インタビュー: 行弘 賢 -勝つために必要な、多角的な視野-

晴れる屋

By Kazuki Watanabe


 「2016年のマジックを振り返って、もっとも印象的な場面は?」

 そう問われたら、みなさんは何と答えるだろうか?

 様々な答えが返ってくると思うが、筆者には二つの答えが即座に浮かぶ。

 一つは、八十岡 翔太が【プロツアー『カラデシュ』】で優勝を果たした瞬間。

 そしてもう一つ。【プロツアー『異界月』】で、Dig.cardsに所属する行弘 賢がトップ8を決めた瞬間だ。



※画像は【Magic: the Gathering 英語公式ウェブサイト】より引用させていただきました。


 スイスラウンド最終戦。Reid Dukeとの同型対決。延長5ターン目に行弘が《集団的抵抗》でライフを削りきった瞬間、歓声を上げた人も多かったはずだ。その熱戦の模様は、【テキストカバレージ】からも伝わってくる。



 The Last Sun 2016の会場にいる本人に、「2016年の思い出は?」と聞いたところ……。




行弘「プロツアー『異界月』でトップ8に入ったことですね」

 という答えが、笑顔と共に返ってきた。あの瞬間をきっかけとして、新たなステップへと進む行弘の現在。そしてこれからを聞いてみた。



■ 行弘 賢、インタビュー

――「プロツアートップ8入賞は、観客のみならず、やはり行弘さんの中にも強く印象に残っているんですね」

行弘「そうですね。あのReid Dukeとの一戦に勝利したことで、ゴールド・レベルを達成できました。『ゴールド以上でないと胸を張ってプロプレイヤーとは名乗れない』というのが僕の考えなんです。なので、シルバー・レベルの時期は、辛さがありましたね。スポンサードしてくれている企業にも申し訳ないし、とにかく悔しい思いをしていました」

――「その悔しい思いを味わったからこそ、あの勝利があったのかもしれませんね」

行弘「そうかもしれません。諦めずに挑戦し続けた結果でしたから、本当に嬉しかったですね。マジックをしてきた中でも、一番気持ち良かった瞬間かもしれません」

――「マッチの内容自体も、かなり苦しい内容でしたよね」




行弘「そうですね。赤緑ランプの”同型対決”ではありましたが、相手はマナクリーチャーが入っていて、相性が悪かったんです。きつい、苦しいと思いながらも、上手く噛み合って勝つことができました」

――「その後は、【グランプリ・京都2016】でも準優勝されていますよね。勢いに乗っている、という印象は、行弘さんご自身もお持ちですか?」

行弘「勢いはあったと思うのですが、マジックは勝ちの流れに乗って勝ち続けることが難しいゲームだと思っています。今の立場に慢心しないように気をつけて、これからも努力を続けたいですね」



■ プロプレイヤーの使命

――「では、これからの話もお聞かせください。2017年は、どのような一年にしたいとお考えですか?」

行弘「色々と目標はあるのですが、マジックのプロプレイヤーとしては【チームシリーズ】、ですね。これは明確な変化ですし、しっかりとプロポイントを稼いで行きたいと思っています」

――「チームシリーズについては、プロの間でも様々な意見が飛び交っていますよね」

行弘「そうみたいですね。ですが、どのような場所、条件でも最善を尽くすことが、プロプレイヤーの使命だと思っています。ルールが決まった以上は、そこで戦うしかありませんから」

――「なるほど……他にも目標はありますか?」

行弘「あとは、久しぶりに日本でプロツアーが開催されますよね。そこでトップ8に入りたい、というのも目標です。あとは……あ、来年は、EVOに出たいと思っています」



■ 多角的な視野を持つこと

――「EVO……それって、格闘ゲームの?」

行弘「そうです。僕はマジック以外のゲームもやるのですが、その中で色々な発見があるんですよ。格ゲーにも、マジックに通ずる部分が多いんですよ。単純な”駆け引き”だけじゃなく、色々なことに気づくことができます。マジックだけをやるのではなく、色々なものに触れて多角的な視野でマジックを見つめられたほうが良いな、と。それから、別のゲームをやると、マジックのモチベーションが上がるんですよね

――「なるほど。プロプレイヤーのモチベーション維持、というのは興味深いです」

行弘「一度折れてしまったモチベーションを戻すことは、とにかく大変なんです。プロとして、マジックのモチベーションを維持することは本当に重要です。マジックに触れすぎて『マジックは、もういいや』と思ってしまうことも避けたいですからね」

――「少し雑な言い方になってしまいますが、『飽きたくない』ということですか?」

行弘「そうですね。マジックに対してネガティブな印象を持つのは、好きじゃないんです。それが小さい気持ちでも、やはり嫌なんですよ。僕にとって、マジックは楽しいものなので

――「他のゲームに触れる、ということも、行弘さんがマジックを楽しむ一つの方法なのですね」

行弘「そうだと思います。”マジック以外に触れて、マジックの力をつけていく”というスタイルが、少なくとも今の自分には合っているんですよ。もちろん、マジックに触れる時間は絶対に必要ですが、その上で、色々な視点で見るための引き出しを増やしていきたいですね。マジックで勝つために、必ず助けになってくれると思うので」



 「マジックで勝つために」

 様々なゲームに触れながら、行弘 賢が目指すものは、やはり「マジックのプロプレイヤーとしての勝利」なのだ。

行弘「色々なゲームに触れたとしても、やはり帰ってくる場所はマジックなんです。他のゲームをやっていると、気づくんですよね。『マジックが一番面白いな』と。そして、何よりも一番”勝ちたい”と思えるんです」



 そして、ただ単純に勝利するためだけでなく、”プロプレイヤーとして”という視点からも、彼は語る。

行弘「それと、ゲームが上手くなることだけでなく、プロプレイヤーとしても他のゲームに触れる必要はある、と考えています。格ゲーもプロプレイヤーが活躍する業界ですよね。マジックのプロプレイヤーと比較すると、あちらの方が露出が多い印象を受けます。ゲーム自体も、動きがあるから見ていて面白いんですよね。認知度で言えば、まだまだ格ゲーの方が上、と言わざるを得ません。ただ、マジックのほうがプロプレイヤーの待遇は良いと思いますし、優れている部分もあるんですよ」

――「なるほど。比較することで『自分たちの現在』が分かるわけですね」

行弘「そうですね。『e-sportsと比較してマジックはどうなんだろう?』という視点も、マジックだけやっていたら絶対に分からない部分ですよね。こういった意味でも、プロとして色々なゲーム、そして業界に関わるのは良いことだと思います。最近は、格ゲ―のプロや、他業種の人たちを見ていて、これからのプロプレイヤーは、ただ単にマジックが強いだけではダメだろうなと強く思うようになりましたね。先日の【バトロコのイベント】みたいに、メディアに登場する機会は増やしていきたいですね」



 イベントを思い出しながら、行弘はいつもの笑顔を見せる。筆者が最後の質問として「プロツアー『霊気紛争』について」を問うと、その笑顔のまま、しかし真剣な眼で、こう答えてくれた。




行弘「プレビューを追いかけつつ、カードリストが公開されると同時に動き出せるようにしようと思っています。2017年が始まると同時に、良いスタートを切りたいですね。僕ができるすべてを、そこにぶつけたいと思っています」



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