SE Table 3: 永井 守(神奈川) vs. 石田 龍一郎(静岡)

晴れる屋

By Hiroshi Okubo


石田「永井さんとはやりたくなかったよ」

永井「手加減してね」

 席について顔を見合わせるなり、こんな会話が繰り広げられる。マジック最高峰の舞台、夢のプロツアーへの旅路。その最後の決戦を前に向かい合う2人は、同じユニフォームに身を包む仲間だった。


 永井 守(神奈川)。

 バントカンパニーを操る永井は冷静沈着で物静かなベテランだ。この大一番を前に、過剰に緊張することも舞い上がることもない。過去には【プロツアー『闇の隆盛』】【グランプリ・名古屋2013】でそれぞれベスト4に入賞したこともある、波に乗ると止まらないプレイヤーだ。

 冒頭の石田の「永井さんとはやりたくなかったよ」という台詞には、“見知った仲だからこそ潰し合いたくない”という心情もあっただろうが、“今、乗っているプレイヤーだから当たりたくない”という気持ちも含まれていたかもしれない。

 先月開催された【BIGMAGICOPEN vol.7】で優勝を果たした彼は、まさに今波に乗っている“当たりたくない”1人と言えるだろう。


 そして石田 龍一郎(静岡)。

 【日本選手権2011】で優勝を果たしてプロツアーデビューを果たした彼は、【プロツアー『闇の隆盛』】【プロツアー『アヴァシンの帰還』】【プロツアー『ラヴニカへの回帰』】【プロツアー『ギルド門侵犯』】と4つのプロツアーに加えて、個人・団体で日本が二冠の栄光を掴んだ【世界選手権2011】に出場した経験を持つ。

 それから今日まで悔しくもプロツアーから遠ざかっていた彼だったが、己にプロツアーでの再出発を誓い、ジャンド昂揚を手に5-0-2と無敗でスイスラウンドを駆け抜けて決勝の舞台へと這い上がってきた。

 あの舞台へもう一度。その執念が彼を突き動かす。冷静な永井とは打って変わって、石田の手は緊張に震えていた。


 ギャラリーには【カードショップ遊々亭】所属の高尾 翔太や【BIGs】メンバーの加藤 健介、【グランプリ・東京2016】優勝者の熊谷 陸といった強豪が集まる。

 この一戦を見守る誰もが夢見た舞台。マジック最高峰のイベント、プロツアーへの参加権利を賭した最後の勝負が今幕を開ける――!






Game 1


 スイスラウンド2位の石田が先行。初手をマリガンし、6枚になった手札から1ターン目に《発生の器》を置くスタート。

 続くターンに起動した《発生の器》によって《墓後家蜘蛛、イシュカナ》《焦熱の衝動》×2、《ラノワールの荒原》の4枚を捲り、《ラノワールの荒原》を手札に加えて3ターン目には《巡礼者の目》。堅実に土地を並べながら「昂揚」の下地を整え、1マリガンの差を埋めていく。


発生の器巡礼者の目


 対する永井は3ターン目に《森の代言者》をプレイしつつタップインを処理する静かなゲーム展開。石田がプレイした《精神壊しの悪魔》《反射魔道士》を当ててクロックを刻んでゆく。


反射魔道士


 石田は1ターン飛ばして再びの《精神壊しの悪魔》。だが、これには永井も《呪文捕らえ》で応じる!

 手厳しい反撃に石田は深く息を吸い込み、小考しながらも悪魔を霊魂の下に敷く。その後永井の土地が5枚なのを見て、《森の代言者》に「魔巧」の《焦熱の衝動》をプレイ。ライフを守りに行く。


呪文捕らえ


 だが、永井は手を止めない。《ドロモカの命令》《反射魔道士》を強化しつつ格闘で《巡礼者の目》を排除し、全軍をレッドゾーンに送り込んで石田のライフは7へ。このまま押し切れるか……?


永井 守


 そう思われたとき。石田がプレイしたのは《墓後家蜘蛛、イシュカナ》! 当然「昂揚」している石田はブロッカーを十分に用意する。


墓後家蜘蛛、イシュカナ


 永井も負けじと《集合した中隊》をプレイするが、不運にもこれで捲れたのは《薄暮見の徴募兵》1枚のみ。戦況を打開できるカードを引きたいところではあったが、やむなし。3マナを立てながら《不屈の追跡者》をプレイし、戦力を揃える。


 返す石田は永井の手札の枚数(2枚)を確認すると、メインフェイズに《コジレックの帰還》


コジレックの帰還


 さらに続けて《膨らんだ意識曲げ》が「現出」で唱えられ、墓地の《コジレックの帰還》が誘発。一挙に盤面が一掃され、永井の手札が無情にも《膨らんだ意識曲げ》によって引き裂かれてゆく。

 手札とクリーチャーの全てを失った永井にできることはもう多くない。望まぬドローゴーを強いられている間に石田は《巨森の予見者、ニッサ》をプレイして即座に「変身」させ、アドバンテージ差を拡げながら《精神壊しの悪魔》《膨らんだ意識曲げ》で永井のライフを削ってゆく。


巨森の予見者、ニッサ膨らんだ意識曲げ


 トップデッキした《反射魔道士》でかろうじて《膨らんだ意識曲げ》をバウンスするも、《精霊信者の賢人、ニッサ》によって捲れた《過去との取り組み》《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を回収すると、永井は苦い笑みを浮かべつつカードを片付け始めた。


永井 0-1 石田


 永井は重くため息をつき、石田は震える手でサイドボーディングを行う。たとえ向かいに座っているのが知り合いであっても、この戦いにおける勝利の価値――プロツアーへの切符を思えば、両者の口数が減るのも自然なことのように思えるし、実際にごく自然な静寂が場を包み込んでいた。


 石田は両手で頬を叩いて自らを鼓舞する。あと1勝。集中しろ。まるで顔にそう書いてあるかのようだった。闘志に燃えた瞳を携え、第2ゲームに向けて黙々とデッキをシャッフルしていく。

 その向かいに座す永井の表情からは何も読み取れない。第1ゲームを落とした彼は当然険しい顔だが、おそらく永井は勝利していたとしても表情を変えることはなかっただろう。


 2人の精神は、遥かプロツアーへと注がれている。


Game 2


 石田がタップインランドを処理しながら後攻2ターン目に《発生の器》、3ターン目に《巨森の予見者、ニッサ》と動き出す。

 対する永井は1マリガンの手札からタップインランドの処理で後手後手に回ってしまった上、4ターン目に土地を置くことができずにやや遅れる形となりながら《森の代言者》を戦場に送り込む。

 だが、この一手の遅れが永井の決定的な命取りとなってしまった。


石田 龍一郎


 石田は《巨森の予見者、ニッサ》を生け贄に捧げ、「現出」で《膨らんだ意識曲げ》をプレイ!


膨らんだ意識曲げ


 これによって永井の手札から《集合した中隊》《呪文捕らえ》が奪い去られてゆく。残された手札は《薄暮見の徴募兵》×2、《即時却下》という、この状況を打破するにはやや心もとないものとなってしまった。


 永井はやむなしに《薄暮見の徴募兵》を戦場に送り込むが、石田は巻き返しの時間を与えまいと一気に畳みかける。

 《膨らんだ意識曲げ》でライフを詰め、《巡礼者の目》でアドバンテージ差をつける。《コジレックの帰還》×2が永井の戦場を更地にして「昂揚」を達成し、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》までをも呼び出す!


墓後家蜘蛛、イシュカナ


 永井の残りライフは5で、戦場には申し訳程度にプレイされた《薄暮見の徴募兵》のみ。対する石田の盤面には《膨らんだ意識曲げ》《墓後家蜘蛛、イシュカナ》、蜘蛛トークンが3体。ここまで圧倒的な盤面を築き上げられては、もはや巻き返す手立てはない……


 しばらく俯き、やがて顔を上げた永井は「おめでとう」と勝者を讃えながら右手を差し出す。笑顔で、しっかりとその先に座る石田を見据えて。

 そして石田は――その手を強く握り返し、昂揚に熱を帯びる目頭をそっと押さえた。


永井 0-2 石田


 厳しいRPTQを戦い抜き、石田が4年の時を経てプロツアーへの挑戦権を掴み取った。

 長き道のりを越え、再び【スタートライン】へと辿り着いた石田の、プロツアー『カラデシュ』での活躍にも期待したい。




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