですけど、レガシーはボロボロでしたからね」
スタンダード、自信アリ
--「せっかくなので、スタンダードについて聞かせてください。今回使用されたのは4色ティムールですが、少し珍しい形ですね。原根 健太さんが『グランプリ上海』で使用したリストに近いですよね」
市川「そうですね。ほとんど同じリストです。このデッキ、とにかくティムールエネルギーと4色ティムールにめちゃくちゃ強いんですよ」
--「スタンダードで最も強いデッキに強い、と」
市川「今回もティムール系には5回当たりましたけど、それが全勝の要因です。エネルギーにはとにかくめちゃくちゃ強いんですよ。その分、《牙長獣の仔》がないせいで赤単系にはメインは絶望的ですが」
--「このデッキ、とても意志が伝わってきますよね。マナクリから《反逆の先導者、チャンドラ》と《スカラベの神》を出すぞ!っていう」
市川「まさにそういうデッキですね。今回、原根君のリストから変更したのは、2マナの除去を8枚に増やした部分なんですけど、この変更はとても良かったと思います。《反逆の先導者、チャンドラ》で赤マナを出して2マナ除去を使うってアクションが強かったので。そのまま奥義一直線で勝つことが多かったです」
--「確かに、見に行くといつも《反逆の先導者、チャンドラ》の奥義で勝利していたような印象があります」
市川「メイン勝ち手段すらありますね」
--「赤単にはその勝ち方は厳しそうですね」
市川「赤単に勝つときは先手で除去除去《スカラベの神》パターンですね。それ以外ではほとんど勝てないです(笑)《逆毛ハイドラ》も《牙長獣の仔》もないとさすがにきつい」
--「とはいえ、ティムールにこれだけ強いのであれば、赤単に辛いのも目をつむれますね」
市川「ですね。ティムールには本当にめちゃくちゃ強いです。このデッキ、かなりオススメですよ。ティムールは好きだけど《牙長獣の仔》が嫌いって人には特にオススメです」
--「《牙長獣の仔》、ですか。ティムールミラーマッチでは抜くカードの筆頭ですよね」
市川「そうですね。このカード、裏目がめちゃくちゃあるんですよ。確かに2ターン目に出して除去されなければ強いけど、それだけみたいな。後手だとそもそも弱いカードですし。僕なんてまさに《牙長獣の仔》が嫌いな人間なんで、このデッキは性に合ってます」
--「なるほど。このデッキを使う上でコツはありますか?」
市川「《反逆の先導者、チャンドラ》の奥義をとにかく目指すってことですね。マイナスから入ることはほとんどありません。このデッキの勝ち手段は《スカラベの神》と《反逆の先導者、チャンドラ》です。これだけ覚えといてください!」
--「レガシーの話からスタンダードまで、長々とありがとうございました!」
プロプレイヤー、市川 ユウキの語る「レガシー」、そしてティムールの蔓延するスタンダード環境にぴったりな「4色ティムール」、いかがだっただろうか?
市川の言うように、レガシーフォーマットをプロプレイヤー達が攻略する世界は、実に楽しみだ。
そして調整を重ねたデッキを駆りプロツアーを戦う市川の姿を、この目で早く見てみたい。
スタンダード全勝を飾った4色ティムールについて語る市川には、自信が満ち溢れていた。きっとレガシーでも自信のあるデッキを組み上げてくれるに違いない。