Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/02/04)
革命が起きたロータスストーム
前回の記事では、パイオニアのロータスストームを取りあつかいました。
- 2019/12/29
- パイオニアをロータスストームで獲れ!
- パスカル・フィーレン
あれから『テーロス還魂記』が発売され、デッキに大幅な変化が起こりました。最新の構成で臨んだプレイヤーズツアー・ブリュッセルは構築ラウンドの成績が7-3でしたが、調整のパートナーであったブレント・ヴォス/Brent Vosは9-1という見事な成績を収めてトップ8入賞しました。今回の記事では、デッキの構成・特定のカード選択・主要なアーキタイプとの戦い方について解説していきます。
《死の国からの脱出》
『テーロス還魂記』のプレビューが始まって間もないころ、《死の国からの脱出》が公開されました。エターナルフォーマットで非常に強力であるのは明白でした。ロータスストームのサイドボードとして優れていると思いましたが、メインデッキでは《時を越えた探索》との共存が難しいだろうという印象でした。
ベルギーのプレイヤーとともに主に調整の焦点としたのは、既存のパイオニアのデッキ。『テーロス還魂記』で登場したデッキについては、《太陽冠のヘリオッド》を使ったさまざまな構成を試すことに重きを置きました。
しかしこの状況を一変させたのは、ブレント・ヴォスの一言でした。彼と知り合ったのはブリュッセルで開かれたマジック25周年記念プロツアーで、愉快な夜を過ごしたことがきっかけでした。今回のプレイヤーズツアーに向け、我々は出場予定のオランダとベルギーのプレイヤーたちとドラフト合同練習日を1日設けていました。
ブレントによれば、チームメイトであるニールス・ファン・デ・サンデ/Niels Van de Sande、イェスパ―・ボックス/Jesper Boxと『テーロス還魂記』の新カードを使ったデッキをいくつか試しているなかで、とても可能性を感じるものを見つけたというのです。そして、もし良ければ一緒に調整してくれないかと誘いを受けました。私が興味津々になったことは言うまでもないでしょう。きっとみなさんだって私の立場なら気になりますよね?
ブレントいわく、ロータスデッキに入れた《死の国からの脱出》が非常に強いとのこと。彼はそのデッキの動き・方向性が気に入っていたものの、もっと完成されたデッキリストを作るには手助けが必要だとチームメイトも感じていたそうです。
私たちはデッキの構成やカード選択を試行錯誤しました。最終的にブレントのデッキリストと異なる部分は少なくなかったのですが、この議論を通してデッキへの理解度が飛躍的に高まったと思います。
シミックロータスブリーチ
ロータスブリーチと呼ばれるデッキは2つの型が存在します。ひとつは私がプレイヤーズツアーで使用したシミックカラーのもの。もうひとつはマーティン・ミュラー/Martin Mullerを筆頭として使用者がいたイゼットカラーのものです。2種のデッキはまったく異なるデッキですから、私としては両者の名前に区別を付けた方が良いと思います。
参考として、私がブリュッセルで使用した75枚をご覧いただきましょう。
2 《繁殖池》
1 《隠れた茂み》
4 《植物の聖域》
4 《神秘の神殿》
3 《ヤヴィマヤの沿岸》
4 《睡蓮の原野》
4 《演劇の舞台》
1 《爆発域》
-土地 (24)- 4 《樹上の草食獣》
4 《願いのフェイ》
2 《サテュロスの道探し》
4 《砂時計の侍臣》
-クリーチャー (14)-
2 《霊気のほころび》
2 《思考のひずみ》
2 《漸増爆弾》
1 《秘本掃き》
1 《神々の憤怒》
1 《失われた遺産》
1 《死の国からの脱出》
1 《神秘を操る者、ジェイス》
1 《目覚めた猛火、チャンドラ》
1 《精霊龍、ウギン》
-サイドボード (15)-
個人的にこのデッキリストで特徴的なのは以下の2点だと思っています。
一般的なゲームプラン
一般的なゲームプランは以下のとおりです。
また、このデッキリストは《殺戮遊戯》のようなカードに耐性があります。当然コンボをスタートさせるにはリソースがさらに必要になりますが、勝つことは十分に可能です。コンボパーツの1種を追放されたときの勝ち筋を把握すれば、このデッキへの理解が一層深まることになるでしょう。
一部のカード選択について
メインデッキ
少し説明が必要なメインデッキのカードを取り上げましょう。
《サテュロスの道探し》 2枚
《睡蓮の原野》をプレイする2ターン目/3ターン目には2マナが浮くことがよくありますので、2マナ域の必要性は高いです。《サテュロスの道探し》は《睡蓮の原野》や《演劇の舞台》を探しつつ、墓地を肥やしてくれます。1/1というサイズはチャンプブロックに使われることが通常ですが、勝敗を分かつ1ターンを作り出してくれることもあります。
《発展/発破》 1枚
ブレントはこの枠に《タッサの神託者》を採用していました。《殺戮遊戯》に負けないようにするための枠です。《発展/発破》はどちらのモードも非常に用途が広いものでした。《発展》は《見えざる糸》や相手の打ち消し呪文をコピーできますし、《発破》はあり余るマナを使う手段でありながら相手の脅威を排除できます。
《時を越えた探索》 1枚
《死の国からの脱出》を採用しているので墓地は追放したくないところですが、リソースの奪い合いになるマッチアップでは素晴らしいカードです。とはいえ、墓地対策を使われると非常にプレイしづらくなる呪文ですから、これ以上枚数を増やすのはためらいがあります。
《呪文貫き》 1枚
完全なるフリースロットです。私は軽量の妨害手段が欲しいと思っていましたし、《呪文貫き》はアゾリウスコントロール戦で有効です。《神秘を操る者、ジェイス》による決着を狙う際、相手が何らかの呪文を使ってきた場合はそれを弾くこともできます。しかし今思えば、今後の採用が最も危ぶまれるカードでしょうね。
土地24枚
ブレントは23枚しか採用していませんでしたが、私は緑のマナソース不足を危惧しました。《睡蓮の原野》と《演劇の舞台》がすでにある場合は、《森の占術》のサーチ先として《爆発域》や《隠れた茂み》が優秀です。
サイドボード
サイドボードはメインデッキよりもある程度は柔軟に変更できます。パイオニアのメタゲームの発展に合わせてデッキリストをアップデートする際は、これからご紹介するカード一つひとつの役割を理解することが必須です。
《秘本掃き》《神秘を操る者、ジェイス》《死の国からの脱出》 各1枚
コンボに必要なものです。いじらないようにしてください。
《神々の憤怒》 1枚
攻撃的なデッキと戦う場合、7マナしかない状況で生きながらえたいことがあります。8マナあるなら《死の国からの脱出》を手札に加えればたいていは勝てます。《至高の評決》を嫌う理由はここにありますね。
《精霊龍、ウギン》 1枚
《精霊龍、ウギン》は消耗戦になりやすいサイドボード後で特に便利です。墓地対策を過剰に心配していないのもこのプレインズウォーカーがいるからです。直面しうるあらゆる問題を解決してくれることでしょう。
《目覚めた猛火、チャンドラ》 1枚
断トツで相性が悪いのはスピリットです。この相手には《目覚めた猛火、チャンドラ》をサイドインすることが効果抜群です。《至高の評決》は《呪文捕らえ》に追放されてしまう点で評価を下げます。アゾリウスコントロール戦でサイドインすれば、相手が頼りにしている《僧院の導師》プランを見事に対処してくれるでしょう。
《失われた遺産》 1枚
プレイヤーズツアーではデッキが公開されていましたので、この類の効果は非常に便利です。《真実を覆すもの》を根こそぎ追放できるのはとても良いですね。
《自然のままに》 2枚
シミックロータスブリーチ対策として明らかに最強である《減衰球》への軽量な解答。イゼットエンソウルやミラーマッチにおいても非常に便利です。
《霊気のほころび》 2枚
《太陽冠のヘリオッド》や《虚空の力線》を意識したカード。
《思考のひずみ》 2枚
アゾリウスコントロール戦やミラーマッチで素晴らしいカードです。サイドボードに搭載しておくと相手は《成就》を毎回打ち消さなければならなくなります。1枚だけサイドインすると実質的に枚数が増えるため、この手のサイドボードの強みを出すことが可能です。サイドボードの枚数が公開されていないプレイヤーズツアーでは、相手に不意打ちができると期待していました。
相手が《神秘を操る者、ジェイス》への解答を持っている可能性があるなかでコンボを狙う場合、リソースに余裕があるなら《思考のひずみ》を先に唱えておくと良いでしょう。
《漸増爆弾》 2枚
偉大な万能除去。《減衰球》などへの解答でありながら、脅威を一掃して時間を稼いでくれるため、黒単アグロやイゼットエンソウルに特に有効です。
メタゲームの発展・仮想敵によっては、採用するカードの種類や枚数は確実に変わっていくでしょう。また、デッキが公開される大会でしたので、どんなカードが対策としてサイドインされるか予想がつく状況でした。もしどんな対策カードが飛んでくるかわからない場合は、汎用性の高いバウンス呪文を何枚か入れておくと良いかもしれません。
わずかな差を生むテクニック
プレイヤーズツアーでは完璧とは程遠いプレイをしてしまい、それが確実に結果に響いていました。新セット発売から本番までは2週間ほどしかなく、練習時間は限られている状況でした。最善のデッキリストを見つけることに焦点を当てていたため、デッキを徹底的に理解することは困難なことだったのです。デッキの使い方を上達させる細かなテクニックはたくさんあります。私がこれまでに培ってきた有効なプレイをいくつかご紹介しましょう。
《睡蓮の原野》以外の土地をコピーする
常に念頭に置いておくべき選択肢です。これまでに私がコピーしたことある土地は《ロークスワイン城》《ヴァントレス城》《アーデンベイル城》《変わり谷》などです。相手が《廃墟の地》を採用しているときは、基本土地をコピーすることで《睡蓮の原野》を見つけるまでの間《演劇の舞台》を破壊から守ることができます。《爆発域》をコピーすれば点数で見たマナコストが0のパーマネントを破壊できるので覚えておきましょう。
《砂時計の侍臣》でアンタップする対象
《爆発域》や《漸増爆弾》をアンタップすることが有効な場面もあります。
《砂時計の侍臣》をクリーチャーとして唱える
相手に除去手段がないのであれば、《砂時計の侍臣》を2枚目の《睡蓮の原野》として運用できます。
《見えざる糸》を「暗号」する
《死の国からの脱出》が登場してから「暗号」する機会は減りました。《見えざる糸》は墓地にあった方が良いからです。とはいえ、「暗号」することが有用である場面もときおりあります。
《死の国からの脱出》を最初に「脱出」させる
自分に十分なリソースがあり、相手が《死の国からの脱出》を破壊する手段を持っていると思う場合は、《死の国からの脱出》を最初に「脱出」させることが妨害をケアした適切なプレイになります。ただしマナや土地の枚数をしっかり数えたうえで行うようにしましょう。カウントを間違えてしまうと、プレイヤーズツアーで重要なマッチを落としてしまった私の二の舞になります。
あえて《サテュロスの道探し》で土地を手札に加えない
手札で土地が不足していないのであれば、めくれた土地は墓地にあった方が価値が高い可能性があります。
《真実を覆すもの》を唱えたばかりの相手に《秘本掃き》
このプレイングを行うタイミングは見極められると思いますから、知識として頭に入れておけば良いでしょう。《真実を覆すもの》デッキと戦う際、《湖での水難》に対応して《時を越えた探索》で自分の墓地の枚数を減らせば立ち消えさせることができます。
《願いのフェイ》の手札に戻る効果を2回起動する
《死の国からの脱出》のコストを確保するために手札を多く捨てたいときに有効です。
戦闘前メインフェイズの《見えざる糸》で相手の土地をタップさせる
《見えざる糸》を《枯渇》として使用すれば、戦闘後メインフェイズで安心してコンボを決められます。
手札に加えたサイドボードを意外な方法で使う
サイドボード前は基本的に本来のゲームプランを遂行するだけで構いません。サイドボード後は相手がリソースを削ってくるため、想像力を働かせる必要があります。たとえば、《神秘を操る者、ジェイス》を単なるカードアドバンテージ源として唱えたことは幾度もありました。《成就》のサーチ効果はサイドアウトしたカードも手札に加えられるので気をつけましょう。
主要なアーキタイプとの戦い方
続いては、対戦する機会の多い相手とのゲーム展開、有効な戦い方について解説しましょう。戦いやすい相手であるランプ、5色《ニヴ=ミゼット再誕》、イゼットエンソウルについては深く言及しません。特定のマッチアップについて気になることがあれば、Twitterでお答えいたします。
黒単アグロ
1戦目は非常に有利に戦えるでしょう。相手のクロックはそこまで早くなく、妨害呪文も多くありません。サイドボード後は手札破壊や《虚空の力線》を投入してくるはずです。《霊気のほころび》は《虚空の力線》への適切な解答でありながら、《虚空の力線》がない場合には《屑鉄場のたかり屋》を対象にとることができます。
ですが、過剰なサイドチェンジをしてしまうと手札破壊呪文に咎められるので、受け身なカードは多くし過ぎないように注意しましょう。《願いのフェイ》はブロッカーとして優れており、相手が除去の大半をサイドアウトしてくる2戦目以降は特に優秀になります。
《真実を覆すもの》コンボ
相性の良さは、相手が採用している打ち消し呪文の種類・枚数に左右されます。《失われた遺産》は《真実を覆すもの》を追放できますが、早々に戦場に出てしまった場合は《秘本掃き》によるライブラリーアウトを狙えます。相手からすれば居たたまれない状況になるでしょうね。
ありがちなことですが、サイドボード後の相性は少し悪くなります。コンボパーツを揃えられてしまう前に、打ち消しと手札破壊を乗り越えてコンボを狙っていきます。
アゾリウスコントロール
1ゲーム目、相手は打ち消さねばならない呪文が7枚あります。《成就》4枚と《死の国からの脱出》3枚です。一般的なアゾリウスコントロールのデッキリストには確定カウンターは7枚もありません。マナを伸ばしていく時間はたっぷりありますから、重要な7枚の呪文を待つことにしましょう。
相手はプレインズウォーカーを安心して着地させるタイミングがなかなかないでしょうから、非常に苦しい戦いを強いられるはずです。重要な呪文が《検閲》にひっかからないように注意しましょう。
2ゲーム目以降、相手の最善の攻め筋は《僧院の導師》を早く着地させることです。《目覚めた猛火、チャンドラ》は理想的な解答であり、そのほかのさまざまな状況でも効果的です。ゲームプランは1ゲーム目から変わらず、相手よりも早くマナを伸ばしていくことになります。まずは《睡蓮の原野》を3枚並べ、それから重要な呪文を唱えていくことが多いですね。1枚だけサイドインした《思考のひずみ》が大活躍するマッチアップです。
スピリット(バント / アゾリウス)
群を抜いて苦しい相性です。妨害が豊富であり、取るに足らない呪文を唱えているとクロックを並べてきます。1戦目は打ち消し呪文の枚数が多くないのでコンボを狙えますが、それでも簡単ではありません。
サイドボード後は追加の打ち消し呪文や《安らかなる眠り》が投入されるため、相性は一層悪くなります。《目覚めた猛火、チャンドラ》が素晴らしい活躍を見せてくれるでしょう。
プレイヤーズツアー・名古屋2020を優勝した原根 健太、ブリュッセルのスイスラウンドを1位で通過したマッティア・リッツィ/Mattia Rizziはともにバントスピリットを使用していました。スピリットを意識したカードを増やすことが今後は必要になってくるでしょう。
スゥルタイ昂揚
ヨエル・ラーション/Joel Larssonがこのデッキを使用してプレイヤーズツアー・ブリュッセルを優勝したため、対戦する機会が増えるでしょう。プレイヤーズツアーで一度対戦したときは相性が悪くないという印象でしたが、ブレントが準々決勝でヨエルに負けています。1戦目は相手の手札破壊を乗り越える必要がありますが、クロックが特別早いということもないので、必要とされるリソースを見つける時間はあるはずです。
サイドボード後に相手は有効なカードを増量させてきます。ですが大量の手札破壊に直面するときに贈るアドバイスはいつでも同じです。状況を選ぶ受け身のカードを多くサイドインし過ぎないこと。使い道のないカードを手札で腐らせるかどうかで結果はまったく違ってきます。
築かれたスタート地点
私はこのデッキが強力であると強く信じています。このデッキリストには誇りを感じていますし、今後シミックロータスブリーチを調整する人にとって基礎となるものだと思っています。使うプレイヤーが増えれば対策の数も増えていくことでしょう。このデッキとメタゲームが今後数週間でどのように変化していくのか楽しみにしたいと思います。
ブリュッセルではミスを何度も犯してしまい、理想的なプレイができませんでした。とはいえ、次のゲーム・マッチに意識を集中させようと常に努めました。大会に参加するうえで重要な姿勢です。それに次回のプレイヤーズツアーとプレイヤーズツアーファイナルの権利を得ることができました。とても嬉しいことですね。
ですが、どちらの大会も4月の下旬であり、妻の出産日である4月20日と重なりそうです。できることなら権利を次回のプレイヤーズツアー・プレイヤーズツアーファイナルに変更できると良いですね。
いつもお伝えしていますが、デッキや記事について疑問があればお気軽にTwitterでお尋ねください。
パスカル・フィーレン (Twitter)