「こいこいこいこい……。
《曇り鏡のメロク》と《梅澤の十手》!一緒にこい!」
……などと心の中で呟きながら、いわゆる”ゴッドレア”の登場を願うことは、誰しも一度は通る道だ。「願おうが願うまいが出る確率は一緒でしょ?」そんな味気ないことを口にするプレイヤーであっても、いざ《梅澤の十手》が見えればにんまり笑顔になることは間違いない。
さて、時は移って現在へ。今のリミテッド環境は、当然、『神河物語』環境ではなく、「覚醒」と「エルドラージ」が跋扈する『戦乱のゼンディカー』環境だ。
かつて《梅澤の十手》を願った私たちは、今は何を願えばいいのだろうか?
《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》?
それとも《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》?
その答えのヒントを、125名が参加したGPT名古屋で5勝以上の好成績を残したプレイヤーのデッキから探してみよう。
■ 願うべき”ゴッドレア”
まずは参考データとして、5勝2敗以上の21人のデッキに含まれるレアを抽出してみた。これで好成績のデッキに入っている確率が高いであろう”ゴッドレア”の姿が見えてくるはずだ。
枚数 | カード名 | 平均勝数 |
5 | 《タジームの守護者》 | 5.4 |
5 | 《エメリアの番人》 | 5 |
4 | 《窪み渓谷》 | 5 |
4 | 《希望を溺れさせるもの》 | 5 |
3 | 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》 | 5.7 |
3 | 《淀みの種父》 | 5.3 |
3 | 《次元の激高》 | 5 |
どどん!
栄えある採用枚数1位は、共に5枚の《タジームの守護者》と《エメリアの番人》だった。6勝を果たしたプレイヤーの数で《タジームの守護者》により優秀な数値が出たが、どちらも引けば大満足のゴッドレアだ。
そして、《希望を溺れさせるもの》や《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》といった文句なしの青と黒を代表する100点カードが続き、
「……あれ?青と白と黒のカードしかないんじゃ?」
という衝撃の事実に気が付くのだ。
■ 意外や意外な緑の人気
確かに緑と赤には、好成績のプレイヤーたちの人気が集中したレアは少ない。しかし、緑と赤の人気がないかというと、そうではないのだ。
色 | 使用率 | 主色率 |
青 | 90% | 42% |
黒 | 62% | 61% |
白 | 52% | 63% |
緑 | 52% | 90% |
赤 | 23% | 80% |
この表は、上位21名のデッキにおける各色の使用率と主色率をまとめたものだ。
使用率は、その色のカードが採用されている頻度。主色率は、その色を使っているデッキが主色として使用している頻度を示している。たとえば青に注目すると、上位21名の90%もが採用していたが、その中で「青X」という組み合わせで使用していたのは、そのうちの42%の人々だけだったということだ。つまり、残りの58%は3色目以降の補色として使用していたことになる。
使用率をみるに圧倒的な青と黒、それに次ぐ白と並んだところで先ほどのレア使用枚数の表がリフレインする。だが、ちょっと待ってほしい。不人気丸出しの赤はともかく、緑は、白と同程度の使用率をもっているのだ。
人気なレアはないけれど、使用率は高い。シールド戦では往々にして巡り合った強力なレアに沿ってデッキを構築することを思うと、緑の人気は少し不自然だ。コモンやアンコモンまで目線を下げても、除去も回避能力にも乏しい緑は、他の色に比べて特別に惹かれる何かは見えてこない。
不自然な人気を集める緑。
その秘密は主色率と使用方法にあった。
■ 緑が人気な2つの秘密
改めて同じ表を用意したが、次は主色率に注目してほしい。使用率が90%を超えた青が42%しか主色として使われていないのに対して、緑の主色率はなんと驚きの90%を記録している。つまり、緑を選択したプレイヤーのほとんどは主色として緑を使っていることだ。
色 | 使用率 | 主色率 |
青 | 90% | 42% |
黒 | 62% | 61% |
白 | 52% | 63% |
緑 | 52% | 90% |
赤 | 23% | 80% |
主色ということは、そのデッキの核となる戦略を擁しているということ。そこで、緑を使用したプレイヤーのデッキの中身に注目したところ、そこには緑が人気な秘密が隠されていた。
● 秘密:その1 多色化
その秘密の一つとは、多色化である。
《生命湧きのドルイド》や《自然の繋がり》といったコモンのマナフィクスが人気を集め、《タジュールの重鎮》、《空乗りのエルフ》といった「収斂」のカードが多色化を後押ししていた。
当然ながら、多色化のメリットは「収斂」だけではない。
多色化によって、青と白と黒の強力なカードを採用することができるのだ。「《タジームの守護者》は使いたいけど、青を主色にするには枚数が足りない」そんな悩みに直面したプレイヤーたちは、緑の力に頼ることになる。そもそも青や黒や白が強力な理由は、優秀なレアと回避能力、そして「覚醒」という強力なキーワード効果にある。「覚醒」は強力な割りに、そのカードが要求する色マナシンボルの制限は小さいことが多い。
そのため、緑を主色とすることで、青と黒と白のレア及び「覚醒」をタッチカラーに多色化することで難なく強力なカードを運用することができる。
● 秘密:その2 マナ加速
そして緑が人気なもう一つの秘密は、マナ加速だ。
多色化の話の中でも触れたが、「覚醒」は『戦乱のゼンディカー』環境を象徴するキーワード効果の一つである。あらゆるアドバンテージが内包された「覚醒」の唯一の欠点が、その重さであるのだが、緑を採用してマナに関するカードが増えることで、その重さがある程度緩和される。
「覚醒」とともに『戦乱のゼンディカー』を彩る要素である、重い「エルドラージ」たちもマナ加速の大事な友達だ。細かいダメージレースをうっちゃる《破滅の昇華者》はそのレアリティも相まって多くの上位デッキに見られた。
また、好成績を残したデッキと、それ以外のデッキに見られた最も大きな違いはレアの枚数ではなく、《巡礼者の目》、《コジレックの媒介者》、《面晶体の記録庫》、《進化する未開地》の採用枚数だった。
もちろん、成績が良い集団の方がカードプールに含まれる平均枚数が多かった。ゲームが遅く、重いカードが頻繁に飛び交う環境だからこそ、安定して色マナを供給し、より多くのマナをプレイヤーに与えるカードは活躍する。
緑という色は、そのどちらもをプレイヤーに提供してくれる便利な色なのだ。
■ でも、あくまでも環境は青い
などと、緑の意外な人気な理由を並べてきたが、使用率を見るに青こそが『戦乱のゼンディカー』環境における正義だ。主色は違う色であっても、常にタッチ青タッチ「覚醒」を意識することが成功への近道なのは、今回の結果から得られる大事な教訓の一つだ。《波翼の精霊》や《沿岸の発見》、《影響力の行使》など、頼もしいシングルコストのカードがあなたを待っている。
それでは冒頭の質問に戻るとしよう。
何を願ってパックを開くのか?
筆者の答えは《希望を溺れさせるもの》だ。
青をほぼ確実に使う以上、シングルコストの《希望を溺れさせるもの》は絶対にデッキに入れることができるゴッドレアの1枚だ。タップ能力は大きく戦場を動かす上に、落とし子トークンが生み出すマナに助けられる場面も少なくない。
《タジームの守護者》や《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》も捨てがたいが、どんなデッキにも採用できる強力なカードとして、《曇り鏡のメロク》、《梅澤の十手》の系譜を継ぐのは、《希望を溺れさせるもの》で間違いない。