SE Table 4: 加藤 一貴(東京) vs. 石原 隼(神奈川)

晴れる屋

By Kazuki Watanabe


 プロツアーは、多くのプレイヤーにとって目標であるが、誰しもが参加できるイベントではない。

 そして、その関門と言うべきRPTQも同様だ。RPTQに参加する権利を持ったものだけが、参加できる。

 必然的にRPTQに参加しているプレイヤーのレベルは高くなるため、プロ、強豪、そして古豪が集い、誰が勝ち抜けてもおかしくない、といった言葉が交わされることもある。

 さて、スイスラウンドが終了してベスト8が決まり、決勝ラウンドが始まる。ここにお届けするのは、その準々決勝だ……通常のイベントであれば。

 プロツアー出場の権利を手に入れられるのは4名、そしてここに残っているのは8名。

 「RPTQは準々決勝で終わり」と説明するのは正しくないだろう。「スイスラウンド終了後、決勝戦が同時に4戦行われる」と言うべきだ。

 そして、この「事実上の決勝戦」で顔を合わせたのは、加藤 一貴(東京)石原 隼(神奈川)

 往年のファンにとって、たまらない組み合わせだろう。



 先に席についたのは、石原だ。

 【プロツアー・ヒューストン2002】でベスト16に入賞、【グランプリ・福岡2002】では4位、【長野杯】で3連覇を達成など、古豪という言葉がふさわしいプレイヤーだ。

 ここで、対戦相手を待つ石原にジャッジから声がかかり、席を立った。

 対戦者が居ないテーブル。筆者が石原とジャッジの後ろ姿を見送ると、入れ替わるようにやってきた加藤が自分の席に座る。

 【グランプリ・静岡03】【グランプリ・横浜04】と、リミテッドの国内グランプリ二連覇という前人未到の偉業を達成し、こちらも古豪という言葉がふさわしいだろう。Hareruya Pros所属の殿堂プレイヤー、八十岡 翔太、そしてTeam Cygames所属の覚前 輝也と共にチームを組み、【グランプリ・北京2015】【グランプリ・ワシントンDC2016】に出場していたことからも、その実力の高さを窺える。

 古豪同士が顔を合わせたこの一戦。静かにデッキを眺める加藤のもとに、先ほど席を立った石原が戻ってきた。いよいよ戦いが始まるのだが、その開幕は、ジャッジからの説明であった。

 石原のデッキリストに不備があり、ゲームロスの裁定。

 事実上の決勝。勝てばプロツアー出場。その場面でのゲームロス。「20点分のライフを失った」という言葉では表しきれないほどの衝撃であろう。静かにその説明を聞く2人。重苦しい空気が流れる……と思ったのだが。



石原「1位抜けだから、先手後手選べるよね?まぁ、とにかく先手貰うよ(笑)」

加藤「何?デッキリスト不備?めちゃくちゃだなぁ(笑)」

 両者、にこやかにシャッフルを始め、その間も、ひたすら会話が続く。裁定を告げたジャッジも、ギャラリーも、そしてカバレージを取る筆者も思わず微笑んでしまうほど、空気が明るくなった。

マジックで時折遭遇する、懐かしさがもたらす柔らかな雰囲気。そんな場面に遭遇できるのも、トーナメントの魅力である。

石原「対戦したことあったよね?あれ……いつだっけ?」

加藤「『オンスロート』のシールドで戦ったよ。何年前か忘れたけど(笑)」

 思わず筆者は手元のノートパソコンを叩き、発売日を調べた……2002年10月5日

 その頃に戦っていた2人が、2016年9月30日に発売される『カラデシュ』のプロツアーの出場権利を目指して戦っている。世代を越えるマジックの良さが、ここに詰まっているような感覚さえ覚えてしまう。

石原「それじゃ、始めようか。さっきも言ったけど先攻貰うよ」

 おっと、いつまでも止まらない2人の会話に耳を貸して、懐かしさに浸っている場合じゃない。裁定に従って、一区切りしなければ。


加藤 1-0 石原


Game 2


 加藤は即座にマリガンを宣言。「酷いハンドだなぁ」とぼやきながら、6枚のハンドをキープする。

 《風切る泥沼》《大草原の川》と両者タップインでゲームがスタート。

 石原は《ウルヴェンワルド横断》を唱える。序盤は基本土地を、終盤はフィニッシャーをサーチできる、無駄のないカードだ。《山》を手札に加えてターンエンド。加藤は《森》をプレイ。

 続いて石原が唱えたのは《巨森の予見者、ニッサ》。変身するまでにはまだ時間が掛かりそうだが、3マナ2/2というサイズに加えて、ハンドアドバンテージを失わない能力は十分な性能であり、返すターンに加藤も《巨森の予見者、ニッサ》を唱えたことは、このエルフが持つ信頼度が高いことの証拠であろう。

 続くターン。《精神背信》が加藤を襲う。公開されたのは、《森》《梢の眺望》《石の宣告》《石の宣告》《反射魔道士》《呪文捕らえ》。石原が指定したのは、《呪文捕らえ》だ。

石原「何そのデッキ?バント?」

加藤「いや、違うよ。トリーヴァ・コントロール



加藤 一貴



 懐かしい名前が出たところで、石原のニッサが攻撃。加藤のニッサがブロックに応じ、交換終了。加藤は2/3というサイズに信頼を置き、無人の戦場に《反射魔道士》を呼び出すが、その信頼は、石原の唱えた《最後の望み、リリアナ》の「+1」能力で、脆くも崩れ去ることになる。

 《発生の器》から、石原がめくったのは《衰滅》《過去との取り組み》《ウルヴェンワルド横断》《風切る泥沼》《風切る泥沼》を手札に加えて、唱えるのは《墓後家蜘蛛、イシュカナ》。「昂揚」達成により、3体の蜘蛛トークンを従えて、戦場に這い出る。

 エンドフェイズ、加藤は《集合した中隊》を唱える。《薄暮見の徴募兵》《ヴリンの神童、ジェイス》を戦場に呼び出してから、ターンを開始する。

加藤「仕方ない、これ使うかぁ」

 《石の宣告》を2枚使用して、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》御一行に退場を願う。《ヴリンの神童、ジェイス》を変身させてターン終了。ターンを受けた石原は、この盤面に対するぴったりな解答を「はい」という一言と共に叩きつけた。


餌食


 《餌食》《反射魔道士》と《束縛なきテレパス、ジェイス/Jace, Telepath Unbound》を飲み込み、《巡礼者の目》を唱える。プレインズウォーカーを失った加藤は《巨森の予見者、ニッサ》を唱えて、即座に変身させる。《薄暮見の徴募兵》の能力で《不屈の追跡者》を手札に加えてターン終了。



 ここまで、2人はほとんど手を止めることなくプレイしている。そして、書ききれていないが、会話をしながら、だ。長年マジックをプレイしている2人にとって、ここまでのゲームは思考にふけるほどでもなかったのであろう。阿吽の呼吸とでも言うべきやり取りで、盤面が展開・進行している。

 そして、ここで一瞬、石原が止まる。ここまで流れ続けた時間が、ほんの一瞬停止する。手札に視線を落とし、扇状に並べた墓地を人差し指でなぞる。この間、およそ1秒ほどであろう。停止していた時間が動き出す。堰を切ったように、荒々しく。

 《最後の望み、リリアナ》、「+1」能力。対象は自分の戦場を巡回する《巡礼者の目》。そして唱えられる《約束された終末、エムラクール》


約束された終末、エムラクール


 《薄暮見の徴募兵》は、無謀な攻撃を試みてエムラクールの返り討ちに遭う。《精霊信者の賢人、ニッサ/Nissa, Sage Animist》は「-2」能力でトークンを生み出し、エムラクールの支配が終わった。

 大荒れの状態でターンを受けた加藤は、「+1」能力を起動。そしてめくれたカードを見て、

加藤グレイト!

 と、思わず声を上げた。ギャラリーの何名かも、小声で「グレイト!」と言ってしまう。筆者も手を止めて、親指を立てそうになった。2人のプレイが周囲を引き付けている証拠であろう。引き当てたのは《反射魔道士》《約束された終末、エムラクール》をバウンスして、ひとまず盤面を落ち着かせる。

 しかし、この賑やかなゲームが簡単に落ち着くわけもない。石原の《コジレックの帰還》《餌食》によって、

加藤「そして(トークン以外)誰もいなくなった」

 と、声を上げてしまう。加藤は土地10枚、石原は土地7枚。ロングゲームの様相を呈してきた場面で、再び唱えられる《約束された終末、エムラクール》。再びコントロールを奪われた加藤は、《目覚めし世界、アシャヤ/Ashaya, the Awoken World》をエムラクールの餌食に捧げ、手札の《反射魔道士》を場に出され、エムラクールを手札に戻してしまう。次のターンは加藤が得るため、《反射魔道士》のキャスト制限は、ないようなものだ。マナが許せば3回目の《約束された終末、エムラクール》の降臨を迎えることになってしまう。

 そして迎えた石原のターン。8枚の土地が倒されて、「ああ、またエムラクールの支配が始まるのか」と思ったところに現れたのは、


膨らんだ意識曲げ


 《膨らんだ意識曲げ》

 《ヤヴィマヤの沿岸》《森の代言者》《ヴリンの神童、ジェイス》という手札が公開され、《ヴリンの神童、ジェイス》が指定される。加藤は《薄暮見の徴募兵》《不屈の追跡者》を徴兵。

 そして3度目の登場となる《約束された終末、エムラクール》。コントロールする手札は、《森の代言者》《森の代言者》《大草原の川》《伐採地の滝》

石原「エムラクールが定着しない」

 とぼやくも、3度の降臨によって、加藤のゲームプランを妨害しているのは確かであり、《薄暮見の徴募兵》を2回起動して戦力を増強しようとするが、2回目の起動に合わせて《焦熱の衝動》が飛んでくる。《森の代言者》《森の代言者》と場に出してターンエンド。

 石原が《発生の器》を唱えて、そのまま起動。めくれたカードは《ゲトの裏切り者、カリタス》《燃えがらの林間地》《進化する未開地》《進化する未開地》

加藤「カリタス?そんなものまで入ってるの?」

 と苦笑いする加藤に向かって、やっと定着を許された《約束された終末、エムラクール》がアタック。そして、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》がトークンと共に現れたところで、加藤が土地を片付けた。


加藤 1-1 石原


加藤「微妙だな、もうちょっと……いや、うーん、難しかったなぁ」

石原「そうだねぇ……まぁ、難しいよね」


 悩みながらサイドボーディングを行うのだが、その間も2人の会話は止まらない。そしてその会話は「腹を探りあう」とか、「ブラフ」のようなものではない。いや、もしかしたら美化しすぎているのかもしれないが、少なくとも間近で聞いていた筆者には、まったくそうは思われなかった。そこで交わされた言葉は、親友同士、そして戦友同士が交わす温かいものであった。

 当時を知らない筆者にさえも、その仲間であったかのように錯覚させる、ごく自然な会話のやり取り。その光景を見て、筆者は2人がとても羨ましかった。このゲームを続けていると、こんな会話ができる友人を得ることができるのか。そして、これから10年後、こんな会話を交わせる友人は居るのだろうか、と。



加藤「そのデッキ、何なの?コントロールなの?」

石原「どちらといえば、コントロールかな。メインから《餌食》2枚入ってるからね。《最後の望み、リリアナ》《ゲトの裏切り者、カリタス》も強いでしょ」

加藤「強いね。それにしても、《餌食》、ねぇ……」

石原《ヴリンの神童、ジェイス》《巨森の予見者、ニッサ》、全部抜いちゃえば?」

加藤「んー、ジェイスは抜いても良いけど、ニッサは変身できるでしょ」

石原「そっちも、《集合した中隊》っていう強いカード使ってるじゃん」

加藤「あぁ、まぁね(笑)……あー、もう分からん」



石原 隼



石原「それにしても、RPTQの決勝ラウンドでデッキリスト不備とか問題だよなぁ、と思ったけど、昔、対戦相手に『ダイスで決めませんか?』って言われたことのほうが大事件だったな、今思えば」

加藤「それもめちゃくちゃだ(笑)」

石原「本当だよね(笑)ライターさんもそう思いません?」

――「!?た、確かにそうですねぇ」

加藤「ま、先攻で……ほほぅ、興味深い。マリガンだな!」

石原「こっちは興味深いっていう次元じゃないんだけど……」

加藤「いいよいいよー、リスキーなハンドキープしてよー」

石原「いや、うんまぁ……いいや、やってみよう」

加藤「迷ったときはマリガン、って言うよね。んー、キープだなぁ」

石原「いっそのこと、その手札見せてくれれば良いのに」

加藤「できるわけないでしょ(笑)さて、やるか」

 サイドボード中、ひたすら2人の会話を追いかけるだけだった。この空気を少しでも味わって頂ければ幸いである。できることならば、録音してお届けしたいくらいだ。

 ゲームカウントは1-1。改めてスタートだ。


Game 3


 《進化する未開地》から両者スタート。石原が《ウルヴェンワルド横断》《山》《進化する未開地》《島》と動き出す。

 加藤が《森の代言者》を呼び出すと、石原は再び《ウルヴェンワルド横断》から《沼》と土地を補充し、《焦熱の衝動》《森の代言者》を焼き切ると、《巨森の予見者、ニッサ》を呼び出して戦線を構築していく。

 加藤は《伐採地の滝》《島》と土地を伸ばし、4枚の土地を全てアンタップした状態でターンを返す。緑、4マナとなれば、この後の展開は想像しやすいだろう。


集合した中隊


 石原のエンドフェイズに唱えられる《集合した中隊》。戦場に呼び出されたのは《不屈の追跡者》……のみ!その頼みの1体も、再び《焦熱の衝動》で焼かれてしまう。加藤は少し溜息をつきながら、《首絞め》を唱える。

 《首絞め》を見た石原は《進化する未開地》から《沼》、そして《精神背信》で、加藤の手札を再び覗く。《不屈の追跡者》《呪文捕らえ》《反射魔道士》から《不屈の追跡者》を追放する。

 少しずつライフを詰めていきたい加藤は《首絞め》で攻撃し、《不屈の追跡者》

 ターンを受けた石原は《ゲトの裏切り者、カリタス》。そして3枚目《焦熱の衝動》《首絞め》を除去して、トークン出す。


焦熱の衝動


 石原を悩ませた初手の中身は、3枚の《焦熱の衝動》だった。

 そしてその3枚目を唱えたところで、戦いが終わった。


加藤 1-2 石原


加藤「リリアナのプレッシャーに耐えられなかったな」

石原「まぁ、止まらないと厳しいよね」

加藤《衰滅》打たれたとしても、蜘蛛トークン一掃出来て終わったからね」

 感想戦を終えて加藤が席を立つ。石原は必要書類を記入し、写真撮影に応じる。

 少し重苦しい空気で始まるかと思った一戦は、他ならぬ2人の「マジックを楽しむ姿」によって明るいものになった。交わされた会話のみならず、張り詰めた空気の中で繰り広げられた正確なプレイはギャラリーを間違いなく魅了していた。

 勝利が決まった際に、周囲から大きな拍手が贈られたことが、何よりの証拠であろう。

 石原 隼のプロツアー『カラデシュ』での活躍を祈ろう。

 そして、この感動的な対戦を繰り広げ、マジックの良さを教えてくれた、石原と加藤に改めて御礼を述べて、このカバレージを終わらせることにしたい。



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