SE Table 2: 田村 千明(東京) vs. 高岡 祐介(東京)

晴れる屋

By Kazuki Watanabe


 「プロツアーの地域予選には、独特の空気がある」

 参加者の多くは強豪、古豪と称されるような実力者であることもあってか、会場の空気が通常の大会とは少し異なる。4名の勝者が居る、というのも通常の大会とは異なっている点だろう。

 勝者に与えられるものは、プロツアーへの参加権利。出場することが当たり前、といったトッププロを除いて、多くのプレイヤーにとっては夢の舞台であり、「プロツアー出場経験者」と言えば、一定の”尊敬の眼差し”で見られるのが常である。

 その夢の舞台を目指して103名がスイスラウンドを戦い、今、8名にまで絞り込まれた。

 プロツアー『アモンケット』地域予選、最終戦。勝者にはアメリカ・ナッシュビルで開催されるプロツアーへの参加権利が与えられる。

 田村 千明(ジェスカイサヒーリ)高岡 祐介(マルドゥ機体)の一戦をお届けする。



Game 1


 両者キープを選択。盤面に最初に現れたのは、高岡の《キランの真意号》。続いて《屑鉄場のたかり屋》が「搭乗」し、ゲームがスタートする。

 対する田村はライフをメモに記しながら淡々と土地を伸ばし、続く《模範的な造り手》《不許可》を唱えて相手のプランを崩していく。高岡は《スレイベンの検査官》を追加で唱えて、ターン終了。

 4ターン目。高岡は《経験豊富な操縦者》を唱えて戦線を増強。《キランの真意号》は起動せずに、《屑鉄場のたかり屋》《スレイベンの検査官》で攻撃を仕掛ける。


燻蒸


 ターンを受けた田村。相手の動きを落ち着かせるべく《燻蒸》で盤面を一掃。ライフを18まで戻し、戦場には乗り手を失った《キランの真意号》のみが残った。



高岡 祐介


 墓地のクリーチャーに一瞥すると、高岡は再びクリーチャーを展開する。まずは《屑鉄場のたかり屋》を唱えて、「搭乗」の手はずを整える。



 土地を伸ばし続ける田村は、ゆっくりと息を漏らす。同じく、高岡も盤面を眺めて一呼吸。

 高岡は《模範的な造り手》を唱えて、そのまま《キランの真意号》に「搭乗」。これに対して田村は《粗暴な排除》で迎え撃つ。一つ目の能力は《キランの真意号》を対象に、二つ目は《屑鉄場のたかり屋》だ。


粗暴な排除屑鉄場のたかり屋


 「マルドゥ機体」の強さは、《屑鉄場のたかり屋》に依るところが大きい。何度も何度も墓地から戦場に舞い戻り、攻撃役と《キランの真意号》の「搭乗」要員を担って、高い継戦能力を発揮する。それを追放されることは、想像以上の痛手である。

 意を決して高岡が選択したのは、《屑鉄場のたかり屋》屑鉄場に落とすことであった


致命的な一押し


 《致命的な一押し》《屑鉄場のたかり屋》を”救う”。手札に戻した《キランの真意号》を再び唱えて、ひとまず戦場は落ち着いた。

 マナが潤沢になった田村は、《停滞の罠》《キランの真意号》を捕らえ、さらに《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》《否認》で打ち消して、ゲームをコントロールしていく。

田村「考えます」

 少し吐息多めの声でつぶやいた田村。高岡も頷き、一瞬の静寂。




 盤面には、互いに5枚の土地。クリーチャーは《模範的な造り手》のみ。

 熟考の末に唱えたのは《守護フェリダー》《大草原の川》を起こしてマナを確保し、ターンを返す。

 地上を止めて戦況を保ちたいところだが、高岡も応手を残している。まずは、《模範的な造り手》を3/2にしてから、手がかりを生け贄に。「紛争」を達成した《致命的な一押し》《守護フェリダー》を除去する。

 そのまま《模範的な造り手》で攻撃を仕掛けるが、これには《蓄霊稲妻》が襲う。《スレイベンの検査官》を唱えて、ターン終了。

 田村は土地を伸ばして、《屑鉄場のたかり屋》が戦場に戻るのを見つめるのみ。

 高岡は、《経験豊富な操縦者》を唱える。占術は……上下


経験豊富な操縦者


 ターンを受け、ドローを確認した田村。盤面を確認し、土地に手を伸ばし、動きを止めた。

田村「さっきの占術、上下でしたよね?」

高岡「そうですね、1枚は上です



「この状況で、デッキトップに置いたものは?」

 ライフは失われつつあり、このままターンを返してしまえば敗北は濃厚だ。そう判断した田村は、ゲームを決めることを選ぶ。《守護フェリダー》、続けて《サヒーリ・ライ》と唱えて、「サヒーリコンボ」を揃える!


守護フェリダーサヒーリ・ライ


 田村が「では、コピーします」とコンボの開始を告げるまでの数秒、高岡は手を止めて、2枚のコンボパーツが並んだ盤面を見つめていた。そして、そのまま手がかりを生け贄にし、占術で確認済みのデッキトップを手札に加え……ることなく、相手に示した。


致命的な一押し


 《致命的な一押し》が、このゲームを押し切った。


田村 0-1 高岡


 現環境を代表する「サヒーリコンボ」と、「マルドゥ機体」の一戦。見慣れた、と言っても良い組み合わせである。


守護フェリダー奔流の機械巨人サヒーリ・ライ


 田村の「ジェスカイサヒーリ」は、コントロールに「サヒーリコンボ」のパッケージを搭載した形で、細かなカードの選択に調整の痕跡が見られる。「マルドゥ機体」への対策も定まっているのか、サイドボードの手際も良い。


模範的な造り手キランの真意号無許可の分解


 対する高岡も、迷うことなくサイドボードを入れ替えていく。クリーチャー、機体、プレインズウォーカーと多角的な攻めを見せる「マルドゥ機体」が、1ゲーム目は、高岡が相手に盤面をコントロールさせることなく押し切った。

 互いに15枚のサイドボードを見せて、デッキをシャッフル。2ゲーム目の開始は、想像以上に早そうだ。


Game 2


 先攻の田村はキープ。《鋭い突端》《大草原の川》と土地を伸ばしていく。

 対する高岡はマリガン。《模範的な造り手》《キランの真意号》と順調に動き出すが、「搭乗」する前に《ショック》《模範的な造り手》を除去されてしまう。

 高岡は2体目の《模範的な造り手》《経験豊富な操縦者》と続けて、《キランの真意号》で5点のダメージを与えるが、エンドフェイズに《コジレックの帰還》が盤面を一掃。再び《キランの真意号》のみが戦場に残った。新たな乗り手が必要な高岡は、《経験豊富な操縦者》を送り出す。


田村 千明


 エンドフェイズに《予期》を唱えた田村。相手の盤面をじっくりと見つめる。そして、手札から唱えられたのは、《氷の中の存在》


氷の中の存在


 高岡の手が、一瞬止まる。「マルドゥ機体」には、《無許可の分解》《致命的な一押し》といった除去はあるが、地上の戦力を完全に停止させるタフネス4。手を緩めて放っておけば、カウンターが減っていく。かといって攻めを急いで隙を見せれば、「サヒーリコンボ」の餌食となってしまうだろう。

 早速、《石の宣告》《経験豊富な操縦者》が追放され、《氷の中の存在》のカウンターが一つ減った。高岡は《領事の権限》《スレイベンの検査官》と動いてターンを終える。

 《キランの真意号》が飛び立てないことを確認した田村は、《鋭い突端》でアタック。ライフを動かしていく。

 追加の戦力を送り出せず《キランの真意号》を動かせない高岡に対し、田村はゲームを決めるべく大きく動き出した。まずは、《奔流の機械巨人》で、《予期》をフラッシュバック。そして、《保護者、リンヴァーラ》を唱えて、地上と空中を支配下に置く


奔流の機械巨人保護者、リンヴァーラ


 この状況を打破するために、高岡は《スレイベンの検査官》で「調査」。手がかりを即座に起動して、手札を増やしていくが、天使と機械巨人による攻撃を止めることは叶わない。


田村 1-1 高岡


 サイドボードに手を伸ばし、じっくりと75枚のカードを見つめながら、戦略を練り直す高岡。対する田村はサイドボードを一瞥し、すぐにデッキをシャッフルし始める。

 プロツアーまで、あと1ゲーム。20点のライフに狙いを定め、その先にあるプロツアーに向けて、両者が手を伸ばす。

 田村は、二度頬を叩き、天井を見つめる。深呼吸をして息を吐ききったと同時に、高岡がシャッフルを終えてデッキを差し出した。

 高岡は即座にキープ。田村は一度手札を伏せてからマリガンを選択。そして、引き直した6枚の手札もデッキに戻し、ダブルマリガン。サイドボード中の時間差を帳消しにするかのように、シャッフルが続けられる。占術をトップに据えて、3ゲーム目が開始。


Game 3


 《模範的な造り手》《キランの真意号》と高岡が動き、田村が《ショック》《模範的な造り手》を除去する、という2ゲーム目と同様の展開。唯一違うのは、先後が入れ替わっていることだ


キランの真意号屑鉄場のたかり屋


 その1手の差を痛感させるかのように、高岡が動く。《屑鉄場のたかり屋》《キランの真意号》に「搭乗」し、ライフを削り始める。

 序盤のライフロスを気にすることなく、田村は土地を伸ばしていく。

 対する高岡は《霊気拠点》と2枚の《産業の塔》を並べる。場には《キランの真意号》《スレイベンの検査官》の手がかりがあるため、ライフさえ支払えばマナは問題なく支払える。

 そして2点のライフを支払い、白赤。《模範操縦士、デパラ》を唱える。


模範操縦士、デパラ


 そのまま《キランの真意号》が稼働されるが、これには《稼働停止》。ひとまず地上の戦線を固めておきたい田村は、《氷の中の存在》を唱えるが、《致命的な一押し》が居座ることを許さない。

 「好機」《キランの真意号》こそ失ったものの、地上を阻むものは何もない。《経験豊富な操縦者》を唱えて、《スレイベンの検査官》《屑鉄場のたかり屋》《模範操縦士、デパラ》が並んだ盤石な状態。攻撃を仕掛け、《模範操縦士、デパラ》の能力をX=1で起動する。


キランの真意号


 公開されたのは、《キランの真意号》

 ここで、田村は投了する。


田村 1-2 高岡


 投了を告げた田村は、悔しそうにデッキを片付ける。プロツアーの権利を目前に捕らえながらの敗北は、悔しくないわけがない。その上、コントロールを使用しての長期戦。顔には疲労も見られる。

 それでも、彼が最初に発した言葉は、「悔しい」でも「疲れた」でもなかった。笑顔と共に手を差し出しながら告げたのは、共に戦った”新たなプロツアー挑戦者”を「祝福する言葉」であった。

田村「おめでとうございます!」

 少し恥ずかしそうに手を取り、「ありがとうございます」と答える高岡。そのやり取りをきっかけに、高岡の友人たちが声をかけ、そして、ギャラリーたちの拍手を生んだ。



 さて、この温かい空気を読者諸賢にお届けしたい気持ちは山々だ。この美しい光景について語りたいことも尽きぬほどある。しかし、読者諸賢には申し訳ないが、ここで筆者の記述は終わりにしたい。

 メモを取りながらでは、拍手ができない。それでは、この目の前で繰り広げられている祝福の輪に加わることができない、と気づいたからだ。

 今はこの両手を、高岡 祐介の勝利を祝福し、プロツアー『アモンケット』での健闘を祈る拍手に用いることにしたい。


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