By Hiroshi Okubo
2014年7月5日、この世界に初めてレガシー神が生まれた。言わずと知れた存在。唯一の不敗神。その神の名は川北 史朗。彼が神としてレガシー界に君臨したその日から今日まで約3年。前述したとおり、この3年の間に8度挑戦者を退け、そのタイトルを守り続けてきた。
圧倒的な冴え。圧倒的な強さ。圧倒的なパフィーマンス。神決定戦の場で幾多の挑戦者を翻弄し、締め上げてきた彼の神としての力は、回を増すごとに増していくようだった。
そして、神・川北の存在感が圧倒的であれば圧倒的であるほど、彼に相対することとなる挑戦者への注目度は高まる。マジックの対戦をすることが物語を紡ぐことと同じであるとするならば、レガシー神挑戦者決定戦とはもはや不敗の神との壮大な大捕物の舞台装置、その一部となっていると言えるだろう。
さて、298名集まった参加者はいよいよ2名まで絞られた。神への挑戦権を巡って最後の聖戦に挑む、今宵のチャンレンジャーたちを紹介しよう。
中川 探吾(東京)。
中川 探吾(東京)
TheLast Sun 2015でトップ8に進出した経験を持ち、レガシー横綱選抜バトルでトップ8に進出した池田 貴浩(東京)などとその腕を磨くプレイヤーであり、まだ22歳と若年ながらも関東のレガシートーナメントでその頭角を現しつつある強豪だ。
手にした得物は長らく愛好しているという「土地単」。デッキの半分以上が土地で構成されるという他に類を見ないその異質なアーキタイプは、文字通り《カラカス》や《不毛の大地》といった定番の特殊地形に加え、《暗黒の深部》+《演劇の舞台》などのコンボが搭載されているなど多種多様な土地を駆使して戦う独特の挙動が魅力的なコンボ・コントロールデッキだ。
起源こそ古いものの、レガシー界でのこのデッキが脚光を浴びるようになったのは比較的最近のことだ。打ち消しや手札破壊がない分コンボデッキ相手には不利を強いられるものの、その分豊富なサーチ呪文やリソース回復手段を持ち、盤面への干渉力とシルバーバレット戦略によるフレキシブルな戦線維持能力を武器にここまで勝ち進んできた。
相対するは折茂 悠人(千葉)。
折茂 悠人(千葉)
これまで目立った戦績を持たない彼だが、「スニーク・ショー」を見事に操るその姿からはたしかな実力者の風格が感じられる。彼もまた中川同様21歳と若いプレイヤーだが、その堂に入ったプレイは本決勝戦を解説する神・川北をして「卓越している」と言わしめるほどだ。
説明不要の有名デッキである「スニーク・ショー」はその名の示す通り《実物提示教育》と《騙し討ち》を採用した「ショーテル」系デッキの中でも最も有名なバリエーションの一つだが、折茂のデッキではさらに《全知》までもが加えられている。
《師範の占い独楽》禁止によって「白青奇跡」が環境から姿を消し、「デス&タックス」が幅を利かせていることで《封じ込める僧侶》を目にする機会が増えてきているため、この《全知》入りの構成は本大会においてはベストアンサーだったようだ。プレイングもさることながら、環境を見極めるその慧眼も彼をこの決勝の舞台へ導いた要因の一つと言えるだろう。
禁止改定後、新たな風が吹き込むレガシー環境で、若き2人が激突する。神・川北への挑戦権を手にするのははたして――?
中川 探吾(東京) vs. 折茂 悠人(千葉)
Game 1
先攻の中川が《踏査》から1ターン目にして《Taiga》2枚を戦線に揃える好スタートを切ったのに対し、折茂は《思案》でライブラリートップを改め、静かにターンを終える。
デッキの細部は別として、中川も折茂も互いのデッキはすでに知っている。中川からしてみれば苦手なコンボデッキとの直対は本意ではなかったはずだが、先攻の利――すなわち「マナ差を活かし、折茂のゲーム展開に積極的に干渉していく」というゲーム展開を目指すべく、その布石となる《森の知恵》を設置して折茂のリードを牽制する。これで次ターン以降はカードアドバンテージも稼ぐことができ、折茂のスローダウンを図れるはずだ。
だが、返す折茂は中川よりも一手早く動き出す。叩きつけた《裏切り者の都》から唱えられたのは《実物提示教育》!
これには苦渋の表情を浮かべる中川だったが、やむなしと《踏査》を戦場に出す。対する折茂が戦場に出したのは《グリセルブランド》。折茂が間髪入れずにその能力の起動を宣言すると、中川から待ったが掛かる。
中川「……《輪作》撃ちます」
中川が隠し持っていたのは《輪作》。これによって《カラカス》を探すことさえできれば、まだかろうじてゲームになりそうだ。折茂は当然これに対応してさらにもう1度《グリセルブランド》の能力を起動するが、《意志の力》は手に入らなかったようで、《輪作》の解決を許し、中川が探し出した《カラカス》によって《グリセルブランド》は手札へと帰っていく。
中川 探吾(東京)
ひとまず難を逃れたとはいえ、14枚ものカードを引いた折茂が次弾を用意できていないわけがない。中川は《森の知恵》でライブラリーを手繰るが、この状況を打開するカードはなく、ただマナを伸ばすのみでターンを終えることとなる。返す折茂は《直観》で《実物提示教育》3枚をサーチ。次のターンにはすべてが終わると言わんばかりだ。
そして中川は折茂の《実物提示教育》への解答を見つけることができなかった。次ターンに折茂が《実物提示教育》→《全知》→《引き裂かれし永劫、エムラクール》と続けられると、頼みの綱である《カラカス》も無力となってしまう。
中川が自らの敗北を認め、まずは折茂が先勝を手にするのだった。
中川 0-1 折茂
中川「メインは先手でも厳しいな……」
そう漏らす中川に、折茂も苦笑を浮かべて返す。《騙し討ち》であれば《カラカス》でもお茶を濁すくらいはできたかもしれない。しかし、《全知》入りとなると話は変わってくる。そして、折茂はそのイニシアチブを活かし切ったうえでしっかりと勝利を収めている。
神との聖戦に向け、王手をかけた折茂。このまま絶対的な相性差を以て、強敵・中川を下すことができるのか?
Game 2
後攻の折茂が《古えの墳墓》を設置すると、返す中川からすかさず《輪作》を絡めた《不毛の大地》が飛んでくる。
このアグレッシブな土地攻めに思わず折茂も口を真一文字に結ぶ。第2ターンにアクションを起こせずにいると、中川はすかさず《森の知恵》をプレイしてアドバンテージ源を用意しつつ、続くターンに折茂の2枚目の《古えの墳墓》を第2ターン目と同様《輪作》を絡めて《不毛の大地》で破壊する。
立て続けの土地攻め。だが、折茂もやられっぱなしというわけにはいかない。中川の《不毛の大地》起動に対応して《直観》をプレイし、《沸騰する小湖》を手札に加えてマナ基盤の拡充を狙う。
だが、返す中川が折茂を大きく突き放す。折茂が立て続けの《不毛の大地》に痺れている隙に、戦場に2枚の《抵抗の宝球》が並べられてしまう。
やりたい放題にされてしまっている折茂はこれに深くため息をつきつつ、《水蓮の花びら》を絡めながらなんとか5マナを支払い《実物提示教育》をキャスト。ようやくゲームが動き出すか……両者テーブルに伏せたカードを捲ると、折茂の手から放たれたのは《グリセルブランド》――対する中川は《カラカス》。
何でも持っている中川に対し、折茂は苦い表情を浮かべながらターン終了を宣言する。当然中川は《カラカス》を起動して折茂の《グリセルブランド》をバウンスし、折茂は対応して《グリセルブランド》の能力を2回起動。のべ14枚のカードを引き、次ターンに向けてしっかりと次弾を装填する。
中川もそうはさせまいと《不毛の大地》で中川の土地を縛り、《抵抗の宝球》によって搦め捕りに行くが、返す折茂は手札から《古えの墳墓》を設置し、残りライフを1まで減らしながら気合の《血染めの月》!
強烈な土地メタカードの登場。一気に形勢が巻き返されかねないエンチャントの登場に対応して、中川は《輪作》で《森》をサーチ。無事色マナ源を手にした中川は手札に抱えた《クローサの掌握》で《血染めの月》を虎視眈々と狙う。
が、ここで中川は自らのプレイした《抵抗の宝球》に足を取られてしまう。合計5マナを捻出するために1ターンを要している間に、折茂は《騙し討ち》を戦場に叩きつける。いよいよ折茂が反撃開始だ。
折茂 悠人(千葉)
中川に突き付けられた不自由な二択――《血染めの月》と《騙し討ち》。危険なのは当然後者だ。泣く泣く虎の子の《クローサの掌握》を《騙し討ち》に差し向けると、折茂が不敵に笑みを見せる。全ては彼の手の内……。
返す折茂がプレイしたのは《実物提示教育》! これが解決されると、折茂の《全知》がいよいよ解き放たれる。中川の《抵抗の宝球》によって即座に行動というわけにはいかなかったが、これで折茂は勝利に向けて大きく近付くこととなる。
中川はこの《全知》に対処する唯一の術だった《クローサの掌握》をすでに1枚使ってしまっている。また、《血染めの月》の影響で《カラカス》や《イス卿の迷路》といった特殊地形によってお茶を濁すこともできそうにない。自らの《抵抗の宝球》によって行動回数も制限されているため、折茂に干渉する手段は非常に限られる。
祈りを込めて《森の知恵》でライブラリーを手繰るが、3枚のカードの中にこの状況への解答はない。
続くターンに折茂がプレイした《引き裂かれし永劫、エムラクール》が戦場に現れるのを見つめながら、中川は自分にできる最後の行動を取る。
第9期レガシー神挑戦者となる者へ、祝福を。
すなわちこのマッチの勝者である折茂 悠人に右手を差し出し、固く握手を交わしたのだった。
中川 0-2 折茂
第9期レガシー神挑戦者決定戦、優勝は折茂 悠人!
おめでとう!!
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