【プロツアー『異界月』】は、バントカンパニーも環境を支配するまでには至っていないことを証明する結果となった。
『異界月』のカードたちは、《呪文捕らえ》や《無私の霊魂》といったカードで強化されたバントカンパニーを乗り越えるに足るポテンシャルを有していたのだ。
だが、それは同時にバントカンパニーの反撃の幕開けでもあった。
プロツアー当時は「昂揚」や「現出」といった新テクニックが多く、「いつ《呪文捕らえ》を構えるべきか」と「何を《呪文捕らえ》すべきか」が明確ではなかったため、バントカンパニーは苦戦を強いられた。しかし環境の姿が明らかとなった今では、バントカンパニー側も最良のプレイングを判断しやすくなっているのだ。
バントカンパニーを使うか、バントカンパニーを倒すか。それは『イニストラードを覆う影』から引き続いてスタンダード環境のテーマとして、プレイヤーに突き付けられた命題となった。
晴れる屋の常連でもある宇都宮は、バントカンパニーを使う側を選択した。とりわけ同型対決で唯一無二の支配力を誇る《変位エルドラージ》を採用し、【第7回戦】では同じくバントカンパニーを駆りトップ8に入った岡井と激戦の末「あと1ターンあれば」というところまで追い詰めた。結局そのマッチは引き分けとなったものの、スイス9回戦を土つかずで駆け抜けている。
一方、関東の草の根大会「Planeswalker’s Cup(PWC)」の常連であり、【グランプリ仙台2010】トップ8に入賞した経験もある伊藤は、バントカンパニーを倒す側に回った。選択したのは、異色の「スゥルタイ『昂揚』コントロール」。【第9回戦】では2度のプロツアートップ8入賞経験を持つ元プロプレイヤー・清水 直樹が駆るバント人間を《最後の望み、リリアナ》の奥義で打ち倒し、見事トップ8進出を決めた。
トップメタとの戦いはスタンダードの常だ。今回の【トップ8デッキ】でも、奇しくもちょうど半数がバントカラーの《集合した中隊》デッキとなっている。
はたして宇都宮がバントカンパニーの強さを見せつけるか、あるいは伊藤がメタデッキの矜持で魅せるのか。
スタンダードの未来を占う準々決勝が幕を開けた。
Game 1
先手の宇都宮がマリガンスタートながらも《森の代言者》を送り出すと、伊藤は《ヴリンの神童、ジェイス》で応える。
この《森の代言者》が《究極の価格》されるや、今度は《反射魔道士》を召喚し、《ヴリンの神童、ジェイス》を手札に送り返す宇都宮だったが、その《反射魔道士》をも返しで《破滅の道》されてしまうと、5ターン目はひとまず4マナを立ててターンを返す。
伊藤 大明 |
だが、2度の《ヴリンの神童、ジェイス》起動により、墓地にクリーチャーと土地を送り込んでいた伊藤は、早くも「昂揚」を達成しているのを確認すると、5ターン目に《墓後家蜘蛛、イシュカナ》をプレイ!
これに対してマナがフルオープンの宇都宮の行動は……なんと「アンタップ、ドロー」。《集合した中隊》を、持っていない。
しかも次のターンに伊藤が送り出した《ヴリンの神童、ジェイス》も《呪文捕らえ》されることなく通る有様。
気になる宇都宮の手札の内容は……《平地》、《ドロモカの命令》、《ドロモカの命令》。
肝心要のクリーチャーがいなくては、さすがに勝てるはずもなかった。
宇都宮 0-1 伊藤
Game 2
不要なカードを削ぎ落としたサイドボード後のゲームで何とか伊藤に食らいつきたい宇都宮だったが、ここでダブルマリガンの憂き目にあってしまう。
宇都宮「さすがにしょうがないかな……」
3ターン目に《変位エルドラージ》を送り出し、4ターン目には《森の代言者》をプレイしつつ伊藤のファーストアクション《巡礼者の目》を《石の宣告》してまで押し込みの可能性にかけるが、返すターンに《衰滅》をモロに食らってしまう。
土地がなく、やむなく1マナ残しの「変異」で出した《棲み家の防御者》も《闇の掌握》され、伊藤の《不屈の追跡者》がクロックを確実に刻んでいく。
それでも宇都宮は、どうにか引き込んだ《集合した中隊》をエンド前にプレイすることに成功する。
宇都宮 巧 |
だがここにきて宇都宮の運はどこまでも悪く、6枚の中に3マナ以下のクリーチャーは《反射魔道士》1体のみで、これには宇都宮も苦笑するほかない。
引き込んだ《変位エルドラージ》を送り出してみるも、そこに突き刺さるのはまたしても《衰滅》。
さらに伊藤の《ヴリンの神童、ジェイス》と《棲み家の防御者》がアドバンテージ差をどこまでも拡充していく。
ダブルマリガンに加えてこの枚数差は如何ともしがたく、ほどなくして《墓後家蜘蛛、イシュカナ》《ゲトの裏切り者、カリタス》といった重量級のフィニッシャーを盤面に揃えた伊藤が、宇都宮を介錯したのだった。
宇都宮 0-2 伊藤