神シリーズ史上、タイトル獲得から現在に至るまで無敗の神が2人いる。
初代ヴィンテージ神にして、これまで2度の防衛を果たしてきた森田 侑(東京)がまさにその1人だが、もう1人。
それが川北 史朗(東京)。
もはや彼について多くを語る必要もあるまい。2014年に開始された神シリーズでこれまでに6回の防衛戦を勝利してきた唯一にして絶対的な無敗の神。
実際に【トップ8プロフィール】で、川北はこう語った。
Q5.2017年、ヴィンテージ界に起きてほしい出来事がありましたら教えてください。
レガシー神がヴィンテージ神を倒して2冠する神が現れること。
レガシー神がヴィンテージ神を倒して2冠する神が現れること。
すなわち川北にとってこの戦いが意味するものは、神の、神による、神のための挑戦者決定戦。もはや我々人類とは完全に別の軸で戦っている高次の存在なのである。
神は負けないのではない。負けないから神なのだ。そう言わんばかりに今日もスイスラウンドを無敗で勝ち抜いており、その神話に新たな一節を付け加えるべく決勝の舞台へやってきた。
相対するは佐野 大基(神奈川)。
普段レガシーをプレイしている彼は【BIGMAGIC Open Legacy Vol.3】2位、【グランプリ・千葉2015】14位といった輝かしい戦績を残してきた猛者だ。
ヴィンテージイベントに参加するのは今回でわずか3回目だと語る佐野だが、レガシーで叩き上げられたその実力はヴィンテージでも通用するということか、実戦では初めて回すという「MUD」を操りここまで勝利を積み重ねてきた。
明るく朗らかな人柄から多くのプレイヤーに愛されており、多くのギャラリーから声援を受けながら決勝の舞台で必勝を誓う。
泣いても笑ってもこれが最後の一勝負。はたして勝利の栄冠を掴み取り、最後に笑うのはどちらになるのか?
川北 史朗(東京) vs. 佐野 大基(神奈川)
Game 1
ジャッジから先手後手決定権に関する説明が始まろうとすると、スイスラウンド上位の川北が食い気味に「先攻! 先攻!」と宣言。7枚のオープンハンドを見て互いにキープを宣言すると、佐野から神へ質問がなされる。
佐野「僕(1ターン目に)死にますか?」
川北「うん、高確率で」
きっぱりと答えた川北は……
まずはと《ギタクシア派の調査》から動き出し、《Mox Sapphire》から《Ancestral Recall》をプレイし、《魔力の墓所》、《オパールのモックス》、《Mox Jet》と並べ立てて《Timetwister》。7枚に回復した手札を《物読み》でさらに増やし、2枚目の《オパールのモックス》と《金属モックス》を設置して合計4マナを出す。叩きつけられた《逆説的な結果》が川北にさらなる追加の7枚ドローをもたらすと、その分厚い手札からさらに《Black Lotus》、《Mox Sapphire》、《Mox Jet》、《オパールのモックス》、《魔力の墓所》……とマナアーティファクトを再展開する。第1ターンにして「ストーム」数はもはや20を回っており、その数を数える行為にほとんど意味がない状態。これぞヴィンテージとばかりにブン回る川北劇場にギャラリーも沸き上がり、対戦相手であるはずの佐野も爆笑しているカオスな空間が形成されていた。だが、そうしていよいよとどめを刺すだけだという状況になって、不意に川北の動きが止まり――
そして、眉間に皺を寄せて唸る。
まさか、コンボが止まったか? 周囲が固唾を呑んで見守る中、川北は手札を公開し、一言。
川北「どうやって死にたい?」
神は与え、神は奪う。
佐野の生殺与奪の権利を握った川北は、どのような手順で勝利するかを悩まし気に佐野に相談しはじめた。
川北 1-0 佐野
驚異の1ターンキル。
そして、一同爆笑のエンターテイメントとなった第1ゲーム。普段のレガシー神決定戦でも必ず決着を第5ゲームまで引き延ばす川北を「彼はエンターテイナーだから」と評する者も多数いるが、彼は実際に見ている者を――時に対戦相手をも巻き込んで、ともにマジックの勝利の喜びを分かち合う。
それこそが川北スタイルであり、神のカリスマあってこそ成し遂げられる芸当であると言えよう。
だが、佐野の「MUD」というデッキの性質上メインボードにインスタントタイミングでのコンボ干渉手段はなく、まして先攻1ターンキルなど防げる道理はない。
すなわち佐野にとって第1ゲームを落としてしまうことは織り込み済み。川北と一緒になってマナや「ストーム」数を数える姿は余裕綽々のようにも見えるが、そもそも戦いはこれからなのである。
両者サイドボードを終えて、ライブラリーから7枚のカードをめくる。川北が押し切るか、佐野が巻き返すか。注目の第2ゲームが幕を開けた。
Game 2
佐野が即断でキープを選択したことを受け、川北が悩む。その手札は十分に強力だが、このマッチアップで先攻の佐野がキープを即断するということは明らかに妨害手段――すなわち《アメジストのとげ》を持っている。逡巡しつつも万が一佐野が《アメジストのとげ》を持っていなければ1ターンキルも目指せる手札をキープすると、さっそく佐野が動き出した。
その手札から解き放たれたのは《Mox Ruby》、《Mox Pearl》、《太陽の指輪》、《エルドラージの寺院》、そして案の定《アメジストのとげ》! 一挙5枚の手札をダンプするロケットスタートに川北もさすがに苦笑いを浮かべる。
返す川北は土地から1マナを払いながら《魔力の墓所》、《Mox Sapphire》、《Mox Jet》、《水蓮の花びら》とプレイ。《アメジストのとげ》がなければこのターンに《逆説的な結果》までプレイできたのだが、ぜひもなしとターンを終える。
だが、佐野はさらに《難題の予見者》で川北の手札から《逆説的な結果》を抜き去り、さらに《抵抗の宝球》! 事実上の2ターンキルとも言える強烈なマナ拘束に川北は思わず崩れ落ちる。
完全に縛り上げられ、今度は佐野が生殺与奪を握る展開だ。川北が虚空を見つめながらドローゴーをしている間に、《電結の荒廃者》と《からみつく鉄線》をも戦線に追加した佐野が川北を一刀両断した。
川北 1-1 佐野
佐野「マジックって楽しいねぇ」
第2ゲームが終わり、幕間に佐野が目を細めながら語る。
佐野はどこまでもピュアにマジックを楽しみ、そしてここまで辿り着いた。
不利なゲームも勝利したゲームも同様に楽しむ。プレイの巧拙やデッキ構築の技術を超えた先にあるその姿勢、それこそが佐野の強さの本質なのだ。
これに神は笑顔で、しかし語気強くこう答える。
川北「俺、今のゲームマナ伸ばす以外何もしてねえよ。楽しいわけねえだろ!!」
ごもっともである。
なぜなら神は勝利を宿命づけられているのだ。ましてや絶好のオープンハンドを《アメジストのとげ》と《難題の予見者》によってバラバラにされてしまっては、とてもじゃないが楽しくて楽しくて仕方ないという気持ちにはなれないだろう。
そのストイックに勝利を目指す姿勢と、勝利を収めた上でエンターテイメントを追及するパフォーマンス。それらが彼を神たらしめているのだ。
しかし、佐野もこの発言には返す刃で応える。
佐野「うっせえ、1キルよりはマシだろ!!!!」
ごもっともである(2回目)。
ともあれ、これまで1ターンキル、実質2ターンキルと凄まじいスピードで進行してきた決勝戦。はたして最後の1ゲームを制し、最後に笑うのはどちらになるのか?
Game 3
佐野「お願いします!!」
佐野がテーブルに額をつける。
神に――この場合、形而上学的な意味での神に祈りをささげる。
そんな祈りが通じたのか、川北がマリガン。佐野が再び「お願いします!!!」と頭を下げると、川北が「それ本当に効くみたいだからやめてww」と再びのテイクマリガン。5枚になってしまったハンドをようやくキープし、第3ゲームが開始される。
川北のファーストアクションは《Ancestral Recall》。ダブルマリガンした分のアドバンテージを取り戻し、佐野が《Mishra's Workshop》を経由してプレイした《アメジストのとげ》を《意志の力》で返す。
初動を挫かれてしまった佐野だったが、第1ターンに通した《ファイレクシアの破棄者》でクロックを刻みながら続くターンには《電結の荒廃者》と《難題の予見者》をプレイ。
川北の手札から《逆説的な結果》を抜き去ると、その手札に残されたのは土地と、まだまだ重い《物読み》のみとなる。
もはや大勢は決した。
トップデッキに祈りを捧げる川北を佐野が《トリスケリオン》+《電結の荒廃者》のコンボで一息に介錯すると、長かった第8期ヴィンテージ神挑戦者決定戦の戦いに終止符が打たれた。
川北 1-2 佐野
“最後に笑うのはどちらになるのか?”と書いたが、勝負が終わったあとの2人の表情はどちらも明るかった。
勝負である以上、勝者と敗者が生まれるのは当たり前である。そしてそれゆえに、我々は時に安易に「勝つ=楽しい」という方程式を是と考えてしまうことがある。
だが、それでも。
勝つゲームも負けるゲームも同様にマジックであり、本質的に楽しくて、終わったあとには笑い合えるものであることに違いはないはずだと、今はっきりと分かった気がした。
もちろんこれは私の感傷的な、一個人の意見に過ぎない。
それでも佐野と、川北と、そして彼らを取り巻くプレイヤーたちの笑顔を見ると、全てのマッチアップがこのようにあってほしいと思えてならないのだ。
さて、余談が過ぎただろうか。
最後に、第8期ヴィンテージ神挑戦者決定戦の優勝者の名を刻もう。
第8期ヴィンテージ神挑戦者決定戦、優勝は佐野 大基(神奈川)!
おめでとう!!
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