モダン環境に放つ新たなデッキ ~サヒーリ・シスターズ~

Pierre Dagen

Translated by Atsushi Ito

先日の2つのモダンGP以降、《死の影》ジャンドがモダン環境で2位以下に大きく差を付けてベストデッキとなったことに異論を挟む者はいないだろう。猛烈なスピードと安定性に加えて粘り強さを併せ持っているので、このデッキを使えば対戦相手を圧倒することすら可能となる。そして実を言うと、俺も同じ考えだ。このデッキは良いデッキなので、これからも好成績を残し続けるだろうと思っている。

ところで、俺にはたまたま《死の影》を使った経験がたくさんあった……モダンの【プロツアー『ゲートウォッチの誓い』】でチーム・エウレカの一員として調整し、全員で同じ《死の影》 Zooデッキを使ったんだ。それは俺が知る限り、プロチームが《死の影》に乗っかった初めての例だったと思う。そのとき俺たちの成績は非常に良いものだったが、エルドラージデッキの活躍を前に霞むこととなってしまった。まあやつらがこのフォーマットにもたらしたこと (《ウギンの目》の禁止) を思えばそれも当然だ。要するに何が言いたいのかというと、俺には《死の影》 Zooをしばらく回した経験があって、禁止改定前のこのデッキについては知り尽くしてるってことだ。

死の影

だが、これは別に《死の影》についての記事ってわけじゃなくて、《死の影》をどうやって倒すのかっていう記事だ。

いいか、あるデッキがそんなに強いなら、1種類や2種類カードを入れ替えたところで相性は改善しない。相手も一切防御力のないガラスの大砲ってわけじゃないし、プレイしたらそのデッキが即機能不全になるような劇的なサイドカードも見つかりっこないからだ。

つまり相性を良くしたければ、デッキの戦略そのものが相性が良い必要があるのだ。それを踏まえて、先ほどの「《死の影》マニアたち」(【MOCS2014 (※リンク先は英語)】チャンプのマグナス・ラントの命名だ) についての一見余計な話に戻るのだが、俺はかつて《死の影》 Zooを使っていたときに経験した、悪夢のように相性が悪かったマッチアップを調べることにしたのだ。

魂の管理人

最悪中の最悪は、当時は満場一致で、ソウルシスターズだった。さて、ようやくこの記事のメインテーマにたどり着いたってわけだ。

ソウルシスターズが《死の影》に強い理由

ソウルシスターズというデッキに馴染みがない人もいるかもしれないが、大体こんな感じのデッキだ。


Pierre Dagen「ソウルシスターズ」

23《平地》
-土地 (23)-

4 《セラの高位僧》
4 《魂の従者》
3 《砂の殉教者》
3 《魂の管理人》
4 《アジャニの群れ仲間》
4 《戦隊の鷹》
1 《エイヴンの思考検閲者》
4 《イーオスのレインジャー》

-クリーチャー (27)-
2 《流刑への道》
1 《精霊への挑戦》
4 《幽体の行列》
3 《清浄の名誉》

-呪文 (10)-
3 《安らかなる眠り》
3 《石のような静寂》
2 《エーテル宣誓会の法学者》
2 《亡霊の牢獄》
2 《法の定め》
2 《抑制の場》
1 《エイヴンの思考検閲者》

-サイドボード (15)-
hareruya

このデッキのコンセプトは「弱めのシナジーを形成しながら殴る」というもので、というのもそのシナジーは「たくさんのライフを得る」という、通常ならば全然意味がないもの (これについては後述するが) なのだ。だが、他のアグロデッキに対してだけは、それらのデッキがダメージレースを行うことが非常に困難となるため、とてつもなく効果的となる。特に《死の影》に対しては、相手におよそ解決できないパズルを突きつけるのと同義だ。相手側はソウルシスターズの回復量を上回る有意なダメージを与えるためには自らのライフをかなり差し出す必要があるのに、ソウルシスターズ側に殴り切られるよりも早く、非常に多いライフ総量をすべて削り切らなければならないからだ。

セラの高位僧アジャニの群れ仲間幽体の行列

それは大抵ソウルシスターズ側がライフ30点、《死の影》側がライフ10点の状態で始まるダメージレースになるので、乗り越えるのは簡単なことではない。しかもこれはある特定のカードがあるからそうなのではなく、この2つのデッキの通常の展開としてそうなるという類のものなのだ。

このことからは次の2点が言える。1つ、ソウルシスターズ側はデッキの中の適切な部分だけを引きこむ必要なども特にないので、とても安定して勝つことができる。2つ、《死の影》側はこれを改善するためにサイドボードの枚数を割いたりゲームプランの変更などを行うことは事実上できない。なぜなら確かにソウルシスターズは《死の影》にとって勝てないマッチアップの一つではあるのだが、まともなプレイヤーならソウルシスターズなんていう弱いデッキを使おうとは思わないので、それでも何ら問題が生じないからだ。

だが待って欲しい。根本的に、どうしてこのデッキは弱いデッキなんだろうか?もちろん、その理由はあまりにも簡単だ。誰もがダメージレースを挑んでくるとは限らないからだ。

ぶどう弾解放された者、カーン瞬唱の魔道士

ジャンドやアブザンはソウルシスターズのリソースを枯らしつくした上で、ひとたびそれが完了したなら、ソウルシスターズ側が何点のライフがあろうが削りきってくる。相手がコンボデッキなら、貧相なビートダウンとなんてことないシナジーでプレッシャーをかけようとする間に、さらっとコンボを決めてくるだろう。トロンはそれはもうめちゃくちゃなことをしてくるだろうし、コントロールデッキならこのデッキをコントロールするのなんて朝飯前だ。いくらライフを得ようがゲームに影響はなく、ソウルシスターズはただの貧弱なビートダウンに成り下がってしまう。

ソウルシスターズは昔からモダン環境に存在し、今もプレイされ続けているデッキだが、これまで良い成績を残したことはないし、それには十分な理由があるってわけだ。

ソウルシスターズを実戦級レベルにまで押し上げる

だが事情は変わった。仮に、ライフゲインアグロなんてデッキをプレイする代わりに、3ターン目にコンボで勝てたり、膨大な量のライフを得たり、3/3ゴーレムの群れを作って対戦相手にリソース勝ちすることもできるミッドレンジをプレイできるとしたらどうだろう?これなら、前よりも倒しづらいだろうな。


Pierre Dagen「サヒーリ・シスターズ」

1 《平地》
1 《森》
2 《寺院の庭》
1 《神聖なる泉》
1 《繁殖池》
1 《踏み鳴らされる地》
1 《聖なる鋳造所》
4 《吹きさらしの荒野》
2 《樹木茂る山麓》
2 《燃え柳の木立ち》
2 《剃刀境の茂み》
1 《ガヴォニーの居住区》

-土地 (19)-

4 《魂の管理人》
4 《貴族の教主》
2 《極楽鳥》
1 《魂の従者》
2 《族樹の精霊、アナフェンザ》
4 《刃の接合者》
1 《ヴィリジアンのシャーマン》
1 《永遠の証人》
1 《悪鬼の狩人》
4 《守護フェリダー》
1 《鏡割りのキキジキ》
1 《目覚ましヒバリ》
1 《太陽のタイタン》

-クリーチャー (27)-
4 《流刑への道》
2 《召喚の調べ》
4 《ニッサの誓い》
4 《サヒーリ・ライ》

-呪文 (14)-
hareruya

順番に、このデッキがどんな風にしてできたのかという経緯を追っていこう。もともとは、《サヒーリ・ライ》はスタンダードよりもモダンの方が有効に使えるんじゃないか、という推論から始まった。コンボ以外で「-2」能力の良い対象になりそうなクリーチャーも多いし、何よりモダンなら《サヒーリ・ライ》を2ターン目にプレイするのも非常に容易で、しかもその動きはあらゆるデッキにとって脅威となる。どういうことかというと、単純に1ターン目に《貴族の教主》、2ターン目に《サヒーリ・ライ》と動くだけで、対戦相手は頭を痛めることとなるのだ。タップアウトすれば3ターン目に《守護フェリダー》を出されて即死してしまうかもしれないのに、そんな早いターンにはおそらく十分なアクションがとれていないだろうと思われるので (《野生のナカティル》が最高だろうか?だとしても、そこまで大したことはないね) 、《サヒーリ・ライ》にプレッシャーをかけるためには何かを展開する必要が出てくるからだ。

《サヒーリ・ライ》《守護フェリダー》を使うとなれば、それら両方とシナジーを形成するカード、たとえばETB (enter the battlefield) 能力持ちと組み合わせるべきに決まっている。デッキはいよいよコンボという勝ち手段があるだけでなく、より重要なことに、ありとあらゆるデッキ相手に消耗戦で勝ちきれるような、往時の「《鏡割りのキキジキ》《出産の殻》デッキ」をアップデートしたもののようであるように思えてきた。ということは、コンボ同型戦では当たり前に3ターン目にコンボを決めつつも (思うに、コンボ同型戦はそれだけで有利だ)、ゲームが長引いても簡単にはゲームの天秤を傾けさせないだけの粘り強さが必要になるだろうと察せられた。

守護フェリダー魂の管理人サヒーリ・ライ

かくして、《魂の管理人》に白羽の矢が立ったというわけだ。このデッキにおける《魂の管理人》は美しいことに、まずアグロやミッドレンジ相手には、幾許かのライフを得ることで (といっても、1ターンに2点ずつライフを得るくらいは朝飯前だ) 、それがなかったら倒すのが難しいような他のミッドレンジ相手にすら、消耗戦を始めるための時間や、消耗させるに足るシナジーを組み立てるだけの時間を稼ぎ出すことができる。

しかも《魂の管理人》はそれだけでなく、2つ目のコンボをも可能にする。《魂の管理人》と2体の《守護フェリダー》を引いていれば無限ライフになるのだ。いささかハードルが高いように思うかもしれないが、対戦相手は《魂の管理人》にも《守護フェリダー》にも除去を使いたがらないだろうから、結果として驚くほど簡単にコンボを決めることが可能なのだ。

残りのカードは、こうした中心となるコンセプトとシナジーを形成するカードで固められている。また一方では、全然別のコンセプトを担うカードも存在する。《刃の接合者》は他と違って攻撃的な部分を担っているカードで、これだけでは到底攻撃を開始できないように見えて、1枚引きこむだけで容易にゴーレムの軍団を量産することが可能となる。《魂の管理人》がいれば2点のライフを確保できるし、《召喚の調べ》の「召集」でXの値を高めるのにも寄与してくれる。

こうしたアグロなプランは、このデッキが欲張りにも《ガヴォニーの居住区》を採用していることでかなり完遂しやすくなっている。《魂の管理人》が数ターンを稼いでくれるおかげで、どんなに大したことないクリーチャーでもより大きなサイズへと少しずつ成長していく。また、このオプションは特に対アブザンのような、たとえ無限ライフを得てもこちらのクリーチャーを除去し続けてライブラリーアウトまで持ち込むことで理論上こちらを倒せてしまうマッチアップで重要となる。《ガヴォニーの居住区》さえあればそんなことは決して起こらないからだ。


刃の接合者召喚の調べガヴォニーの居住区

さらに、このデッキにはいくつか他のコンボのルートもある。《鏡割りのキキジキ》は単純に《召喚の調べ》で探してこれる《サヒーリ・ライ》なので説明は不要だろう。《太陽のタイタン》についてはもうちょっと複雑なので、(もちろん普通にプレイしてとても強力だから、という以外で) 投入されている理由を説明しよう。

2枚の《サヒーリ・ライ》が墓地に落ちているか、1枚が墓地で1枚が戦場にある場合、《太陽のタイタン》を出すとどこからともなくコンボが決まる《サヒーリ・ライ》を戦場に戻して「-2」で《太陽のタイタン》をコピーすると、そのコピーがもう1枚の《サヒーリ・ライ》を戦場に戻し、最初の《サヒーリ・ライ》はレジェンド・ルールで墓地に落ちる。そうすると、レッドゾーンに乗り込む準備が整った《太陽のタイタン》が増えている以外は手順の始めに戻っているので、あとは好きな数の《太陽のタイタン》を生み出し、全員で殴りかかることで、何もない盤面からでも華々しく勝つことができる、というわけだ。しかも、これは俺がここ最近やった中で間違いなく一番カッコいい勝ち方だが、遅めのデッキとの対戦ではかなり頻繁に発生するのだ。


サヒーリ・ライサヒーリ・ライ太陽のタイタン

最後に2枚の《族樹の精霊、アナフェンザ》についてだ。このカードはもちろんビートダウンプランに非常に良く貢献してくれることは確かなのだが、スタックの積み方を知っていれば、もう一つさらなるコンボを生み出すことができるのだ。《族樹の精霊、アナフェンザ》《守護フェリダー》が戦場にいるときに2枚目の《守護フェリダー》を出し、1枚目の《守護フェリダー》を対象にとると、まず「鼓舞」が誘発するよな。


族樹の精霊、アナフェンザ守護フェリダー守護フェリダー

ここで肝心なのは、「鼓舞」の前に「明滅」効果を解決するよう選べるってことだ。そうすると「明滅」で1体目の《守護フェリダー》が戦場に出直し、また新たな「鼓舞」が誘発する (最初の「鼓舞」はもちろんスタックに乗ったままだ) とともに、《守護フェリダー》の「明滅」能力もさらに誘発する。それを再び最初に解決し、その後も同様に「鼓舞」を解決しないで《守護フェリダー》を「明滅」させまくることで、最終的には自分のクリーチャーすべてを好きなだけデカいサイズに育て上げることができる。対戦相手に説明するのにちょっと時間がかかるかもしれないが、ちゃんと機能するコンボだし、勝ち方として非常にエレガントだろう。

マナ加速の部分については自明だろう。似たようなコンボのミラーマッチにおいて速度で差をつけることができるし、《召喚の調べ》を「X=4」以上でプレイできるようにもなる。それに加えて特に、先ほど述べたように2ターン目の《サヒーリ・ライ》のオプションがとれるのは相手にとってこの上ない脅威だ。

ニッサの誓い召喚の調べ

最後に、ドローをスムーズにしたり状況に応じたシナジーを作らせてくれる便利なカードたちについて言及しておこう。まず1枚目は《ニッサの誓い》で、俺がこのデッキのベストカードを挙げるとしたらこれだ。「ちょっと強い《思案》」とも言うべき使用感なんだが、「禁止カードより強い」なんてどんだけ強いんだよって話だ。

もう1枚は古き良き《召喚の調べ》で、クリーチャーを探すカードとして強力なことはもちろん、貴重なインスタントスピードのカードであることによっても助けになってくれる。それだけでなく、数ターンはかかるものの、1枚でコンボまでたどり着けるやり手のカードでもあるのだ。具体的には、まず《永遠の証人》をサーチして《召喚の調べ》を回収し、次に《守護フェリダー》を持ってきて《永遠の証人》を「明滅」させて再び《召喚の調べ》を回収、最後に《鏡割りのキキジキ》をサーチすればコンボ達成となる。しかもこの手順は美しいことに、クリーチャーをサーチするたびに「召集」の材料が増えていくので、「X=5」の《召喚の調べ》を打つまでに追加の土地を引き込んだりする必要が一切ないのだ。

このデッキを今すぐ使うべきか?

上で挙げた形そのままではもちろんダメだ。ほら、俺の記事は「俺がどこまでテストしたのか」を紹介するものでしかないからな。現時点では、試し切れていない選択肢が山ほどある。特にサイドボードについてはいくらでも可能性があり、《出産の殻》デッキで使われていたような1枚差しカードたち (《ヴィリジアンのシャーマン》《放逐する僧侶》《台所の嫌がらせ屋》とか) については、ひととおり試してみた方が良いだろう。


ヴィリジアンのシャーマン放逐する僧侶台所の嫌がらせ屋

だがサイドボードについて何より難しいのは、どんなマッチではサイド後にコンボを諦めて抜き去って、どんなマッチではコンボを守るために《呪文滑り》のようなカードを入れるのかを見定めることだ。そうそう《呪文滑り》といえば、《呪文滑り》はこのデッキに対してマジで何もしないってのは覚えておいた方がいいだろうな。このカードのモダンでの人気度合いを考えれば、このデッキの強みだと間違いなく言えるだろう。

あとは、このデッキで墓地を気にする必要があるのは《永遠の証人》くらいだっていうのも押さえておきたい。《安らかなる眠り》みたいなカードを自分が致命的なダメージを受けることなく運用できるというのは、サイドボードを作るのが大幅に楽になるという意味で、今のモダンでは重要なポイントだ。

そんなわけで、来るグランプリ・コペンハーゲンとグランプリ・ラスベガスに向けてはこのデッキを調整しようと思っている。クリーチャー主体のコンボデッキが好みなら、ぜひともおすすめのデッキだ。というのも、このデッキは基本的に《出産の殻》デッキと《欠片の双子》デッキを合体させたようなものだからな。はたして、どれだけ素敵なデッキに仕上がるかな?

それでは、また次回会おう!

Pierre Dagen

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