Translated by Kohei Kido
(掲載日 2020/08/21)
近況
みなさんこんにちは!
僕にとって新しい記事を書きにくい時期がしばらく続いています。書くためのテーマに困っているからです。一年ほど前に働き始めた結果としてマジックに使える時間が大きく制限されたので、その限られた時間で成果を出さなければなりませんでした。その結果として使える時間はほとんどをそのときやることに意味があるフォーマットに使うことになりました。主にリミテッドとスタンダードです。それ以外はあまりできていません。
これから大会で使おうとしているデッキのサイドボードガイドを書くことは自らに不利に働くのであまりしたくありませんでした。そこで大会が終わるのを待っていると禁止告知が襲ってくるのです。これが二度も起こりました!
何週間か前に東京から母国のチェコに戻ってきました。そしてプレイヤーズツアーファイナルでひどい成績になってしまったあと、また腰を据えてマジックをやる前に少し休みを取ることにしました。だから直近の禁止告知があった後のスタンダードについてはあまり詳しくありません。(今でもSNSを追って配信者も頻繁にみているので、主要なデッキは中身まで全て知っていますし他の要素もそういうレベルでは知っています。ただ価値ある専門性はどのデッキについても提供できないのです。)
マネージャーに何について書くべきか聞いた結果、マジック一般の話をする記事を一度書いてみようということになりました。今までこういう記事を書いたことはないと思いますが、なんでも初めてやるときは経験がないものなのでしょう。
何について書くべきか考えているうちに、自分がマジックで達成してきた実績に結びついた私の「技法」について書くことができるのではないかという結論に至りました。
僕流の大会準備
さて、僕はルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasやパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaのようにプロツアー級の大会を相次いで制覇するようなエリートのプレイヤーだとは思われていないと考えています。それでも確実にある程度の成功はしています。天才どころかそこまでの才能がなくても、グランプリでは4回の優勝と9回のトップ8を獲得しています。(それでも僕がマジックを始めた頃は、同時期に始めた平均的なプレイヤーより下手でした。)
もし読者の方が中級者の競技的マジックのプレイヤーで、もっと大会成績を上げたいと考えているなら(たとえばグランプリトップ8入賞やプロツアー参加といった実績が欲しいかもしれません)、最初にすべきことは自らの実力を正直に見つめなおすことです。僕も含めて様々なプレイヤーが繰り返し犯すのを見てきた過ちは、自らの実力と判断力を実際よりも高く見積もってしまうという失敗で、これは巨大な、とても巨大な罠なのです。
教訓その1:デッキリストはすぐに手を加えない
みんな心当たりがあるはずです。誰かがあるデッキで上手く行っているのを見たとしましょう。使ってみようと思って、そのデッキリストのままで試合を行う前に何枚かカードを変えてしまうのです!
これは特にサイドボードについて言えることです。サイドボードは100点のカードと0点のカードの中から選ばれて構成されるものではありませんし、入っているどのカードにも意味はあります。もしサイドボードにカードが入っている理由がわからなかったなら、それをサイド後にデッキに入れることもないでしょうからサイドボードに置いておく理由もないと思いますが、一般論としては調整する前に何試合かはそのまま使ってみるべきです。
Magic Onlineのリーグで5-0しただけのなんとなくかっこよく見える適当なデッキの話ではありません。そういうデッキはたまたま勝っただけかもしれません。たとえば直近のミシックチャンピオンシップで勝ったデッキリストをコピーするなら、デッキの使用者(たいていはチームに属しているプロです)がデッキに入れているカード全てに理由があって何枚かカードを変えるだけでデッキの強さの中核を傷つけてしまうかもしれないと考えるべきです。
よく調整されたデッキリストには一見すると弱そうだったり奇妙に見えたりするカードが入っていることがよくあります。でもたとえばそのカードが多くのマッチアップでサイドボード後に使いにくいカードがデッキに残らないように良い役割を果たしているというような理由があるはずです。
教訓その2:自分がどういうプレイヤーなのか理解する
たとえば友人が二日前に別の大会を制覇した痛快な構築のデッキを教えてくれたから大会前日にデッキを変更するような行動は全ての判断を正しく行える理想の世界であれば正当化される行いでしょう。でも僕たちは正確なロボットではないので、デッキ選びには自らのマジックの実力を考慮すべきです。
ある環境で、特定のデッキが他のデッキよりも少しばかり勝率が高いということをデータが示したとして、必ずしも「あなたにとって」一番勝ちやすいデッキがそれだということではありません。アグロやコントロール、コンボ等、人それぞれですが、多くの人は特定のアーキタイプのデッキの方が上手く使えるものです。もともと向いているのかもしれませんし、単に似たようなデッキを今まで多く使ってきたのかもしれません。
マジックにおいて優劣の判断は勝率によって行われやすいです。あるデッキが他のデッキよりも明らかに強すぎる時期もあります。たとえばカウブレード(Caw-Blade)です。そのデッキを使うのが得意でなかったとしてもそれでもそれを使った方がいいときはあります。ヴァラクートを使えばヴァラクートを使った大多数の人よりも高い勝率を出せるのかもしれません。それでもヴァラクートを使ったときの勝率が使いこなせていないカウブレードより低いのであれば、カウブレードを使うべきでしょう。
どのデッキが正しい選択肢なのか判断するのが難しいときもあります。でもこれを覚えておくと役立つときがあるはずです。自らのデッキがとても強いわけではないことは知っているけど、デッキについて熟知しているから使っているということを人に言われたことが数知れずあると思います。もしデッキ間のパワーレベルが近いならそれは問題ないのですが、ときとして差が開きすぎていて、さきほど例に挙げたような判断は妥当だと言えなくなります。
僕はアグロとコンボを使うのが苦手でミッドレンジとコントロールが得意です。最大の弱点は特定のカード、デッキ、アーキタイプが他より強いということに気付くのが遅いことです。スタンダードのセットが出た直後に一部のプロがドラフトでどのカードが強いのか即座に識別できているのは僕から見たら人間離れして見えます。僕にとってそれは全く自明にわかることではないのですが、十分な時間が与えられればこの不利も乗り越えられます。僕の最大の強みはパソコンの前に座って同じデッキを延々と使い続けて、全てのパターンを覚えられることなのです。
新しく使い始めたデッキでは僕は確実にプロレベルのプレイをできていませんが、条件が揃えば成功に至ります。僕にとってはそういうものなのだと理解できるのに時間がかかりましたし、だから一部の人が僕のことを世界で指折りのプレイヤーだと思う一方で、ここまで下手なプレイヤーが優勝することがあるなんて信じられないという人もいるのです。僕が一番上手くいくシーズンはデッキの種類が少ない環境で、一年のうち長い間どのデッキにも勝ち得るミッドレンジのデッキが存在しているシーズンです。早めにそのデッキを手に取って浮気せずにそのデッキについて「全て」を知り尽くします。
僕と同じ手法を採用するとこまごまとしたことの大切さに気付かされることでしょう。たとえばかつてのゴルガリミッドレンジを2週間使えばミラーマッチの後手では《野茂み歩き》が1枚欲しいということに気付くでしょう。まるで意味を持たない選択肢のように見えてしまって、負けた後にそこが失敗だったのだとすら気づかないかもしれませんが、何かの代わりに《野茂み歩き》を引いていれば勝ったかもしれないのです。
僕の場合:ジェスカイ道と歩んだシーズン
私にとって一番良かったシーズンは何年か前にプラチナレベルプロで終えたシーズンでした。夏の間にジェスカイミッドレンジを使い始めました。
2 《島》
1 《山》
4 《溢れかえる岸辺》
4 《神秘の僧院》
4 《天啓の神殿》
3 《戦場の鍛冶場》
3 《シヴの浅瀬》
-土地(23)- 4 《ヴリンの神童、ジェイス》
4 《魂火の大導師》
4 《カマキリの乗り手》
-クリーチャー(12)-
1 《乱撃斬》
4 《稲妻の一撃》
3 《勇敢な姿勢》
2 《軽蔑的な一撃》
1 《ジェスカイの魔除け》
3 《オジュタイの命令》
1 《対立の終結》
3 《時を越えた探索》
2 《太陽の勇者、エルズペス》
-呪文(22)-
自由時間を全てこのデッキに習熟するのに使いました。正直に言えば僕のマジックの総合的な理解はジェスカイ時代よりもかなり深くなったと思いますが、マジックはそういうゲームではありません。マジックの大会は長く遊び続けた人や全ての戦略を使いこなせる人にご褒美をくれるゲームではないのです。大会で使っているデッキについての理解がどれくらい深いかが大事です。
聞いたこともない人物が突然大会を3つ連続で制覇した後に忽然と消えてしまうことがある理由もこれで説明できます。その人物はあるデッキにについてとてもよく理解していて、そのデッキの立ち位置がその時期に良かったというようなことでしょう。ジェスカイを使っていた年はジェスカイがいつでも一番いい選択肢であったわけではありませんでした。最高だったこともあればそうではないときもありました。ただメタ上のデッキのデッキパワーは近かったので、「僕」にとっては一番勝てるデッキになっていて、それによって成功したのです。
2月には決勝でグリクシスコントロールを使ってベン・スターク/Ben Starkを破り、初めてのグランプリ優勝を達成しました。僕が使ったグリクシスはジェスカイと大幅に違うというほどのデッキではなく、このタイプのデッキを丸々半年使ってきたおかげで《先祖の結集》デッキに支配されたメタゲームで勝つためにどういう調整をすればいいか理解していて、誰も使っていないデッキで頂点に躍り出たのです。
2 《島》
2 《山》
2 《燻る湿地》
2 《窪み渓谷》
4 《血染めのぬかるみ》
4 《汚染された三角州》
2 《樹木茂る山麓》
1 《溢れかえる岸辺》
4 《さまよう噴気孔》
-土地(26)- 4 《ヴリンの神童、ジェイス》
3 《ゲトの裏切り者、カリタス》
-クリーチャー(7)-
今まで説明してきたことは僕がプロツアー/ミシックチャンピオンシップで上手くいくことがあまりない理由にもなっています。プロツアーは新しいセットが出た直後であることが多く、またプロが見慣れない新戦術を使ってくることが多かったので、結果は芳しくないことが多かったのです。
自分でも理想的なやり方ではないとわかっていますし、大会で大敗することに結びつくこともありますが、自分の長所と短所を理解してそれに合わせて行動しています。アーキタイプによって上手さにそこまで差がなく、デッキを使い続けても極端に上達するわけでもない人もいて、そういう人なら早めにデッキを選ぶよりもメタゲーム上で一番強いデッキを探すのに時間を使うのは合理的です。でも僕はそうではありません。自分にとって上手く行く方法を見つけてそれを基に行動しましょう!
「空き時間」にリミテッドをやる
マジックを始めて一年もしたら地元で構築フォーマットの大会を総なめにしているプレイヤーは存在しますが、これはリミテッドではかなり珍しいことです。構築フォーマットでは他の流行っているデッキと当たったときに、序盤の動きで迷う余地はあまり大きくないので、サイドボードガイド付きの良いデッキリストをコピーしたら準備はできています。
しかしリミテッドで勝つにはマジックがどういうゲームなのかについて深い理解が必要です。だから競技リミテッドでめぼしい大会が少なかったにも関わらずここ数年かけて僕はリミテッドの実力を向上しようとしてきました。
自分の強みに沿って戦うべきで、トップメタのデッキに少しだけ劣るデッキが自分にとって最良の選択肢かもしれないと言ったばかりですが、これは短期的な話です。3週間後に大会があるなら、狙うべき目標はその大会でいい成績を残すことです。3週間でマジック界の偉人になれるわけがありません。
しかし僕らが全員目指すべき最終的な目標は、どんなときでも一番いいデッキを完全に使いこなせるという状態です。そのためには特に準備すべき大会がないときにはリミテッドを練習するのが最高の方法だと思うのです。様々な戦術の展開方法やサイドボード、その他の基本的なことについて教えてくれます。
リミテッドも構築フォーマットも両方異なった特徴があって、リミテッド「だけ」やっていても優れた構築フォーマットのプレイヤーにはなれませんが、多くの優れたリミテッドのプレイヤーはどんなスタンダードのデッキでも2週間練習すれば準備ができています。逆はそうではないのです。空き時間にはリミテッドをやりましょう!
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最後まで読んでくれてありがとう!