スタンダードに禁止改定は必要なのか

高橋 純也



■ 驚愕のスタンダードでの禁止発表


 2017年1月9日の早朝に発表された【禁止制限告知】は世界中に大きな驚きを与えた。普段の告知よりも一週間ほど前倒しされていたことから「きっと大きな変更がくるのだろう」と予想する声は多かったが、実際に告知された内容は、それを待ち構えていた人々の想像の遥か上空を飛び越えるものだった。





◆ スタンダード

《約束された終末、エムラクール》禁止
《密輸人の回転翼機》禁止
《反射魔道士》禁止

◆ モダン

《ギタクシア派の調査》禁止
《ゴルガリの墓トロール》禁止

次回禁止制限告知日: 2017年3月13日



 モダンについては妥当--つまりは予想するのが難しいものではなかったが、悲鳴が上がったのはスタンダードである。

 まさかの3枚禁止。スタンダードにおいて最後に禁止カードが制定されたのは2011年の7月のこと。かの《石鍛冶の神秘家》《精神を刻む者、ジェイス》という馬鹿げた二人組以来だ。そもそもスタンダードはローテーションの周期が早いことから余程のことがない限りは禁止制限とは無縁のフォーマットであり、「新セットが出れば環境の姿は変わるでしょう」と、多少なりのインバランスは見過ごされてきた過去がある。そこに突然の複数枚の禁止カードとくれば驚かされて当たり前なのだ。

 また、興味深いことに次の禁止制限告知日が早まり、プロツアー『霊気紛争』の5週間後にされるようだ。これまでは年に4回行われていたが、それが2倍の頻度で行われるようになるという。

 これらの変更には賛否両方の声があがっている。持っているカードが使えなくなるというのだから否定の声があがるのは当然かもしれない。しかし、それを踏まえても魅力的な変更だという声も聞こえる。どちらも理のある意見だが、はたしてこの変更はマジックにとって良いものなのだろうか?それとも悪いものなのだろうか?

 はじめに結論から言うと、僕はこの変更には大賛成だ。これによってマジックがより楽しいものになると感じられたからだ。

 ゲームデザインと開発部側の意図は公式の記事に、これからの環境の姿と推移についてはプロプレイヤーの分析を待つことにして。この記事では「スタンダードで禁止制限カードを作ることが、どうマジックをより良いものにするのか」について少しばかり話していこうと思う。



■ 現在のスタンダードは禁止改定が必要なフォーマットである


 まずは、そもそもスタンダードに禁止カードが必要なのかについて整理したい。

 スタンダードで禁止カードを制定するということはつまり、せっかく買ったパックから使えないカードが出てきたり、最も親しまれているフォーマットであるがゆえに多くの人が好きなカードを使えなくなることを意味する。普通に考えれば歓迎する人は少ないだろう。ましてや「禁止カードが出てくるパック」を買う人が増えるとは一考するだけでは考えにくく、ありとあらゆるステークホルダーがいい気分にはならないはずの出来事だ。

 しかし、現在のスタンダードを競技的なフォーマットとして見るならば、むしろこれほど禁止改定が必要なフォーマットはないのだ。


・理由1: スタンダードでは突出した戦略やカードが生まれやすい

 1つ目の理由に関係するのは“カードプールの大きさ”である。スタンダードは現在6~8つのカードセットによって環境が作られており、モダンの50個以上、レガシーの100個近いセット数と比較して、カードプールがとても小さい。これはすなわち「特定のカードや戦略に対応する選択肢の数が少ない」ということでもある。

 最小のカードプールで戦うリミテッドや、1つのエキスパンションブロックしか使えないブロック構築を想像してもらえば分かるように、カードプールが狭いほどに特定の突出した戦略やカードが支配するようになる。ランダマイズされたリミテッドはわかりにくいかもしれないが、仮に好きなカードを初手でピックできる権利があるならば、誰だって《曇り鏡のメロク》《梅澤の十手》を選んで使うに違いないのだ。それを少しずつ広げた過程にあるのがかつてのブロック構築であり、その道を少し歩けばスタンダードに行き当たる。

 特に最近のスタンダード環境では、対応するカード (除去、カウンターの類) が弱めに作られていることもあり、あらゆる戦略やカードが予定通りに働くことが多い。つまり、相対的な強さというよりは、戦略やカードがもつ絶対的な強さを押し付け合うようになっている。これはこれで面白いので、この傾向についての是非を問うつもりはないが、ここで強調したいのは“カードプールが小さい”ことによるデメリットが増幅している、ということである。


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 このことを競技的な観点で見ると、戦略の数は限られ、強いコンセプトやカードをより強く使えるデッキに人気が集中する、ということになる。これはいわば「~~があると/なければ駄目」「~~に対抗しなければいけない」といった”暗黙のルール”化である。《集合した中隊》デッキでも《反射魔道士》が入っていなければそれだけで厳しく、《反射魔道士》に弱いカードがデッキに入っているだけで減点され、長期戦を戦うならば《約束された終末、エムラクール》を乗り越える力がなければいけない。

 これまでもスタンダードのカードプールの大きさは変わらず、かつても”暗黙のルール”はあった。しかし、カードプールの内容の傾向は明らかに変わりつつあり、それは突出した戦略やカードの立場をより強固なものにして、結果的に戦略の幅が狭まることを後押ししている。


・理由2: スタンダードで強い戦略はずっと強いまま

 特定の戦略が強い。特定のカードが強い。これによっていくらかの多様性が失われる。これ自体は仕方のないことだ。カードプールが小さければ選択肢が少ない以上は避けられない問題であり、いつの世だって何かしらの過ぎて強いデッキは存在する。

 しかし、問題なのは強い戦略がずっと強くあり続けてしまうことにある。現在は対応するカードが弱くデザインされていることから、一度環境の中で確固たる立場を持ってしまえば、それ以降も強いままなのだ。

 記憶に新しいのは《集合した中隊》+《反射魔道士》のコンビだろう。『ゲートウォッチの誓い』から「4色ラリー」の中心として支配し、『イニストラードを覆う影』からは悪名高き「バントカンパニー」として『異界月』以降も活躍し続けた。

 この一連の時間の流れにおいてスタンダード環境に起こった変化というと、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》《約束された終末、エムラクール》という新しいルールが加わって窮屈な環境になったくらいだ。結局《集合した中隊》がローテーション落ちしてスタンダードを去ることで”暗黙のルール”のひとつは消えたが、これはすなわち新しいカードセットが加わることでは環境に大きな変化は望めないということでもある。

 変化。これはスタンダードにおいてとても重要なキーワードだ。【スタンダード・ローテーションの見直しについて】において過去のローテーション計画に触れられているが、かつて年に2回のローテーションが計画されたのは、ローテーションによって突出した戦略やカードが確実に消えることで起こる変化に期待したものだった。


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 強いデッキが強いのはいいが、それがずっと強いだけの、そのデッキばかりの環境には飽きがくる。昨年の「バントカンパニー」全盛時に【スタンダードの連載を受け持っていた】が、そこに寄せられる感想の多くは「今週もバントカンパニー?」というものだった。だが、競技的な視点からみると、残念ながら、また「バントカンパニー」なのだ。とはいえ、誰だって《ドロモカの命令》の枚数が2枚変わったことよりも、新鮮なデッキが登場したほうが楽しいと感じるだろう。

 なんにせよ環境が偏りやすいスタンダードには変化が必要で、その変化を起こすには環境を定義している”暗黙のルール”を壊さなければならない。しかし、それはローテーションなどによって強い戦略やカードそのものを消さない他には、より強い戦略やカードを新たに用意するようなインフレーションを呼ぶしかない。

 つまり、スタンダードをより楽しい環境にするためには、環境の姿を定義しているカードを禁止することは効果的な手段なのである。


・理由3: 環境の寿命が年々短くなっている

 ここまでの話は、カードプールの傾向についての話を除くと、これまでのスタンダード環境にもあったような内容である。しかし、かつてと現在で違うのは、強い戦略やカードが”暗黙のルール”たる支配力を持つことが周知されるまでの期間である。

 プレイヤーの技術と情報交流は年々進歩し続けていて、とりわけシンプルなスタンダードというフォーマットにおいては著しい。今ではプロツアーから1ヶ月もたてば環境終盤ともいえる強力なデッキが勢揃いする。グランプリが高頻度で開催されるようになり、プロツアーの開催が発売間もなくとなったことも合わせて、フォーマットの寿命とでもいうのだろうか、やり尽くすまでの期間が異様に短くなった。


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 2011年はおよそ環境終盤に差し掛かるまで3ヶ月ほどかかっていたが、2016年の『イニストラードを覆う影』は1ヶ月、『異界月』と『カラデシュ』は約3週間でほぼすべてのアイデアが出揃うことになった。カードプールの傾向の変化から強いデッキを導きやすくなったことも関連しているだろうが、これは異常な速度である。

 こうして素早く環境が解析されて、環境のあるべき姿が知れ渡ったあとに残るのは、わずかに残る革新的なアイデア (カードプールの都合でほぼあり得ないが) 探しか、次の変化が訪れるまでのクールダウンだ。しかも次の変化が訪れるのは環境を定義するカードたちが消えるローテーションの時期ともなると、ゲーム自体はダイナミックで楽しくなっているにもかかわらず、新鮮さを失ったまま遊ぶ期間はかつての数倍にまで伸びてしまっている。

 このような理由から現在のスタンダード環境には、インフレーションを起こさずに、環境を支配する”暗黙のルール”を変化させる策が待ち望まれていた。その1つの解決策が、禁止改定をすることなのだ。

 プロツアーの開催を遅らせたり、支配的な戦略やカードへの対策カードを印刷したり、ローテーションを早めたりといった措置は考えられるが、どれもこれまでに失敗してきた過去がある。特に対策カードの調整は難しく、《呪詛の寄生虫》のようなアレな存在か、《漁る軟泥》のようにデッキそのものを死滅させるような極端な結果しか生んでこなかった。

 部分的なローテーションを起こすという意味で、環境を定義して”暗黙のルール”と化しているカードを禁止するというのは、スタンダードを変化のあるとても楽しいフォーマットにする素晴らしい措置だ。



■ 禁止カードがでたのは開発側の怠慢なのか?


 これまでスタンダードで禁止されたカードの面々を見ると、本当にどうしようもない奴らばかりで、禁止カード=印刷されるべきではないほど強いカード、というネガティブな印象が強いかもしれない。それこそ調整不足で世に出てしまったカードの代名詞に聞こえる人もいるかもしれないが、今回のものはその類ではない。

 開発側のミスどころか、スタンダードを競技的で楽しいフォーマットに整備するための一歩をやっと踏みだした結果なのである。

 ここまでいうと禁止カードという措置のネガティブな面に目を瞑りすぎかもしれないが、開発側が彼らの意図から外れたことに応急手当で対応したのではなく、スタンダードというフォーマットのデザインを根本から変えていこうという意思表示であることは確かだ。

 これは禁止制限告知が年に8回行われるようになったことや、


“私たちはこの変更を、私たち自身とプレイヤー・コミュニティに、組織化プレイを健全で楽しいものにするための高い柔軟性を提供するために行います。”

(【2017年1月9日 禁止制限告知】より引用)



 というコメントからも窺える。たとえカードセットの内容が洗練されても、カードプールとプレイ環境の変化から、スタンダード環境に解答が示されることは避けられない。そこで環境の動向を監視して事後的に干渉することで、退屈なゲームをしなくていいフォーマットづくりに取り組んでくれるようになったということだ。

 何が環境を退屈にしているのか。何を変えれば楽しくなるのか。それを探し出すことは難しく、禁止カードにすべきか否かの判断は、商品価値の問題とは別にゲームバランスだけでも困難だ。そのため、開発側はスタンダードを監視、分析するために新たに多くのリソースを割くだろうし、その過程で得たフィードバックはこれからのカードセットをより魅力的なものにしてくれるはずだ。



■ 楽しいゲームの未来は明るい


 きっとスタンダードはより良いフォーマットになる。

 だからといっても禁止カードには常に無視できないネガティブな面がつきまとう。プレイヤーにとって自分の持っているカードが使えなくなること自体はただの損失でしかなく、中古市場も需要供給と信用のあれこれによる在庫リスクなどの問題で荒れるだろう。

 しかし、これは様々な記事で引用されてきた言葉だが、【”Why did I even come here to play?”(リンク先は英語)】の答えはいつだって“For fun!!”なのだ。誰もが楽しい体験をするためにマジックで、スタンダードで遊んでいる。

 上でも触れたが、今回の禁止改定を経て、スタンダードは、マジックはより楽しいものになっていくはずだ。禁止制限告知を読んで、手元の《密輸人の回転翼機》を見て愕然とした人もいたとは思うが、同時にこれからの未知なるスタンダード環境を想ってワクワクした人も多かったのではないだろうか。

 魅力的な娯楽に溢れる2017年には、右をみても左をみても楽しそうなコンテンツばかり。残酷なことに少しでも面白くなければ代わりの遊びはいくらでもある。そんな群雄割拠な世の中において生き残るのは、きっと楽しい体験を追求したものだけになるだろう。そして、今回の禁止制限告知を受けて、僕にはマジックがその1つになると信じられたのだ。

 だから、僕がマジックをやめることはしばらくなさそうだ。

 それでは、またどこかで。



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