プロツアー『ゲートウォッチの誓い』がエルドラージの脅威に曝され、モダン環境が恐怖のどん底に放り込まれた今、もはやスタンダード環境も他人ごとではない。
《難題の予見者》《現実を砕くもの》《世界を壊すもの》。モダンの世界をずたずたにしたエルドラージたちは、どれもスタンダードでも使えるカードたちなのだ。モダンの次はスタンダードとばかりに、彼らは虎視眈々と次なる環境を狙っているに違いない。
まさか《集合した中隊》、《包囲サイ》、《ヴリンの神童、ジェイス》が支配する世界ですら平和だと思えるような時代が到来してしまうのだろうか?
そんな迫りくる脅威に対抗するため、プレイヤーたちは様々なデッキアイデアを毎日のように生み出している。今回はゲームデーで見かけた一風変わったデッキを紹介しよう。
◆ 「撤退土地単」
5 《森》 5 《沼》 3 《島》 2 《窪み渓谷》 4 《進化する未開地》 3 《汚染された三角州》 1 《吹きさらしの荒野》 4 《伐採地の滝》 3 《風切る泥沼》 4 《荒廃した森林》 2 《荒廃した湿原》 2 《ならず者の道》 -土地(38)- -クリーチャー(0)- | 3 《精霊信者の覚醒》 4 《精神背信》 2 《命運の核心》 4 《ハグラへの撤退》 4 《カザンドゥへの撤退》 2 《珊瑚兜への撤退》 3 《ゼンディカーの乱動》 -呪文(22)- | 3 《ジャディの横枝》 3 《始まりの木の管理人》 3 《意思の激突》 3 《無限の抹消》 2 《鞭打つ触手》 1 《命運の核心》 -サイドボード(15)- |
撤退、撤退だー!
いきなり消極的なスタンスに聞こえるかもしれないが、デッキのコンセプトは最前線でイケイケだ。
なんと、スタンダードの世には珍しいクリーチャー0のコントロールデッキなのだ。コントロール系の代表格こと「エスパードラゴン」ですら最低でも10枚のクリーチャーを擁していることからも、このデッキが普通からは逸脱していることがわかる。
そんな気になるノン・クリーチャーデッキの勝ち手段は、各種《撤退/Retreat》と《伐採地の滝》などのミシュラ土地である。
とにかく「上陸」を重ねて誘発し、《伐採地の滝》を動かすマナを用意して殴りきるといった寸法だ。《ハグラへの撤退》は1点ドレイン、《カザンドゥへの撤退》は+1/+1カウンターを1つと、どちらも1枚だと大人しい効果だが、これが重なると馬鹿にならないダメージを叩き出すのだ。
また、ルール上では土地を複数枚プレイすることは難しいが、《精霊信者の覚醒》《進化する未開地》《荒廃した森林》など、1ターンに複数回「上陸」を誘発させるカードを多く採用することによって、もたつく原因となる「上陸」の制限を解消している。
「でも、土地が切れてしまえばそれまででしょう?」そんな心配も、たっぷり38枚の土地があれば無用だ。たとえ土地を引きすぎたと感じても、《珊瑚兜への撤退》の占術能力があれば、2枚目、3枚目の《撤退/Retreat》まできっとたどり着けるに違いない。
他にも《ゼンディカーの乱動》など、とことん土地と「上陸」に寄せた構成となっている。これはさながらエルドラージに対抗するゼンディカーを表しているようで、見てよし、触ってよし、の素晴らしいデッキに仕上がっている。
◆ 「カザンドゥコントロール」
4 《森》 3 《沼》 2 《山》 2 《燻る湿地》 1 《燃えがらの林間地》 4 《血染めのぬかるみ》 4 《樹木茂る山麓》 3 《吹きさらしの荒野》 4 《風切る泥沼》 -土地(27)- 4 《森の代言者》 2 《棲み家の防御者》 2 《巨森の予見者、ニッサ》 4 《野生生まれのミーナとデーン》 2 《ゲトの裏切り者、カリタス》 -クリーチャー(14)- | 4 《焙り焼き》 1 《闇の掌握》 4 《苦い真理》 2 《コラガンの命令》 2 《残忍な切断》 4 《カザンドゥへの撤退》 2 《炎呼び、チャンドラ》 -呪文(19)- | 4 《精神背信》 2 《強迫》 2 《光輝の炎》 2 《ゴブリンの闇住まい》 1 《自傷疵》 1 《無限の抹消》 1 《破滅の道》 1 《ゲトの裏切り者、カリタス》 1 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》 -サイドボード(15)- |
またしても《カザンドゥへの撤退》を軸にした中速のデッキだ。しかし、先ほどとは打って変わって、ガシガシとクリーチャーで殴り掛かる構成になっている。
優秀な攻撃クリーチャーが名を連ねるなか、ひときわ目立つのは《野生生まれのミーナとデーン》だ。
「構築だとパッとしないけど、リミテッドなら強いカード」こんな印象を持っている方は、さっさと捨ててしまった方がいい。このデッキの《野生生まれのミーナとデーン》は、《包囲サイ》を凌駕するモンスターだ。
いや、《包囲サイ》を凌駕する、は言い過ぎたかもしれないが、匹敵することは間違いない。なんといっても《カザンドゥへの撤退》とのコンビネーションが良すぎるのだ。
《野生生まれのミーナとデーン》の隠された能力の1つには、「あなたの各ターンに、あなたは追加の土地を1つプレイしてもよい」がある。この能力のおかげで、毎ターン確実に「上陸」を2回以上誘発させることができる。つまり、《カザンドゥへの撤退》は、2倍の速度で+1/+1カウンターをばらまき、2倍の速度でライフを供給するのだ。
また、先ほどの「撤退土地単」では、「上陸」の手を休めないために大量の土地を採用していたが、《野生生まれのミーナとデーン》がいれば「上陸」の種の用意も自由自在だ。
なぜなら、《野生生まれのミーナとデーン》の知られざる能力に「(赤)(緑),あなたがコントロールする土地を1つ、オーナーの手札に戻す:クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それはトランプルを得る。」があるからだ。戦場の土地を手札に戻せるため、戦場に土地さえあれば「上陸」できる。さらに、この一見するとパッとしないトランプル付与能力は、《カザンドゥへの撤退》で巨大化したクリーチャーにトランプルを与えることで一撃必殺を狙える。まさにこのデッキのためのカードと能力といっても差し支えないだろう。
いかに強力なコンビとはいえ、それぞれデッキに4枚ずつしか入っていないのも事実だ。そこで、いち早く彼らを手札に集めるためのドロー補助として、《苦い真理》は4枚採用されている。3点の損失は普通のデッキならば痛手だが、このデッキならば《カザンドゥへの撤退》さえあれば、たった2回の「上陸」で取り戻せる損失だ。
「せっかく引いた《野生生まれのミーナとデーン》が除去されてしまった」そんなピンチも《コラガンの命令》と《棲み家の防御者》さえあれば問題なしだ。《カザンドゥへの撤退》に比べると除去されやすいだけに、しっかりとバックアップも用意されていることは心強い。
以上、迫りくるエルドラージに対抗する勢力として「上陸」をフィーチャーしたデッキを紹介してみた。いかがだっただろうか。この2つのデッキともに採用されている《カザンドゥへの撤退》にはたくさんの夢が詰まっている。《精霊信者の覚醒》でコンボチックに動くもよし、《野生生まれのミーナとデーン》で安定してアドバンテージを供給するもよし。あなたならば、どう使ってみるだろうか?