優勝者インタビュー: 川居 裕介 -彼と、彼らの物語-

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 The Last Sun 2017が閉幕し、優勝者が決まった。

 その名は、川居 裕介

川居 裕介

 Eternal Festival 2015でのトップ8入賞、第8期レガシー神挑戦者決定戦レガシーマニア、そして、BIG MAGIC Open vol.9 -BIGMAGIC Sunday Legacy-で優勝を収めるなど、日本トップレベルのレガシープレイヤーである。

 レガシーの実力は疑うまでもないが、準々決勝ではHareruya Prosの高橋 優太を、そして決勝では古豪・小澤 毅をスタンダードで破り見事に優勝を果たした。

 彼の強さの秘密。その調整過程。そして、愛用する白青奇跡について、話を伺ってみよう。

The Last Sun 2017、優勝者インタビュー!

――「優勝おめでとうございます!」

川居「ありがとうございます!」

――「まずは2日間のトーナメントを振り返った感想をお聞かせ願えますか?」

川居スタンダード、難しいです。昔はスタンダードをメインにやってた時期もあるんですけど、当時とは管理するものがだいぶ違いますね」

――「川居さんと言えばレガシー、というイメージがありますが、スタンダードをやられていた時期もあるんですね」

川居「もちろんありますよ。当時はPTQなどにも出ていました。ただ仕事の都合もあって、マジックに使える時間が変わってきて、徐々にレガシーにシフトしていきました。スタンダードは今回のようにイベントに合わせてやる、という感じですね」

――「なるほど。今回も大会に合わせてスタンダードに触れたわけですね」

川居「そうですね。レガシーもあるので、頑張ってみようかな、と。もしフォーマットがスタンダードとモダンだったら、出場していなかったと思いますね」

スタンダード -自分なりのアレンジ-

――「では、まずは『難しい』と仰っていたスタンダードからお伺いしたいのですが、今回のデッキを選んだ理由を教えていただけますか?」

川居 裕介

川居「一緒にレガシーをやっている斉藤 伸夫高野 成樹小林 龍海と意見を交換してきました。龍海さんは違うデッキを使っていましたけど、早い段階から『4Cエネルギーが最強だろう』という話にはなっていたんです。特に津村 健志さんがThe Finals 2017で優勝したときのリストが良い、ということで調整をしてました。ただ、最終的にはまったく同じではなく、少し自分なりにアレンジはしてあります」

――「こちらがデッキリストですね。どのようにアレンジしてあるのですか?」

川居「やはりスタンダードは慣れていないので、カードパワーを高めにしてあります。少しリスキーな構築になっていますが、強いカードを多めに採用して、それらの強さで勝つというイメージです」

――「土地を22枚まで減らしながら、重めのカードを採用していますね」

慮外な押収スカラベの神多面相の侍臣

川居「そうですね。津村さんのリストのように『バランスを取った形』ではなくて、とにかく強いカードばかりにしました。《慮外な押収》も2枚、《スカラベの神》も2枚。そしてエネルギー系も多いだろうから《多面相の侍臣》も2枚採用してしまえ! と」

――「思い切って採用した結果が、功を奏したわけですね」

川居「そうだ、と言いたいところなのですが、やはりスタンダードが足を引っ張りました。2日目のスタンダードは0-3してしまって……そのあとレガシーで3-0できて、トップ8に滑り込みました

レガシー -対The Last Sun 2017専用奇跡-

――「得意のレガシーで見事にスイスラウンドを抜けたわけですね。レガシーについてはどのようなメタゲームを予想していましたか?」

川居「まず大会全体で、スタンダードには慣れているけどレガシーはほとんどやったことがない、という人が多いと予想しました

――「The Last Sun 2017に向けてレガシーをやる人が多いという予想ですね」

川居「レガシープレイヤーは少ないですからね。そういったレガシーに慣れていない人たちはブン回ると強いか、挙動が簡単なデッキを選ぶと考えました。スニークショーや、エルドラージです」

――「レガシーに慣れているプレイヤーについては、どのような予想をされてました?」

川居「こちらの予想は単純で、環境のトップメタであるグリクシスデルバーがそのまま多いと考えました。レガシーが上手い人は《秘密を掘り下げる者》を使いたがると思ったので、結果、この3つがトップメタだろう、と」

――「そして、それを踏まえた上で、使い慣れている白青奇跡を選んだわけですね」

川居「もちろん普段から使い慣れているという面もありますが、白青奇跡はフリースロットが多いので、環境に合わせて調整が可能なデッキなんです。例えば、今回は《罠の橋》をメインに2枚採用してあるんですよ」

罠の橋

――「サイドボードに採用されていることが多いカードですよね?」

川居「そうですね。ですが、先ほどの3トップを考えた上で、メインに採用しています。エルドラージのほとんどは止められます。スニークショーは言うまでもないですよね。そして、グリクシスデルバーに対しても有効で、こちらの手札を1,2くらいで保っておけば《若き紅蓮術士》と、そのトークンくらいしか攻撃できません。《グルマグのアンコウ》《真の名の宿敵》が止まってくれるので、かなり楽になります」

現実を砕くものグリセルブランド真の名の宿敵

――「おお……そう言われてみると、たしかにメインボードから採用したくなります」

川居「メインからアーティファクト破壊を採用しているデッキはほとんどありませんから、かなり有利ですよ。2日間かけて役立ってくたので、これは良い選択だったと思っています。他のレガシートーナメントでは通用しないかもしれません。今回の白青奇跡は、対The Last Sun 2017専用です」

――「なるほど。しかもフリースロットを利用しているので、構築が歪んでいないわけですね」

川居「2枚だけですからね。ドロー手段が山ほど採用されているので、2枚あればほとんどのマッチで引くことができます。もちろん引けずにエルドラージに負けたこともありましたけど、それもレガシーの面白さ、ということで……」

レガシープレイヤーから見た、スタンダードの難しさ

――「冒頭で『スタンダードは難しい』と仰っていましたが、レガシーと比較してどのような点が難しいと思いますか?」

川居 裕介

川居「まず、管理するリソースの数が段違いですよね。レガシーは”パーマネントが並ぶ状態”って基本的にないんです。土地単を除けば、土地が10枚以上並ぶということもほとんどありません」

――「スタンダードでは土地もクリーチャーも並ぶし、4Cエネルギーならばそこにエネルギーも加わりますね」

川居「そのとおりです。レガシーは”限られたリソースをどう使うか”が重要なのですが、スタンダードの場合は“膨大なリソースをどういう風に割り振るか”が重要です。エネルギー1つをどう使うかも重要で、2日間で『使えば良かった、使わなければ良かった』と何度も思いながらプレイしていました。『ああ、《霊気拠点》からマナが出ない』と」

エネルギー・トークン

――「レガシーは難しい、と言われることもありますが、スタンダードにも違った難しさがあるわけですね」

川居「そうですね。土地も難しくて、レガシーの場合はフェッチランドとデュアルランドがあるので好きなマナに自由にアクセスできます。ところが、スタンダードでは、タップインとアンタップインのタイミング、色、何もかもが限られています。レガシーでも『フェッチランドを起動するタイミングに気を付ける』といった難しさはありますが、少し違った難しさだと思います。あと、根本的なことですが、メタゲームを追いかけるのが難しいと思います

――「たしかに、スタンダードとレガシーの、最も大きな違いかもしれません」

川居「スタンダードはローテーションがあるので、追いかけるのが大変ですよね。今回は一つの大会に合わせるだけでしたが、これに付いていくのは、仕事をしながらでは難しいと思っています」

――「今回使用した4Cエネルギーも、次のセット発売でどうなるか分かりませんし、いずれ使えなくなってしまいますよね」

川居「そうですね。ですがレガシーの場合はパーツをある程度揃えてしまえば、新しいセットが発売されたときに数枚購入するだけで、どうにかなります。デュアルランドなどは確かに高価ですが、スタンダードを追いかけると同じくらいお金が掛かりますからね。社会人でも付いていきやすいので、もっとプレイヤーが増えて欲しいですね。禁止カードが出ない限り、一度揃えたデッキを長期間使えるようになりますから」

2017年のビッグニュース -禁止、そして白青奇跡に戻った理由

――「禁止カードといえば、2017年は《師範の占い独楽》の禁止、という大きなニュースがありました。白青奇跡を使用していた川居さんにとっては、大きな衝撃だったのでは?」

師範の占い独楽

川居「大きかったですね。常に『禁止される』と言われていたのに逃れていたので、このまま大丈夫なのかな? と思いながら使い続けていたのですが、ついに来たか、と」

――「禁止されたあとも、白青奇跡を使い続けていたのですか?」

川居「触れてはいましたが、他のデッキも模索しました。まずはデス&タックスを使用して、BIG MAGIC Open vol.9で優勝し、『このデッキ強いな』と思っていたのですが、当然、対策されて来るんですよ」

――「サイドボードなどが変わってくるわけですね」

夜の戦慄硫黄の精霊

川居「そうですね。《夜の戦慄》《硫黄の精霊》といった致命的なカードが増えてきて、『これらが2枚、3枚と入ってくるようでは勝てないな』と痛感しました。そういった劣勢のメタゲームを跳ね除ける力が、このデッキにはほとんどなかったんです」

――「そして、再び白青奇跡に戻ったわけですか」

川居「もともと、白青奇跡は『どれだけ環境が変化しても、その中で結果を出せるデッキ』だったんです。フリースロットを利用した応用力がありますから。それは《師範の占い独楽》を失ってもほとんど損なわれていません。そして、今はほとんど意識されていないんです

――「たしかに、かつてのように『誰もが白青奇跡を意識している』という状態ではないですよね。現在の環境では、どういった立ち位置にあるのですか?」

川居「今一番強く、多くの人が使用しているのがグリクシスデルバーです。その下にエルドラージを始めとするデッキが雑多にあるような状態ですね。今の白青奇跡はその下なのでTier2.5くらいでしょうか」

――「なるほど。あまり意識されないけれど、まだまだ戦える位置にある。それでいて、他のデッキに対する対策を搭載しやすいわけですね」

川居 裕介

川居「そうですね。ただ、今回のThe Last Sun 2017では、Hareruya Prosの熊谷 陸さんも使用してましたし、Magic Onlineでも結果を残しているので、これから数が増えてくるかもしれません。やはり強いデッキですからね」

白青奇跡の難しさ -歩くように使いこなす-

――「白青奇跡は強さと同時に難しさを持つデッキだと思うのですが、川居さんは見事に使いこなしていますよね。相当練習を積んでいると思うのですが……」

川居「そうですね。かなり練習しています。このデッキは、普通のマジックのデッキとは軸が違うところがあるというか、使いこなすのが難しいデッキだと思います。例えば今回のように『The Last Sunでレガシーをやらなければならないから、1ヶ月練習してみよう』と思って白青奇跡を使うのは、おすすめしづらいです。とにかく、考えることが多く、間違えやすいんですよ

――「川居さんの場合は慣れているから間違えない、ということですね」

川居「正確には、考えずに判断できるようになる場面が増える、ですね。時間を掛けて正解を出すのではなく、”自動化”というか、普通の人が立ち止まって悩みながらやるところで悩まないんですよ。都度悩んでいたら、すぐに時間がなくなりますし、考えるべき場面で時間が使えなくなってしまいますからね。少し大げさかもしれませんが、歩くときに『右足を出して、左足で支えて』と考えないようなものでしょうか」

――「なるほど。自然に判断できて、勝手に体が動く、といった状態でしょうか?」

渦まく知識

川居「そうですね。《渦まく知識》は代表例で、唱えるべきか。唱えたとして、何を戻すべきか。こういったことが、ある程度自動化されていることが理想なのですが、そうなるまではとにかく練習が必要です。試しに使ってみても、勝つのは難しいと思います。だから『このデッキ弱いんじゃない?』と思って諦めてしまう人も多いかもしれません。少し敷居が高いデッキではあると思うのですが……ただ、使いこなせたときには本当に強いですよ」

――「使いこなしている川居さんが言うと、説得力が違いますね」

川居「いえいえ、私もまだまだです。ただ、『使いこなせるかどうか』が重要なのは間違いありません。デッキパワーで考えると現在最強のグリクシスデルバーは『上手く使うと95点、使いこなせなくても60点』という感じなのですが、白青奇跡の場合『上手く使うと95点、使いこなせなければ25点』という感じですね」

――「そのためには練習あるのみ、と」

川居「そうですね。良い練習相手がいるかどうかは大きいです。ただ漠然と対戦するだけじゃなくて、対戦が終わったあとに意見を交換して、『あれを唱えたほうが良かった』『これは先に攻撃したほうが良かった』と言ったように。そういう点で、私は恵まれていると思います」

レガシーのコミュニティー -強さの秘密-

――「川居さんが優勝を果たした背景には、コミュニティーの強さがありますよね。レガシー仲間と日々切磋琢磨して、彼らとスタンダードの調整もしてきたわけですから」

優勝が決まった瞬間、高野 成樹とハイタッチを交わす。

川居「たしかにそうかもしれません。レガシーのコミュニティーはすごく面白いんですよ。みんな楽しみながらマジックに触れていて、インタビューされていた中野 彰教さんのようにスペシャリストが多いんですよ。みんな、キャラが立ってるんです。格闘ゲームのキャラクターみたいに『この人はこれが得意』というようなものですね。中にはオールマイティーな人も居るんですけど」

 そんな話をしていると、

川居さん!

 と声を掛けながら、フィーチャーエリアに一人の男が近づいてきた。

斉藤と川居

 レガシー界を代表する”オールマイティー”、斉藤 伸夫である。

――「先ほど川居さんにお聞きしたのですが、一緒に調整をされていたんですよね?」

斉藤「シゲキ(高野 成樹)、川居さんと3人で4Cエネルギーの練習をしていました。『《川の叱責》は絶対に入れよう。プロは入れてないけど、俺たちはスタンダード慣れてないから簡単に勝てる手段があった方が良いよ!』とか」

川の叱責

――「なるほど。レガシーも相談はされたのですか?」

斉藤「いや、レガシーの方は常日頃やっているので、特別練習したわけではないですね。LINEなどで情報交換をするのが日常なので、いつものことをやり続けた感じです」

川居「そうですね。レガシーをやる時間はスタンダードに使ったほうが良い、と。《罠の橋》の話は少ししたかも?」

斉藤「それは少しだけ話しましたね。ただ、競技プレイヤーが増えるとショーテル、デルバー、エルドラージが増えるので、相対的に効くカードになりやすいんですよ。これはセオリーみたいなもので、The Last Sun 2013で僕が使用した白青奇跡にも、メインから2枚入ってましたから」

――「なるほど……こういった大会で発揮される、レガシープレイヤーならではの工夫なのですね」

斉藤「そうですね。いやー、本当におめでとう。自分のことのように嬉しいよ!」

川居「ありがとう。準決勝でグリクシスデルバーと対戦したときに……」

斉藤「いや、《もみ消し》が……」

 ここから二人の議論が続いた。

 今回、川居が優勝を果たした背景には、斉藤 伸夫を始めとして、高野 成樹や、小林 龍海と言ったレガシープレイヤーの存在がある。

 「ああ、こうやって議論を重ねて、彼らは強くなっているんだな」

 と思いながら、国内、いや、世界でも屈指のレガシープレイヤーたちの”強さの秘密”を私は見つめていた。

 一頻り話を終えて「じゃあ向こうで待ってる」と言いながら斉藤が離れた。川居が苦笑いをしながら「すいません、盛り上がってしまって」と述べたときに、

 「いえ、もっと聞いていたかったくらいです」

 と私が返した言葉は世辞でも何でもなく、私が本心から願ったものでもあった。

――「では、川居さんをいつまでも引き止めるわけにはいきませんので、最後の質問をさせてください。2018年の目標をお聞かせ願えますか?」

川居 裕介

川居「まずはチームグランプリでレガシーを担当するので、それに向けた練習をしたいですね。2017年は様々なトーナメントに参加し、今回のように優勝を果たすことができました。日々の練習は今までどおり続けて、来年もみんなで楽しみながら、頑張りたいと思います」


 インタビューを終えた川居は友人たちの元へ向かった。

 小林 龍海がフリープレイをしている。それを斉藤 伸夫が見つめ、高野 成樹が加わり、川居も言葉を交わす。彼らの明るい声が、少しだけ閑散とした場内に響いた。

 トーナメントの結果として記される優勝者の名前は、川居 裕介という個人の名前のみだ。これは、致し方のないことである。

 しかし、このインタビューに関しては、その制限の域を出る。

 だから、このインタビューを締めくくるに当たって、私は記しておきたい。

 この大会を制したのは、彼らである、と。