早速始まった、『霊気紛争』の晴れるーむ合宿。
プロプレイヤー9名が集い、この環境のドラフトを読み解いていくわけだが、朝一番のドラフトが始まると同時にこんな声が聞かれた。
「やっぱり、『霊気紛争』はドラフトだと弱いね……」
《致命的な一押し》《歩行バリスタ》《ピーマの改革派、リシュカー》《キランの真意号》など、強力なカードが目白押しの新セットではあるが、ドラフトとなると事情が違うらしい。
そこで、この環境の第一印象を、今回もカバレージスタッフとして合宿に参加している我らがまつがん(伊藤 敦)に伺ってみた。
まつがんが語る、『霊気紛争』の第一印象
まつがん「『霊気紛争』のドラフトは、コモンがとにかく弱い。これは、第一印象ではあるけれど、間違いなさそうだね」
――「『なぜ弱いのか』をもう少し詳しく教えていただけますか?」
まつがん「マジックの”弱い”にも色々な意味があるから少し説明しておくと、まず“生物のサイズが全体的に小さい”。それから、“アーティファクトが、クリーチャーも含めて弱い”といった特徴があるね」
――「『紛争』や『即席』といったメカニズムはどうですか?」
まつがん「うーん……それらの強さを評価するには時期尚早、という感じがするね。環境理解が進んでどうなるか、というところかな。それを見極めることも、この合宿の意味ではあるんだ」
プロの”阿吽の呼吸”と、環境理解
――「なるほど。環境理解が進んでいないと、どのようなドラフトになるのでしょうか?」
まつがん「環境初期のドラフトというのは、回数を重ねるごとにアーキタイプが洗練されていく。環境初期にプレイヤーが作るデッキは、まだ環境が不明だから、『マナカーブに基づくだけ』といったピック、そして構築になることがほとんどで、そうなるとピックのシグナルも分からないような状態になってしまうんだ」
――「『このカードが流れてきたということは、この色は空いているようだ。じゃあ、この色をやってみよう』が分からない状態ですね」
まつがん「うん。そういった目安がピック中にはあるのだけど、これは言わば各プレイヤーが環境に対する共通認識を持っているからこそ成り立つもの。プロプレイヤーの“阿吽の呼吸”と言っても良い」
――「武道の組手、みたいですね……」
まつがん「かなり近いね。その共通認識を8人が持っているから、色の住み分けがスムーズになっていく。そうすると、それぞれが他者のピックを阻害することがなくなって、デッキが洗練されていくんだ。結果、全員のデッキが『その色の組み合わせにおける理想』に近くなるんだよ」
――「全員が理想を把握していると、それぞれのデッキが強くなるわけですか」
まつがん「そうだね。この合宿で行われているのは、環境の理想形を把握するための戦いなんだ。その共通認識を持っているかどうかで、それぞれのデッキが変わる。そして、プロツアーというのは皆が共通認識を持った上で戦う場所で、特に2日目ともなれば、それが顕著になる」
――「2日目に進出するプレイヤーのほとんどは、”分かっている”状態、ということですね」
まつがん「その暗黙の了解を共有した上で、他者を出し抜く力を持っているかどうかが、その先に進む上で重要だね。新しいメカニズムがどう評価されるかは、その”暗黙の了解”が共有された上で判断しないといけないんだけど、新メカニズムは、特に『紛争』はかなり厳しそうではあるね」
『紛争』の難しさ
――「その暗黙の了解と『紛争』の評価は、どのような関係にあるのですか?」
まつがん「まず『紛争』のメカニズムに触れておくと、これの分かりやすい条件は『クリーチャーで殴って相打ち』、もしくは他のパーマネントを生け贄で達成、だよね。いずれにせよ、『紛争』には準備が必要なんだ。”『紛争』持ち”と、”『紛争』を誘発させるもの”だと、当然後者の枚数が多く必要になる。前者が2枚だと、後者は4枚くらい、という感じかな」
――「かなり枚数を使ってしまいますね」
まつがん「そこが難点だね。リミテッドの場合、自由に割けるスロットは少ないから、それらを採用すると当然デッキが薄くなってしまう。本来、強化呪文などに使っていたスロットが、そういった『紛争』誘発剤に使われるわけだからね」
まつがん「さらに難しいのが、『紛争』誘発剤として最良の一枚は《改革派の地図》だと思うけど、このカードは『紛争』のためでなくても使える。だから、『紛争』特化じゃないプレイヤーに使われてしまって、残っていないことが多いんだ。『紛争』を達成させるため“だけ”に作られたようなカードは、やはり弱い。『霊気紛争』が弱い理由の一つは、こういったカードが多いから、でもあるんだよ」
――「なるほど。構築では活躍することも多そうですが、リミテッドでは厳しいわけですね」
まつがん「現段階ではね。たとえば、対戦を重ねてプロプレイヤーの認識が”『紛争』は弱い”となったとする。そうなると、ほとんどのプレイヤーが『紛争』に手をつけなくなって、カードが余ることになって、8人中1人くらいは『紛争』に特化したデッキを作ることができる……かもしれない、というレベルだね。『即席』も強く使うためには、ある程度の準備が必要だ。もちろん、これからの環境理解によっては、わからないけれど……あ、対戦が終わったみたいだね」
ドラフト・テーブルに目を向けると、各々がこのラウンドの感想を話し合っている。それぞれのデッキを評価し、意見を交換して、環境の理解度を、今まさに高めあっている。
まだ合宿は、そして新環境は始まったばかり。プロの思考が積み重ねられていく過程をお届けしていこう。
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