Deck Tech:宮田 健太郎のアゾリウスフライヤー
晴れる屋メディアチーム
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『基本セット2021』が遂にリリースされ、さまざまなデッキがスタンダードへと現れている。なかでも各種ランプデッキたちは《精霊龍、ウギン》を獲得したことで、明確にゴールが定まったことになる。《成長のらせん》《自然の怒りのタイタン、ウーロ》がデッキレシピの一角を占める日々は、まだまだ続くだろう。
しかし、《精霊龍、ウギン》へと立ち向かうプレイヤーがいた。
初陣戦に指定席を持つとまでいわれる宮田 健太郎だ。『ラヴニカのギルド』環境初陣戦の覇者であり、これまで初陣戦におけるトップ8入賞回数は3回と抜群の勝負強さをみせる。スキルもさることながら、注目すべきは宮田のデッキである。アゾリウス星座、アゾリウスフライヤーと実に独創的なデッキを持ち込み結果を残しているのだ。
今回はアゾリウスフライヤーを選択しているが、『基本セット2020』初陣戦のアップデート版ではなく、まったく異なった戦略のデッキらしい。
トップ8を決めた宮田へ話を伺うと、懇切丁寧に説明してくれた。
――今回のアゾリウスフライヤーはどのように作成されたのか、経緯について教えていただけますか?
「去年の初陣戦でデッキの原型はあったので、『基本セット2021』のカードリストを見て再構築を決意しました。元々デッキを作るのが好きですし、このデッキにも強い思い入れもあったので。それに、環境初陣戦は好きなデッキで戦いたいですしね」
「最初は前回のものをアップデートしている程度だったのですが、ある時にGabriel Nassif選手が使用していたアゾリウスフライヤーに《天球の見張り》が入っているのを知ったんです。そこからインスピレーションを受けて使ってみると、思った以上に強くどんどん枚数が増えていきました。ここで今回のデッキへと方向性が決まりましたね」
「これまで戦績を残してきたこともあって、初陣戦にはこだわりがあるんです。それこそ一番勝ちにこだわっている大会かもしれません。今回は1カ月くらい前から6人で調整を続け、初陣戦には自分を含め3人がアゾリウスフライヤーを選択しました」
――同じアゾリウスフライヤーのように思えますが、前回のデッキとは何が違うのでしょうか?
「前回のデッキは《天空の刃、セファラ》と《翼の結集》を全面に押し出した、横に展開するビートダウンデッキです。そのためマナカーブを切り詰めて、1マナからテンポよく展開して一気に押し切るデッキでした」
「それに対して今回のデッキは軽量の飛行クリーチャーとカウンターを組み合わせたクロックパーミッションになります。大雑把なデッキの動きとしては1~3ターン目は展開しそれ以降はカウンター構える感じです」
――大分方向転換したようですが、生まれ変わったアゾリウスフライヤーのキーカードについて教えてください。
「新しいマルチカード2種類、《空猫の君主》と《天球の見張り》がキーカードになります。パッと見るとマナカーブよく並べて《天穹の鷲》で強化するように見えますが、このデッキの主役はこの2枚なんですよ」
――どちらも飛行クリーチャーをダンプすることで打点をあげてくれるカードたちですね?
「そうですね。このデッキは2マナを起点として攻めるデッキになります。2ターン目にこれらを展開し、3ターン目から1マナクリーチャー+カウンターや4ターン目に1マナクリーチャー×2+2マナスペルのように2+αで動けるように構築されています。2マナのカードの組み合わせで動けるようになっているので、再現性も高く相手もケアしきれません」
――実際に《空猫の君主》《天球の見張り》はダメージレースでアグロデッキに競り勝てるのでしょうか?「《空猫の君主》は1/1と侮らないでください。飛行クリーチャーを並べるだけで、自然と打点が上がっていきます。実際に予選ラウンドでは赤単相手にダブルマリガンながら《猫の君主》でビートダウンを完遂したほどです!」
「《天球の見張り》も打点が上がりますが、もう一点重要な役割があります。飛行クリーチャーのコストを軽減できるんです。《天穹の鷲》や《厚かましい借り手》とかみ合いますが、これはサイドボード後に重要な効果なんです(※後述)」
「また、このデッキの動きは2マナが起点になっています。4ターン目も2マナの追加クリーチャーと《高尚な否定》を構えるみたいに。この動きが実現できるのも《天球の見張り》のおかげです」
――因みに《天穹の鷲》はいつ出すのでしょうか?
「《天穹の鷲》はカウンターを構えるくらいマナに余裕があるときや勝つために打点不足のときだけです。出して隙をつくってしまうなら、我慢してカウンターを構えます。3マナで止まっていたら出さないときもありますね」
――メインボードに3種類の1枚差しがありますが、なぜこのカードを選択したのでしょうか?
「今回調整するなかで、1つのボーダーを設けました。目標はトップ8なのか、それとも優勝なのかと。トップ8を目標とした場合は予選ラウンドでアグロデッキを取りこぼさないように《紋章旗》と《ドビンの拒否権》を《送還》に、サイドの《神秘の論争》と《唱え損ね》も《敬虔な命令》3枚にしますね」
「でも、僕は優勝したい。だからこれらのカードを選択しました。決勝ラウンドにはアグロの海をかき分けてきたコントロール/ミッドレンジが多いだろうと読みました。それこそ前回は準決勝で中道 大輔さんに見事にやられてしまったので、メインボードからよりコントロールを意識した構築にしています。《翼ある言葉》は23.5枚目の土地として換算していますね」
――では、《紋章旗》はいかがでしょうか?
「先ほど説明した通り、このデッキの動きは2マナが起点になっています。《紋章旗》も4ターン目にキャストすることで、2マナを揃えるながら打点とマナを伸ばせます。とにかく2マナの動きが多いので、1枚差しのカードたちは動きを阻害しないように2マナとして扱えるカードを選びました」
――まだ新環境は始まったばかりですが、どのようなデッキを想定していましたか?デッキ相性についても教えてください。
「アーキタイプはクロックパーミッションに位置するため、ティムール再生とランプ全般に有利なデッキです。逆に自分よりも軽い赤単などのアグロデッキは苦手になりますね。緑単はいけますが、アクションが軽いとカウンターが有効に使えず不利です。なのでサイドボードはかなり工夫を凝らしました」
――サイドボードは4枚の《悪斬の天使》が目を引きますが、どのようなマッチで使うのでしょうか?
「《悪斬の天使》はアグロ全般に対してサイドインします。土地の枚数と不釣り合いに思うかもしれませんが、《天球の見張り》によって実質4マナのカードとなります。これと《紋章旗》のおかげで、サイドボードに追加の土地を用意しなくてもなくても《悪斬の天使》を運用できるんです」
「《悪斬の天使》は《天空の刃、セファラ》と違い複数並べることが可能で、強固な壁役になってくれます。これで相性の悪いマッチも改善しています」
――確かにアグロデッキ相手に5/5、絆魂は頼もしいですね。「無意味と思われがちな「プロテクション(デーモン)(ドラゴン)」ですが、今のスタンダードではかなり活きる能力となっています」
「覚前 輝也選手の黒単アグロの《悪魔の抱擁》、イゼットスペルの《スプライトのドラゴン》、ジャンド城塞の《フェイに呪われた王、コルヴォルド》とどれもデーモンかドラゴンであり、突破されません。」
――なるほど。流行のデッキやカードに対して「プロテクション」がかみ合っているんですね。ほかにもサイドボードを使うポイントがあれば教えてください。「サイドボードのポイントは《非実体化》をサイドアウトすることにあります。メインボードでは広く使えるユーティリティスペルを優先しますが、サイドボード後は《霊気の疾風》など的確に刺さるカードへと入れかえますね」
「《唱え損ね》は《空の粉砕》と3マナのリセットスペル、具体的には《炎の一掃》を見ています。インスタントでのリセット呪文は厳しいため、増量してもいいかもしれません」
――見慣れないカードとしては《空の縛め》がありますが、これはどのように使うのですか?
「これはスタンダードのパス(《流刑への道》)ですね。このデッキは飛行ばかりなので防衛を持たれようがなんのデメリットもありません」
――最後になりますが、このデッキを使ううえでのアドバイスをお願い致します。
「まずは2マナの動きを意識すること。《空猫の君主》《天球の見張り》を中心に2+2の組み合わせでプレイし、古のフェアリーやCaw-Bladeよろしく攻めながらさばいていきます」
「次にタップアウトを恐れない。常にカウンターを構えながら円滑な展開はできません。場合によっては割り切ってフルタップで展開する必要があります。この見極めが重要になってきます。これは相手によって違うため、メタゲームに存在するデッキとこのデッキが苦手とするカードを把握すべきです」
「具体的にあげるなら《空の粉砕》と《精霊龍、ウギン》ですね。極論ですが、これらさえ打ち漏らさなければフルタップにしても問題ありません」
――盤面を維持できればということですね。ありがとうございました。アゾリウスフライヤーを手に、『基本セット2021』環境初陣戦の決勝ラウンドへ挑んだ宮田。マジックの世界は無常であり、今回はマナスクリューにより準決勝で敗北となってしまった。次回の初陣戦こそ、新たな相棒を手に優勝を勝ち取ってくれるだろう。
それこそ環境初陣戦に限った話ではなく、大会の数だけチャンスはある。しかし、ただ勝つことのみがマジックの楽しみ方すべてではない。宮田が教えてくれた「自分が作ったオリジナルデッキ使い勝利を目指す」というデッキ構築の原点そのものに違いなかった。