決勝: 高平 俊輔(青赤) vs. 荒井 裕介(赤単)
晴れる屋メディアチーム
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By Tsutomu Date
今期もリミテッド東海王決定戦は、恒例の新セット発売2日後に行われた。
使用されるセットは『エルドレインの王権』。
『ラヴニカのギルド』『ラヴニカの献身』のように、共通のテーマを持つセットもなく、全く新しい環境でのスタートとなる。新メカニズムに「出来事」カードや「食物」トークンが登場し、リミテッドではロングゲームを見据えたデザインなのか、はたまた「一徹」や色拘束の強い混成カードから伺える、単色で速い展開が望まれるのか。相反するような要素が含まれており、一筋縄ではいかないセットと言えそうだ。
本大会で決勝戦まで勝ち進んできた2人は、ともに古くからのリミテッドプレイヤー。蓄積された知識と経験でこのような環境を乗り切っていたのだろう。
高平 俊輔のマジック歴は『時のらせん』からと13年を数える。
競技プレイヤーの例に漏れず、シーズンに合わせたフォーマットをプレイすることが主だというが、特に好きなのはリミテッドだそうだ。
高平「リミテッドはグランプリがなくても普通に遊んでいますね」
発売直後というのに、本環境についてもすでにシールドは4回、ドラフトも4、5回はプレイしているそうで、そのリミテッド好きが伺える。また、『タルキール覇王譚』~『戦乱のゼンディカー』環境のスタンダードであるグランプリ・神戸2015でTOP8を経験しており、リミテッドのみならず構築戦でもその力を発揮している。
今回のブースタードラフトでは青赤を構築。1パック目は赤単気味でピックしていたが、2パック目の2手目で《型破りな協力》から青赤を選択した。
もう一方の雄、荒井 裕介のマジック歴は長い。
荒井「初めて買ったのは『ミラージュ』のスターターと『ビジョンズ』のブースターでした。当時、地元で大会はなかったので、公民館を借りて仲間内で遊ぶのが主でしたね」
聞いただけで、パック開封時の独特な匂いを感じたプレイヤーも多いのではないだろうか。高校生の頃に一度は引退したが、社会人になってしばらくして復帰。現在では統率者戦とリミテッドを主戦場としている。
第5期リミテッド東海王決定戦ではTOP8を受賞しており、その実力を知る者は多い。リミテッド好きな高平に負けず、本環境のシールドを3回、ドラフトは2回経験している。
今回のドラフトは卓内で唯一の赤単を構築した。
2人は今までも幾度となく、何年にも渡って対戦を繰り広げてきた。
荒井「リミテではよく当たってますよね」
高平「以前から、リミテをやる人は面子が大体変わらないんですよね」
界隈でブースタードラフトを募ると、卓内の面子が見知った顔ばかりになる…というのはよくある話だ。また、ラウンドを勝ち上がると強者同士の対戦になるのも必然であり、2人が上位卓で相まみえていたのも想像に難くない。
これが一体何度目となるのだろう。プレミアイベントから、ショップの8人ドラフト、個人宅でのドラフトもあったかもしれない。純粋にリミテッドを愛する強者2人の第8期リミテッド東海王決定戦、その決勝戦が幕を開けた。
先手の高平は1マリガンから以下の6枚を初手とした。
一方、後手の荒井はノーマリガン。
まずは《煮えたぎる大釜》を設置してスタートする高平。続いて3ターン目には《怒り狂うレッドキャップ》をプレイするが、一方の荒井は《血霞のクズリ》、《ヘンジを歩く者》を3/3でプレイと後手ながらスムーズに展開しリードしていく。
対する高平は《ヘンジを歩く者》を《煮えたぎる大釜》で捌いていくが、荒井は4ターン目にも続けてプレイ。今度は《ドワーフの鉱山》をアンタップでプレイし、1/1のドワーフと《オーガの放浪騎士》の2体のクリーチャーを展開していく。
《谷の商人》を出してターンを返す高平に対し、攻勢に回りたい荒井だが、複数体でブロックされることを考慮すると軽率なアタックはできない。小考すると《血霞のクズリ》と《オーガの放浪騎士》の2体でアタック。高平はコンバットトリックがあることを想定しつつ、《血霞のクズリ》を《レッドキャップの略奪者》でブロック。ここで荒井は《胸躍る可能性》をプレイし、アドバンテージを失わずに戦闘を制することに成功する。
高平もこの状況に手をこまねいているはずもなく、エンド・ステップの《選択》に続いて、自ターンで《滝の賢者》を呼び出す。これに対し「テキスト読みます」と確認する荒井。ルーティング能力もあなどれないが、この盤面での2/5というサイズは影響が大きい。攻め手を継続したい荒井にまた一つ突破すべき壁が現れた形だ。
しかし荒井もここまで勝ち上がってきただけに、この程度で止まることはない。ターンが返ってくると《焼尽の連射》を「一徹」でプレイし、高平本体へダメージを与えながら壁を突破、攻勢を緩めない。
防衛策が次々と剥がされていく高平。このまま荒井が押し切ってしまうのかと思われる状況だが、高平はビッグカードを温存していた。
《フェイ隠し》。リミテッドではあまりにオーバーパワーなこの1枚が《オーガの放浪騎士》をバウンスしながら、1/1飛行のフェアリー・トークンを4体生成する。
何枚壁を剥がしていっても尽きることのない高平の城塞。ならばと荒井は《燃焦苑の教練者》で対抗し、4/3となった《馬上槍の練習台》とともにアタックしていくが、こちらは3体のフェアリー・トークンと相打ちとなる。
荒井の攻勢に盤面を整えていく高平。次には《エンバレスの聖騎士》を「一徹」でプレイし5/2とすると、こちらも相打ち要員として立たせ、ロングゲームは上等と言わんばかりの構えだ。
これまで一貫して攻勢に出ていた荒井だが、ここで一時体制を整え、自軍の強化を行う。先ほどバウンスされた《オーガの放浪騎士》を出しなおし、《エンバレスの盾割り》を追加することで次ターンの再攻勢の準備を整える。
ここで一度盤面を整理しよう。
高平のコントロールは以下。
フェアリー・トークン(1/1、飛行)
《谷の商人》
カウンターの乗った《エンバレスの聖騎士》
対する荒井のコントロールは以下。
ドワーフ・トークン(1/1)
《エンバレスの盾割り》
《馬上槍の練習台》
《血霞のクズリ》
《オーガの放浪騎士》
そして荒井は攻撃を再開する。
《エンバレスの盾割り》と《オーガの放浪騎士》で攻撃し、前者に威迫を付けると、高平はフェアリー・トークンと《エンバレスの聖騎士》を相打ち要員に差し出していく。
盤面は相打ちで整理されていき、高平は自ターンを迎えると《氷の女王》を「出来事」経由で戦場へ。荒井へ傾きかけた天秤を自軍へと戻していく。
ここからはマナフラッド気味な荒井に対し、土地が6枚で止まった…つまりルーティングを混じえて有効牌を引き続けている高平が巻き返していく展開となった。
《石とぐろの海蛇》を6/6でプレイし攻撃すると、荒井の複数ブロックに対し《共に逃走》でコンバットを制す。それだけではなく、自分は「出来事」クリーチャーを使い回すというリミテッドならではのテクニックを見せ、リソース差を広げていく。
そして遂には《硫黄投石器》と《勇敢な騎士、カラ卿》を呼び出して詰めにかかる高平。
対して荒井は《胸躍る可能性》をプレイし、「一応2枚引けば勝てるものがあるんだけどね…」と最後の可能性に賭けるが、ドローが応えることはなかった。
高平 1-0 荒井
荒井「前半流石に(高平側が)つらいと思ったけど、あそこから(自分が)負けおったね」
高平「やっぱねー、ルーターできるのが強いっすよ。あと《フェイ隠し》、2パック目の3手目で取れたのがよかった」
軽い感想戦を交えながら、サイドボーディングを検討する2人。
高平「これ(《物語への没入》)!毎回サイドアウトしてるんですけど!」
見知った仲だからか、手の内すら晒していく高平。東海王の座がかかった勝負の中でもその雰囲気は和やかだ。
そして勝負はGame 2へ移っていく。
先手を取った荒井はノーマリガン。
後手の高平もノーマリガン。
ファーストアクションは荒井が2ターン目に「今引いた」と言いながら出す《ロークスワインのガーゴイル》。高平はそのエンド・ステップに《谷の商人》を「出来事」でプレイし《選択》を捨てると《島》を引き入れることに成功し、色マナ不足を解消する。
そのまま迎えた3ターン目、高平はたった今追放した《谷の商人》をクリーチャーでプレイすると、荒井は《オーガの放浪騎士》で対抗する。
対する高平は《硫黄投石器》を加え、攻勢へ備える。
そして荒井が迎えた5ターン目、《燃焦苑の教練者》を戦線に加え、《オーガの放浪騎士》を5/6とするとこの2体でアタック。互いの騎士シナジーにより、前者は3/3速攻威迫、後者は5/6となり一気に荒井がペースを掴む!
これは前者が《谷の商人》と《硫黄投石器》のダブルブロックされることで都合《谷の商人》との相打ちになるが、高平に入るダメージは大きい。盤面としても、《オーガの放浪騎士》と《ロークスワインのガーゴイル》を残す荒井が掌握する形だ。
しかし高平も2体目の《谷の商人》と《血霞のクズリ》を追加し、荒井の好きにはさせない。
突破口を見出したい荒井。まずは渋い表情を見せながらも《エンバレスの盾割り》を「出来事」経由でプレイし、《硫黄投石器》の破壊と2/1のプレイを成功させる。2/1は防御陣の突破には至らないが、これ以上臨むのは贅沢というものだろう。
拮抗している盤面に対し、高平の次の一手は、土地を6枚おもむろに倒しはじめ…Game 1でその活躍を見せた《フェイ隠し》をまたもやX=4でプレイ。バウンス先はもちろん《オーガの放浪騎士》。
相打ちOKと《血霞のクズリ》をアタックさせるが、こちらは荒井としては初のレアカードである《砕骨の巨人》の「出来事」で除去され、通るには至らない。
《オーガの放浪騎士》を出しなおす荒井に対し、フェアリー・トークン3体でのアタックを行う高平。さらには《型破りな協力》を設置し、空の圧力を高めていく。本来こちらは6マナ起動でトークンを増やすカードだが、《谷の商人》を擁する高平は半分のマナで増産ができる体制だ。決定打となる1枚に思わず荒井の口元が歪む。
そして高平はそのまま残った4マナを立ててターンを返す。
荒井は、高平のこのムーブに違和感を持ったことを、試合後に振り返って語ってくれた。
(なぜ高平は《谷の商人》の能力を自ターンに起動し、フェアリー・トークンを生成しないのか?トークンの生成よりも優先して4マナを立てておくことにどれだけの価値があるのか?)
しかし荒井にとって、高平がゲームを掌握する前に《谷の商人》を除去することは必須であり、またそれを実現できるカードを握っていた。たとえ高平が策を持っていたとしても、賭けに出る局面と荒井は判断した。
荒井にターンが返ると、まずは《オーガの放浪騎士》と《エンバレスの盾割り》でアタックし後者に威迫を付与すると、そこに《谷の商人》とフェアリー・トークンがブロック。
荒井はいつもと変わらぬ丁寧ではっきりとした発音で、ダメージの割り振り順を《谷の商人》、フェアリー・トークンの順で宣言すると、《リムロックの騎士》を「出来事」でプレイ。これで4/1となった《エンバレスの盾割り》は2体と相打ち…となるはずだった。
だがやはり荒井が覚えた違和感は正しかった。
高平は本マッチで初めて見せる《焦熱の竜火》を、《エンバレスの盾割り》へ撃ち込んでこれを除去する。
やはり手はあったか、と荒井もこちらが本命とばかりに《焼尽の連射》を《谷の商人》へ撃ち込む。これで《谷の商人》を倒せるはずだ。
だが高平はさらに想定を上回る一手を繰り出した。
「全部持ってるな!」
思わず声に出してしまう荒井。それは高平に対する称賛でありながら、投了の宣言に近いものがあった。
その後は高平のワンサイドゲームだった。荒井が用意した《砕骨の巨人》は2枚目の《焦熱の竜火》で除去し、毎ターンフェアリー・トークンを増産していく。
「やばい、もう無理。完敗だわ…。凄いな、全部凄い」
荒井の言葉通り、高平はまさに『エルドレインの王権」リミテッドの理想形のような構築とプレイを見せ、『第8期リミテッド東海王』の座を獲得した。
高平 2-0 荒井
『第8期リミテッド東海王』の称号を手に入れたのは、高平 俊輔!おめでとう!