決勝: 梅木 亮(神奈川) vs. 脇阪 博成(東京)

晴れる屋


By Hiroshi Okubo


 【プロツアー『異界月』】で示された通り、「現出」や「昂揚」といった多様なデッキが入り乱れるスタンダード環境。第7期スタンダード神挑戦者決定戦は、まさにそんな混沌の最中に開催された。


 梅木 亮(神奈川)。

 PWCの常連であり、【グランプリ・名古屋04】トップ8入賞経験もある強豪・久保田 雄飛が率いるコミュニティ「梅木会」の一員でもある。

 バントカンパニーを巧みに操りここまで勝ち進んできた彼だが、実は今日は体調が優れないという。頭痛に笑顔を引きつらせながら、「今日一番活躍したのは《集合した中隊》でも《呪文捕らえ》でもなく鎮痛剤だ」と語った。

 スイスラウンド9回戦+決勝ラウンド2回戦という長丁場を戦い抜くのは尋常なことではない。夏日が続き、誰でも体調を崩し得るこの季節にはなおさらだ。幸い店内は空調が効いているが、それでも日々の生活の中で消耗するこの時期に、体調不良を押して勝利を重ねてきたその腕前は見事と形容するほかない。

 あと一勝。もはや気力だけで座っているといった状態と呼んでも差し支えないほどに疲労していた梅木だが、賞品のスプリットにも「(スプリットせず)やりましょう」と応じて決勝に臨む。


 相対するは脇阪 博成(東京)。

 ぎこちない表情で席に着くなり、「いやぁ、緊張しますね」と呟く脇阪。普段は某IT企業に勤め、【グランプリ・東京2016】のサイドイベントである【企業対抗戦】にも参加していた無類のマジック好きだ。

 あまり大舞台でのマジック経験がなく、【トップ8プロフィール】では勝利の秘訣について「ぼくも知りたいです」と控えめなコメントを残していたが、230名の予選ラウンド……ましてやプロプレイヤーも多数参加していた本大会でここまで勝利を積み重ねてきたその実力について疑う余地はないだろう。

 “『合体』させたい”。そんなロマンを胸に選択したデッキは「ナヤエンジェル」。《森の代言者》《不屈の追跡者》といったタフな緑のクリーチャーで戦線を維持しつつ、《悪夢の声、ブリセラ》や《大天使アヴァシン》といったフィニッシャーでゲームを決めるデッキだ。


 第7期スタンダード神挑戦者決定戦、決勝。戦いの火蓋が切って落とされる――!






Game 1


 先攻の脇阪は初手を見るなり即座にマリガンを宣言。梅木は小考してキープする。

 梅木が後手2ターン目に《ヴリンの神童、ジェイス》をプレイし、続けて脇阪が3ターン目にプレイした《不屈の追跡者》へ梅木から《反射魔道士》が刺さり滑り出し。最序盤の盤面は梅木が一歩リードといったところか。


ヴリンの神童、ジェイス反射魔道士


 脇阪も負けじと今度は《巨森の予見者、ニッサ》を繰り出すが、梅木は《ヴリンの神童、ジェイス》の能力を起動しつつ、着実に手札を整えて《反射魔道士》をレッドゾーンに送り込む。

 脇阪はさきほど手札に戻されてしまった《不屈の追跡者》を再びプレイするが、これに対して梅木がプレイしたのは《呪文捕らえ》


呪文捕らえ


 強烈なテンポプレイの応酬に、完全に盤面を掌握されてしまった脇阪。渋い顔を浮かべながら、梅木の《反射魔道士》《呪文捕らえ》によるクロックに押されてゆく。

 脇阪は盤面の回復を図るべく《先駆ける者、ナヒリ》をプレイするが、これが梅木の2枚目の《呪文捕らえ》によって追放されてしまうと言葉を失う。



梅木 亮


 一刻も早く、何とかしなくては――

 ここまでのスイスラウンド9回戦と決勝ラウンド2回戦による疲れもあってか、気持ちに焦りが生じる脇阪は、気づけば戦闘フェイズで《巨森の予見者、ニッサ》を攻撃に向かわせていた。

 当然梅木はノータイムで先ほどプレイした《呪文捕らえ》をブロックに向かわせる。脇阪から「アッ!」と声が漏れるが、もはやブロック宣言までを済ませているため巻き戻すこともできず、ただでさえ厳しい状況で《巨森の予見者、ニッサ》がチャンプアタックをしただけという展開になってしまった。


巨森の予見者、ニッサ


 そのミス自体が勝敗に直結していたとは言い難いが、これによって優位を確固たるものとした梅木は《集合した中隊》で一挙に脇阪を押しつぶした。


梅木 1-0 脇阪


 幕間に思わず「ミスった……」と声を上げる脇阪。《巨森の予見者、ニッサ》のチャンプアタックによって生じた損害は、実際の盤面に及んだ影響以上に心理的に響いているようだった。

 対する梅木は黙々とシャッフルを続ける。筆者も偏頭痛持ちなため、頭痛に堪えながらプレイするマジックの厳しさはよくわかる。だが、ここまでのプレイは精密そのものであり、雑なプレイや誘発忘れなども起こしていない。時々こめかみを抑えながらも戦い続けるその姿から、この決勝に懸ける真剣さが伝わってくるようだった。


 脇阪は立て直すことができるのか、あるいは梅木がこのまま耐え抜くのか? 勝負を懸けた第2ゲームが始まる。


Game 2


 先攻の脇阪は《森の代言者》《不屈の追跡者》とプレイし、梅木は《無私の霊魂》に続けて《反射魔道士》で応じる。

 脇阪は4枚目の土地を置くことができずにターンを終了することとなってしまうが、《ドロモカの命令》《無私の霊魂》を除去しつつ、3/4となった《森の代言者》で攻撃することでまずはダメージレースで優位に立つ。



脇阪 博成


 だが、無情にも梅木は2枚目の《反射魔道士》《森の代言者》をバウンスし、脇阪の盤面を更地にする。

 脇阪は負けじと《不屈の追跡者》を再び戦場に降り立たせ、ようやく引いた4枚目の土地をプレイすることで「調査」を行うが、梅木は果敢に攻め立てる。《反射魔道士》2体を攻撃に向かわせると、《ドロモカの命令》《不屈の追跡者》を除去。さらに残る3マナから《巨森の予見者、ニッサ》をプレイして6枚目の土地をプレイし、ゲームの主導権を一気に奪い去る。


石の宣告


 脇阪は梅木の2体の《反射魔道士》《石の宣告》で対処するが、梅木はすぐさま戦場に《無私の霊魂》を追加。

 対処しづらいフライヤーへの解答を探すべく手掛かりを生け贄に捧げてドローする脇阪だが、依然戦況は芳しくない。戦場を飛び越えていく《無私の霊魂》の攻撃が脇阪のライフを11、9、7、5と着実に削っていく。

 脇阪がやっとの思いでプレイした《大天使アヴァシン》には《オジュタイの命令》を撃ち込み、《折れた刃、ギセラ》《実地研究者、タミヨウ》で排除すると、このゲームの勝者が決する瞬間が訪れた――


梅木 2-0 脇阪





第7期スタンダード神挑戦者決定戦、優勝は梅木 亮(神奈川)!


おめでとう!!



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