人は、ここまで勝ち続けられるものなのか。
287名もの精鋭が集った第7期モダン神挑戦者決定戦。その決勝戦まで勝ち上がったのは、【第4期モダン神挑戦者決定戦】で優勝し、元モダン神・市川 ユウキへと挑み敗れたこともある「エルフマスター」高野 成樹だった。
レガシーを主戦場に戦う高野は、今年【日本レガシー選手権2016 Spring】でも優勝を果たし、もはや強豪という枠を超えた一つの伝説へと近づきつつある。
そんな高野が今、「モダン神」松田 幸雄と同じく2度目の挑戦権を獲得することで、一度は逃した「神」の座へと手をかけようとしているのだ。
一方、対戦相手の大池は、戦績的にはいまだ無名だが、【準々決勝】でこの神決定戦で最多トップ8入賞回数を誇る中道、【準決勝】でBMOスタンダード優勝の経験を持つ佐藤と、名のあるプレイヤーを次々と打ち破り決勝戦まで勝ち進んだことからしても、その実力はまだまだ底が知れない。
何より、もともと《カラスの罪》と《壌土からの生命》のデッキを主に使っていたところで今回Magic Onlineで良さそうなデッキを見つけたので選択したというそのデッキは、まさしく今大会における台風の目となったのだ。
「発掘」。
『イニストラードを覆う影』で登場した《傲慢な新生子》と《秘蔵の縫合体》によって圧倒的に強化されたこのデッキは、禁止カードから解禁されたという経緯を持つパワーカード《ゴルガリの墓トロール》などの「発掘」持ちのカードによって墓地を高速で肥やし、そのまま手札ではなく主に墓地をリソースに別次元のマジックを行うデッキである。
このデッキが何より恐ろしいのは、サイドの墓地対策がなければどんなデッキでもとても太刀打ちできないほどのスピードと粘り強さを併せ持つ点にある。その特異なポジションとデッキパワーは、モダンの新たな「親和」デッキといっても過言ではない。
つまり大池は、モダンシーズンの開幕となる今週、墓地が全く警戒されていないその一発目に、そんなデッキをいち早く持ち込んだのだ。そしてそのアドバンテージが今、花開こうとしている。
《意志の力》がないモダンという環境は、そこに存在するほとんどすべてのデッキが、それが攻める手段にせよ守る手段にせよ、一撃必殺の切り札を持つ。
だからモダンの対戦とは、いわば剣豪同士による真剣での切り結びにも似た一触即発の緊張感を自ずと生むものなのだ。
ましてこれは神への挑戦権をめぐる最後の戦い。その張り詰めた空気は、必然2人の表情を硬くした。
第7期モダン神挑戦者決定戦、決勝戦。
斬り合いの果てに立っていられるのははたして、高野か大池か。
Game 1
先手の大池が《信仰無き物あさり》から《暗黒破》《恐血鬼》を捨てると、高野は《エルフの神秘家》を送り出すが、これは《暗黒破》のいい的となる。さらに「発掘」3で《臭い草のインプ》《恐血鬼》がめくれたことで、セットランドで「上陸」を誘発させた大池は2ターン目にして早くも4点クロックを作り出す。
高野はめげずに《ラノワールのエルフ》2体を出すが、ここで大池は「《暗黒破》ではなく」《臭い草のインプ》を「発掘」すると、3枚目の土地を置いて《信仰無き物あさり》をフラッシュバック。《ゴルガリの墓トロール》《暗黒破》を「発掘」し、《ナルコメーバ》と、《秘蔵の縫合体》2体を戦場に追加する。
大池 倫正 |
先手3ターン目、11点クロック。対して後手3ターン目の高野は《ラノワールのエルフ》2体の力で最大5マナは出せるものの、戦場の戦闘要員としては皆無に等しい。
これは早くも勝負が決まったか。
誰しもがそう思ったそのとき、高野は起死回生の1枚を送り出した。
メイン1枚、唯一の墓地対策である《漁る軟泥》!
残りは3マナ。うち1マナを使って既に墓地に落ちていた《燃焼》を追放し、2マナを立たせてターンを返す高野。《暗黒破》を回収されても《恐血鬼》まではブロックできる上に、ターンさえ返ってくれば以後の発掘も完封できそうだ。
一転窮地に立った大池。ひとまず《ゴルガリの墓トロール》を「発掘」し、落ちた《ナルコメーバ》を戦場に出そうとするが、これは誘発に対応して《漁る軟泥》で追放される。
しかし。
大池「メイン入っていいですか?」
高野「どうぞ」
《ナルコメーバ》の誘発に気を取られた高野は、「発掘6」で落ちた残りの5枚のカードの確認を怠っていた。結果、このとき同時に2枚目の《燃焼》が落ちていたのを見逃してしまっていたのだ。
当然《燃焼》の「フラッシュバック」で手札をすべて捨て、《漁る軟泥》を除去する大池。
【モダンは練習していない】という、そのツケが来てしまったか。メインに1枚の《漁る軟泥》を引くという千載一遇のチャンスを逃した高野は、そのまま11点クロックに蹂躙されてしまった。
大池 1-0 高野
痛恨のミスにも表情一つ変えずにサイドボードに手を伸ばし、ほとんどサイドボードするものがないからであろう、あまりに速やかにサイドインアウトを終える高野。
墓地対策がない以上、やれることはただ、速度勝負のみ。
Game 2
《エルフの神秘家》に対し、《銅線の地溝》からの《傲慢な新生子》プレイでターンを返された高野は、「もし返しで《暗黒破》や《燃焼》をプレイされたら……」という考えが脳裏をよぎったのだろう、一瞬の逡巡を見せるが、それでも勇気をもって《エルフの幻想家》《遺産のドルイド》と並べ、次のターンの展開力を最大にしにいく。
一方これを受けて高野の第2メイン中に《傲慢な新生子》の能力を起動した大池だが、《ゴルガリの墓トロール》を「発掘」、さらに自ターンの通常ドローで《暗黒破》を「発掘」したところで《燃焼》も《ナルコメーバ》も《恐血鬼》も墓地に落ちず、さらには黒マナもなく《暗黒破》も撃てないという状況。やむなく《ダクムーアの回収場》をセットしてターンを返すのみ。
高野 成樹 |
こうなってしまえば、あとはエルフデッキの独壇場だった。
《イラクサの歩哨》プレイから《遺産のドルイド》の能力で3マナをひねり出し、《エルフの大ドルイド》を着地させた高野は、大池が「発掘」デッキにあるまじき通常ドローをして力なくターンを返したエンド前に、さらに《集合した中隊》を唱える。
そしてこれにより《背教の主導者、エズーリ》と《ドゥイネンの精鋭》を戦線に追加すると、10マナをかけての《背教の主導者、エズーリ》の《踏み荒らし》能力のダブル起動で、高野が見事な先手4キルを決めたのだった。
大池 1-1 高野
Game 3
みたび7枚キープの大池は《血の墓所》から《信仰無き物あさり》、ディスカードは《暗黒破》《恐血鬼》と、1ゲーム目の展開をなぞるかのような立ち上がり。高野も《エルフの神秘家》をあえて《暗黒破》に晒しに行くが、大池は構わず《臭い草のインプ》を「発掘」すると、2枚目の《恐血鬼》をめくりつつ手札から《暗黒破》を打ち込み、なおもセットランドして「上陸」からさらに《傲慢な新生子》も送り出すぶん回りを見せる。
高野も少しでも大池の行動を制限するべく《エルフの神秘家》を出すのだが、第2メイン中に《傲慢な新生子》を起動した大池が《ナルコメーバ》2体を戦場に追加、さらに自分のターンのドローで《暗黒破》を「発掘」しつつ《燃焼》《農民の結集》をめくると、あまりに早い盤面の構築速度に太刀打ちできそうもない。
それでもわずかな可能性にかけて《ドゥイネンの精鋭》を送り出す高野だったが、これすらもアップキープ《暗黒破》プレイ→「発掘」で回収してもう一発という動きで処理されてしまうと、毎ターン《暗黒破》のバックアップを受けて殴ってくることが確定している《恐血鬼》と《ナルコメーバ》の群れを前にして、投了を余儀なくされたのだった。
大池 2-1 高野
高野「ミスったー!」
試合が終わった後、高野の悲痛な叫びが響いた。
1ゲーム目、大池の「発掘」で墓地に落ちた《燃焼》を見落とさなければ。《漁る軟泥》はそのまま盤面を支配し、おそらく勝利を拾えていた。
だがそれは「発掘」という、いまだデッキの全容があまり知られていないアーキタイプをいち早く持ち込んだ大池の作戦勝ちということでもある。
現に高野はサイドボードに全く墓地対策を用意しておらず、ほぼメインと同様の形で戦うことを強いられた。そもそもその時点で、高野の敗北の線は濃厚だったのだ。
モダン環境は常に変化する。強力なデッキでも対策カードが多くとられていれば勝ちきれないし、逆にマークが甘いデッキはどこまでも勝ち続ける。
「最も墓地対策が薄い週」だったと言えるだろうこの日、この瞬間に「発掘」というデッキを持ち込み、そしてきっちり勝ち切った大池の嗅覚は、高野の「モダン神」との因縁の力を上回った。
その慧眼ぶり、まさしくモダンの神となる資格を得るにふさわしい。
第7期モダン神挑戦者決定戦、優勝は大池 倫正(東京)!
おめでとう!!