初日の朝。The Last Sun 2016の参加者で、晴れる屋トーナメントセンター内は溢れかえっていた。
今、残っているものは、フィーチャーテーブルに座るこの4名のみ。
お送りするのは、準決勝。三宅 恭平(東京)と、加藤 健介(東京)の一戦だ。
まずは、試合前のやりとりからお届けしよう。The Last Sun 2016の決勝ラウンドでは、お互いのデッキリストを公開し、スイスラウンド上位者がフォーマットを決める。そのため、「どちらのフォーマットが選ばれるのか」が、一つの見所なのだ。
加藤「デッキ、見てもいいよ」
三宅「ああ、こっちのもどうぞ?」
リストのみでなく、デッキ自体を交換し、じっくりと1枚1枚を確認していく。三宅使用するモダンのデッキを見て、加藤は思わず声をかけた。
加藤「チャンドラ、3枚も入ってるの?」
『カラデシュ』で登場した、《反逆の先導者、チャンドラ》。スタンダードのみならず、モダンでも活躍の場を広げつつあるのだが、三宅の「ブルームーン」にも採用されている。
三宅「単純に強いからね」
三宅は、加藤の持ち込んだ「ジャンド」のデッキリストを見つめたまま、静かに答える。
加藤「チャンドラはきついなぁ……あれ? このカードはなんだっけ?」
準決勝という緊迫した場ではあるが、そこから両者は会話を続ける。しかしこれは、ただの雑談ではない。互いのデッキに採用されたカードについて言葉を交わしながら、両者は戦略を練り続けているのだ。
加藤「4、2、2か」
と、三宅のデッキに採用されているクリーチャーの枚数を口に出して確認していることからも、すでに戦いが始まっていることは明らかである。時間をたっぷりと使って、何度も何度も2つのデッキに目をとおす。
選択権を持つのは、スイスラウンドを1位で通過した三宅。「もう悩んでも仕方がない」と諦めたようにつぶやいてから、こう告げた。
三宅「モダンだ」
Game 1
ダイスの結果、先手は三宅。
三宅「んー……マリガン」
対する加藤は即座に「キープ」と返答。
1ゲーム目は、速やかに進行していく。三宅は《蒸気孔》からスタートし、《沸騰する小湖》から《島》、《血清の幻視》、そして3ターン目に《血染めの月》を唱える。
《怒り狂う山峡》、《血染めのぬかるみ》と動き出していた加藤も、
加藤「来ると思ったよ……」
とつぶやいた。
三宅は土地を伸ばして、《ピア・ナラーとキラン・ナラー》。エンドフェイズに加藤の《終止》で除去されてしまうが、2体の飛行機械トークンが残り、次のターンから加藤のライフを削り始める。
《稲妻》で1体のトークンは除去されてしまうが、残る1体は遮るもののない空を飛び続け、1点ずつライフを削っていく。三宅はさらに《祖先の幻視》を唱えて、ドローを確約。《血染めの月》によってマナが膠着している加藤は、ただ土地を伸ばすのみ。
そして三宅が唱えたのは、ゲーム開始前に話題になった、《反逆の先導者、チャンドラ》だ。
ここから、《稲妻》、《反逆の先導者、チャンドラ》、《瞬唱の魔道士》とデッキトップを火力に変換し続ける。
加藤が唱えた《闇の腹心》を意にも介さず、プレイヤーを対象とする《稲妻》。そしてそれが《ゴブリンの闇住まい》によってフラッシュバックされ、加藤のライフを削りきった。
三宅 1-0 加藤
《血染めの月》により、動きを大きく制限された加藤。2ゲーム目は、まだサイドボードを使用しない。先手後手を入れ替えた形で始まることになる。
シャッフルの際、手元を見ないようにする両者。必然的に、隣のテーブルが目に入る。もう一つの準決勝、木原と清水の一戦だ。
誰がこのトーナメントの覇者となるのか。それは、現段階では分からない。しかし、この4名の中から覇者が出ることだけは確かである。
こちらの両者がマリガンを選択し、再びデッキをシャッフルし始めたところで、向こうのテーブルも慌ただしくなった。どうやら、清水が一本目の勝利を決めたようである。
占術で確認したカードを、加藤は下、三宅は上へ。
Game 2
加藤の《思考囲い》から2ゲーム目がスタート。
公開された三宅の手札は、《蒸気孔》《瞬唱の魔道士》《血清の幻視》《焙り焼き》《謎めいた命令》《ピア・ナラーとキラン・ナラー》。
加藤「(占術は)上だったよね?」
三宅が頷くのを確認し、手元のメモにカード名を書き留めていく。土地は1枚。ここでは《瞬唱の魔道士》を落としてターンエンド。
《蒸気孔》、《血清の幻視》という三宅の動きは想定どおり。そのままターンを受けて、加藤は《怒り狂う山峡》を場に出す。
ここから、三宅は”初手にないカード”を披露していく。2枚目の《蒸気孔》、そして次のターンには《沸騰する小湖》。順調に土地を伸ばして、《瞬唱の魔道士》で墓地の《血清の幻視》をフラッシュバック。
《思考囲い》の際に記したメモに、手早く2本の線を記した加藤は、エンドフェイズに《コラガンの命令》。《瞬唱の魔道士》に2点、そしてディスカードを選択する。
三宅がディスカードしたのは……《稲妻》。これも初手になかったカードだ。加藤は《森》をプレイして、そのままターンを終える。
三宅のターン。ドローを確認し、手元と盤面に視線を落とす。一呼吸置いて、手札から盤面に置かれたのは、《祖先の幻視》。3枚のドローを確約し、ターンエンド。
加藤は《闇の腹心》を唱える。初手から確保されていた《焙り焼き》で除去されてしまうが、これは承知の上。続いて唱えられたのは、《タルモゴイフ》。サイズは4/5。
加藤 健介 |
そのまま出していれば、《焙り焼き》の餌食となっているところだが、《闇の腹心》の犠牲によって、盤面に居座ることを許される。
《タルモゴイフ》のみが戦場に立つ。それを見つめたまま、《祖先の幻視》の時間カウンターを減らし忘れそうになった三宅は、3つのダイスをデッキに乗せた。
三宅は《ピア・ナラーとキラン・ナラー》を唱えるが、これには再び《終止》。残った飛行機械トークンが加藤のライフを削り始めるところまでは、1ゲーム目と同様である。
大きく異なるのは、戦場に《タルモゴイフ》が座していること。ターンを受けた加藤は攻撃クリーチャーとして指定し、ブロックされないことを確認してから一呼吸。相手のライフをメモに記してから、《コラガンの命令》を唱える。モードは、クリーチャー回収と、ディスカード。
回収の対象は、先ほど《タルモゴイフ》の露払いを務めた《闇の腹心》。そのまま《闇の腹心》を唱える。
三宅は慌てることなく、《電解》で《闇の腹心》を除去。飛行機械トークン1体のみでアタックし、残りの1体で次の《タルモゴイフ》の攻撃をブロックする。
両者順調に土地を伸ばしていく。
《タルモゴイフ》を除去できる《焙り焼き》は、三宅のデッキに1枚のみ。しかし、再利用する手段が、何枚もこのデッキには何枚も採用されている。ここで唱えられた《ゴブリンの闇住まい》は、その一つだ。
《ピア・ナラーとキラン・ナラー》が作り出した飛行機械トークンが攻撃を繰り返し、その娘、《反逆の先導者、チャンドラ》も唱えられる。わずか2点のダメージではあるが、着実に三宅の勝利を近づけていく。
結果、ライフが8まで削られた加藤は、《コジレックの審問》で相手の手札を確認する。
三宅は落ち着いて、《瞬唱の魔道士》を着地させる。そして公開された手札は、《ゴブリンの闇住まい》、《稲妻》、《血染めの月》、《反逆の先導者、チャンドラ》。赤一色でありながら、クリーチャー、インスタント、エンチャント、プレインズウォーカーという、あまりにも多角的な攻め方を見せる手札だ。
加藤は静かに頷き、そのまま土地を片付けた。
三宅 2-0 加藤
加藤「デッキリストを見させていただけますか?」
加藤がジャッジに声をかけ、三宅もデッキリストを受け取った。両者、相手のサイドボードプランを想定し、3ゲーム目に備える。
三宅はデッキリストを見つめながら、サイドボードに手を伸ばす。対する加藤はデッキを握ったまま、じっくりと思考を巡らせる。一度天を仰いでから、自分のデッキと相手のデッキリストを比較しながら、手早くサイドボーディングを終える。
Game 3
7枚の手札を確認し、加藤は額に手を当てて熟考。悩んだ末に、キープを選択。三宅もマリガンはなし。
加藤はこのゲームも《思考囲い》からスタートし、三宅の初手を確認する。
《島》《蒸気孔》《神聖なる泉》《血清の幻視》《稲妻》《血染めの月》《瞬唱の魔道士》。《血染めの月》を選択し、ターンエンド。
公開した手札を手元に戻して、三宅はターンを受けた。
”《血清の幻視》が唱えられる”。
加藤も、ギャラリーも、そう思っていたに違いない。筆者も、そう記す予定であった。そしておそらく、三宅もそう考えていただろう。この第一ドローを確認するまでは。
《島》、そして、《祖先の幻視》!
加藤も思わず声を漏らす。タイムラグが気になる場面もあるが、破格の3ドロー。その後は、《血清の幻視》《神聖なる泉》と繋げていく。
ひとまず、《怒り狂う山峡》、《虚無の呪文爆弾》と続けて、加藤は《タルモゴイフ》を唱える。ところが、これには《呪文嵌め》が突き刺さる。
そして戦場に降り立つ、《反逆の先導者、チャンドラ》。3ゲーム目も、2点火力が加藤を襲い続ける展開となる。
盤面にチャンドラを残し続けることが致命傷になり得ることは、これまでのゲームが物語っている。加藤もそれは痛感しているため、《怒り狂う山峡》を起動して忠誠度を1まで減らし、チャンドラの生命も風前の灯火へ。
三宅 恭平 |
ここで時間カウンターが0となり、《祖先の幻視》が解決。ドローを確認し、三宅は《反逆の先導者、チャンドラ》のカウンターに手を伸ばす。
「+1」能力で公開されたのは、《ピア・ナラーとキラン・ナラー》! これは火力に変換せず、唱えることを選択する。飛行機械トークンとともに、愛娘を守るかのように戦場に降り立つ。
加藤「強いね……」
再び《虚無の呪文爆弾》を唱えた加藤は、はっきりと聞こえる声で、心情を吐露した。
その言葉をかき消すかのように、《反逆の先導者、チャンドラ》が火力を飛ばし続け、飛行機械トークンも攻撃を繰り返す。残りライフは9点。
三宅のエンドフェイズに《終止》で《ピア・ナラーとキラン・ナラー》を除去した加藤。その目は決して諦めることなく、勝ち筋を探している。まずは《コジレックの審問》で相手の勝ち筋を探ることを選んだ。
公開された手札を見て、加藤は深くため息をついた。三宅の手札は、容赦のない7枚だった。
《稲妻》《稲妻》《反逆の先導者、チャンドラ》《謎めいた命令》、そして3枚の《瞬唱の魔道士》。
三宅 3-0 加藤
対戦を終えた両者。言葉少なく、感想戦を終える。初日からの数十時間。長丁場の戦いを終えた加藤の顔には、疲労の色も見られるが、悔しさのほうが勝っているようだ。
それでもなお。同じく長いラウンドを戦い抜き、これから決勝の舞台へと挑む戦友に対して言葉を贈ることを、加藤は忘れない。
加藤「勝ってくれ」
三宅「了解」
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