決勝:奥平 孟夏(ウルザソプター) vs. 下河部 耀成(緑トロン)
晴れる屋メディアチーム
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By Tsutomu Date
(編注:この大会は2019年8月26日の禁止制限告知の前に開催されたものです。)
「ホガークの夏」という言葉がある。
今夏のモダン環境は、かの「ネクロの夏」・「エルドラージの冬」のように、トーナメント上位を「ホガーク」デッキが支配していることから、そう呼ばれている。直近のグランプリであるグランプリ バルセロナ・グランプリ ミネアポリスでもホガークデッキの隆盛は顕著で、その勝率は全てのデッキに対して約6割以上という統計があるほどだ。
「勝ちに行くならホガーク一択」は決して過言ではなく、本大会も上位をホガークデッキが占めると予想した者は多いのではないだろうか。
しかし決勝まで勝ち上がった2人は、ホガークを頼りとはしなかった。
スイスラウンドを3位で通過した奥平 孟夏。その名前に聞き覚えのあるプレイヤーも多いはずだ。
前期である「第6期モダン東海王決定戦」。その決勝戦で緑トロンを駆る末松 涼との激戦の末に惜しくも敗れ準優勝となったプレイヤー、それが奥平だ。
本大会に向けては、前期と同じオリジナル構築の黒緑コントロールでの参戦も検討していたが、デッキパワーの高さからウルザソプターを選択した。
「(このデッキなら)TOP8に入ることは分かっていましたから」と自信を見せる奥平。
それもそのはず、本大会も含めてなんと直近の23戦で無敗と、ただならぬ勝率を叩き出しているのだ。
「デッキが強力なことに加え、コンボでありながらコントロールらしい振る舞いもできるために正しい捌き方ができる相手は多くなかったですね。その点もアドバンテージだったと思います」と、自身の勝率の高さを分析する奥平。
一方、下河部 耀成はスイスラウンドを5位で通過。下河部も「第6期モダン東海王決定戦」で緑トロンを使いTOP8に入賞しており、他にも晴れる屋名古屋店の大会で幾度となくTOP8入りを果たしている強豪だ。
「ここ最近の大会では、6回中4回TOP8に入ってますね」と語るように、下河部も驚異的な勝率を誇る。
本大会でも前期と同じく、愛用の緑トロンで決勝戦に挑む。
「このデッキが強いのはわかっていたのですが、《古きものの活性》が禁止されることを懸念して乗り換えるべきかどうか迷っていました。でも今年初め(《クラーク族の鉄工所》禁止の時)に禁止を免れてからは、『トロン』のパーツを全部一気に集めて、それからはずっと愛用しています」。
以前は青赤ストームを使用していたが、今年の2月からは一貫して緑トロンを使い込んでいるとのこと。
両デッキの相性はどうだろうか。
奥平――「フェアデッキ全般には有利が取れるのですがトロンはとても不利ですね。一番苦手な相手と言っていいです」
下河部――「あまりやりたくないマッチです。一般的にトロンはコンボデッキを苦手としていて、ウルザソプターのギミックに干渉することが難しいですから」
互いのデッキに大きな警戒を抱きつつ始まる決勝戦。ウルザソプターがコンボを決めるのが先か、はたまた緑トロンが脅威を叩きつけるのが先か。勝敗はいかに。
両者ともに好ハンドをキープ。
《沸騰する小湖》をプレイしてターンを返す先手の奥平に対し、下河部は《ウルザの魔力炉》から《彩色の星》でスタートする。
奥平は《飛行機械の鋳造所》の設置がファーストアクション。
対する下河部は《彩色の星》の効果を使って、ドローとともに緑マナを供給しつつ、《古きものの活性》で《ウルザの塔》を探しに行くが、見つかったのは2枚目となる《彩色の星》。《ウルザの鉱山》からこれをプレイしてターンを返す。
ここまでは双方手慣れた動きで進めていくが、最初の分岐点は奥平の3ターン目に訪れた。
奥平は小考の後に、《ゴブリンの技師》を呼び出す。その能力でライブラリーから《弱者の剣》を墓地に落とすと、《オパールのモックス》を《飛行機械の鋳造所》のコストに充て、3ターン目にしてソプターコンボを完成させる。相手のデッキによっては、この時点でゲームセットを迎えてもおかしくない強力なコンボだが、果たしてトロン相手にこのまま押し切ることができるのか。
一連の動きに対し、慎重にコンボパーツのテキストを確認する下河部。
自ターンを迎えると《彩色の星》からまたも緑マナを出しつつドローを進める。最後のピースである《ウルザの塔》こそ引き込むことができなかったものの、《探検の地図》をプレイして次ターンにはトロンが揃うことを確定させる。
ほぼ確実に訪れるであろう下河部のビッグイニングを前に、思考を巡らせる奥平。
上記4枚の手札から、まずは《ミシュラのガラクタ》を設置し、自分のライブラリーのトップを確認したのちに攻撃。初となる3点のダメージを通し、第2メインフェイズで《ゴブリンの技師》を召喚して今度は《胆液の水源》を墓地に落とす。
愚直な攻撃で勝利するには時間がかかり過ぎてしまう奥平。ソプターコンボと組み合わせることで「無限マナ」・「無限ライフ」・「無限トークン」・「無限《束の間の開口》」の成立となる《最高工匠卿、ウルザ》を引き込み勝利を確定させたいところだが、これは叶わず。
奥平のターン終了時に、下河部は《探検の地図》を生け贄に捧げて《ウルザの塔》をサーチしついにトロンランドを揃える。
そこから叩きつける脅威は……《精霊龍、ウギン》!
そのまま[-X]能力をX=2で起動し、《ゴブリンの技師》2体と《飛行機械の鋳造所》を追放。これぞトロンと言わんばかりの豪快な一手で形勢を逆転させた。
奥平は《時を解す者、テフェリー》を展開し、バウンス先はないものの[-3]能力でとりあえずはとドローを進める。下河部は次なる脅威として《大いなる創造者、カーン》を呼び出し、[-2]能力で《三なる宝球》を導きそのままプレイ。
脅威を連打され苦しい奥平。まずはと《発明品の唸り》から《真髄の針》で《大いなる創造者、カーン》に対抗するが、下河部は無慈悲にも更なる援軍としてもう一人のカーン、《解放された者、カーン》を追加。
奥平の僅かな希望である《弱者の剣》を潰すと、《精霊龍、ウギン》はとうとう奥平本体に3点を飛ばし始める。
ここから逆転の目がないことを悟った奥平は投了した。
奥平 0-1 下河部
ここまで破竹の勢いで勝ち上がってきた奥平の表情に緊張が含まれるのに対し、まずは1本を取った下河部には余裕の表情が見える。
下河部は置物と墓地対策で、ソプターコンボを阻害するサイドボーディング。
対する奥平は、《発明品の唸り》でサーチするシルバーバレットからトロンに不要な弾丸をアウトし、対コンボデッキへとシフトする。
注目すべきは、奥平がこのマッチでは本体火力に過ぎない《感電破》を4枚に増量したことだ。マジックはどんなマッチアップにもオフェンス側とディフェンス側が存在するが、奥平は自身が前者であると判断したのだろう。下河部、そしてトロンが真価を発揮するゲーム展開になる前に、なんとかゲームに決着を付けようという意図が垣間見えるサイドボーディングとなった。
しかし、ただでさえ相性が悪いとされるこのマッチアップにおいて、奥平にさらなる試練が待ち受ける。ここにきて痛恨のトリプルマリガンに見舞われてしまったのだ。
トリプルマリガン後に上記内容をキープし、そこから3枚をボトムに送って下記4枚を初手とした。
一方の下河部はというと、土地が《ウギンの聖域》のみの初手をマリガン。
1マリガン後の手札には満足したようで、この6枚でキープを宣言。妨害がなければ3ターン目のトロン完成と、4ターン目の《精霊龍、ウギン》が約束された、これぞトロンの真骨頂といった絶好の初手だ。
《冠雪の島》から《アーカムの天測儀》でドローを進める奥平に対し、下河部は《ウルザの魔力炉》から《彩色の宝球》。
更に2枚目の《アーカムの天測儀》でドローを進める奥平。一方の下河部は《彩色の宝球》から緑マナを出しつつ《ウルザの塔》をセット、《森の占術》で《ウルザの鉱山》を手に入れ次ターンのトロンランド完成を約束させる。奥平は下河部のビッグアクションへの構えを見せ、3マナを立てたままターンエンド。
初手にはこのターンのアクションを持ちあわせていなかった下河部だが、《解放された者、カーン》という最高の脅威を引き込んでいた。これを奥平は通すほかなく、下河部は即座に[+4]能力を用いて、トリプルマリガンで乏しい奥平の手札を攻めていく(追放したのは《感電破》)。
奥平の4ターン目に《最高工匠卿、ウルザ》が戦場に送り込まれ、3/3の構築物が生成されるが盤面への対抗としては心もとない。
ターンが返ってきた下河部は、圧倒する盤面から油断を見せずに自身のサイドボードを確認し、また《最高工匠卿、ウルザ》のテキストも確認すると「3/3だもんな……」と口に出しつつ長考に入る。
そこからの決断は《解放された者、カーン》で更に奥平の手札を攻めつつ(追放したのは《ギラプールの霊気格子》)忠誠度を14まで上げ、《精霊龍、ウギン》の[-X]=4能力で《最高工匠卿、ウルザ》を追放、というプランだった。
そして《ウルザの塔》の2枚目をプレイし、《探検の地図》を唱えてターンを終える。
万事休す、と言っていい状況ながらも奥平はまだ諦めていない。
《ボーラスの工作員、テゼレット》を呼び出し[-1]能力で《アーカムの天測儀》を5/5クリーチャーにすると、3/3の構築物を《精霊龍、ウギン》に差し向けこれを討ち取り、5/5を《解放された者、カーン》に向けて忠誠度を9まで落とすことに成功する。
凶悪なプレインズ・ウォーカーの連打に手札、盤面ともにズタズタにされた奥平だが、下河部の盤面に残るのは《解放された者、カーン》のみ。こちらも次のターンの攻撃で落とす算段がつき、トリプルマリガンからの大逆転が見えてきた。
しかし、それはこれ以上の増援がなければの話であり、下河部の手札には奥平にとって最強最悪の後続が控えていた。
伝説のエルドラージ三柱の一柱が、5/5となった《アーカムの天測儀》と《ボーラスの工作員、テゼレット》を無慈悲にも刈り取る。さらには反撃の目をも残さぬよう、《解放された者、カーン》で《蒸気孔》を追放。
下河部は圧倒的なパワーの《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を従え、そのまま東海王の座へと駆け上がっていった。
奥平 0-2 下河部
『第7期モダン東海王』の称号を手に入れたのは、下河部 耀成!おめでとう!