USA Modern Express vol.43 -アーカムの天測儀はモダンを去り-

Kenta Hiroki

はじめに

みなさんこんにちは。

アーカムの天測儀

7月13日に禁止制限告知があり、モダンでは《アーカムの天測儀》が禁止カードに指定されました。

能力は地味に見えますが非常に強力なカードで、このカードによる安定したマナ基盤を活かして、優秀な多色カードを採用したコントロールデッキが成績を残し続けていたのです。さらに、キャントリップとしても機能するのがあまりにも効率的だったため、基本的に青いフェアデッキを使う場合は《氷牙のコアトル》《自然の怒りのタイタン、ウーロ》といった多色カードを利用したSnow Controlほぼ一択という状況でした。単純なカードパワーよりも多様性を考慮した判断だったと思います。

さて、今回の連載では禁止改定後にマジックオンライン(以下:MO)で開催された大規模なモダンのイベントであるModern Champsの入賞デッキを見ていきたいと思います。

Modern Champs #12182511
Eldrazi Tronが禁止改定後の大規模なイベントを制する

2020年7月19日

  • 1位 Eldrazi Tron
  • 2位 Azorius Stoneblade
  • 3位 Bant Stoneblade
  • 4位 Jund Death’s Shadow
  • 5位 Izzet Prowess
  • 6位 Amulet Titan
  • 7位 Gruul Prowess
  • 8位 Reclamation Control

トップ8のデッキリストはこちら

禁止改定直後にMOで開催され、PTQも兼ねたこのイベントは、参加者460名以上でスイスラウンド10回戦+プレイオフという長丁場でした。

《アーカムの天測儀》が禁止になっても前環境から引き続きSnow Controlを使っているプレイヤーも見られましたが、このカードが抜けた穴は大きく、勝ち切れなかったようです。Snow Controlに変わる青ベースのコントロールとして台頭してきたのは、青白純正のStonebladeと前環境でも使用者が増えつつあった《荒野の再生》をフィーチャーしたコントロールデッキでした。

ほかにもプレイオフの結果は新環境らしく、Amulet Titan、Izzet Prowess、Eldrazi Tron、Death’s Shadowなどコンボやアグロなど様々なタイプのデッキが勝ち残っていました。

デッキ紹介

「Eldrazi Tron」「Izzet Prowess」「Azorius Stoneblade」「Reclamation Control」

Eldrazi Tron

環境問わず常に一定以上の成績を収めているデッキで、新環境でも有力視されていたデッキのひとつです。

《エルドラージの寺院》を利用して強力なエルドラージクリーチャーを高速展開していき、無色スペルが中心で色の制約を受けないため《爆発域》《屍肉あさりの地》といった便利な無色マナ土地を無理なく運用できます。

トロンランドを採用しているので、大量のマナを活かして《大いなる創造者、カーン》《人知を超えるもの、ウギン》といった強力なカードで相手を圧倒していくプランもあります。《エルドラージの寺院》からスタートできるか、3ターン目にトロンランドが揃う初手が理想的で、積極的にマリガンをしていくことが重要になります。

☆注目ポイント

作り変えるもの難題の予見者現実を砕くもの

このデッキの主力となるカードをご紹介します。《作り変えるもの》は追放されない限り除去されてもアドバンテージを取ることができ、ブロッカーとしても優秀です。《難題の予見者》はコンボやコントロールに対する妨害手段として機能しつつ、4マナ4/4とサイズ面でも優秀で、《エルドラージの寺院》を利用することで最速2ターン目に出すことができます。《現実を砕くもの》はトランプル持ちであり、除去を2枚消費させることができるので相手にとっては厄介なクリーチャーとなります。

虚空の杯

モダンの多くのデッキは効率性を重視して1-2マナのスペルを多用しているので、X=1で設置することで機能不全に陥らせることができます。特にMono Red ProwessやBurnとのマッチアップで有効です。

精神迷わせの秘本

《精神迷わせの秘本》は『基本セット2021』から登場した新カードで、序盤はドローの質を向上させ、中盤以降はカードアドバンテージ源になります。ライフゲインもできるので、BurnやMono Red Prowessとのマッチアップで火力によって止めを刺されることも少なくなります。枠を確保するために役割が被るところが多い《精神石》が抜けています。

Azorius Stoneblade

《アーカムの天測儀》禁止前の環境では、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》《氷牙のコアトル》といった強力な青緑のカードにアクセスできるBant(またはSultai)を選択しない理由が見当たりませんでしたが、《アーカムの天測儀》が禁止になったことで、青白の純正のコントロールにも再び注目が集まりました。

石鍛冶の神秘家

Stonebladeは2019年8月30日(MOでは8月26日)に《石鍛冶の神秘家》の禁止が解除されて以来、環境のベストデッキとまではいかないもののコンスタントに結果を残していました。2019年は強力なカードが立て続けに登場し、環境の多くのデッキが強化されましたが、このデッキも例外ではありません。

時を解す者、テフェリー否定の力神秘の聖域

《石鍛冶の神秘家》《精神を刻む者、ジェイス》を軸にしたStoneblade戦略に『灯争大戦』以来、《時を解す者、テフェリー》《否定の力》《神秘の聖域》など新セットがリリースされる度に戦力が追加されて強化され続けています。

サメ台風

2020年になってもそれは変わらず、『イコリア:巨獣の棲処』からも《サメ台風》という新戦力を獲得し、Stonebladeは《アーカムの天測儀》禁止後のモダンのリーグでも好成績を残しており、今大会ではプレイオフに2名のプレイヤーを輩出しました。

☆注目ポイント

時を解す者、テフェリー

厄介なパーマネント対策、カードアドバンテージ、インスタント対策など、青白系コントロールの定番カードとして定着している《時を解す者、テフェリー》は、このデッキでは《饗宴と飢餓の剣》などを装備したクリーチャーの攻撃を確実に通す手段となります。

神秘の聖域謎めいた命令大魔導師の魔除け

Bant Snow Controlと同様に《神秘の聖域》は、《謎めいた命令》《大魔導師の魔除け》といった強力なスペルを使いまわすことによってゲーム終盤をコントロールする流れを作り出します。《謎めいた命令》《神秘の聖域》によるコンボはデッキによっては対策が困難で、この状況に持ち込むのがこのデッキを使う上での目標のひとつとなります。

サメ台風

『イコリア:巨獣の棲処』から登場した《サメ台風》は、序盤ではキャントリップとしてデッキの安定性を支え、中盤以降はフィニッシャーとしても機能するフレキシブルなカードです。トークン生成は装備品を搭載したこのデッキと相性の良いカードで、特に土地をアンタップする《饗宴と飢餓の剣》との組み合わせが強力です。

夢を引き裂く者、アショク霊気の疾風儀礼的拒否

サイドボードの《夢を引き裂く者、アショク》は、墓地対策になるだけでなく、相手のサーチを封じることができるためTitan系を始めとした様々なデッキとのマッチアップで活躍します。

《霊気の疾風》《原始のタイタン》やMono Red Prowessに対する軽い除去、時間稼ぎとして機能する優秀なスペルで、最近では定番のサイドボードカードとなっています。《魂の洞窟》からキャストされた《原始のタイタン》も対策できるため、《軽蔑的な一撃》よりも優先される傾向にあります。ほかには、Eldrazi Tronなどトロンランドを使うデッキは苦手なマッチとなるので、《儀礼的拒否》が採用されています。

Izzet Prowess

果敢持ちのクリーチャーを火力を始めとした効率的なスペルでサポートしていくMono Red Prowessをベースに、青のキャントリップスペルと《スプライトのドラゴン》、カウンターを足したデッキで、Mono Red Prowessの一貫性と爆発力を維持しつつ選択肢の幅が広がっているのが特徴です。

『基本セット2021』から《嵐翼の精体》が登場したことによってデッキが強化され、トーナメントレベルのデッキとしても認識されつつあります。

☆注目ポイント

スプライトのドラゴン嵐翼の精体

『イコリア:巨獣の棲処』から登場した《スプライトのドラゴン》は、軽いスペルを多数搭載したテンポ重視のデッキにおいては、ほかの同コストのクリーチャーをサイズ面で圧倒します。

『イコリア:巨獣の棲処』リリース直後の環境は「相棒」のルール変更前だったので、《夢の巣のルールス》を「相棒」にしたデッキで採用されて結果を残していました。「相棒」のルール変更後は特に目立った活躍はしていませんでしたが、『基本セット2021』で《嵐翼の精体》が登場したことによって再び上位で見かけるようになりました。

魔力変はらわた撃ち変異原性の成長

《嵐翼の精体》は回避能力、「果敢」、ドローの質を向上させる場に出たときの能力と一通り揃っているクリーチャーで、軽いスペルを多用するこのデッキではコストパフォーマンスに優れます。《魔力変》《はらわた撃ち》《変異原性の成長》などのおかげで、高い確率で《嵐翼の精体》を2ターン目に展開することができます。

霊気の疾風呪文貫き

また、赤青の2色にしたことで《霊気の疾風》《呪文貫き》といった軽いカウンターやバウンススペルが使えるようになるなど、サイドボードの質が向上しています。

Reclamation Control

スタンダードを支配している《荒野の再生》は、モダンでも通用する戦略のようです。SultaiやTemurなどのバリエーションが見られるデッキで、今大会でプレイオフ入賞を果たしたバージョンはTemurでした。

荒野の再生運命のきずな

軽い除去やカウンターなどで時間を稼ぎ《成長のらせん》《自然の怒りのタイタン、ウーロ》でドローを進めつつ土地を伸ばしていき、最終的に《荒野の再生》《運命のきずな》で追加ターンを可能な限り得て勝利します。

カードアドバンテージを獲得する手段が豊富なので、Urza、Jund、Snow Controlなど環境のほとんどのミッドレンジに有利が付きます。妨害をカウンターに頼っているため《魂の洞窟》を使ったデッキ(Humans、Titan系など)は苦手なマッチアップになります。また、BurnやMono Red Prowessのように速攻でライフを攻めてくるデッキも相性の悪いマッチとなります。

☆注目ポイント

荒野の再生

《謎めいた命令》など強力なインスタントスペルを多用するコントロールにとって、土地をアンタップさせる《荒野の再生》強力なマナ加速として機能します。単純に行動回数が倍になり、過去のスタンダードで活躍した《運命のきずな》とのコンボも健在です。

嘘か真か

『モダンホライゾン』から再録された《嘘か真か》は、《精神を刻む者、ジェイス》《謎めいた命令》など4マナ域に競合するスペルが多かったこともあり、特に目立った活躍はしなかったスペルでしたが、《荒野の再生》のおかげで強力なアドバンテージ源として機能します。《自然の怒りのタイタン、ウーロ》との相性も抜群で、必然的に墓地に十分なカードも落ちるので「脱出」もしやすくなります。

レンと六番

Temurバージョンを選択するメリットのひとつとして、《レンと六番》を使えることが挙げられます。《爆発域》《廃墟の地》といった土地を再利用することができるようになり、特にサイクリングランドの《ケトリアのトライオーム》を再利用することでカードアドバンテージを稼げます。

総括

アーカムの天測儀

《アーカムの天測儀》が禁止されたことで、Snow ControlやUrzaといったデッキは安定性の面で大きく弱体化したため上位から数を減らしました。青ベースのコントロールは多色化する際のリスクが大きくなったため、クラシックな青白にシフトしているようです。また、禁止改定によるメタの変化と『イコリア:巨獣の棲処』によって強化されたStonebladeが復権してきています。

以前から結果を残していたEldrazi Tronは、新環境においても強さを維持しており今後もよく見られるデッキとなりそうです。

《アーカムの天測儀》禁止後のモダン環境はまだ始まったばかりで、今後も各デッキのリストが洗練されていくことで環境が変化していくことが予想されます。

USA Modern Express vol.43は以上です。それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいモダンライフを!

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Kenta Hiroki アメリカ在住のプレイヤー。 フォーマットを問わず精力的に活動しており、SCGやグランプリの結果などからグローバルな最新情報を隔週で発信する「USA Modern Express」「USA Legacy Express」を連載中。 Kenta Hirokiの記事はこちら