準々決勝: 浅倉 拓己(神奈川) vs. 桧山 憲二(東京)

晴れる屋

By Atsushi Ito


 ヴィンテージといえば「パワー9」をはじめとする一部のカードが強力すぎてデッキのほとんどが固定パーツとなるため、デッキ構築に創造の余地が少ないと思われるかもしれない。

 しかしもとよりヴィンテージといえばスタンダード・モダン・レガシーと比べて最も広いカードプールを持つ環境なのである。対抗馬がパワー9やそれに比肩するカードのため、超えるべきハードルはそれなりに高いけれども、そこには確かにデッキビルダーが活躍する余地が存在するのだ。

 その証拠に、この第7期ヴィンテージ神挑戦者決定戦の準々決勝で向かい合う2人は、ともに非常に個性的なデッキを持ち込んでいた。

 浅倉 拓己が持ち込んだのは、「ショールポイズン」と呼ばれるモダン発祥のコンボデッキ。カードパワーの極致とも言えるヴィンテージで、「感染」クリーチャーが見られると誰が想像しただろうか?

 対する桧山 憲二は、日本レガシー選手権での優勝経験もあるレガシーを主戦場とするデッキビルダーで、今回も《鋼の監視者》《鋳造所の隊長》といったこれまでヴィンテージではあまり活躍が見られていないカードを搭載した上で、さらに白をタッチした「ハンガーバック・ワークショップ」を持ち込んでいる。

 ヴィンテージ環境に新風を巻き起こさんとする、才気溢れる2人のデッキビルダーの戦い。その火蓋が、いま切って落とされた。



Game 1


 《汚染された三角州》を置いてエンドと、ヴィンテージらしからぬ落ち着いた立ち上がりを見せる浅倉に対し、《墨蛾の生息地》《Mox Jet》《Mox Emerald》から《鋼の監視者》と一気にパーマネントを展開していく桧山。

 一見するとその動きはまるでモダンの「親和」デッキのようだが、4枚入った《Mishra's Workshop》により、1ターン目に爆発的な展開をできる確率は段違いに高い。

 だが浅倉が駆っているのも尋常のデッキではない。エンド前の《渦まく知識》で手札を整えた浅倉がフルタップで送り出したのは、《荒廃の工作員》


荒廃の工作員


 「2マナ1/1アンブロッカブル」と聞くと大したことないクリーチャーにも見えるが、このちっぽけな感染クリーチャーが攻撃に向かうとき、ややもするとゲームは終焉を迎えることもありうるのだ。

 返す桧山は浅倉の《Underground Sea》《不毛の大地》し、さらに《搭載歩行機械》をプレイして、あとは祈るのみ。

 だがメインで《Ancestral Recall》《ギタクシア派の調査》を唱えた浅倉は、整った手札を手に《荒廃の工作員》をレッドゾーンに送り込むと、ライフメモに手をかけた桧山を制して2枚のカードを公開した。


猛火の群れ刈り取りの王


 《刈り取りの王》を追放して《猛火の群れ》をプレイ。+10/+0

 それは、先手3ターン目の出来事であった。


浅倉 1-0 桧山


 「ショールポイズン」は、プロプレイヤー・Sam Blackが「モダン」フォーマットの初の公式採用となった【プロツアー・フィラデルフィア11】で持ち込み、トップ4に入賞した経歴のあるコンボデッキだ。

 《荒廃の工作員》《墨蛾の生息地》という、回避能力を持つ2種の「感染」持ちクリーチャーに、ピッチ (代替コスト) スペルである《猛火の群れ》を10以上のマナコストを持つ赤いカードをリムーブしながら打ち込み、一撃で対戦相手を葬り去る。

 モダンでは既に《猛火の群れ》が禁止のため実現できないコンセプトだが、ほぼ「なんでもあり」のヴィンテージなら、このようなデッキも問題なく使用できるのだ。


Game 2


 だが、今度は桧山が理不尽を突きつける番だった。マリガンした浅倉に対し、「X=0」の《虚空の杯》《Mishra's Workshop》《太陽の指輪》から《三なる宝球》


虚空の杯Mishra's Workshop三なる宝球


 《虚空の杯》《太陽の指輪》《三なる宝球》も、ヴィンテージでは当然制限カードである。とはいえ、1枚だけでもデッキに入っているならば、重なって引くことももちろんありうるのだ。

 思わず苦笑が漏れる浅倉。しかし浅倉にとっての悪夢はまだ終わっていなかった。

 さらに《トレイリアのアカデミー》をセットした桧山が早くも2ターン目にプレイしたのは、《磁石のゴーレム》

桧山「制限カードしか引いてないw」



桧山 憲二


 桧山にこれぞ「MUD」という動きを見せつけられた浅倉は、立て続けに2枚の《墨蛾の生息地》をセットしながらようやく3マナに到達するも、動くに動けない。

 そして返すターンには《搭載歩行機械》を「X=4」でプレイされ、ライフ10点のところに9点クロックを作られてしまう。

 3枚の土地の中にフェッチランドがあり、起動してしまうと死期が1ターン縮まってしまう浅倉は、そもそもそういう問題ではないとばかりにさっと土地を片付けた。


浅倉 1-1 桧山


桧山「でもこれらの制限カードのうち2種類は、ちょっと前まで4枚使えてましたからね……」

浅倉「そうですよね、やっぱりおかしかったんだなぁ……」

 ヴィンテージ環境は2015年10月に《虚空の杯》が、2016年4月に《磁石のゴーレム》がそれぞれ制限カードとなり、「MUD」の大幅な弱体化を招く結果となった。

 しかしそれでも桧山がこのトップ8まで勝ち上がっていることを考えると、いかに「MUD」というデッキがそれまで強力だったかがわかろうというものだ。

 そしてその「MUD」と、浅倉の「ショールポイズン」は対等以上に渡り合っている。


Game 3


 浅倉は1ターン目《Ancestral Recall》をプレイすると、「Moxがないんだよなぁ……」と言いながらディスカードする。

 続けて、桧山がセット《墨蛾の生息地》からプレイした《魔力の櫃》《精神的つまづき》すると、こちらもセット《墨蛾の生息地》から《荒廃の工作員》を送り出す。

 マナ加速の目論見が外れた桧山は、それでも《Mox Emerald》を置きつつ《エーテル宣誓会の法学者》でドロースペルの自由なプレイを制限しにかかるが、もしこの段階で浅倉の手札に《猛火の群れ》《刈り取りの王》が揃っていたならば、桧山の側にコンボを防ぐ手立てはない。

 《墨蛾の生息地》《荒廃の工作員》をレッドゾーンに送り出した浅倉は……はたして、「2毒」とだけ桧山に告げる。



浅倉 拓己


 ひとまず即死は免れた桧山だが、《魔力の櫃》をカウンターされたのが響いており、マナの伸びが3マナで止まってしまう。おまけに手札5枚がすべて2マナのカードで埋まっており、1ターン1行動しかとれない状況だ。やむなく《鋼の監視者》《電結の荒廃者》《搭載歩行機械》《アメジストのとげ》という選択肢の中から慎重に《アメジストのとげ》をプレイする桧山だが、対応して《渦まく知識》を処理されてしまう。


アメジストのとげTime Walk


 それでも、2度目の2毒アタックののちに浅倉が2枚目の《墨蛾の生息地》を置きつつ《Time Walk》をプレイしようとしたところで、《アメジストのとげ》に引っかかってプレイできないことに気づき、公開した《Time Walk》を引っ込めてやむなく《荒廃の工作員》を召喚してターンを終える。

桧山「てことは次か……」

 この一連で《Time Walk》という貴重な情報を得た桧山。事実上のラストドローで有効札が来ることを祈る……が、引けず。

 3度目の2毒アタックの後に今度こそ《Time Walk》をプレイされると、《墨蛾の生息地》2枚を起動しての4毒アタックでちょうど10毒が溜まり、ゲームの敗北が決まったのだった。


浅倉 2-1 桧山


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