プロツアー『霊気紛争』現地レポート Day2

晴れる屋メディアチーム

1日目のレポートは【こちら】

 プロツアー『霊気紛争』、2日目。

フィーチャー席の模様
会場中央に設けられたフィーチャーエリア。栄光の舞台、プロツアーサンデーに向けた大一番が幕を開ける!

 今回のプロツアーに集った425名の強豪プレイヤーがさらに篩(ふるい)に掛けられ、この日集うのはその半数――初日4-4以上の好成績を収めたプレイヤーたちが、栄冠をその手に掴み取らんと鎬を削ることとなる。

 晴れる屋メディアでは、本日も特派員・渡辺 和樹によるプロツアー現地レポートを、本記事内で随時更新していきます!




Hareruya Pros/Hopesの初日成績まとめ

By Hareruya Media team

 さて、まずは「Hareruya Pros」および「Hareurya Hopes」の初日の成績を見てみよう。

プレイヤー 所属チーム ドラフト スタンダード 初日成績
Lukas BlohonGenesis3-04-17-1
Jeremy dezaniHareruya3-03-26-2
中村 修平Hareruya1-25-06-2
Michael BondeMTG Bent Card3-02-35-3
齋藤 友晴Hareruya3-02-35-3
高橋 優太Hareruya1-24-15-3
Petr SochurekHareruya2-12-34-4
八十岡 翔太Musashi2-13-25-3
Pierre DagenOpportunity2-12-34-4
Martin MullerGenesis1-23-24-4
原根 健太(所属チーム無し)1-23-24-4
木原 惇希(所属チーム無し)1-23-24-4
津村 健志Last Samurai1-22-3初日敗退
Oliver Polak-RottmannHareruya1-21-4初日敗退
平見 友徳(所属チーム無し)1-21-4初日敗退

ルーカス・ブローン
Lukas Blohon(チェコ共和国)

ジェレミー・デザーニ
Jeremy Dezani(フランス)

中村 修平
Shuhei Nakamura(日本)

 2日目開始時点ではルーカス・ブローン/Lukas Blohonが初日7-1と抜きんでており、ジェレミー・デザーニ/Jeremy Dezani中村 修平の2名がその後を追う好成績を残している。

 また、上図の2日目進出プレイヤーの中で唯一プロレベルを持っていない原根 健太木原 惇希の2名はこの2日目を1敗で切り抜ければ次回のプロツアー『アモンケット』への出場権利を獲得できる。厳しい道のりではあるが応援していきたい。



開幕~2ndドラフトの様子

By Kazuki Watanabe

 プロツアー『霊気紛争』、2日目が始まった。

 さっそく、会場の様子をお届けしよう。

 2日目に進めるのは、初日を4-4以上の成績で終えたもののみ。プレイヤーの数が少なくなるため、プレイエリアが縮小される。

 続々と集まるプレイヤーたち。八十岡 翔太と、Dig.Cardsの行弘 賢、そしてTeam Cygamesの山本 賢太郎が言葉を交わす。

 Hareruya Hopesの木原 惇希も、2日目進出を果たした。Team Cygames所属の市川 ユウキ、Big Magicの瀧村 和幸と初日を振り返りつつ、展望を語り合っているようだ。

 ポッドが発表され、それぞれの座席へ。ジェレミー・デザーニの隣はブラッド・ネルソン。

 マイケル・ボンデにカメラを向けると、笑顔で視線を送ってくれた。1stドラフトを3-0で終えた彼の活躍に期待しよう。

 遠景のためわかりづらいかもしれないが、市川 ユウキ、清水 直樹、松本 友樹、そして藤田 剛史と、4名の日本人が同じポッドに。

 ピック中のピエール・ダジョン。真剣な表情で、カードを選ぶ。

 デッキを構築するペトル・ソフーレク。

 少しだけ、こぼれ話。ドラフトが始まる直前、会場がスポットライトと見紛うような光に包まれた。2階の窓から、朝日が差し込んだのである。

※ダブリンは北緯53度。北海道・稚内よりもさらに北なので、冬場の日照時間はとても短く朝日の登る時間も遅い。

 これではピックに支障を来す、ということで少々開始が遅らせられることになった。

 会場スタッフが窓を板で塞ぐと、会場全体から拍手。プロツアーで起きた”ちょっと珍しいエピソード”として、ここに記しておこう。



マイケル・ボンデの語る『霊気紛争』ドラフトの全て

By Kazuki Watanabe

 1stドラフトを3-0で終えたプレイヤーの一人、マイケル・ボンデに『霊気紛争』のドラフトについて話を伺った。

--「まず、この環境で最もベストな色の組み合わせは何だと考えてる?」

Michael「僕が好きなのは、青白の飛行、そして青緑のエネルギー、だね。この組み合わせがベストだと思うよ。どちらかを選ぶのが難しいくらい、好きな組み合わせなんだ」

--「昨日見事に3-0したデッキは、一番好きな青白飛行だったわけだね」


Michael Bonde「青白飛行」
プロツアー『霊気紛争』 – 1stドラフト(3-0)

8 《平地》
8 《島》

-土地 (16)-

2 《格納庫の整備士》
1 《神盾自動機械》
1 《霊気急襲者》
1 《修復専門家》
1 《航空船の略取者》
1 《歩行バリスタ》
1 《博覧会場の警備員》
1 《ギラプールのミサゴ》
1 《警戒自動機械》
1 《夜市の護衛》
2 《尖塔の巡回員》
1 《先見的な増強者》
1 《急降下飛空士》
1 《砦のマストドン》
1 《霊気海嘯の鯨》

-クリーチャー (17)-
1 《置き去り》
1 《凍り付け》
1 《特権剥奪》
2 《光に目が眩む》
1 《飛行機械による拘束》
1 《改革派の貨物車》

-呪文 (7)-
hareruya

Michael「そうだね。好きなアーキタイプだから、使っていて楽しかったよ。ただ一つ反省点があって、土地は17にするべきだったと思う。今回のデッキでは、どうしてもマナが足りなくなってしまう場面が多かった。何とか3-0できたから、ホッとしているよ」

平地

--「ちなみに、青白、青緑がベストな組み合わせ、ということは、青が君の考えるベストカラーかな?」

Michael「うーん、実はそう簡単な問題でもないんだ。青はベスト・”サポート”・カラーなんだよ」

--「サポート……つまり、組み合わせるための色、ということ?」

Michael「そういうことだね。青のカードは、単体での力がそこまで強くない。組み合わせることで、強力になるんだ。色単体で言えば、黒が一番良くなくて、次が白、という認識なんだ。だけど、青黒、青白なら十分に戦える。不思議に思うかもしれないけど、ドラフトの魅力だね」

--「なるほど。なかなか面白いね」

Michael「この環境は、シナジーを活かすことが重要だ。苦手な色でも、組み合わせて活かすことができれば戦えるよ。2ndドラフトでは、赤黒『即席』をやっているんだけど、これもなかなか感触が良いんだ」


Michael Bonde「赤黒即席」
プロツアー『霊気紛争』 – 2ndドラフト(2-1)

8 《山》
8 《沼》

-土地 (16)-

2 《増強自動機械》
1 《夜市の見張り》
1 《霊気追跡者》
1 《霊気毒殺者》
1 《ドゥーンドの調査員》
1 《溶接自動機械》
1 《鋳造所のコウモリ》
1 《ラスヌーのヘリオン》
1 《尖塔横の潜入者》
1 《搾取工区の喧嘩屋》
1 《鋳造所の組立工》
1 《ラスヌーの帆背びれ》
1 《バリケード破り》
1 《湿原の運び屋》

-クリーチャー (17)-
1 《正確な一撃》
1 《智恵ある帰還》
2 《隠然たる襲撃》
1 《無許可の分解》
1 《チャンドラの革命》
1 《放射篭手》
1 《霊気圏の収集艇》
1 《無謀者の競走車》

-呪文 (7)-
hareruya

Michael《搾取工区の喧嘩屋》は言うまでもなく強力だし、《湿原の運び屋》《バリケード破り》はほぼ5マナ以下という感覚で使うことができるよ」

搾取工区の喧嘩屋湿原の運び屋バリケード破り

--「『即席』を有効活用するわけだね。『このカードに注目!』というものはある?」

Michael《放射篭手》かな? 『霊気紛争』ドラフトでは、クリーチャーのサイズが一回り小さくなった。だから、パワーを+2するだけで、あっという間に強力なクリーチャーができあがる。さらに『即席』の助けにもなるから、このアーキタイプにぴったりの1枚だね」

放射篭手

--「なるほど、ありがとう! では最後に、この環境のドラフトで勝利を掴むコツを教えてもらえるかな?」

Michael「なかなか難しい質問だね。僕が教えてほしいくらいだよ(笑) ただ、一つ言えることは、カラデシュという次元は、アーティファクトが中心だ。だから、ドラフトでもアーティファクト、つまり無色をしっかりと活かせると良いと思うよ」

起伏鱗の大牙獣暴走急行

Michael「例えば、《起伏鱗の大牙獣》《暴走急行》は、どちらも強力なアンコモンだよね? 緑と決めているならば前者を取れば良いけど、《暴走急行》は無色だからどんなデッキにでも入る。無色である、というだけで評価が高いんだ。それに、カードパワーが全体的に弱いから、ふらふらと迷うとデッキが弱くなってしまうからね」

--「なるほど、ありがとう! そうだ、最後に一つだけ。君の所属しているチーム(MTG Bent Card)はリミテッドの成績が良かったんだって?」

Michael「3-0が3人、2-1が2人、1-2が1人だったね。2日目にも5人が進出しているんだ。みんな強豪だからね、期待しててよ!」

--「楽しみにしているよ、この後も頑張って!」


 ところで、このインタビューを取るために、彼の対戦が終わるのを待っていたときのことだ。

 ゲームが終了した後、彼は対戦相手と感想戦を行いながら、アドバイスを送っていた。

 「あの場面なら、こっちの方が良かったかもしれないね」「これは良いプレイだったよ。本当に困った。次はこうして……」

 その様子を見つめている私に気づくと、彼は一言こういった。

 「彼は初めてのプロツアーらしいんだ。もう少し話していても良いかい?」

 もちろん、と私が告げると、彼は再びカードを広げ、プロとしてアドバイスを送る。

 少しだけ、作業の予定を遅らせよう。プロプレイヤーのあるべき姿を、そして未来のプロプレイヤーが生まれるきっかけを、私は今まさに見ているのかもしれないのだ。



リミテッドの達人・中村修平にインタビュー!

By Kazuki Watanabe

 晴れるーむ合宿で最高成績を叩き出した、殿堂プレイヤー・中村 修平。同じ殿堂である津村 健志に「Hareruya Prosで一番ドラフトが上手い」と言わしめる実力者だ。

 ラウンドの合間。時間は限られているが、彼に一つ聞いてみたいことがあったため、声を掛けてみた。

環境限界値がどれくらいか

--「合宿からしばらく時間が経ち、プロツアー本番を迎えましたが、『霊気紛争』ドラフトの感覚に変化はありましたか?」

中村「特に大きな変化はないですね。環境全体の“シナジーが重要”というイメージは変わってないです。ただ、カードの評価には変化がありましたね」

--「なるほど。具体的にはどのカードですか?」

中村「一番大きな変化は、《鉄装破壊車》です。これは合宿のときの評価よりも明確に高くなりました

鉄装破壊車

--「4マナ、6/6、『搭乗3』の機体ですか」

中村「そうです。好きではなかったのですが、環境の理解が進むに連れて好きになりました。『霊気紛争』ドラフトでは、4/4というサイズが環境限界値なんです。『カラデシュ』では4/5が限界値だったんですよ」

造命物騎兵砦のマストドン

--「タフネス1の差ですが、そんなに大きな変化なのですか?」

中村「かなり大きいですよ。例えば、この環境では『4/4, 3/2, 3/2』なんていう感じでクリーチャーが並びますよね? この状況ならば、《鉄装破壊車》で1対2交換を取ることができます。ですが、この『4/4』が『4/5』だった らどうでしょう?」

--「なるほど! 1対1交換しかできないですね」

中村「そういうことです。環境を理解する上では、“環境限界値がどれくらいか”を把握することも重要です。タフネス1つ違うだけで、ピックの点数が変わるわけですからね」

--「わかりました。では、現在の中村さんが考える“この環境の鍵”は何だと思いますか?」

中村「やはり重要なのは、強い2マナをしっかり確保することです。強さにもいろいろありますが、意識してほしいのは3マナ域と相打ちが取れる強さです」

--「相打ちが取れる……相手の戦力を削ぐ、ということですか?」

中村「そういう意味でもありますね。単純に削ぐのではなく、相打ちも視野にきっちりと使いこなす、という感覚です。そういう意味でも2マナの工匠、《霊気追跡者》《霊気急襲者》《霊気毒殺者》の評価は高めです」

霊気追跡者霊気急襲者霊気毒殺者

--「その3枚がトップコモン、という認識ですか?」

中村「いや、この環境では、トップコモンという考え方を止めた方が良いです」

コモンを取って勝てる環境じゃない

--「トップコモンという考え方?」

中村「簡単に言うと、1パック目の初手、そして2手目でコモンを取って勝てる環境じゃないんです。レア、アンコモンを取ることを優先した方が良いですよ。2マナの工匠をピックするのは、3手目、4手目です」

--「なるほど……それだと、初手、2手目の色と工匠が上手く合わない可能性もありますよね?」

中村「ありますね。なので、1-1, 1-2は捨てるつもりでバラ打ちでも問題ないと思っています。その後に、いわゆる”トップコモン”が重なってきたら、色が空いていると判断するわけです」

--「少し特殊な感覚ですね」

霊気急襲者

中村「そうですね。もちろん、2マナの工匠は抜群に評価が高いんですよ? ただ、私の場合、《霊気急襲者》の評価が周囲よりも少し高い気がします。結果、流れて来やすいので、青を”やらされている”感がありますけど」

--「周囲、特に海外プレイヤーの評価が高いのはどれなのでしょうか?」

中村《霊気追跡者》でしょうね。赤はほとんど空いてないイメージです」

霊気追跡者

--「なるほど。ありがとうございます。その他にこの環境で気を付けるべきことはありますか?」

中村「何かありますかね……そうだ、流したカードが重要というのもアドバイスになるかもしれません」

--「流したカードは覚えておこう、というやつですか?」

中村「それよりも少し踏み込んだ感覚です。カードが軒並み弱いので、『これは残らないだろうな』というのがかなり高い確率で分かるんです。1パック目で流したものを把握して、2パック目で流れてくるものと比較すれば、綺麗にドラフトできるはずです。少し慣れない言葉ですが、『うまく2パック目を切り盛りする』という感じで」


 ここで、残念ながら時間となった。一言お礼を述べると、中村さんは手を軽く振って応えてくれる。

 “世界を渡り歩くプレインズウォーカー”中村 修平。その中村が語った、『霊気紛争』ドラフトの感覚。読者諸賢のリミテッドに活かしていただければ幸いである。



プレイヤーインタビュー: 大木 樹彦

By Kazuki Watanabe

 誰にでも“初めてのプロツアー”が存在する。

 マジックプレイヤーの記憶力は恐ろしい。「初めてのプロツアーを覚えていますか?」と聞けば、大抵の人は当時のエキスパンションを添えつつ答えてくれるはずだ。無論、「何度も来ているから、忘れてしまったよ」という人もいるかもしれないが……。

 さて、ここで今回のプロツアー『霊気紛争』が初めてのプロツアーとなる、一人のプレイヤーを紹介しよう。

 大木 樹彦。

 【晴れる屋で開催されたRPTQ】を突破し、ダブリンへのチケットを手にした大木。初日を突破し、世界の強豪たちと戦った彼に話を伺ってみた。

--「お疲れ様です。初めてのプロツアーですが、実際に参加してみていかがですか?」

大木「そうですね……目標が叶った、という感じです」

--「【RPTQ突破時のプロフィール】にも、プロツアーは”最大の目標”と書かれていましたよね」

大木「そうですね。会場に足を踏み入れたら、有名なプレイヤーが当然たくさん居るので、少し驚きました。そして、そういう場所に来たんだな、と」

--「緊張する場面も多かったと思いますが、ここまで見事な成績ですね」

大木「ありがとうございます。普段リミテッドはほとんどやらないので、スタンダードで勝ち点を稼いでいるような状態です」

--「では、そのデッキについて教えてください。今回使用しているデッキは何ですか?」

大木マルドゥ『機体』です」


大木 樹彦「マルドゥ『機体』」
プロツアー『霊気拠点』

2 《平地》
4 《霊気拠点》
4 《秘密の中庭》
4 《感動的な眺望所》
4 《産業の塔》
4 《尖塔断の運河》

-土地 (22)-

4 《発明者の見習い》
4 《スレイベンの検査官》
4 《模範的な造り手》
4 《屑鉄場のたかり屋》
4 《経験豊富な操縦者》
2 《模範操縦士、デパラ》

-クリーチャー (22)-
3 《致命的な一押し》
4 《無許可の分解》
4 《キランの真意号》
3 《耕作者の荷馬車》
2 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》

-呪文 (16)-
3 《金属の叱責》
2 《払拭》
2 《邪悪な囁き》
2 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》
1 《致命的な一押し》
1 《断片化》
1 《苦渋の破棄》
1 《グレムリン解放》
1 《反逆の先導者、チャンドラ》
1 《領事の旗艦、スカイソブリン》

-サイドボード (15)-
hareruya

--「【メタゲームブレイクダウン】を見ても、今回想像以上に使用者が多かったデッキですね。このデッキを選択した理由を教えてもらえますか?」

大木「これまでは、黒緑『昂揚』を使用していたのですが、《約束された終末、エムラクール》が禁止されたので、《巻きつき蛇》の形を試してみたのですが、どうもしっくり来なかったんです。そこで、『あまり使ったことはないけれど、機体ってどうなんだろう?』と思ってMOで回してみたら、想像以上に強かったので使ってみました」

--「リストを拝見すると、1マナ域が12枚採用されていますね」

大木「今回はしっかりと投入してみました。メタゲームを見る限り、マルドゥ『機体』が環境の最速に近いデッキだと思いまして、その速度を生かすためには1ターン目から展開していきたい、と考えた結果ですね」

--「なるほど。サイドボードには……《邪悪な囁き》!?」

邪悪な囁き

大木「珍しいかもしれませんね。『黒緑の《新緑の機械巨人》を奪って攻撃』というイメージで採用してみました」

--「奪えたらかなりインパクトがありますね」

大木「今回はあまり出番がなかったのですが、それでもここぞという場面で頼りになるカードだと思っています。ただ、改良したいところももちろんありますよ」

--「そうなんですね。具体的にはどの辺りを改良するつもりですか?」

大木「やはり、アーティファクトが少なかった、と思いました。3マナ域は《模範操縦士、デパラ》《異端聖戦士、サリア》で迷っていたんです。《異端聖戦士、サリア》《ショック》で落ちるから《模範操縦士、デパラ》にしたのですが、《ピア・ナラー》を選択肢に入れておくべきでしたね。時間がなくて試せなかったのが悔しいです」

模範操縦士、デパラ異端聖戦士、サリアピア・ナラー

--「アーティファクトがないと、デッキのパワーがやはり落ちてしまいますよね」

大木「落ちますね。《産業の塔》が無色しか出せない。《発明者の見習い》がいつまでも1/2と、本当に困る場面がありました。あと、やはり1マナ域が12枚は多かったかもしれません。この辺りは今後もう少し詰めていきたいと思います」

--「なるほど。では改めて、今後の目標をお聞かせ願えますか?」

大木「まずは、プロツアーに継続的に出たいと思っています。今回のチャンスをしっかりと次に繋げて、シルバー・レベルを目指したいですね。少し大げさな言い方になってしまいますが、マジックを生きる糧にしたい、と思っているので。今回、やはりリミテッドの練習が必要だと痛感しましたし、どちらかというと『守りに入ってしまうこと』が多いので、的確なタイミングで攻勢に出られるように練習を重ねていきたいと思います」

--「おお、プロプレイヤーを目指しているわけですね。ちなみに憧れのプレイヤーは居ますか?」

大木憧れは、浅原 晃さんです。デッキビルダーとしても尊敬していますが、僕が特に好きなのは浅原さんのプレイングなんです。先の展開を読み切ったプレイを目にしたことがあって、それ以来、目標にしています」

 このインタビューは、15ラウンド目が終わったタイミングで行った。最後の1戦に向かう大木に「頑張ってください!」と伝えると、

大木「今、10-5なんですよ。どうにか勝って、次に繋げます!」

 と力強く答えてくれた。

 「その真っ直ぐな視線が、どうか次のプロツアーに繋がりますように」

 そう思いを込めながら、対戦を見守っていると……。

 今後の活躍から目を離せないプレイヤーが、また一人増えた。

 彼が将来、「初めてのプロツアーを覚えていますか?」と問われたときに、このインタビューが読まれる日がきっと来るだろう。その時のために、改めてここに記しておく。

 未来の読者諸賢。大木 樹彦の初めてのプロツアーは、2017年2月にアイルランド・ダブリンで開催された、プロツアー『霊気紛争』だ。



DeckTech: ピエール・ダジョンの「エーテルマーヴェル・ウラモグ・コピーキャット」

By Kazuki Watanabe

 数々の魅力的な記事を我々に届けてくれる、ピエール・ダジョン。

 マジックの環境に、そしてマジックの枠を超えた思考そのものに対する深い考察。その文章を、1人の読者として私も楽しみにしている。

 このプロツアー『霊気紛争』で、ようやく彼と直接話すことができた。ここでは、今回彼が使用したデッキリストを紹介すると共に、彼の言葉をお届けしよう。

エーテルマーヴェル・ウラモグ・コピーキャットとは?

--「初めまして! お会いできて嬉しいよ!」

Pierre「こちらこそ! じゃあ、早速始めようか?」

--「ありがとう。今回のデッキ名を教えてもらえる?」

Pierre「そうだな……エーテルマーヴェル・ウラモグ・コピーキャットだ」

--「!? ……すごいデッキだね。強い要素が詰め込まれているみたいだ」

Pierre「そのとおりだよ。これがデッキリストだ」


Pierre Dagen「エーテルマーヴェル・ウラモグ・コピーキャット」
プロツアー『霊気紛争』

5 《森》
1 《島》
1 《山》
1 《平地》
1 《燃えがらの林間地》
1 《進化する未開地》
4 《霊気拠点》
4 《植物の聖域》
2 《感動的な眺望所》
1 《尖塔断の運河》

-土地 (21)-

4 《導路の召使い》
4 《ならず者の精製屋》
4 《守護フェリダー》
3 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》

-クリーチャー (15)-
4 《霊気との調和》
4 《蓄霊稲妻》
2 《苦しめる声》
2 《ニッサの誓い》
1 《ジェイスの誓い》
2 《織木師の組細工》
1 《ガラス吹き工の組細工》
4 《霊気池の驚異》
4 《サヒーリ・ライ》

-呪文 (24)-
4 《不屈の追跡者》
2 《否認》
2 《燻蒸》
2 《領事の権限》
2 《チャンドラの誓い》
2 《反逆の先導者、チャンドラ》
1 《歩行バリスタ》

-サイドボード (15)-
hareruya

--「《霊気池の驚異》《サヒーリ・ライ》《守護フェリダー》のコンボが入っている、という感じかな?」

霊気池の驚異サヒーリ・ライ守護フェリダー

Pierre「そうだね。《約束された終末、エムラクール》が禁止されて《霊気池の驚異》は使われなくなった、と思っている人もいるみたいだが、それは甘い。むしろ、強くなってるくらいの認識を持たないとダメだ。これまでは《絶え間ない飢餓、ウラモグ》《約束された終末、エムラクール》しかなかった”大当たり”が、3種類に増えているわけだからね」

--「なるほど。どうしてこのデッキを使おうと思ったの?」

Pierre「まず、いわゆる”コピーキャット”を試していた。誰だってこのコンボには挑戦しただろう。その上で、一つのことに気づいたんだ。『なんだ? ものすごくエネルギーが余るじゃないか』と」

--「《霊気との調和》を始めとして、エネルギーを得るカードはたしかに多いね」

霊気との調和蓄霊稲妻ならず者の精製屋

Pierre《ならず者の精製屋》は、このデッキで最も強力な1枚だが、生み出したエネルギーを有効活用する手段が限られていた。それが気になってね。『じゃあ何かエネルギーを使えるものはないか?』と考えれば、《霊気池の驚異》に辿り着いたのは、ある意味当然と言えるだろう」

--「なるほど。結果、《サヒーリ・ライ》《守護フェリダー》のコンボと同時に使用することにしたわけだ」

Pierre「そういうことになるかな。もちろん、ただプラスしただけじゃない。《霊気池の驚異》《サヒーリ・ライ》でも《守護フェリダー》でも唱えることができる。揃ってしまえばほとんど勝ち、というコンボのパーツを探しつつ、《絶え間ない飢餓、ウラモグ》ならそれでも良いんだ。とてもおもしろいデッキだよ」

絶え間ない飢餓、ウラモグ

--「たしかにおもしろそうだ。これは使ってみたくなるよ」

このデッキの使いかた

「コピーキャットを使う上で気を付けることはある?」

Pierre「重要なのは、《守護フェリダー》なんだ。タップ状態の《霊気池の驚異》をアンタップすることもできるし、《ニッサの誓い》《ジェイスの誓い》を再利用することもできる。《サヒーリ・ライ》を対象にできれば勝利は目前だが、その勝利に至る道を作ってくれるカードだからね」

ニッサの誓いジェイスの誓い

--「なるほど。他に、『このデッキを使ってみたい』と思ったときの注意点があったら教えてもらえるかな?」

Pierre「そうだな。マリガンの基準について触れておこうか? 単純明快なんだが、緑マナが出なかったらマリガンだ。《サヒーリ・ライ》の青赤でも、《守護フェリダー》の白でもない。序盤を安定させる緑が重要なんだ。このデッキは、見てのとおり、マナベースがかなりタイトだ」

--「そうだね。かなり難しそうだ」

Pierre「正直、まだ改良の余地があるとは思っているんだが、それにしても《霊気との調和》に依存するところが大きい。あくまでも基本はエネルギーを貯蓄して、盤面を整えていくことだから、覚えておいて欲しい」

--「ありがとう。少しこの環境全体のことについて教えて欲しいんだ。黒緑、そしてジェスカイサヒーリがこのプロツアーでも流行っているけれど、これらに対してはどう立ち回れば良い?」

巻きつき蛇サヒーリ・ライ

Pierre「その2つに対して、このデッキは明確な方針がある。黒緑のようなアグロに対しては《絶え間ない飢餓、ウラモグ》で勝つ、そしてジェスカイのようなコンボに対しては《サヒーリ・ライ》《守護フェリダー》で勝つんだ。これが基本だ。そして、その逆を意識すると安定して勝てるようになる。つまり、黒緑に対して《サヒーリ・ライ》《守護フェリダー》は使わないようにするんだ」

--「分かりやすい方針だね」

Pierre「アグロ相手に《サヒーリ・ライ》を守ることは困難だ。素直に《絶え間ない飢餓、ウラモグ》で戦った方が安定する。サイドボード後は《サヒーリ・ライ》を2枚減らして、《ニッサの誓い》を2枚とも抜く。そして《チャンドラの誓い》《燻蒸》をサイドインすれば準備は万端だ。《霊気池の驚異》からインスタント・タイミングで《燻蒸》を唱えれば、相手は呆然とするだろうね」

燻蒸

--「コントロールならば、《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を抜くわけだね」

Pierre「そういうことだ。相手も”コピーキャット”を目指してくるだろうから、相手に付き合って余計なことをしている暇はない。《絶え間ない飢餓、ウラモグ》は3枚とも抜いて、《霊気池の驚異》も2枚は抜いてしまって良いだろうね。そして、《チャンドラの誓い》《燻蒸》以外のカードを適宜入れれば問題ないだろう」

--「具体的なプランまでありがとう。これまでの対戦を振り返って、このデッキの改良点は見つかった?」

Pierre《ニッサの誓い》が想像以上に使いづらかったのは改良すべきだろうな。《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を見つけてしまったときの寂しさと言ったらない。代わりに土地を1枚増やして……そうだな、もう1枚はこれから考えてみるよ」


 彼のデッキガイドに耳を傾けている内に、大切なことを忘れそうになっていた。読者を代表して、彼に伝えねばならないことがある。

--「あなたの記事はどれも素晴らしくて、そこで紹介されているデッキはどれもおもしろそうだよね。いつも楽しみにしているよ」

Pierre「そうかい? ありがとう。俺はエキサイティングじゃないデッキは使いたくないんだ。使っていてつまらないデッキで勝ってもおもしろくないし、それで負けてしまったら悔しさが増して、長いラウンドを戦うことなんて難しいだろうからね。それに……」

 少し間をおいて、笑顔を向けながら彼は続けた。その言葉は、このプロツアーで最も印象的な言葉だった。そしてそれは、私が常にプロプレイヤーに対して持つ、ある種の願望と憧憬が詰まったような、胸を熱くする言葉だった。

Pierre「マジックは最高に楽しいんだ。『楽しんで、勝つ』。その姿を見せるのもプロプレイヤーの仕事だ。そうだろ?」

 そう、いつだって彼らは、大切なことを思い出させてくれる。そして、そうあって欲しいと、プロプレイヤーに憧れる1人の人間として、私は思うのだ。

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