優勝者インタビュー: 清水 直樹 -夫として、父として。ある王子の凱旋-

晴れる屋

By Kazuki Watanabe


 The Last Sun 2016、閉幕。

 優勝を果たしたのは、清水 直樹だ。




 【プロツアー・オースティン09】での3位入賞、【プロツアー『アヴァシンの帰還』】ではトップ8、2006年と2010年の日本選手権でもトップ8に入賞を果たすなど、見事な成績を持ち、「シミックの王子」という二つ名は広く世に知られている。

 近年はトーナメントシーンから遠ざかっていたような印象を持っている方も多いと思われるが、先日の【RPTQ】を見事突破したことが話題になった。

 そして、今回の優勝。“王子の凱旋”を、心から祝福しよう。



 ”優勝者インタビュー”を申込んだところ、長時間を戦ったあとにも関わらず、笑顔で快諾してくれた。重ねて感謝申し上げたい。



 今大会の思い出。現在の生活。これから。そして、「シミックの王子」の由来まで。様々なことを伺ってみよう!



■ The Last Sun 2016、優勝者インタビュー!

――「おめでとうございます」

清水「ありがとうございます。本当に嬉しいです」

――「まずは今大会を振り返っていただきたいと思います。スタンダードとモダンという特殊な形式でしたが、いかがでしたか?」

清水「スタンダードは、はっきり言って自信がありませんでした。練習もできていませんでしたからね。結局、予選ラウンドのスタンダードは、4-3だったので、決勝ラウンドでも『スタンダードを選ばれ続けたら厳しいな』と思っていました」

――「なるほど。対して、モダンは抜群の好成績でしたね」

清水「スイスラウンドは6-0-1で、引き分けは最終ラウンドのIDのみですね。決勝ラウンドでは準決勝のみモダンだったので、二日間負けませんでしたね

――「本当にお見事でした。今回はRPTQでも使用されていた『ドレッジ』でしたよね」




清水「はい。RPTQに向けて練習していた蓄積を活かそう、と思ったんです。どうしても、練習する時間が足りなかったので……」

――「やはりお忙しいのですね」

清水「そうですね。去年、そして今年を振り返ってみると、結婚して、子供が生まれて、とにかく生活が大きく変わった一年でしたね。来年は、もっと上手くバランスを取れるようにしたいと思っています」



■ 仕事と、家庭と、マジックと

――「来年についてのお話が出ましたが、【トップ8プロフィール】の”2017年のマジック的抱負があれば教えてください。”という質問にも、“仕事、家庭、MTGの三方よしを達成すること”とお答えいただきましたよね」

清水「答えましたね(笑) 三方よし、これがやはり目標です。”ワークライフバランス”ってありますよね? “生活と仕事の調和”って言うと思うんですけど、僕はそこに”マジック”が加わるんですよ」

――「生活と仕事だけでも難しいのに、そこにマジックですか」

清水「そうですね。とにかく大変です。もちろん、いちばん大切なのは”生活”、私の場合は奥さんと子供のいる家庭です。その上で、”マジック”も疎かにしたくないし、”仕事”もしっかりしたい。そうなると、本当に大変ですよ。ここ一年くらいは、トーナメントに参加することも減っていましたからね」

――「ニコニコ生放送でも、『清水さんの顔を久しぶりに見た』なんてコメントもありましたね」

清水「そのようですね。仕事に関しては、忙しいときと、そうじゃないときの波があるのですが、やはり家庭を持ったことが大きいです。去年の4月に開催されたRPTQは結婚式と同日でしたし、The Last Sun 2015のときは、奥さんが臨月でしたから」

――「そうだったんですね。ということは、お子さんはもうすぐ1才になる頃ですか?」

清水「もうすぐ、ですね。超かわいいですよ。えーと……これ、写真です」




――「おお、これは可愛いですね。しかも写真がたくさん!」

清水自慢ですよ、本当に。子供が生まれたことによって生活も変化しました。いや、”生活が変わる”というレベルじゃありませんね。マジックで言うならば、”突然禁止カードがたくさん出たような状態”。とにかく分からないことだらけです」



■ 清水「奥さんの理解があってこそ」

――「そういった状態で、上手くマジックと付き合う方法って、あるんですか?」

清水「ありますね。何よりも大切なこと、それは奥さんの理解があってこそのマジック、ということです。子育てを任せっきりなんてことは、とにかくNGですよね。他の旦那さんよりも頑張らないと、マジックをする時間は確保できない、と思ってマジック以上に子育てにも力を注いでます」

――「す、すごい……世の奥様方が聞いたら、感動するでしょうね」

清水「いやいや、そんなことないですよ。それに、奥さんがマジックに対して理解をしてくれるので、本当に助かっています。今日も応援してくれていたので、感謝の言葉とともに優勝を報告したいと思います」



■ 清水「シルバー・レベルを目指したい」

――「なるほど。支えてくれる奥さんがいるからこそ、今回の優勝があったわけですね。では、少しこれからの話しをお聞かせください。まずは2017年になってすぐ、プロツアーがありすよね」

清水「そうですね。プロツアー『霊気紛争』には行く予定です。そこからは、シルバー・レベルを目指したいと思います。シルバーだと、年に1回はプロツアーに出られますよね。それくらいならば、仕事の都合もつけられそうかな、と。仮にゴールドになれたとしても、すべてのプロツアーに出ることは難しいので……」

――「なるほど。清水さんのスタイルには、シルバーレベルが合っているのかもしれませんね」

清水「今のところはそうですね。それから、来年は京都でプロツアーがあるので、出場を目指したいです。京都ならば、休みも少なくて済むと思うので。仕事、家庭があるので、昔のように海外グランプリを回るような生活はできませんからね。」


■ 「シミックの王子」の由来とは?

――「少し昔話と言うか、『シミックの王子』という二つ名の由来を教えていただけますか?」

清水「『時のらせん』が出たあとに、《スクリブのレインジャー》《幽体の魔力》を組み合わせた「スクリブ・アンド・フォース」というデッキを作ったんですよ、青緑で。それを使っていたときに、川崎 大輔さんが『シミックの王子』と付けてくださったんです」


スクリブのレインジャー幽体の魔力


――「おお、なるほど。シミックは”青緑”の組み合わせですよね。では、王子というのは?」

清水「それはですね、当時「ハンカチ王子」が流行っていたんですよ。なので、『じゃあ自分も!』と思って、ハンカチを使ってプレイしていたんですよ、汗拭きながら


 筆者が驚きながら伺っていると……。

瀬尾「あー、確かにハンカチで拭いてましたね!」

 と、写真撮影を担当してくださっていた瀬尾 亜沙子さんが声をあげた。

――「おっと、当時を覚えていらっしゃいます?」

清水「そんなことしてたなぁ、って程度ですよね?」

瀬尾「言われて思い出しました。そういえばハンカチ使ってたなぁって。一時期、将棋の振り駒で先手後手を決めていたこともありましたよね?」

清水「ありましたね(笑) 将棋キャラで売っていた時期もあったのですが、糸谷さん(糸谷 哲郎八段)が活躍し始めたので、『これはマズい!』と思って辞めちゃいましたけどね」

――「たしかに、本物のプロ棋士がいたらマズいですね。『シミックの王子』の話に戻りますが、シミックカラーはもともと好きだったのですか?」

清水「クロック・パーミッション系のデッキは昔から好きなんです。なので『カウンターしながらビートダウンする』という青と緑の組み合わせはもともと大好きですね」

――「なるほど。それからも青緑のデッキは作っているんですよね?」

清水「たくさんつくりましたね。『セル』『「ユグドラシル』……この辺りの話は長くなるので、【僕のMTG Wiki】を見てください。時々、青緑じゃないデッキを作ったり、使ったりすることもあるんですけど、その度にトモハルさん(齋藤 友晴)に怒られるんですよね(笑)」



■ 限られた時間を有効活用

――「やはり個性として定着していらっしゃいますからね。あ、でも家庭と仕事でお忙しいとデッキを作る時間が確保できないのでは?」

清水「そんなことないですよ。暇さえあればデッキを考えてます

――「な、なんと! 具体的に、どのように考えているのですか?」

清水「色々とありますが、プレビューを眺めて『こんなデッキはどうかな?』と寝る前や通勤電車で考えたりしていますね。そういった中で生まれたのが、前回のプロツアー『カラデシュ』で使った「ヤシマ作戦」です」

――「《霊気池の驚異》のシミックの王子ver.ですね」

清水「そうです。当時、《霊気池の驚異》と言えば《絶え間ない飢餓、ウラモグ》《約束された終末、エムラクール》を4枚ずつが主流だったのですが、ウラモグを切って、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を入れて、『昂揚』するようにして、《約束された終末、エムラクール》を普通に出す、というデッキです」

――「当時デッキリストを見て、感動した覚えがあります。『昂揚』と組み合わせるなんて発想があったのか! と」


発生の器霊気池の驚異墓後家蜘蛛、イシュカナ


清水「発想自体はすごく単純で、《霊気池の驚異》をサーチする手段を探していたら、《発生の器》にたどり着いたんです。その流れで”《発生の器》と言えば「昂揚」だよね? それに《墓後家蜘蛛、イシュカナ》強いじゃん”と考えたんです」

――「おお、至極当然のような流れ……」

清水《霊気池の驚異》を探せるカードって、《発生の器》《光り物集めの鶴》、そして《サリアの槍騎兵》くらいしかないんです。《サリアの槍騎兵》も試したんですよ。誰も結果を残していなかったし、『誰も気づいてないかも?』と回してみたんです。《サリアの槍騎兵》から《悪夢の声、ブリセラ/Brisela, Voice of Nightmares》を合体させる《霊気池の驚異》デッキ。結局、頓挫しましたね。今は『ナヤ《霊気池の驚異》』もあるし、《サリアの槍騎兵》を1枚入れたら面白いかも、と思うんですけどね」


サリアの槍騎兵


――「お忙しい中で、様々なことを考えているのですね」

清水「限られた時間を有効活用している状態です。それがデッキビルダーの楽しさでもありますから。今回は時間がなくて、『ヤシマ作戦』のアップデート版、『ヤシオリ作戦』と名付けて……あ、そうだ! それで晴れる屋さんに言いたいことがあったんだ!

――「え!? な、なんですか!?」



■ 王子の直訴?

清水「オンラインデッキ登録、たしかに便利なのですが、デッキ名を入れる場所がないですよね? あれ、良くないです!」

――「あ……たしかになかったですね」

清水デッキ名は大切ですよ。名前が残って覚えてもらえますし、そこに強い思い入れがあってデッキを作っている人も、必ずいるはずですから。今回、私が紙でデッキリストを提出したのも、デッキ名を書くためですからね

――「ええ!? わざわざ!?」

清水「そうですよ。ぜひ、検討してください」

――「わ、わかりました。The Last Sunの覇者の言葉、責任を持って上に伝えておきます。インタビューにも書いておきますね」

清水「よろしくお願いします」

 (筆者注:書きました)



■ 「最強の社会人プレイヤー」を目指して

――「では最後に。来年の目標ではなく、もう少し大きく”清水さんのこれからの目標”をお聞かせ願えますか?」




清水「これから……『最強の社会人プレイヤー』って、私は三原 槙仁さんだと思っています。なので、私も三原さんみたいになりたいですね

――「三原さんも、ご結婚されて、お子さんもいらっしゃる強豪プレイヤーですね」

清水「そうですね。そういった意味では、同じような境遇だと思います。今は少し不調のようですが、あの方は、そのうち必ず勝ち始める人です。なので、そのときに肩を並べられるように、『最強の社会人プレイヤー』という話題になったときに名前が出てくるようになりたいと思っています」





 インタビューを終えた清水は、トロフィーを抱えて、足早に晴れる屋を後にした。

 「もっと色々な話を聞いてみたい!」と思ったのだが、彼の帰りを待つ人がいる。これ以上時間を取らせるのは、無粋というものだろう。子供の写真を見せながら向けられた満面の笑みを見れば、誰だってそう思うはずだ。


 誰もが愛する「シミックの王子」は、愛するものを得た。それらを支え、そして同時に支えられながら、マジックプレイヤーとしての歩みも続けようとしている。

 社会人として、夫として、そして父として。新たな一歩を踏み出した清水に、心からの祝福を贈り、このインタビューを終えることにしよう。


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