一昔前のスタンダードを席巻したーーとある凶悪なデッキには、無尽蔵のアドバンテージ源が搭載されていた。
際限のないドロー、尽きることのない除去。その防御の鉄壁さは誰しもに恐れられていた。
「エターナルスライド」と呼ばれた『サイクリング』をフィーチャーしたボードコントロールである。
いったい何がエターナルなのか?その答えは《永遠の証人》のカード名と、それが《霊体の地滑り》と共演する姿に隠されている。『サイクリング』するたびに《霊体の地滑り》で《永遠の証人》を選ぶことで、
一見すると、この恐るべきエンジンの肝は、なんでも回収できる《永遠の証人》のようだが、その実はETB能力を繰り返し使用し、また同時にボードコントロールもこなす《霊体の地滑り》にある。対戦相手のクリーチャーを取り除くことで攻防の調整をし、防御が整えばETB能力もちのクリーチャーを使い倒して素早く勝利に向かう。
たった一度の『明滅』ですら脅威であることは、かつてより一線級のカードとして活躍してきた《修復の天使》《一瞬の瞬き》《ちらつき鬼火》を見れば明らかだ。そんな強力な『明滅』を複数回にわたって使える
最近ではモダン環境を荒らしまわっている、『白い悪魔』、こと《変位エルドラージ》である。
3マナと贅沢にマナを要求するものの、敵味方問わずして繰り返し『明滅』させる、歴史が証明してきた強力無比の能力を持っている。モダン環境すら脅かす《希望を溺れさせるもの》とのコンビなど、これからの活躍が期待される注目株だ。
そんな《変位エルドラージ》にいち早く注目した意欲作を紹介しよう。
◆ 「アブザン《変位エルドラージ》」
2 《森》 2 《沼》 1 《平地》 1 《荒地》 3 《梢の眺望》 1 《吹きさらしの荒野》 4 《砂草原の城塞》 2 《風切る泥沼》 1 《乱脈な気孔》 1 《崩壊する痕跡》 4 《ラノワールの荒原》 3 《コイロスの洞窟》 -土地(25)- 3 《静寂を担うもの》 3 《壌土の幼生》 3 《森の代言者》 1 《永代巡礼者、アイリ》 4 《変位エルドラージ》 2 《復興の壁》 1 《マラキールの解放者、ドラーナ》 4 《包囲サイ》 4 《血の儀式の司祭》 1 《風番いのロック》 1 《ベイロスの虚身》 -クリーチャー(27)- | 3 《アブザンの魔除け》 2 《骨読み》 3 《真面目な訪問者、ソリン》 -呪文(8)- | 3 《鞭打つ触手》 3 《無限の抹消》 2 《正義のうねり》 2 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 2 《難題の予見者》 1 《抗戦》 1 《アブザンの魔除け》 1 《巨森の予見者、ニッサ》 -サイドボード(15)- |
ETB能力もちの数だけ組み合わせが存在するともいえる《変位エルドラージ》の居場所は、今回はアブザンのようだ。この色の組み合わせだと《血統の観察者》との『無限コンボ型』がメジャーだが、このデッキでは、そのコンボは廃して《包囲サイ》《血の儀式の司祭》《風番いのロック》といった単体でも強力なカードとの堅実なコンビネーションを狙っている。
《変位エルドラージ》の強みでも弱みでもあるのは、「3マナを費やしてETB効果を誘発させる」という効果だ。これはすなわち、もしETB能力を再利用できるとしても、その効果が3マナに見合わなければ、そこまで得な行動ではないということだ。だが、逆にその効果が5マナ相当の効果だったならば、それは喜んで3マナ程度は注ぎ込める最高のアクションになる。
この観点から《包囲サイ》や《血の儀式の司祭》のETB能力を評価すると、3マナにしては優秀な効果だ。コンボを除いては見劣りする《血統の観察者》よりも、安定して《変位エルドラージ》の相棒を務められるカードが揃っている。
《包囲サイ》を『明滅』すれば3点ドレインし、《血の儀式の司祭》を『明滅』すると5/5のデーモンが増えるのは明らかだが、《復興の壁》の『明滅』はとんでもないミラクルを呼び寄せることがある。
それは《森の代言者》とのコンビネーションだ。
「6つ以上の土地をコントロールしているかぎり、自身と土地・クリーチャーに+2/+2修正」を与える《森の代言者》は、《復興の壁》の善き友だ。《復興の壁》で土地・クリーチャーを量産すると、《森の代言者》がそれらすべてを5/5に成長させる。もし《森の代言者》が2枚あれば、驚くことに7/7である。並みのクリーチャーでは止められないことは当然ながら、それが《変位エルドラージ》で次々と生み出されていく様は圧巻だ。
クリーチャーだけでなく土地さえも牙剥く「アブザン《変位エルドラージ》」は、対戦相手にとってとても厄介なデッキだ。クリーチャー陣はみなETB能力のおまけ付きなので、簡単には対処できず、それらをやっとの思いで捌いても、そこには《変位エルドラージ》の無尽蔵のプレッシャーが待ち構えている。
際限のないプレッシャー、尽きることのないリソース。これはまさに新時代の「エターナルスライド」だ。
《霊体の地滑り》から《修復の天使》、そして、《変位エルドラージ》へと。10年以上も手渡されてきたバトンを受け取った『怪物』のポテンシャルを尊重した素晴らしいデッキに仕上げられている。これからの《変位エルドラージ》に興味がある方は、ぜひ一度お試しあれ。