ブラフとはなにか ~どのようにブラフをし、どうやってブラフを見つけ、なぜブラフをするのか~

Kasper Nielsen

Translated by Kido Kouhei

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(掲載日 2020/6/23)

はじめに

紳士淑女のみなさんこんにちは。今日は私とブラフと呼ばれるプレイングについて考えてみよう。ブラフがマジックで使われる主な目的は、ゲーム状況に関して誤った認識を相手の脳内に作り出すことで、こっそりと自分にアドバンテージを生むことだ。

でもすべてのブラフが同じレベルの効力を持つわけではないし、同じ目的を持っているわけでもない。また、失敗したブラフが必ずしも下手だったわけでもなければ、成功したブラフが必ずしも上手だったわけでもないのだ。この記事では次の事柄についてちょっとしたガイドを提供しようと思う。

1. どうしてブラフをするのだろうか?

マジックでプレイヤーがブラフをするときにもっともよくある理由というのは、以下の3つのどれかに当てはまるとそのプレイヤーが判断したからだ。

これらがもっとも基本的なレベルのブラフで、ゲーム内において1歩リードするための小さなアドバンテージにつながり得る。しかし、マジックの試合でそこまで頻繁に用いられないタイプのブラフもあるのだ。

あまり意識的に行われることがないかもしれないが、それは情報を曖昧にするためのブラフだ。ポーカーの用語としては、こういったプレイングは特定の状況でのハンドレンジ(※1)のバランシング(※2)として説明される。直接ポーカーと同様にマジックにも適用することはできないが、こういったブラフはマジックのプレイングで強力な役割を担うことがある。

※1:ポーカー用語。プレイヤーが持ち得るであろう手札の組み合わせのこと。
※2:ポーカー用語。こちらの持ち得るハンドレンジを広げ手札の強さのバランスを取ることで、相手に手札を読ませにくくさせること。

マジックはポーカー同様、限られた情報の中で行われるゲームである。プレイヤーが一番知りたがっていることは相手のゲームプランと戦う最良の方法だ。しかし、相手の手札は非公開情報であるため、相手のゲームプランが明らかになることはほとんどない。だからこそ、マジックでもっとも強力な戦術のひとつを使うことができる。本当は存在しないのに自分の手札に特定のカード、あるいは特定の種類のカードがあると対戦相手に確信させるのだ。

ドビンの拒否権時を解す者、テフェリー

このタイプのブラフのなかで特に頻繁に見受けられるのは、ショックランドをアンタップインさせ、こちらにとって致命的な動きを相手が取り得るターンに打ち消し呪文の存在を匂わせることだ。たとえば後攻で2枚目の土地を置く際にショックランドをあえてアンタップインして、相手が《時を解す者、テフェリー》を出そうとする可能性に備えて、《ドビンの拒否権》を持っていると思わせるケースなどがある。

天頂の閃光巨大化

このようなプレイはほかのいろいろな状況でも使える。サイクリングデッキで4マナ立てておくことで《天頂の閃光》があると見せかけて、相手にマナを使いにくくさせるといったプレイや、コンバットトリックを持っているかのような攻撃を仕掛けて、相手が誤解したその情報をゲーム中ずっと利用できたりもする。

誤った指図

同じ理由で物理的ブラフと呼べる最後のタイプのブラフも存在する。相手プレイヤーが攻撃しようとするときに、ペンをいじったり持ったりして攻撃がブロックされずに通るという錯覚を与える、古くからあるペン・トリックのことはみんな聞いたことがあると思う。

この最後のタイプのブラフは、マジックをプレイしているときやストレスを感じているときに人々が見せる自然な所作をまねて行われる(溜息やしかめっ面などもだ)。マジックのコミュニティー内では、こういったブラフは卑怯だったり不正だったりするのではないかと長年議論されてきた。でもその根底にあるのは、相手に状況を誤認させるために、誤った自分の心理状態を示しているだけだ。

この動機はマジックの試合で使われるほとんどすべてのブラフの根幹にあるものだが、ブラフを上手くやり遂げて成功させるために必要な条件はなんだろうか?

2. 「良い」ブラフの作り方

すべての上手なウソのように、すべての上手いブラフの中核には同じものがある。それは筋の通った話であるかということだ。ポーカーでブラフが失敗するもっともよくある理由は、ブラフの道中で自分が語っている物語の整合性に不一致があって、何かが噛み合っていないケースであり、これはマジックでも同じだ。

マジックの試合中にブラフを上手く機能させるためには、ブラフで相手に提示している物語が筋の通るものでなければならない。筋が通らなくなった瞬間、今度は相手が理屈の不整合性に気づかないことに頼るしかなくなるが、相手が上手ければ上手いほどそれに気づいてしまうのだ。

実践的にこれは何を意味するだろうか?ゲームによってこれはいろいろな異なることを意味する場合があって、それがマジックで「プレイングの流れ」という用語が良くつかわれる理由だ。誰かが「プレイングの流れ」を選ぶたびに、あるブラフは説得力を増し、ほかのブラフは説得力を減らす。

ドビンの拒否権神聖なる泉神秘の論争

たとえば2ターン目にショックランドをアンタップインして青い3マナのプレインズウォーカーに対する解答として《ドビンの拒否権》があると匂わせたら、2ダメージを受けずに唱えられた《神秘の論争》を持っている可能性は低くなる。その逆もしかりだ。ブラフをやるときには、それまでの「プレイングの流れ」と矛盾しないもので、相手にとって意味が通るものとなり、相手に提示している物語が真実だと感じさせないといけない。

ブラフが有効になるためにはもうひとつ必要な条件がある。ゲーム内容として相手にブラフを受ける余地が存在していないといけない。もしブラフで匂わせているカードが相手にとって対抗不可能なものであったり、相手を致命的に不利にするがケアしようがないものだったりする場合、そのカードをブラフするのはあまり意味がない。

それはなぜだろうか?もしこちらがそのようなカードを持っていたらどうやっても負けるのであれば、相手はそれを回避して立ち回っても敗北に向かうシナリオを突き進むだけだからだ。したがって、ブラフの大小にかかわらずブラフをかけようとするならば、相手がブラフを許容できる状況でなければならないことを忘れてはならない。

黎明をもたらす者ライラケンタウルスの狩猟者

さて、これは実際にはどういうことだろうか?シンプルな例としてリミテッドでの盤面を考えてもらうと、相手がフルタップで《黎明をもたらす者ライラ》をプレイしたとしよう。こちらには《ケンタウルスの狩猟者》がいて、相手のライフが16ある状態で《ケンタウルスの狩猟者》で攻撃したとする。

すると相手は、非常に強力な《黎明をもたらす者ライラ》を生かしておくことに比べれば3点のライフなど取るに足らないと考えブロックしてこないだろう。ただもしこれが相手のライフが5であると仮定するならば、突然この理屈は崩壊して、コンバットトリックがあれば負けてしまうからブロックしない理由がなくなるのだ。これは状況の違いによる相手のプレイの変化についての初歩的な説明だが、大事な基本レベルでもある。

3. ブラフの見つけ方

綿密な分析

ブラフを有効なものにする方法とそれを成功させやすくするためにやれることを確認したから、今度はテーブルの反対側から見てみよう。相手がブラフをしているかどうかを分析するために何に着目すべきかを考えてみることにする。

まずこれを言うと失礼に感じる人もいるかもしれないが、もしあなたが相手の所作から情報を読み取る経験に長けていないのならば、そういった方向性は無視してしまったほうがいい。目の前の個人のちょっとした所作から多くの情報を引き出すことができる、この分野で卓越したスキルを持っている人たちが存在していることは確かだ。でも自分も含めて多くの人たちはこういった人物ではなくて、正直に言えば、相手の所作から情報を引き出す経験が十分なければ、導きだした情報から得たメリットと最低でも同じくらいのデメリットを受けるだろう。

立腹ドビンの拒否権否認

その場合は相手の所作を見る代わりに、相手との過去の対戦の中にあるプレイパターンに着目したほうがいい。論理的に考えれば必ずしもコンバットトリックを持っているとは限らないのに、その相手は特定のゲーム状況で必ず攻撃をしかけてくるのだろうか?論理的に考えれば半分くらいの確率でしか《ドビンの拒否権》《否認》を持っているとは限らないのに、いつも2ターン目にショックランドをアンタップインさせているだろうか?

これらのすべては、ブラフかどうかを確認するためにアクションを起こすかどうかの判断に寄与するものだ。対戦相手がゲーム中、あるいは数ターン内に起こしたプレイングの流れに注目してみて、今行ったプレイングと矛盾はないだろうか思い出してみよう。もし矛盾があるなら、ブラフを目撃しているのかもしれない。もし矛盾がないならば、強力なブラフを目撃しているか、またはより可能性が高いこととして、単純にブラフでもなんでもなく特定のカードを持っているから正直なプレイをしていると考えられるだろう。

4. 実際に起こったブラフ事例の分析

さあ、ここで実際に起きた大胆なブラフを見てみよう。ミシックチャンピオンシップVIの準決勝でパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor damo da Rosaセバスティアン・ポッツォ/Sebastian Pozzoと戦った。この試合には近年のマジックで一番大胆で、かつ最高のステージで行われたブラフが含まれている。

では、このブラフを分析することに挑戦してみよう。

まずこの動画以前に起こったことだけど、パウロは5枚までマリガンしている。彼を即敗北させるわけではないけど、こういうゲームでのダブルマリガンは、すべての状況で可能な限りバリューを最大化していかないと勝つことは難しいということだ。

島意地悪な狼

パウロは《世界を揺るがす者、ニッサ》でクリーチャー化した《島》《王冠泥棒、オーコ》に攻撃を行った。これは本質的にはブラフなのだけど、ゲームの展開的に矛盾していないこととしてセバスティアンの《意地悪な狼》とトレードしたがっているように見える。パウロがこの瞬間に実際に何を考えていたかは知らないけど、私の予想としては長期的にみてゲームの勝利に近づくためには、このタイミングで《王冠泥棒、オーコ》から忠誠度を3削ることが必要だとパウロは感じていたのではないだろうか。

老いたる者、ガドウィック熟考漂い

この理屈は彼の置かれている状況に沿ったものであるが、《島》で攻撃するリスクはとても大きい。《島》を失っても《老いたる者、ガドウィック》をX=2で唱えることはできるから動画で言われているほどは悪いわけではないのだけど、《老いたる者、ガドウィック》が勝利を約束するカードから無難な《熟考漂い》にまで落ちてしまう。ゲームでかなりの優位を得られるはずが、互角になるくらいだ。この試合では、お互いのデッキリストをプレイヤーが確認しているということも言っておく必要がある。

楽園のドルイド意地悪な狼島

しかし、このブラフ全体の様子はどうだろう?実際にこのブラフには意味があるのだろうか?パウロがこの動画で展開したブラフは、セバスティアン側から見たらパウロが《島》《意地悪な狼》をトレードしたがっているということだけど、いくつかの事柄がこの物語と相反する。

まず第一に、パウロは5枚までマリガンしているので、相手の《意地悪な狼》に前のターン格闘で落とされた《楽園のドルイド》とこのターンに攻撃した《島》との2:1交換をさせてしまうのはゲームの勝利から大幅に遠ざかっているように思えるということだ。

世界を揺るがす者、ニッサ王冠泥棒、オーコ

2つ目にパウロは、《世界を揺るがす者、ニッサ》を起動して2つの土地で《王冠泥棒、オーコ》を攻撃して落とせる可能性があったところを1つの土地でしか攻撃していない。これは、セバスティアンにとってブロックしないことを少し許容できるようにしている。

ハイドロイド混成体

3つ目として、《世界を揺るがす者、ニッサ》を起動してから攻撃しなかったということは、パウロが戦闘後メインフェイズでマナを使う計画を持っていそうだということを示している。《島》を失ってもパウロが6マナで《ハイドロイド混成体》を唱えられる状況で、それをケアする必要性は低いことは言っておかなければならない。

これらすべてに言及した上で、それでも《王冠泥棒、オーコ》を落とせる可能性があるのに《世界を揺るがす者、ニッサ》を起動してから攻撃しなかったことは、私にこの攻撃が怪しいと思わせる要因だ。結論としてはパウロのこのブラフはあまり好きではない。パウロのブラフはこのケースでは成功したけど、《王冠泥棒、オーコ》に3点ダメージが入るメリットと比べてデメリットが大きすぎると考えている。ブラフも怪しく、十分ブロックしてもいいように思えるから、対戦相手はなにか胡散臭いと思ってブロックすべきだったと思う。

島

でも、このブラフが機能したのはなぜだろう?ブラフが上手く行った理由は3つあると思っている。1つ目としてセバスティアンは《ハイドロイド混成体》をX=5で唱えられることはX=4で唱えられることより大して悪いとは言えず、《島》はそれに関して大きな意味がないと気づいたのだろう。

選択

2つ目にこの記事で書いた理由を通して状況は十分怪しかったと思うけど、実戦でそれに気づこうと思うと数分かかったのかもしれない。私は数か月これについて考えられたけど、セバスティアンは1分か運が良くて2分くらいで決断しなければならなかった。

3つ目にこれは頻繁にみるプレイングではなくて、パウロが取ったリスクを取るプレイヤーはほとんどいないだろう。究極的にはブラフもブロックしなかったことも間違いだとは思うけど、両方の側の理由もわかる。

総括するとこのプレイングに関しての私の結論は、パウロはするべきでない攻撃をした、というものだ。あの攻撃はゲームの多くの展開にとってはほとんど影響していない。でもパウロは多くのシナリオを頭の中で思い描いていて、攻撃しないより攻撃したほうがいい結果に結びつくと思ったのだろう。

セバスティアンがブロックしなかったことについては、セバスティアンは状況に惑わされてしまって、パウロの攻撃の裏の真意を知るのに苦しみ、より安全な選択肢だと思ったほうを選んだのだろう。トレードをしなかったことは完璧な分析ができる世界では間違いだと思うけど、セバスティアンは私みたいに数時間動画を見て考える時間はなかったんだ。

おわりに

それでは、すべてをまとめて読者のみなさんに一礼して終わるとしよう。

この記事が良いブラフをする方法とブラフを見つける方法について少しばかりの知識を提供できていたらいいね。記事の中の考え方を利用してみんなが見破ったブラフの話を将来聞けることを楽しみにしているよ。

最後までお読みいただきありがとう!

カスパー・ニールセン (Twitter)

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Kasper Nielsen カスパー・ニールセンはデンマーク出身のプロプレイヤー。小さなころから大舞台での成功を夢見ていたニールセンは、グランプリ・ユトレヒト2017で自身初となるトップ8進出を果たすと、後にチームメイトとともにグランプリ・リヨン2017でもトップ4に入賞。プロツアー『ラヴニカのギルド』ではボロスアグロを駆り、念願のプロツアー決勝ラウンドへとたどり着いた。 Kasper Nielsenの記事はこちら