準々決勝: 脇阪 博成(東京) vs. 景山 広樹(神奈川)

晴れる屋

By Kazuki Watanabe


 マジックの世界には、無数の次元が存在する。

 「マナが存在する」ということを除き、次元の環境や法則、マナの濃淡と偏り、そして、生物の種類は多岐にわたっている。それぞれの次元に住まうのは、エルフ、ゴブリン、ゾンビ、エレメンタル、天使、ドラゴン……そして、人間だ。

 我々プレイヤーは、彼らの力を借りて、対面した相手と鎬を削る。これが、マジックの世界と我々の世界の繋がり方だ。

 脇阪 博成(東京)景山 広樹(神奈川)。スイスラウンド9回戦を勝ち抜いて決勝ラウンドに進出した2人が、ここに対面する。

 どのマナを行使し、誰の協力を得て、彼らは戦うのだろう。

 ここに記すのは、神の座を目指して戦う、”人間”の物語である



Game 1


 景山の初手は《島》。次のターン、「白緑」を生み出す《要塞化した村》がプレイされたことで、景山の立つ次元が判明する。バントである。

 バントは、5つに分断されたアラーラ次元の断片であり、「緑白青」のマナによって成り立つ。秩序や階級、騎士の名誉を重んじており、主なクリーチャーは天使や人間だ。景山のデッキは「バント人間」【プロツアー殿堂入り】を果たした、Team Cygames所属のプロプレイヤー、渡辺 雄也によって世に送り出された、強力なデッキである。

 《スレイベンの検査官》を唱えて「調査」。景山のターンが終わる。

 対する脇阪は《要塞化した村》《森》と続けて《森の代言者》を唱える。

 背景ストーリーに登場する者の多くは「得意な呪文とマナ」を持っているが、我々プレイヤーは、あらゆる呪文を唱えることが可能であり、5色のマナを区別することなく生み出して利用できる。とはいえ、現在のスタンダードではカードプールの都合上、3色ほどにまとめることが主流である。

 現在、脇阪の生み出せるマナは「白緑」。この2色でまとめているのか。それとも、同じく「青」を利用するバントなのか。ターンを終えた景山が静かに戦場を見つめていると、3枚目の土地がプレイされる。

 互いを隔てる戦場。その彼方を捉えた景山は、対戦相手が座する次元を確認するかのように呟いた。

景山「……ナヤ

 新たな土地は、《山》。「赤緑白」のマナで溢れるナヤは、バントと同じくアラーラ次元の断片である。中マナ域の優秀なクリーチャーが豊富に採用された「ナヤ・ミッドレンジ」。独自の構築・調整で【グランプリ・東京2016】の優勝を飾った熊谷 陸の姿が記憶に新しい。『異界月』のカードが加わり、新たな強さを見せているアーキタイプだ。

 互いのデッキカラーが判明したところで、戦場は俄かに騒めき立つ。この環境を象徴する1枚、《集合した中隊》だ。景山の戦場に駆け付けたのは……《サリアの副官》2枚

景山「まず、こちらの《サリアの副官》の効果を解決します。次に……」



景山 広樹


 丁寧に、そして確実にその効果を解決し、カウンターを乗せていく。強化された《スレイベンの検査官》のサイズは3/4だ。脇阪が《不屈の追跡者》を呼び出してターン終えると、景山の戦線には《薄暮見の徴募兵》が加わり、《サリアの副官》に更にカウンターが乗る。

 次々と戦場に現れる環境選りすぐりの強力な人間たち。「バント人間」が採用しているクリーチャーは、その名の通り人間だ。彼らを強化し、また彼らによって強化される《サリアの副官》の強力さは、今更解説するまでもないだろう。次に現れた《白蘭の騎士》も、「2/2、先制攻撃」という十分なスペックに加えて、土地事故を減らす能力を持つバントの騎士、人間だ。

 《ドロモカの命令》、そして《先駆ける者、ナヒリ》の「-2」能力によって、脇阪は《サリアの副官》を両方除去するが、追加で呼び出された《反射魔道士》によってナヒリはブロッカーを失い、次のターンを迎えることなく墓地に沈んでしまう。

 景山の戦場には《白蘭の騎士》《反射魔道士》、対する脇阪も《森の代言者》《不屈の追跡者》を唱えて、両者が2体のクリーチャーを並べる。均衡が保たれたかのように思えた盤面に、更に《反射魔道士》が現れる。盤面は3対1。均衡は、あっという間に崩れ去った。

 優秀な人間が、絶え間なく現れ続けてアドバンテージを奪う。このまま、人間が押し切る。そう思われた。



 しかし、この場を逆転させるのもまた、人間であった。


炎呼び、チャンドラ


 多元宇宙を渡り歩く者、プレインズウォーカー

 《炎呼び、チャンドラ》が盤面を一掃する!

 更地となった戦場に《ラムホルトの平和主義者》を呼び出し、ひとまず景山は戦線の再構築を試みる。



 ターンを受けた脇阪は、土地をアンタップ。そして、そのすべてをタップした。


龍王アタルカ


 《龍王アタルカ》

 アタルカ氏族を統べる龍王が降り立ち、獲物を喰らう。無人の戦場を、チャンドラの呼び出した2体のエレメンタルが駆け抜け、景山のライフを削る。

 景山は《スレイベンの検査官》を呼び出して「調査」。手がかりを生け贄に捧げ、ドローを確認したところで土地を片付けた。

 そこに、逆転に繋がる手がかりはなかった。


脇阪 1-0 景山


 デッキをまとめた両者は、じっくりとカードを入れ替えていく。

 1ゲーム目、序盤をリードしたのは4マナ以下のカードで構成された「バント人間」であり、形勢が逆転したのは「ナヤ・ミッドレンジ」が本領を発揮した中盤以降であった。デッキの相性からすれば、ある意味シナリオ通りとも言えるだろう。

 《集合した中隊》がもたらすアドバンテージは、やはり計り知れない。クリーチャーのめくれ具合によっては圧倒的なアドバンテージの確保を可能とし、ゲームを決定し得る性能である。

 序盤のリードを《集合した中隊》によって更に強固なものにすることが景山の勝利の鍵であり、それを凌ぎ切れば脇阪が勝利する。両者が慎重にサイドボードを行うのも、当然と言えるだろう。

 シャッフルが終わった。2ゲーム目が始まる。



Game 2


 再び先手の景山は《梢の眺望》、脇阪は《鋭い突端》と、両者タップインからスタート。《スレイベンの検査官》に対して《森の代言者》、という1ゲーム目と同じ展開になる。

 《ラムホルトの平和主義者》が景山の戦場に呼び出される。攻撃制限はあるが、「2マナ、3/3」という性能は序盤の戦線を支えるに余りある。対する脇阪はX=1で《搭載歩行機械》。役目を終えた後も、飛行機械トークンを生み出して貢献を続ける1枚だ。飛行機械トークンは「1/1、飛行」と非常に小さいが、翼を持たない人間に空を見上げさせるには十分だろう。

 ここで戦線が硬直し、互いに土地を伸ばす。何も呪文が唱えられないターンを挟み、《ラムホルトの平和主義者》が変身。

 スリーブから取り出し、カードを裏返したところで、景山が長考。



 ここまで次々と人間が現れ、盤面の移り変わりが激しかった。そこへ訪れる、束の間の静寂。

 景山は手札に視線を落とした。その手に握るは《集合した中隊》。脇阪は水を口に含む。大勢のギャラリーが見守っている。店内の喧騒と反し、ここは驚くほど静かだ。深い呼吸。ジャッジの声が響く。残り時間、30分。景山が盤面に手を伸ばし、ゲームが動く。

 変身を遂げた《ラムホルトの解体者/Lambholt Butcher》がアタック。景山は《搭載歩行機械》をパンプアップし、ブロック。2体の飛行機械トークンが戦場に飛び出る。

 満を持して唱えられる、《集合した中隊》。ところがこれを《神聖なる月光》が阻む。対して、脇阪によって瞬速で唱えられた《大天使アヴァシン》には、《オジュタイの命令》が下る。

 《反射魔道士》が飛行機械トークンをバウンスし、《ラムホルトの解体者/Lambholt Butcher》の攻撃に合わせて再び《大天使アヴァシン》が舞い降りるが、《ドロモカの命令》は盤面に居座ることを許さない。



脇阪 博成


 2体のアヴァシンを墓地に眠らせた脇阪は、一呼吸。ドローを確認し、唱えたのは《巨森の予見者、ニッサ》。土地はすでに6枚。そして7枚目の土地、《梢の眺望》がプレイされ、ニッサにプレインズウォーカーの灯が灯る。


精霊信者の賢人、ニッサ


 脇阪と共に戦うことを選んだ《精霊信者の賢人、ニッサ/Nissa, Sage Animist》は、《目覚めし世界、アシャヤ/Ashaya, the Awoken World》を呼び出す。

 景山は再び熟考する。意を決して唱えたのは《異端聖戦士、サリア》、そして《サリアの副官》。戦線は再び整った。



 4体のクリーチャーが並ぶ盤面を静かに見つめる脇阪。落ち着いた手つきで土地を手に取り、そして、1枚ずつ確認するように、盤面へと降ろしていく。その数、7枚。


龍王アタルカ


 再び降臨した《龍王アタルカ》の炎が、《異端聖戦士、サリア》《サリアの副官》を穿通する!

 景山は《異端聖戦士、サリア》《ラムホルトの平和主義者》を唱えて戦力を補強。なおも人間の抵抗は続く。



 龍王とプレインズウォーカーを従えた脇阪のターン。

 メインフェイズ。《精霊信者の賢人、ニッサ/Nissa, Sage Animist》が「+1」能力を使用し、脇阪のデッキトップを公開する。その1枚を見て、景山は唸り声を上げた。


光輝の炎


 戦場を打ち払う《光輝の炎》が解き放たれ、ここで景山は投了した。


脇阪 2-0 景山



 2,3の言葉が交わされながら、戦場が片付けられる。

 《精霊信者の賢人、ニッサ/Nissa, Sage Animist》は灯が消えて小さなエルフに戻り、《龍王アタルカ》は次の獲物を待つ。彼女たちはデッキの中で、束の間の休息を楽しむことだろう。次の戦いまで、幾ばくかの時間がある。

 戦いを待つのは、何も彼女たちだけではない。この戦いでは姿を見せなかった、戦場で獲物を屠ることを望み、脇阪によって協力が請われることを待ち侘びる、また別の”彼女たち”がいる。


折れた刃、ギセラ約束された終末、エムラクール消えゆく光、ブルーナ


 このデッキを選択した理由について、脇阪は【トップ8プロフィール】で、

 「《悪夢の声、ブリセラ/Brisela, Voice of Nightmares》 合体させたかったから」

 と述べていた。準決勝以降の戦いに期待しよう。

 

 とはいえ、筆者に記すことが許されたのは準々決勝のみであるため、ここで筆を置くことになる。彼女たちの活躍を綴ることができないのは残念だが、たった1枚のカードによってゲームが決定づけられるように、いつの時代も、物語の終幕は突然訪れるものだ。

 さて、これまでの物語をどのように終わらせるべきだろう。

 「人間が、圧倒的強さを持つ龍王に屈した」?

 いや、そうではない。



 ここに記すのは、神の座を目指して戦う、”人間”の物語である



 確かに、《龍王アタルカ》は強力であった。

 しかし、人間が龍王に負けたのではない。

 「龍王を従えた人間が勝利した」

 それだけだ。



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