(スマートフォンの方は【こちら】)
【Hareruya Pros】の高橋 優太は、プロプレイヤーとしてプロツアーやグランプリで活躍する一方で、草の根大会を愛しているプレイヤーとしても知られている。高橋が愛するものはマジック:ザ・ギャザリングのすべて。マジックを楽しむことができる場所ならばどこにでも現れ、真剣勝負に打ち込む。
だからこそ高橋は、この準決勝のテーブルに着き、誰よりも長くデッキをシャッフルしている。寡黙で情熱的な高橋がひたすらシャッフルをしている姿は実に絵になる。
そして、そのプロと対峙する山内 崇史は、PWCのベテランプレイヤーだ。
草の根大会を主戦場としている山内を見たことがある人は多いだろう。あまり決勝ラウンドの経験がないとは本人の談だが、「バントカンパニー」という正面からぶつかり合うデッキを使用して、予選ラウンドを突破してこの席にいるのだから、強豪に違いない。
シャッフルの音が静かに響く。
幾度目かのシャッフルを終えて無表情でデッキを渡す高橋と、緊張の色を少し見せる山内。実に対照的な二人だ。
決勝に進むのは、どちらか一人。熱戦を期待しよう。
Game 1
先手の高橋は7枚、6枚と続けて初手に土地がなく、最終的に5枚の手札で始めることとなった。
《梢の眺望》《溢れかえる岸辺》《集合した中隊》が含まれた、ダブルマリガンであればそこそこの手札をキープした高橋。だが、山内の《ヴリンの神童、ジェイス》の返しに3枚目の土地を引くことができない。
なんとか《永代巡礼者、アイリ》は引き込んだものの、土地は2枚で止まったままで苦しい。《ヴリンの神童、ジェイス》を《シディシの信者》で戻したり、土地を引く時間を稼ぐが、山内に《集合した中隊》を打たれてしまう。
この《集合した中隊》は《棲み家の防御者》を1体連れてきただけに終わったが、山内は《死霧の猛禽》と《ヴリンの神童、ジェイス》を並べる。
高橋は《ヴリンの神童、ジェイス》に対処しなければ、プレインズウォーカー化した能力で《集合した中隊》をもう一度打たれてしまう。
ここで高橋には二つの選択肢がある。
一つは「土地が2枚で止まったまま、《シディシの信者》で《ヴリンの神童、ジェイス》をバウンスする」
また一つは「《エルフの幻想家》の能力で3枚目の土地を引きこみ、そこから《シディシの信者》をプレイする」ライブラリーの上に委ねる不安定な選択肢だが、いずれにしてもいつかは土地を引かなければならないことも事実だ。
果たして。高橋は後者のプランを取った。
早めに土地を引きにいかなければ勝てないと判断したのだろう。しかし、無情にも引いたのは土地にあらず。
そのまま土地に巡り合うことのできなかった高橋は、流れるような手つきでサイドボードに手をかけた。
山内 1-0 高橋
Game 2
まるでGame 1の再現映像を見ているかのようだった。高橋のオープニングハンドには土地がなく、6枚の中にも、また土地はなかった。
またしても5枚スタートの高橋。土地が《吹きさらしの荒野》1枚しかない手札をキープし、占術で見た《吹きさらしの荒野》をそのまま残す。占術で《吹きさらしの荒野》を積んだ関係上、2ターン目に青マナを供給できなかった高橋は、1ターン遅れて《ヴリンの神童、ジェイス》を着地させる。
「でも《反射魔道士》(で戻される)なんだよなぁ……」
高橋が小さくつぶやく。山内も笑って同意する――が、高橋の言葉通りにはならなかった。
山内も土地が2枚で止まってしまったのだ。
この隙に事故から抜け出したい高橋。だがドローは土地ではなく。更に《ヴリンの神童、ジェイス》のルーター能力でも土地を引けない。
事故から解消されたのは山内が先だった。すぐに緑マナを引き、《巨森の予見者、ニッサ》で《森》をサーチして4マナ目を確保する。
まだ高橋の戦場には土地が2枚しかない。続くターン、通常ドローと《ヴリンの神童、ジェイス》の能力を使用しても、そこに土地の姿はなかった。なんともフラストレーションの溜まる展開だが、高橋は声を荒げることなく、ディスカードすべき物を選ぶことに脳のリソースを割く。
頼みの綱の《ヴリンの神童、ジェイス》も、山内の《ドロモカの命令》で倒されてしまった返しのターン、ついに高橋は、この準決勝で初めての3枚目の土地に巡り合う。
《シディシの信者》で、+1/+1カウンターの乗った《巨森の予見者、ニッサ》を戻しつつ、2枚目となる《ヴリンの神童、ジェイス》をプレイ。この《ヴリンの神童、ジェイス》はまたしても《ドロモカの命令》で処理されるが、高橋は《進化する未開地》をドローする。
高橋の《反射魔道士》が《森の代言者》を戻し、代わりに山内は《空中生成エルドラージ》をプレイ。この2/1飛行がゆっくりと高橋のライフを削っていく。続けてプレイした山内の変異は、高橋の2枚目の《反射魔道士》によって《層雲の踊り手》であることが明らかとなる。
山内は《空中生成エルドラージ》によって空中から。高橋は《反射魔道士》2体で地上を。お互いの戦力がすれ違いのビートダウンを始める。ただ、序盤に高橋がダメージを受けていたこともあり、ダメージレースは圧倒的に山内が優勢だ。
山内 崇史 |
山内としては複数回の行動を起こせないのがジレンマだ。《層雲の踊り手》の大変異コストを常に構える必要があるため、毎ターン3マナ程度しか自由に使えるマナがないのだ。貴重なマナを費やして2枚目の変異を唱えるとターン終了を宣言した。
残りのライフが3まで追いつめられていた高橋は、ターン終了宣言を聞くと、《残忍な切断》を先に登場した変異へと向ける。山内はそれを許可し、その正体は《層雲の踊り手》だったことが墓地に落ちることで判明した。
障害を取り除いた高橋は、満を持しての《先祖の結集》を唱える!
だが、山内が唱えたもう1枚の変異の正体も、なんと《層雲の踊り手》だったのだ!
これで高橋は手札が0枚に。おまけに山内の場には飛行の5点クロックがある。残りライフが3しかない高橋にとって、絶体絶命とはまさにこのことだ。
ここで高橋がドローしたのは――《集合した中隊》!
祈るようにライブラリーをめくった高橋が場に出したのは、《反射魔道士》と《ナントゥーコの鞘虫》!《反射魔道士》で《層雲の踊り手》をバウンスし、《ナントゥーコの鞘虫》のおかげで、これまで佇んでいた《不気味な腸卜師》で能動的にカードを引けるようになった。わずかだが確かに。高橋に勝機が見えてきた。
だが厳しいことには変わりない。《空中生成エルドラージ》の攻撃を受けて、高橋のライフは1に。そして、山内は変異をプレイした後、《森の代言者》を唱えたのだ。山内に残されたマナは青一つのみ。
そう。《層雲の踊り手》の大変異マナを構えられるにもかかわらず、《森の代言者》をプレイしてきたのだ。
「《払拭》あるのか……」
呟く高橋の脳裏に浮かぶのは《集合した中隊》と《先祖の結集》を弾き飛ばす《払拭》の姿。眼前に迫るのは飛行クリーチャーのクロック。《地下墓地の選別者》を引いた高橋は、ゆっくりと状況を整理し始めた。カードの位置を変えたり、攻撃した場合のシミュレーションを行う。
その結果、まずはトップデッキした《地下墓地の選別者》をプレイすることにしたようだ。
そして、ここから高橋のカード探しの長い旅が始まった。
まずはエルドラージトークンを生贄に捧げてマナを出し、占術を行う。これは下へ。続けて《ナントゥーコの鞘虫》で生贄に捧げてさらに占術する。これも下へ。
高橋 優太 |
ここで《不気味な腸卜師》の効果を解決してカードを引く。力強く引き込んだのは《沼》!!
ライフがたった1点しかない高橋は、フェッチランドを引くことができなかったのだ。更に、ライフを回復するカードをプレイするためには、黒マナを引かなければならなかった。アンタップインかつ黒マナが出るカードは、デッキにたったの2枚。その2枚のうち1枚をまず引いた。
あとは状況を打破するカードを引きにかかる。1枚目。占術で下に送って、ドローは《地下墓地の選別者》。これじゃない。2枚目。占術は下に。ドローは……。
デッキにたった1枚の《永代巡礼者、アイリ》は、どうしても引かなければならないカードだった。《ズーラポートの殺し屋》では回復量が少なすぎてじり貧になってしまい、《先祖の結集》と《集合した中隊》はおそらく《払拭》で打ち消されてしまうからだ。
カードを探す過程で8/8に成長していた《ナントゥーコの鞘虫》を生贄に捧げて、ひとまずは安全圏のライフを得た高橋だが、まだ気は抜けない。山内の戦場には《層雲の踊り手》がいるからだ。飛行クリーチャーかつ高橋の決定打を打ち消せる悩みの種だ。
できれば早く使わせてしまいたいと《集合した中隊》を唱えるのだが、山内は少考の末にこれをスルー。そして、この《集合した中隊》から出てくるクリーチャーは、なんと不発の0枚に終わる。これには思わず天を仰ぐ高橋。
失意のままに2枚目の《集合した中隊》を唱えるが、ここに山内は《払拭》をキャストした――いや、してしまった。
これまで展開を犠牲にしてでも青マナを残し続けていた山内が、ついにフルタップしてしまったのだ。
高橋は、見事に耐えきったのだ。ダブルマリガンからはじまり、土地が止まり続け、ダメージレースを先行され、カウンターを構えられた。そして、ようやく山内のガードをすべて突き破った。
《先祖の結集》がすさまじい勢いで高橋の墓地からクリーチャーを吊り上げる。
土地の置けなかった痛ましい記憶。耐えた記憶。
今にも負けそうな状況での占術の記憶。
そして。トップデッキしたときの記憶。
その全てが今、戦場に結集する。
高橋、ライフ1点からの大逆転劇。
山内 1-1 高橋
Game 3
Game 2ですっかり勢いに乗った高橋は、意気揚々と7枚をキープ。山内もマリガンをせずにゲームを始めることができてはいるのだが、気圧され気味な感は否めない。
《伐採地の滝》から《森の代言者》、そして3ターン目には《大草原の川》をタップインしながら2マナで《棲み家の防御者》をキャストと、明らかに勢いを失っている山内に対し、高橋は絶好調だ。
まずは《森の代言者》に対して《永代巡礼者、アイリ》を立たせると、3ターン目には《ナントゥーコの鞘虫》、そして流れるように《集合した中隊》と唱える。
《集合した中隊》はもちろん高橋の戦場に2枚のクリーチャーを届ける。それも《ナントゥーコの鞘虫》と《地下墓地の選別者》。強力な2枚だ。
高橋は《地下墓地の選別者》が《ドロモカの命令》で除去されたことなど意に介さず、ノータイムで2枚目の《集合した中隊》を使い、《反射魔道士》と《エルフの幻想家》を並べる。
山内も遅れて《集合した中隊》を引いたものの、もはや《不気味な腸卜師》を戦場に加えてドローを繰り返している高橋にとっては、今更山内のクリーチャーが2体増えようとも関係ない。山内はブロッカーを5体並べるも、2枚の《シディシの信者》と《反射魔道士》が《先祖の結集》で蘇ると、5体の壁はすべて排除された。
そして、パワー20を超えた《ナントゥーコの鞘虫》が、一撃で山内のライフをすべて削り取った。
山内 1-2 高橋