準々決勝: 十文字 諒(東京) vs. 飯野 彬(千葉)

晴れる屋

By Kazuki Watanabe


 スイスラウンドが終了し、65名のヴィンテージプレイヤーは上位8名に絞られた。今回ご紹介するのは、十文字 諒(東京)飯野 彬(千葉)の一戦だ。

 飯野のデッキは『MUD』、十文字が操るのは『テゼレッター』。どちらもマジック史上に名を残す、強烈な各種アーティファクトが豊富に採用されている。

 ヴィンテージでは、一瞬の油断が命取りとなり、一瞬の好機を掴んだものが勝利する。神の座へと一歩近づくことができるのは、はたしてどちらか。



Game 1


 両者マリガンなし。


Black Lotus


 飯野の初動は《Black Lotus》。ヴィンテージを、そしてマジックを代表する1枚がマナを生み出す。続けて《エルドラージの寺院》をプレイし、早速《難題の予見者》が唱えられる。


難題の予見者


 《磁石のゴーレム》という強力なフィニッシャーが制限されて以降、《難題の予見者》をフィニッシャーに据えるタイプは少しずつ増加してきている。

 1ターン目に着地させることができれば圧倒的に有利になるのだが、これに対しては《知識の渇望》をコストに《意志の力》が飛ぶ。

 初動は止められた飯野は《Mox Sapphire》、そして《虚空の杯》をX=0で唱えてターンを終える。

 《ギタクシア派の調査》を唱えて十文字が動き出す。公開された飯野の《Mishra's Workshop》《電結の荒廃者》を確認し、次いで《Volcanic Island》から《師範の占い独楽》を唱える。


電結の荒廃者


 飯野は《不毛の大地》《Volcanic Island》を破壊し、《電結の荒廃者》。ターンを受けた十文字は《沸騰する小湖》をプレイし、《Volcanic Island》を再び戦場に出す。《アメジストのとげ》で相手の行動を1マナずつ遅延させ、《電結の荒廃者》がライフを削り始めた。

 アップキープに《師範の占い独楽》を起動し、ライブラリーのトップを確認。ドローした《トレイリアのアカデミー》をプレイして、《墓掘りの檻》が戦場に置かれる。

 その《トレイリアのアカデミー》《不毛の大地》で破壊されたことで、十文字の土地は0枚。

十文字「強いなぁ……」


三なる宝球


 十文字が呟くと同時に、戦場に並ぶ《三なる宝球》。根本的にマナが足りない状況が続く。

 《電結の荒廃者》によって1点ずつライフが削られる中、十文字はドローするのみ。

 飯野が《抵抗の宝球》によって更にマナを拘束。十文字は土地を引いてマナを伸ばすことができないため、再びドローするのみ。



 ヴィンテージというフォーマットに対して「強力なカードが並び、あっという間にゲームが決まる」というイメージを持っている読者は、ここまでの展開を意外に思われるかもしれない。もちろん、そういった「瞬殺」のゲームもヴィンテージの大きな特徴なのだが、今回は大きく異る。盤面に強力なカードが並んでいることに変わりはない。その1枚1枚によって着実にアドバンテージを稼いでいく展開だ

 そして、アドバンテージは緩やかに増加するのみではない。そのアドバンテージを爆発的に増加させることも、時に「瞬殺」を招くこのフォーマットでは可能なのだ。逆転をすることも、逆転を許さぬことも。好機を逃せば、勝利は容易に次元の彼方へと去っていく。


Mox Sapphire電結の荒廃者アメジストのとげ


 ドローのみで2ターンを終えた対戦相手の姿を、飯野は好機と見た。《Mox Sapphire》《アメジストのとげ》《電結の荒廃者》に捧げる!

 飯野の決断は正しかったようだ。十文字はドローするのみであり、潤沢になりすぎた手札から《オパールのモックス》がディスカードされる。さらに《抵抗の宝球》を供物に捧げ、《電結の荒廃者》は4/4に成長する。

 十文字はドローを確認し、ここで投了した。


十文字 0-1 飯野


十文字「最高のタイミングで《不毛の大地》だったなぁ……あれさえなければ違ったのに」

飯野「ええ、確かにそうでしたね」

 盤面を片付けながら、1ゲーム目を振り返りつつ、2人は会話を交わす。お互いが同時にサイドボードに手をかけてからもしばらく、その会話は続いた。


不毛の大地


 十文字の言葉どおり、《不毛の大地》がなければ、まったく違ったゲーム展開になったであろう。1枚のカードがゲームを左右させることはマジックの常だが、カードパワーが強大なヴィンテージではなおさらだ。あと1枚土地があれば、十文字のデッキは大きく動き出したはずである。



 後悔しても仕方がない。それは当人が一番分かっている。


十文字 諒



十文字「サイド後、2本を取れば良い」

 その言葉は力強く、シャッフルの音と共に響いた。


Game 2


 先攻の十文字は《教議会の座席》をプレイして、《師範の占い独楽》。さらに《Black Lotus》を戦場に出し、起動せずに戦場を飾らせる。

 飯野は《古えの墳墓》から《ファイレクシアの破棄者》。指定は《師範の占い独楽》だ。


Black Lotus物読み鋳塊かじり


 ここで十文字が熟考。悩んだ末、《Black Lotus》を生贄に《物読み》、そして《鋳塊かじり》《ファイレクシアの破棄者》を破壊し、《師範の占い独楽》を再び回せるようにする。

 飯野は新たなパワー9、《Mox Ruby》を盤面に。1ゲーム目と同じように、《エルドラージの寺院》から《難題の予見者》を唱えるが、やはりこれは許されない。《Transmute Artifact》をコストに《意志の力》が飛来する。ターンを受けた十文字はアップキープに《師範の占い独楽》を起動し、ドローを確認する。

 飯野は《Mishra's Workshop》を場に出して一呼吸。手札を見つめ、盤面にゆっくりと視線を落とす。


ファイレクシアの変形者


 唱えられたのは《ファイレクシアの変形者》《師範の占い独楽》に変形を遂げた多相の戦士は、ドローと引き換えにライブラリーのトップに戻って独楽としての役割を果たした。そして再び唱えられる《難題の予見者》


難題の予見者意志の力


 十文字は一呼吸置いて、《師範の占い独楽》を起動する。ファイレクシア製の紛い物に見せつけるかのようなドロー。そして《呪文貫き》をコストに唱えられたのは、《意志の力》

飯野「うーん、強い」

 そう呟きながら、飯野は《トレイリアのアカデミー》をプレイして《電結の荒廃者》。再びライフを削る準備を整える。


飯野 彬


 十文字は《沸騰する小湖》を起動して《Volcanic Island》《探検の地図》から《トレイリアのアカデミー》を戦場に並べる。更に《師範の占い独楽》を唱えて、こちらも各種呪文を唱える準備を整えていく。

 その準備を灰燼に帰すかのように、飯野は《不毛の大地》で、《トレイリアのアカデミー》を廃墟にし、再び《ファイレクシアの変形者》《師範の占い独楽》に変形させる。十文字は、ドローのみでターンを返す。



 1ゲーム目、飯野は好機を見逃さずに勝利を掴んだ。対戦相手のデッキが回っていないことを見逃さずに、《電結の荒廃者》を的確なタイミングで成長させ、ライフを詰めていった。

 現状、《電結の荒廃者》の餌はあるが、これ以降の展開ができなくなる。《難題の予見者》は着地を許されていない。このゲームを決めうるカードが、手札にはない。手札にはないのだが、ライブラリートップにあった。ドローを確認し、手札に加えると同時に、それを唱えた。


磁石のゴーレム


 《磁石のゴーレム》



十文字「ええーっ!」

 静かに進行していた準々決勝に響き渡る、悲痛な叫び。ヴィンテージというフォーマットで「制限される」ということがどれほど恐ろしいかを、この叫び声が物語っている。

 さらに次のターン、飯野のドロー&プレイは《世界のるつぼ》!墓地の《不毛の大地》《Volcanic Island》を割る!

 十文字は《修繕》《Time Vault》を場に出して、最期の抵抗を試みるが……。




《ファイレクシアの破棄者》《Time Vault》を射抜いたことで、ゲームは終了した。


十文字 0-2 飯野


この記事内で掲載されたカード