決勝:川村 直輝 (4色ケシス) vs. 笹山 慎 (青単)
晴れる屋メディアチーム
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By Tsutomu Date
『基本セット2020』の発売から一か月以上が経過し、もはや新たなデッキタイプの登場は望めないと思われた8月の中旬。第7期スタンダード東海王決定戦を前に、彗星の如く現れたデッキがある。
“4色ケシス”。
《隠された手、ケシス》・《精励する発掘者》・《モックス・アンバー》などのキーカードを用いた、スタンダード環境では稀なコンボデッキだ。
スイスラウンドを4位で通過した川村 直輝が操るは、その4色ケシス。
「今週の水曜からMTGアリーナで使い始めました」という言葉通り、わずか4日の練習期間で難解とされるこのデッキを仕上げ、本大会のスイスラウンドすらも習熟の糧とし、その複雑な動きを完全に自分のものとした。
普段はコントロールデッキを使うことを得意とし、その中でも最も使い慣れたエスパーコントロールを巧みに操る。だが「今週のメタゲームならいける」と判断し、急遽4色ケシスへの乗り換えを決めたという。
その判断は正しく、スイスラウンドは1敗のみで通過した。まさにメタゲームの理解とプレイスキルの賜物と言えよう。
しかし、最後にマッチアップされたのは笹山の青単アグロ。「(スイスラウンドは)青単にだけ負けたんですよね」と一抹の不安が頭をよぎる。
青単アグロを駆るのは、スイスラウンドを6位通過した笹山 慎。
青単アグロは『ドミナリア』発売直後に登場し、プロツアーを制するなどTier1デッキとして活躍していたものの、最近ではメタゲームの変遷から一線を退いていたデッキである。
しかし雌伏の時は終わり、昨今のスタンダード環境に見事に返り咲いたのだ。笹山のデッキ選択は川村のそれとは対照的に、『ドミナリア』で青単アグロが誕生してからというもの、常にこのデッキと共に歩んできた。
「ほとんどこれしか使ってませんね」と言う通り、青単アグロのスペシャリストと言っていいだろう。
スイスラウンドでは赤単アグロに敗北したが、中速以上のデッキに対しては概ね有利がつくのが青単アグロの強みだ。
「(途中で対戦した)青赤のウィザードは無理かと思っていたのですが、相手の事故に助けられまして」と謙虚な姿勢を見せるが、落ち着いた佇まいからは自身のデッキへの自信と信頼が感じられる。
マッチアップとしては、4色ケシスは速度と妨害手段の双方を持ち合わせているデッキを苦手とし、青単アグロは中速以上の除去が少ないデッキを得意とする。つまり、青単アグロに大きく有利が付くマッチアップだ。
川村は「(シングル・エリミネーションの)あっちのブロックに青単が固まってくれたからここまで来れたけど、そうじゃなかったら無理だったかな」と心情を吐露する。
しかしどんなマッチアップでも何が起きるかわからないのがマジック。第7期スタンダード東海王決定戦、最期の戦いを見届けよう。
互いに7枚の手札をキープ。
川村のデッキは4色デッキなだけあり、ときには初手で色マナが揃わないこともあるが、ここで与えられた初手は序盤から安定して動ける好ハンド。
一方の笹山は、土地が1枚ながらも軽めの構成で、なおかつ2枚の《フェアリーの悪党》によって展開とドローが両立できる、川村に負けず劣らずの好ハンドだ。
先手の川村は、2ターン目に《湿った墓》ショックインから《万面相、ラザーヴ》を展開。「諜報」で《静寂の神殿》を墓地に落としていく。
対する笹山は、《島》から《フェアリーの悪党》という滑り出し。続くターンには《島》から2体目の《フェアリーの悪党》を唱えながらドローを進め、《呪文貫き》を構える。後手ながらもクロックパーミッションのお手本と言えるような良展開だ。
川村は《万面相、ラザーヴ》で攻撃をしつつ、戦闘後に《隠された手、ケシス》を唱える。コンボパーツでありながらも3/4というサイズで盤面に睨みを利かせる。
がら空きの空中を《フェアリーの悪党》2体でアタックする笹山は、更に3体目の《フェアリーの悪党》でドローを重ねていく。ここからはダメージレースを制するべく更なるクロックを用意したいところだが、土地が2枚で止まってしまう笹山。
対照的に川村は着実に土地を伸ばし続け、《万面相、ラザーヴ》と《隠された手、ケシス》でアタックし、後続として《祖神の使徒、テシャール》を戦線に送り込む。その能力も実に優秀なカードだが、《フェアリーの悪党》を受け止められる航空戦力という意味でも非常に頼りになる1枚だ。
ターンが返った笹山の入魂のドローでも、まだ土地を引くことができない。せめて《選択》や《翼ある言葉》のようなドロー強化を引きたいところだが、それすらも叶わない。《セイレーンの嵐鎮め》を追加し、3体の《フェアリーの悪党》を立たせたままターンを返す。
《万面相、ラザーヴ》、《隠された手、ケシス》、《祖神の使徒、テシャール》と伝説のクリーチャーが並ぶ川村の盤面。ここで川村は相手のクリーチャーのみを殲滅する《ウルザの殲滅破》を唱える。
これは笹山が初手から温存していた《呪文貫き》で打ち消されるが、川村は構わず《隠された手、ケシス》と《万面相、ラザーヴ》で攻撃。《万面相、ラザーヴ》には《フェアリーの悪党》3体が差し向けられ、結果として1:1交換に終わる。
笹山にとっての5ターン目、なおも《島》を引けない。そのままターンを返す。
川村は手札から《迷い子、フブルスプ》をキャストし、これにより誘発した《祖神の使徒、テシャール》の能力で先ほど戦闘で死亡した《万面相、ラザーヴ》を盤面に戻す。貴重な《万面相、ラザーヴ》と《フェアリーの悪党》の交換を受け入れたのは、この目論見があったためだ。
続けて《復讐に燃えた血王、ソリン》を唱える。これは《魔術師の反駁》でカウンターされるが、この間に《隠された手、ケシス》のアタックを通す。笹山のライフはこれまでのダメージの蓄積から9にまで落ち込む。
なんとか巻き返したい笹山の6ターン目、いまだ3枚目の《島》は引けず。ターンを返した川村のアップキープに、《マーフォークのペテン師》を呼び出し《祖神の使徒、テシャール》を無効化するが、本質的な回答にはならない。
川村は潤沢なマナと手札から、ついに《伝承の収集者、タミヨウ》をキャストしその[+1]能力で墓地を肥やしていく。宣言した《モックス・アンバー》こそ手に入れることはできなかったが、《隠された手、ケシス》がいるため墓地にカードを落としていくだけでも十分すぎるほどの効果だ。
7ターン目にして、笹山は待望の《島》を引き当てる。「遅いな……」とぼやくも、必死に逆転への道を模索する笹山。
まずは《フェアリーの悪党》に《執着的探訪》を付けて2/2にしてアタック。川村のライフを13にしつつ1ドロー。ようやく青単アグロの「型」が出来上がりつつあるが、川村のコンボの完成までに間に合うか。
再びとなる《伝承の収集者、タミヨウ》の[+1]能力で《モックス・アンバー》を探しに行く川村。ここでも宣言は外れるが、手札からとうとうコンボエンジンの《精励する発掘者》が呼び出される。
《島》をプレイする笹山、前のターンにプレイしていた《マーフォークのペテン師》と合わせて2体で攻撃しライフを削りにかかるが、これは《迷い子、フブルスプ》と《万面相、ラザーヴ》、《精励する発掘者》に阻まれる。
3度目の起動となる《伝承の収集者、タミヨウ》の[+1]能力でも《モックス・アンバー》を手に入れることはできなかった川村だが、「相当溜まったな」との言葉通り、墓地のカードは並び替えなければ把握できないほどに膨れ上がっていた。
更なる燃料を加えるべく、2体目の《精励する発掘者》を戦場に加えると、ついに《隠された手、ケシス》の能力が起動される。
墓地の2枚を追放すると、《ケイヤの誓い》を唱えることで2体の《精励する発掘者》の能力が誘発し、自身のライブラリートップから4枚のカードを墓地に。《ケイヤの誓い》は打ち消されるが、墓地から《迷い子、フブルスプ》をキャストし、更に4枚を削りつつドロー。このターンのコンボ完成こそ叶わなかったものの、墓地に落ちたカードも含めて大量のリソースを確保することに成功した。
ターンが返ってきた笹山は《執着的探訪》が付いた《フェアリーの悪党》でアタックし、《大嵐のジン》を戦線に加えるも、再び自分のターンを迎えることはできなかった。
川村は自ターンで墓地から《時を解す者、テフェリー》を唱えて笹山のカウンターを炙り出すと、《ウルザの殲滅破》で笹山が頼りとするクリーチャー群を一掃する。これには自軍の《精励する発掘者》も巻き込まれるが、既に十分過ぎるほどについている彼我のリソース差を確認した笹山がここで投了となった。
川村 1-0 笹山
満遍なくコンボパーツをアウトし、飛行クリーチャーと除去をサイドインして対抗する川村に対し、先手の利を生かすことを狙ってか、カウンターを大量に投入する笹山。
先手を取った笹山は土地こそ多めだが、2ターン目に《セイレーンの嵐鎮め》へ《執着的探訪》をエンチャントできる以下の7枚をキープ。
対する川村は、序盤を凌いで《ウルザの殲滅破》を通すことができれば勝負になりそうな手札だ。こちらも同じく7枚でキープ。
笹山は初手から約束された通り、2ターン目に《セイレーンの嵐鎮め》へ《執着的探訪》をエンチャントし、青マナを立てたまま攻撃を仕掛ける。
これには川村も「(それは青単アグロの)勝ちパターンなんだよ!勘弁してー!」と頭を抱える。川村のファーストアクションは《迷い子、フブルスプ》で、笹山の航空戦力をただ眺めることしかできない。
先ほどのゲームとはうって変わってスムーズに3枚目の《島》を置く笹山。強化された《セイレーンの嵐鎮め》でダメージを与えながらドローを進めていく。
現時点でのクロックは2点のみとは言え、ショックランドにライフを支払ったこともあり川村のライフは14まで落ち込んでいる。
まずは攻勢を捌かなければならない川村は《紺碧のドレイク》を呼び出すが、これには笹山の《魔術師の反駁》が当てられチャンプブロッカーの設置すらも許されない。
なおもカウンターを手札に残しているのか、もしくは川村に回答がないことを確信したのか、笹山は更に2枚目の《執着的探訪》をエンチャントし攻撃。天秤を大きく傾ける。
川村にとっては、強化された《セイレーンの嵐鎮め》への対処ができなければダメージレースでもカードアドバンテージでも差が開いていくばかりだ。せめて《ウルザの殲滅破》さえ通すことができれば……。
しかし5ターン目の《ウルザの殲滅破》は《呪文貫き》、6ターン目の《ウルザの殲滅破》も《否認》と終始マウントを崩さない笹山が星を取り返し、勝負の行方は3本目へと持ち越された。
川村 1-1 笹山
サイド後の先手となる川村は効果が薄いと判断したか、2本目でサイドインした《紺碧のドレイク》をサイドボードに戻し、重要度の高いコンボパーツを再びメインに。
笹山は後手となってもプランはそのままに、サイドボーディングはなし。
勝っても負けてもこれが最後と、シャッフルに気合が入る両者。
川村は以下の7枚の手札をキープ。前のゲームで引きたかった軽量除去である《軍団の最期》と《ケイヤの誓い》が初手に含まれており、序盤を凌ぐのに十分な手札だ。
対して笹山は《島》4枚とカウンター3枚の手札をマリガン、次の手札も同様でマリガン、更にクリーチャー不在の手札をマリガン……とトリプルマリガンを選択する。最終的に手札に残したのが以下の4枚。
《疾病の神殿》のタップインを処理する先手の川村に対し、Game 2と同じく《セイレーンの嵐鎮め》で返す笹山。
しかし今度は川村の《軍団の最期》が突き刺さり、笹山の手札の《島》2枚と《霊気の疾風》が明かされる。川村としては後続が控えていないことを確認し、ロングゲームが見えて一安心といったところか。
《島》を出してターンを返す笹山に対し、川村は《迷い子、フブルスプ》を呼び出してドローを進め、ペースを掴んでいく。川村の後続である《時を解す者、テフェリー》は《魔術師の反駁》で、《祖神の使徒、テシャール》は《本質の把捉》で捌かれるが、2体目の《祖神の使徒、テシャール》は通り、続く《精励する発掘者》も着地に成功する。
笹山は《フェアリーの悪党》を召喚するものの、《ケイヤの誓い》でこれも除去されてしまう。本来は青単アグロ側がオフェンシブに動かなければならないマッチアップだが、トリプルマリガンも響いてか、笹山はクリーチャーを定着・攻撃させることができない。川村の攻撃をひたすらに耐え忍ぶ。
その忍耐が実ったか、待望の《大嵐のジン》を引き当てると、次ターンには《執着的探訪》をエンチャントすることに成功する。川村のライフを14にまで落とし込み、《セイレーンの嵐鎮め》を追加しターンを終える。
川村は《隠された手、ケシス》をキャスト。これは《霊気の疾風》でライブラリートップへと送り返されるものの、解決を待っていた《精励する発掘者》の能力で即座に墓地に送り込む。
そして《ケイヤの誓い》を唱えて《祖神の使徒、テシャール》の能力を誘発させると、ついに《隠された手、ケシス》が戦場に現れる。
そのまま《隠された手、ケシス》の能力で墓地から《時を解す者、テフェリー》を唱えると、笹山の勝ち筋である《大嵐のジン》をバウンス。
笹山は《大嵐のジン》を出し直してターンを返すが、すでに川村の場と墓地はコンボを成立させるための準備が整っていた。《隠された手、ケシス》の能力で墓地と戦場の《モックス・アンバー》を循環させると、《精励する発掘者》の能力を駆使して更に墓地を肥やしていく。歴史的な呪文を唱える度にリソースは増え続け、ついには《精励する発掘者》の能力を笹山に向け始めると、そのまま川村は東海王の座をつかみ取った。
川村 2-1 笹山
『第7期スタンダード東海王』の称号を手に入れたのは、川村 直輝!おめでとう!