スーパーサンデーシリーズ 日本スタンダード選手権2016 Summer決勝: 光永 悠紀(東京) vs. 浦谷 真光(東京)

晴れる屋

By Kazuki Watanabe


浦谷「あ、東京なんですか?僕もなんですよ」

光永「え?あ、本当だ。どこかでお会いしてるかもしれませんね」

 古都・京都で邂逅する東京のプレイヤー同士。筆者がカバレージの準備をしていると、二言三言、会話が交わされる。



 すると、デッキをシャッフルしながら、こんなやり取りが始まった。

浦谷「さっきの準決勝見られてましたよね?」

 光永は早々と決勝進出を決め、浦谷の準決勝を眺めていたのだ。「対戦相手のデッキを予め把握している」というアドバンテージを光永が活かす……と思われたのだが。

光永「ええ、見てました。『赤緑ランプ』でしたよね?私は『青緑《押し潰す触手》なので、相性的には……」

浦谷《押し潰す触手》!?うーん、僕が思うに……」

 そこから始まる、マジック談話。このやり取りを「お互いの手の内を明かす」と表現することはふさわしくない、と筆者には思われた。もっと明るい表現……そう、これは、自己紹介という言葉で記すべきだろう。

 そのやり取りに耳を傾けながらグランプリ会場の時計を見ると、17時30分を少し過ぎたと針が示している。視線を落とせば、本戦のフィーチャーエリアが見える。3日間、絶えず人の海であったこのフロアも、少し閑散としてきているようだ。

 しかし、各イベントは、今まさに、最高潮の盛り上がりを見せようとしている




 光永 悠紀(東京)浦谷 真光(東京)

 8:30にスイスラウンドが開始したため、二人は9時間にも及ぶ戦いを勝ち抜き、この場に座っている。

 今環境のスタンダードを締めくくる最終決戦。勝利し、アメリカ・シアトルへの夢の旅のチケットを獲得するのはどちらだ!?



Game 1


 先攻は浦谷。光永はマリガンし、6枚の手札をキープ。

 まずは《森》をプレイし《ウルヴェンワルド横断》《山》を手札に加える。対する光永も《森》をプレイしてターンエンド。

 続くターンも《森》《ウルヴェンワルド横断》。再び《山》を手札に加えた浦谷は、4ターン目まで土地を伸ばすことを確定させる。光永は《島》をプレイするのみ。


ニッサの巡礼


 互いに《ニッサの巡礼》を唱えて、ここで小休止。

浦谷「お互いマナが伸びますね」

光永「そうですね。まだまだ伸びますよね」

 このスタンダード選手権のルール適用度は『競技』。ライブラリーの切り直し、そしてカットの際は入念なシャッフルが求められる。必然的に、ゲームの進行が緩やかになるのだが、二人はその間にぽつりぽつりと会話を交わしていく。



浦谷 真光



 浦谷の《発生の器》からゲームが再開。ライブラリーを掘り進めながら墓地にカードを落とし、自身がエンチャントであることも合わさって「昂揚」達成を近づける優秀なカードだ。光永は《爆発的植生》。土地を伸ばしていく。

 その光永のエンドフェイズ。浦谷が早速《発生の器》を起動する。墓地に落ちたのは……《約束された終末、エムラクール》2枚、《巨森の予見者、ニッサ》、そして《墓後家蜘蛛、イシュカナ》と、今回はクリーチャーのみ。浦谷はダイスで墓地のカード・タイプを確認できるようにしている。現在の数は、3だ。


炎呼び、チャンドラ


 そしてターンを受けて、呼び出したのは《炎呼び、チャンドラ》!エレメンタル・トークンが光永のライフを削り、このゲームのライフカウンターが動き出した。


ニッサの復興


 このライフ差を、光永は一旦リセットする。《ニッサの復興》だ。序盤のライフレースを振り出しに戻し、更なる高マナ域にアクセスさせるこのカードの強力さは、後半戦での動きを主戦場とするデッキにおいて際立つであろう。ライフは21点。ただしチャンドラが忠誠値”5″で居座っているため、まったく猶予がない。

 浦谷は土地が6枚。ここで《巨森の予見者、ニッサ》を唱える。《森》をライブラリーから探しだしてプレイ。2人目のプレインズウォーカーが浦谷の味方となった。さらに《ニッサの巡礼》《森》、《精霊信者の賢人、ニッサ/Nissa, Sage Animist》の「+1」能力で《山》。このターン、土地が3枚戦場に出たことになり、浦谷の土地は9枚。これに対して光永は……11枚。まさにロングゲームだ。


押し潰す触手


 光永は《パズルの欠片》、そして「怒涛」で唱えられる《押し潰す触手》!「青緑《押し潰す触手》」の代名詞だ。プレインズウォーカーの居なくなった戦場にタコ・トークンが現れる。土地の数は十分。追加で唱えられた《森の代言者》も、楽々と+2/+2修正を受けている。

 盤面はリセットされたが、手札に戻したに過ぎない。互いにマナは潤沢であり、再び戦場にプレインズウォーカーを呼び出すことは容易である。《巨森の予見者、ニッサ》が唱えられ、再度変身したところで、浦谷は長考。そして唱えられたのは、《コジレックの帰還》


コジレックの帰還


 光永は唱えられた呪文を確認するように、身を乗り出した。

 タコ・トークンのタフネスは8、《森の代言者》は5。どちらにとっても、わずか2点はかすり傷だ……そこに、《焦熱の衝動》2枚が重ならなければ


焦熱の衝動焦熱の衝動


 タコ・トークンは3枚の火力を浴びて除去され、《森の代言者》のみの盤面。ここで光永が唱えたのは《荒原のカカシ》


荒原のカカシ


 生け贄にすることで基本土地を2枚手札に加え、「昂揚」の達成も補助する隠れた便利役だ。その証拠に、今まさに光永は「昂揚」を達成し、《ウルヴェンワルド横断》によって《約束された終末、エムラクール》を手札に加えた!



光永 悠紀



 《森の代言者》が《精霊信者の賢人、ニッサ/Nissa, Sage Animist》を倒し、そこからさらに《爆発的植生》!基本土地がデッキから続々と抜き出されていく。ライブラリーから基本土地を探すカードが多いということは、相対的にドローの質を上げていることに等しい。結果、手札は強力なカードで溢れていく。


水の帳の分離


 そして唱えられたのは、「覚醒」6《水の帳の分離》

《森の代言者》と、覚醒した《森》が襲いかかってきたところで、浦谷は投了した。


光永 1-0 浦谷


浦谷「次行きましょう。うーん、何入れたら良いんだろう。そっちはカウンター呪文が入りますよね」

光永「青ですからね、えぇ。当然入ってきますよ」

浦谷「そちらが《即時却下》を入れてくるのは分かるんですよ。それに対するカードがなぁ……」

 お互い入念にデッキをシャッフルをするのだが、「デッキを見ないようにシャッフルする姿」を読者の皆様はご想像できるだろうか?手元から視線を反らし、デッキの中身を見ないようにすることで、不用意なトラブルを避けるテクニックである。

 すると、二人の視線は自然と会場の向こう側、本戦のフィーチャーエリアへと向かう。

浦谷「本戦は何ラウンド目なんだろう」

光永「気になりますね」

 筆者も気になって見つめてみた。先刻より、少し人が増えているようだ。

 2ゲーム目も、確実にロングゲームとなるだろう。両者とも、いかに素早くマナを潤沢にし、高マナ域のカードにアクセスするかが勝負の鍵だ。両者のゲームプランは固まっている。あとは積み重なった疲労などによって、正常なプレイができなくならないように、細心の注意を払うだけだ。

 そう、“正常なプレイができなくならないように”


Game 2


 先手は再び浦谷。お互いにキープを選び、《山》を公開して《獲物道》からゲームが開始する。光永は《伐採地の滝》《押し潰す触手》によって無人となった戦場で、クリーチャー化してライフを削る役割を担う、「青緑クラッシュ」では非常に重要な土地である。

 そこから、ゲームは少し停滞する。お互いに《ニッサの巡礼》《爆発的植生》によって土地を伸ばしながら、墓地のカードを増やしていく展開が続く。

 ゲームは、浦谷が《過去との取り組み》を唱え、《コジレックの帰還》《山》《ゴブリンの闇住まい》を公開し《ゴブリンの闇住まい》を手札に加えたところから、複雑で、非常に難解な展開を見せる。


約束された終末、エムラクール


 《約束された終末、エムラクール》の降臨。

 ターンを支配されたことで、あらゆるゲームプランが正常に進行しなくなる

 無論、エムラクールによってターンを支配された状況というのは、この環境では決して珍しいことではない。この状況がこれまでにないくらい複雑な様相を呈したのは、エムラクールによってコントロールされた、浦谷の手札に起因する


約束された終末、エムラクールニッサの巡礼水の帳の分離水の帳の分離
押し潰す触手押し潰す触手伐採地の滝


 《約束された終末、エムラクール》《ニッサの巡礼》《水の帳の分離》《水の帳の分離》《押し潰す触手》《押し潰す触手》《伐採地の滝》

 この手札を見て、瞬時に正解を導き出せるプレイヤーはほとんど居ないだろう。考えるべきことが、あまりにも多すぎる。当然の長考。浦谷は何度も指を差して確認をしながら、次のターンの応手を計算する。結果、選択したのは《ニッサの巡礼》の空撃ちだ。

 支配から逃れて追加ターンを得たとはいえ、盤面に残る《約束された終末、エムラクール》の存在感は依然として変わらない。《押し潰す触手》で戻すことはできても、多数の土地がある以上、再び唱えられることは必定。タコ・トークンの生物としては破格の8/8というサイズも、エムラクールの前には無力も同然だ。





 ひとまず光永は《伐採地の滝》をプレイして、《水の帳の分離》を覚醒コストを支払わずに唱える。追加ターンを得て、《伐採地の滝》をアンタップして、1ドローした形になった。

 ここで、光永が痛恨のミス。《ウルヴェンワルド横断》を唱えてフィニッシャーを手札に加えようとしたのだが「昂揚」を達成しておらず、「やってしまった……」とつぶやきながら、《森》を手札に加えるのみとなってしまった。《押し潰す触手》を「怒涛」で唱え、ひとまず《約束された終末、エムラクール》を手札に戻す。

 浦谷のターン。ここで先ほどの《過去との取り組み》が活きてくる。《約束された終末、エムラクール》を再び唱えて、墓地にある《コジレックの帰還》の効果が誘発。さらに、《焦熱の衝動》が再びタコ・トークンを焼き切る!

 再び奪われた光永の自由。《約束された終末、エムラクール》《森》《水の帳の分離》《押し潰す触手》《ニッサの巡礼》という手札。まずは《伐採地の滝》がクリーチャー化し、《約束された終末、エムラクール》に返り討ちにあう。





 すでに複雑なロングゲームになりつつある状況。ここから、場の空気は一変する。

 それは、ターンをコントロールしている浦谷の疑問から始まった。

浦谷《約束された終末、エムラクール》がターンを支配している状況で、《水の帳の分離》を唱えたらどうなるんだろう……」

光永「うーん……どうなんでしょうね。ジャッジに聞いてみましょうか」

 決勝戦ということで、ジャッジはゲームの展開を間近で追っている。また、ルール的にも比較的シンプルに答えを出すことができるのだが、この疑問に対して、ジャッジは安易に答えられない

 というのも、「どうなるんですか?」という問いに「こうなりますよ」と応えてしまうと、プレイヤーの選択肢を左右する可能性がある場合、ジャッジからプレイヤーに対するアドバイスになってしまうかもしれないのだ。非常にデリケートな問題であるため、皆様も注意して欲しい。


約束された終末、エムラクール


 《約束された終末、エムラクール》の効果によって、プレイヤー両名、ジャッジ、ヘッドジャッジ、そして筆者の5名がゲームの展開から少し離れている光景。「エムラクールによって、場の空気も支配された」という言葉を、筆者は自然とメモに記していた。

 浦谷は《水の帳の分離》を唱えることを選び、結果として光永が追加ターンを得る展開になった。

 そして、追加ターンに《約束された終末、エムラクール》を光永が唱えたことで、さらにターンの支配者が混迷していく。





 先ほどの《水の帳の分離》の効果で得た光永の追加ターン。《約束された終末、エムラクール》の攻撃で、浦谷のライフは7に。そして、再び唱えられる《水の帳の分離》。浦谷のターンは回ってきそうにない。

 《約束された終末、エムラクール》同士が刺し違え、覚醒した《森》による攻撃が通って、浦谷の残りライフは1点。

 エムラクールによる支配ターンは、《苦しめる声》によって手札の《不屈の追跡者》が墓地へ落ちる。代わりに引いたのは、《森》2枚。

 ようやく迎えた浦谷のターン。手札には《ウルヴェンワルド横断》。ここから《絶え間ない飢餓、ウラモグ》に繋げて……しかし、対戦相手の手札とマナは、あまりにも潤沢すぎる。

 ゆっくりと息を吐いて、浦谷は投了を告げた。


光永 2-0 浦谷


 対戦が終了したあと、一番最初に祝福の声をかけたのは、敗れた浦谷であった。

「おめでとうございます。楽しんできてください。東京で会ったら、声かけますね!」

 そう言いながら、浦谷は光永の手を取り、勝者を称えた。

 無論、悔しくないはずはない。荷物をまとめたあとに彼が控えめに叫んだ、

「ああー、行きたかったなぁ!」

 という声が、何よりの証拠だろう。



 勝利した光永は、「スタンダード選手権2016 Summer」の覇者、という名誉とともに、誰もが憧れる夢の舞台、アメリカ・シアトルで開催されるスーパーサンデーシリーズチャンピオンシップの参加権利を獲得した。このイベントについては、筆者がまとめた【こちらの記事】を、また、勝利した光永については、【公式のインタビュー記事】をご一読いただきたい。


 このカバレージを、そして10時間以上に渡る熱戦を締めくくるには、やはり祝福の言葉こそが、ふさわしいだろう。





 スタンダード選手権を制し、夢のチケットを獲得した光永 悠紀に、心からの祝福を!



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