はじめに
みなさんこんにちは。
早いもので今年も残すところ6日となり、新年の足音が聞こえてくる時期となりました。『カルドハイム』の公開が少しずつ始まり、スタンダードは次の環境へと進んでいます。
ですがその前に、今年のスタンダードを思い返してみようではありませんか。《激動》と呼ぶに相応しい環境となった2020年のスタンダード。今回は発売されたエキスパンションとともに振り返っていきたいと思います。
『テーロス還魂記』(1月24日~4月16日)
使用可能エキスパンション:『ラヴニカのギルド』+『ラヴニカの献身』+『灯争大戦』+『基本セット2020』+『エルドレインの王権』+『テーロス還魂記』
主要な大会 | 優勝者 | デッキタイプ |
---|---|---|
世界選手権2019 | Paulo Vitor Damo da Rosa | アゾリウスコントロール |
グランプリ・リヨン2020 | Biagio Ruocco | 赤単アグロ |
MFO Season 1 Week 1 | Mark Jacobson | スゥルタイランプ |
MFO Season 1 Week 2 | Ondrej Strasky | バントランプ |
MFO Season 1 Finals | Fabrizio Anteri | ラクドスサクリファイス |
2020年が始まって間もなくのスタンダードはラヴニカ・ブロックのショックランドによる強固なマナ基盤が用意されており、2色にとどまらずジャンドサクリファイスやジェスカイファイアーズといった3色デッキも構築されていました。ミッドレンジやコントロール戦略をとるデッキはミラーマッチなどの遅いゲームにおいて差をつけられるように色を増やしましたが、それによりショックランドの採用枚数が増えて自傷ダメージの増加にもつながります。赤単アグロは環境の楔として、速度による一点突破を狙った多色デッキを咎める存在となりました。
そんななかで開催された『世界選手権2019』では、赤単アグロとジェスカイファイアーズとアゾリウスコントロールによる三つ巴となり、アゾリウスコントロールを使用するパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosa選手が優勝を掴み取りました。
3 《平地》
2 《寓話の小道》
4 《神聖なる泉》
4 《啓蒙の神殿》
3 《アーデンベイル城》
1 《ヴァントレス城》
1 《廃墟の地》
-土地 (25)- 1 《太陽の恵みの執政官》
1 《夢さらい》
-クリーチャー (2)-
4 《吸収》
3 《意味の渇望》
2 《神秘の論争》
3 《空の粉砕》
4 《海の神のお告げ》
3 《メレティス誕生》
2 《払拭の光》
3 《エルズペス、死に打ち勝つ》
4 《時を解す者、テフェリー》
2 《覆いを割く者、ナーセット》
-呪文 (33)-
2 《紺碧のドレイク》
2 《太陽の恵みの執政官》
2 《神秘の論争》
2 《終局の始まり》
1 《ドビンの拒否権》
1 《ガラスの棺》
1 《覆いを割く者、ナーセット》
-サイドボード (15)-
待望のリセット《空の粉砕》をはじめとした強固なボードコントロール手段と打ち消し呪文、歴代屈指の3マナプレインズウォーカー《時を解す者、テフェリー》を持ち合わせたかなり防御的なコントロールデッキです。フィニッシャーは《太陽の恵みの執政官》と《夢さらい》の2枚のみとなっており、相手の攻撃をさばききって勝つ構築といえるでしょう。
『テーロス還魂記』といえば古の巨人《自然の怒りのタイタン、ウーロ》に注目が集まりました。「ライフゲインしつつカードを引き、さらに追加のセットランドができる」まさにティムール再生が待ち望んだカードであり、戦略的にも噛み合ったカードでした。
2 《山》
1 《森》
2 《寓話の小道》
4 《繁殖池》
4 《蒸気孔》
4 《踏み鳴らされる地》
2 《奔放の神殿》
2 《天啓の神殿》
2 《神秘の神殿》
2 《ヴァントレス城》
-土地 (27)- 4 《厚かましい借り手》
3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
-クリーチャー (7)-
3 《森》
1 《沼》
4 《寓話の小道》
4 《繁殖池》
4 《草むした墓》
3 《湿った墓》
3 《疾病の神殿》
2 《神秘の神殿》
1 《欺瞞の神殿》
-土地 (28)- 4 《ハイドロイド混成体》
4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
2 《半真実の神託者、アトリス》
1 《鎖を解かれしもの、ポルクラノス》
-クリーチャー (11)-
2 《霊気の疾風》
2 《苦悶の悔恨》
2 《成長のらせん》
2 《暴君の嘲笑》
3 《戦争の犠牲》
2 《伝承の収集者、タミヨウ》
1 《ゴルガリの女王、ヴラスカ》
3 《世界を揺るがす者、ニッサ》
-呪文 (21)-
《ウーロ》はティムール再生を足掛かりにして、バントやスゥルタイといったランプ系にも採用されます。赤単アグロとの相性差を覆すまでには至りませんでしたが、追加のマナ加速を得たことでデッキは格段に安定しました。
プレイヤーズツアーのフォーマットがパイオニアだったことでスタンダードの大規模トーナメントはあまりありませんでしたが、メタゲームは流動性を保っていました。『世界選手権2019』はアゾリウスコントロールが制したものの、その後は赤単アグロのような軽いダメージソースと速攻を持つアグロデッキが隆盛し、次はアグロとコントロール双方に強いティムールアドベンチャーが、さらにそれを追うラクドスサクリファイスが登場します。いかに環境を読み解き、最適なアーキタイプを選択して構築するかに焦点が当てられました。
『イコリア:巨獣の棲処』(4月17日~7月2日)
使用可能エキスパンション:『ラヴニカのギルド』+『ラヴニカの献身』+『灯争大戦』+『基本セット2020』+『エルドレインの王権』+『テーロス還魂記』+『イコリア:巨獣の棲処』
主要な大会 | 優勝者 | デッキタイプ |
---|---|---|
MFO Season 2 Week 1 | James Ramsey | オボシュサクリファイス |
MFO Season 2 Week 2 | Oliver Tiu | ジェスカイルーカ |
MFO Season 2 Finals | Jason Fleurant | ティムールアドベンチャー |
春のそよ風にのって訪れた『イコリア:巨獣の棲処』はスタンダードをガラっと変えました。初戦となったMagicFest Online Season 2 Weekly Championship Week 1では、使用者数上位6デッキだけで「相棒」の採用率が参加者の半数近くになっていたのです。
前評判の高かった《巨智、ケルーガ》ファイアーズを筆頭に、2種類の「相棒」の選択肢を持つラクドスサクリファイス、極めつけは《樹上の草食獣》のマナ加速と速攻クリーチャーを組み込んだグルール《孤児護り、カヒーラ》ファイアーズでした。しかし、これらは序章に過ぎず、翌週に大きな変化が起こります。
MagicFest Online Season 2 Weekly Championship Week 2では新しいタイプのジェスカイファイアーズが登場しました。悪名高きジェスカイルーカです。
2 《島》
2 《山》
4 《寓話の小道》
4 《ラウグリンのトライオーム》
4 《神聖なる泉》
4 《聖なる鋳造所》
4 《蒸気孔》
3 《天啓の神殿》
4 《アーデンベイル城》
2 《ヴァントレス城》
-土地 (36)- 4 《裏切りの工作員》
-クリーチャー (4)-
4 《海の神のお告げ》
4 《メレティス誕生》
3 《太陽の神のお告げ》
4 《創案の火》
4 《エルズペス、死に打ち勝つ》
4 《サメ台風》
4 《覆いを割く者、ナーセット》
4 《時を解す者、テフェリー》
1 《太陽の宿敵、エルズペス》
4 《銅纏いののけ者、ルーカ》
-呪文 (40)-
《太陽の神のお告げ》などのクリーチャー・トークンと《銅纏いののけ者、ルーカ》を揃えて、能力を起動。《裏切りの工作員》を呼び出して相手のパーマネントを奪うコンボ入りのコントロールとなっています。
これらの動きを補助する《創案の火》は実に強力なカードであり、単にマナコストを踏み倒すだけではなく呪文を1つ使用した後に《空を放浪するもの、ヨーリオン》によって《創案の火》を「明滅」することで制約を破り、従来通りマナを支払ってさらに呪文を使用できたのです。このビッグムーブは他の追随を許しませんでした。
先手5ターン目の《裏切りの工作員》マウントを打開すべくさまざまなデッキが構築されました。打ち消し呪文や真逆のアグロによる押し切り戦略もありましたが、このデッキの本質はコンボを内蔵したコントロールであり一筋縄ではいきません。《空の粉砕》《時を解す者、テフェリー》といった相手のデッキにピンポイントで刺さる防御手段が用意されていたためです。
不安定ながら活路を開いたのは同じく《裏切りの工作員》を採用した戦略でした。《軍団のまとめ役、ウィノータ》を軸に組まれたデッキは、最速3ターン目に《裏切りの工作員》が着地することができます。ジェスカイルーカの一歩先行く動きであり、相手の土地を奪い動きを止めながらダメージを稼ぎ押し切るデッキとなっていました。
1 《山》
4 《ラウグリンのトライオーム》
4 《神聖なる泉》
4 《聖なる鋳造所》
4 《蒸気孔》
-土地 (20)- 4 《繁栄の狐》
4 《雄々しい救出者》
4 《ドラニスの癒し手》
4 《ドラニスの刺突者》
-クリーチャー (16)-
イコリア色の強いデッキも生まれました。「サイクリング」が再録されたことでデッキの大半を「サイクリング」付き呪文に寄せたジェスカイサイクリングが確立されたのです。コンボ的なアグロデッキであり、《繁栄の狐》と《雄々しい救出者》による点と面の二面性の攻撃手段でライフを削り、膠着時は《天頂の閃光》で打開できる押しの強いアーキタイプとなりました。このコンセプトは今のボロスサイクリングへと受け継がれています。
禁止改定(6月1日)
主要な大会 | 優勝者 | デッキタイプ |
---|---|---|
プレイヤーズツアー・オンライン1 | Elias Watsfeldt | ティムール再生 |
プレイヤーズツアー・オンライン2 | 村栄 龍司 | ティムール再生 |
プレイヤーズツアー・オンライン3 | William Craddock | ジャンドサクリファイス |
プレイヤーズツアー・オンライン4 | 浅原 晃 | ティムール再生 |
しかし、ジェスカイルーカはあまりに強すぎました。6月1日にウィザーズは重い判断を下し、今シーズン初めての禁止制限告知がなされたのです。これにより《裏切りの工作員》と《創案の火》が環境を去り、「相棒」ルールにも大きな変更が加わりました。
禁止の影響は色濃かったものの、無傷のデッキもありました。目についたのは《荒野の再生》とジャンドサクリファイスの2つ。なかでもジャンドサクリファイスは市川 ユウキ選手の手によって《ボーラスの城塞》が組み込まれ、Red Bull Untapped International Qualifier 1でトップ4に入賞したことで話題を呼びました。
《初子さらい》《忘れられた神々の僧侶》《波乱の悪魔》のボードコントロールを主戦略に、食物・トークンの織りなすシナジーが手札とライフを補給して《ボーラスの城塞》へと繋げます。クリーチャーベースのデッキにはボードコントロールで対抗してきましたが、《ボーラスの城塞》が加入したことで遅いデッキ相手に通しただけで勝てるフィニッシャーを手にしたのです。打ち消し呪文の少ないミッドレンジには特に効果的だったといえますね。
しかし、対抗馬のジャンドサクリファイスがミッドレンジだったことも後押しして、ここから長い《荒野の再生》を中心としたスタンダード環境の幕開けとなります。プレイヤーズツアー・オンラインでは全4回中3回で優勝デッキとなり、メタゲームは《荒野の再生》を意識したものへと変化し続けていきました。
初週に開催されたプレイヤーズツアー・オンライン2を制した村栄 龍司選手のデッキは、打ち消し呪文と除去がバランスよく詰め込まれた構築であり、広範囲に対応できるようになっています。
2 《森》
1 《山》
3 《寓話の小道》
4 《ケトリアのトライオーム》
4 《繁殖池》
4 《蒸気孔》
3 《踏み鳴らされる地》
3 《ヴァントレス城》
1 《神秘の神殿》
2 《爆発域》
-土地 (29)- 3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
1 《厚かましい借り手》
3 《夜群れの伏兵》
-クリーチャー (7)-
3 《炎の一掃》
2 《砕骨の巨人》
2 《ナーセットの逆転》
1 《厚かましい借り手》
1 《否認》
1 《薬術師の眼識》
1 《終局の始まり》
1 《サメ台風》
-サイドボード (15)-
対してプレイヤーズツアー・オンライン4を優勝した浅原 晃選手は、メインボードから一切の除去呪文を排し、代わりに《夜群れの伏兵》を採用してミラーマッチに特化させた構築となっています。《荒野の再生》を巡るメタゲームの変遷こそ、禁止改定後のスタンダードを象徴としていました。
『基本セット2021』(7月3日~9月24日)
使用可能エキスパンション:『ラヴニカのギルド』+『ラヴニカの献身』+『灯争大戦』+『基本セット2020』+『エルドレインの王権』+『テーロス還魂記』+『イコリア:巨獣の棲処』+『基本セット2021』
主要な大会 | 優勝者 | デッキタイプ |
---|---|---|
SCG Tour Online Season One Championship | 市川 ユウキ | ティムール再生 |
プレイヤーズツアーファイナル | Kristof Prinz | 4色再生 |
『基本セット2021』リリース前には《精霊龍、ウギン》の再録が注目を集めていましたが、《荒野の再生》を巡るコントロール主力の環境においては重すぎたようです。ティムール再生人気は衰えず、むしろ相性の良い《ムウォンヴーリーの世捨て人、ジョルレイル》が加わったことで序盤も隙のないデッキとなりつつありました。
ティムール再生の課題はメインボードでミラーマッチとアグロ戦、どちらに重きをとるべきかの選択でした。その構築の隙を突けるアグロデッキに人気が集まっていきます。姿を消していた《軍団のまとめ役、ウィノータ》が《高山の犬師》を採用したボロスウィノータとして蘇り、15アンセムの白単アグロや緑単アグロが姿を現したのです。
そんななかで開催された2020プレイヤーズツアーファイナルですが、話題をさらったのは2つのデッキでした。まずは環境の大本命、ティムール再生をメタった4色の《荒野の再生》デッキです。
1 《平地》
1 《山》
1 《森》
4 《寓話の小道》
4 《ケトリアのトライオーム》
4 《ラウグリンのトライオーム》
4 《寺院の庭》
2 《繁殖池》
2 《神聖なる泉》
2 《踏み鳴らされる地》
2 《ヴァントレス城》
-土地 (29)- 3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
2 《厚かましい借り手》
1 《帰還した王、ケンリス》
-クリーチャー (6)-
1 《霊気の疾風》
1 《ドビンの拒否権》
1 《否認》
1 《焦熱の竜火》
3 《神秘の論争》
3 《発展/発破》
4 《荒野の再生》
4 《サメ台風》
3 《時を解す者、テフェリー》
-呪文 (25)-
2 《帰還した王、ケンリス》
2 《ドビンの拒否権》
2 《裁きの一撃》
2 《陽光の輝き》
2 《ガラスの棺》
1 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
1 《霊気の疾風》
1 《轟音のクラリオン》
-サイドボード (15)-
4色再生を操り優勝したのはクリストフ・プリンツ/Kristof Prinz選手。《成長のらせん》–《荒野の再生》–《発展/発破》はティムール再生と変わらずに、ミラーマッチに強い《ドビンの拒否権》と《時を解す者、テフェリー》をタッチしていたのです。多少マナベースは不安定になりましたが、『イコリア:巨獣の棲処』のトライオームが活きた構築となっています。
《時を解す者、テフェリー》は相手の打ち消し呪文を無視できるといった単純なカードではなく、相手の《荒野の再生》が通ってしまった場合にもインスタントタイミングでの動きを抑止してくれます。《ヴァントレス城》や《サメ台風》こそプレイ可能ですが、《荒野の再生》《発展/発破》による一方的なゲーム展開に待ったをかけられるのです。
4 《ロークスワイン城》
2 《総動員地区》
-土地 (25)- 4 《どぶ骨》
4 《漆黒軍の騎士》
4 《帆凧の掠め盗り》
2 《黒槍の模範》
2 《死より選ばれしティマレット》
4 《狩り立てられた悪夢》
4 《騒乱の落とし子》
1 《残忍な騎士》
3 《悪ふざけの名人、ランクル》
-クリーチャー (28)-
ティムール再生がミラーマッチを勝つべく色を増やしたのとは対極をいくデッキも活躍しました。熊谷 陸選手が持ち込んだ黒単アグロはメタゲームに基づいたコンセプトで構築されており、準優勝という素晴らしい結果をもたらしました。
環境に蔓延るパーマネント対処手段が《霊気の疾風》に偏っていたことを逆手に取った構築であり、タフネス4以上のクリーチャーを採用することで《焦熱の竜火》にも体制をつけています。何よりも《焦熱の竜火》の採用率自体が低かったため、ティムール再生側は増え続けるクロックを見続けるしかない展開もありました。
デッキの半数近くのクリーチャーを手札破壊でバックアップするビートダウン戦略ですが、これまで多かった《朽ちゆくレギサウルス》《悪魔の抱擁》のパッケージが排除されています。代わりに入った《狩り立てられた悪夢》はクリーチャーが少ない環境を象徴とするクリーチャーであり、4色再生に多い《陽光の輝き》や《裁きの一撃》で落ちないクリーチャーです。
また、土地が多めに採用されているのも特徴のひとつです。土地が詰まる可能性を排除しつつ、マナ以外の能力を持つ土地を採用することで土地の引き過ぎ(以下、マナフラッド)にも強い構築となっています。《荒野の再生》に勝つべく短期決戦を狙うだけではなく、広いレンジで戦うことのできるデッキなのです。
禁止改定(8月3日)
主要な大会 | 優勝者 | デッキタイプ |
---|---|---|
Red Bull Untapped International Qualifier IV | 小坂 和音 | スゥルタイミッドレンジ |
Red Bull Untapped International Qualifier V | Anthony Arevalo | イゼットテンポ |
Red Bull Untapped International Qualifier VI | Michael Bonde | ラクドスサクリファイス |
SCG Tour Online Championship Qualifier #4 | Brendon Hansard | 緑単アグロ |
長らくスタンダードに君臨した《荒野の再生》ですが、遂に鉄槌が下されました。2020年8月3日の禁止制限告知により環境はフリダシへと戻り、多くのデッキが去ることとなりました。残されたカード群からプレイヤーが目をつけたのは《自然の怒りのタイタン、ウーロ》。
誰が一番《ウーロ》を上手く使えるか選手権でも開催されていたかのように、《ウーロ》を使用したデッキの活躍が目立ちました。当初はゴルガリ根本原理と呼ばれた《戦争の犠牲》までつなぐスゥルタイが主流でしたが、ミラーマッチが増えたことで単体除去や打ち消し呪文を擁する軽めの構築へと変化していきました。
2 《島》
2 《沼》
4 《寓話の小道》
4 《ゼイゴスのトライオーム》
4 《繁殖池》
4 《草むした墓》
4 《湿った墓》
1 《神秘の神殿》
-土地 (28)- 4 《ハイドロイド混成体》
4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
-クリーチャー (8)-
3 《無情な行動》
3 《思考消去》
2 《霊気の疾風》
2 《苦悶の悔恨》
2 《取り除き》
3 《絶滅の契機》
2 《戦争の犠牲》
2 《時の支配者、テフェリー》
4 《世界を揺るがす者、ニッサ》
-呪文 (24)-
2 《沼》
2 《森》
4 《寓話の小道》
4 《ゼイゴスのトライオーム》
4 《繁殖池》
4 《草むした墓》
2 《湿った墓》
-土地 (27)- 4 《ハイドロイド混成体》
4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
3 《厚かましい借り手》
-クリーチャー (11)-
スゥルタイに人気が集まったことで除去耐性を持つ《ガラクの先触れ》や《レインジャーの悪知恵》を採用した対黒に特化した緑単アグロが登場しました。一度戦場に出さえすれば除去呪文を気にせずダメージを重ねていけますが、それでも《霊気の疾風》によりスゥルタイは一歩抜きんでたアーキタイプとなっていました。
『ゼンディカーの夜明け』(9月25日~現在)
使用可能エキスパンション:『エルドレインの王権』+『テーロス還魂記』+『イコリア:巨獣の棲処』+『基本セット2021』+『ゼンディカーの夜明け』
主要な大会 | 優勝者 | デッキタイプ |
---|---|---|
Red Bull Untapped Japan Qualifier | 石橋 広太郎 | 4色オムナス |
SCG Tour Online Season Two Championship | tangrams | 4色オムナス |
『ゼンディカーの夜明け』の訪れとともにローテーションが行われ、スタンダードで使用できるエキスパンションは大幅に減少しました。ショックランドが環境を去ったことで2色以上のアグロデッキの構築が難しくなり、ゲームの勝敗を左右する強力なプレインズウォーカーが消えてアドバンテージ面では大きな損失となりました。
代わりに呪文/土地の両面カード(以下、スペルランド)の登場により、マナフラッドだけではなく土地不足(以下、マナスクリュー)に強いマナベースが構築可能となりました。土地を伸ばしたいランプデッキに限らず、フラッド緩和に頭を悩ませるアグロデッキにとっても朗報となったのです。
環境初期をけん引したのは新顔《創造の座、オムナス》です。潤滑油にしてリソース源、フィニッシャーを兼ねており、さらにカラーボードの同じ《自然の怒りのタイタン、ウーロ》とのタッグは非常に強力であり、ミッドレンジを体現した存在として瞬く間に環境に広がりました。
4 《森》
1 《平地》
1 《山》
4 《寓話の小道》
4 《ケトリアのトライオーム》
4 《ラウグリンのトライオーム》
4 《岩山被りの小道》
2 《枝重なる小道》
-土地 (28)- 4 《水蓮のコブラ》
4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
4 《創造の座、オムナス》
2 《峰の恐怖》
-クリーチャー (14)-
安定したマナ加速と手札を失わない場持ちのいいクリーチャー、干渉手段も持ち合わせている隙のない構成です。極めつけは《オムナス》の多重「上陸」により、高速でキャストされる《発生の根本原理》と《精霊龍、ウギン》という2大フィニッシャー。どのゲームレンジにも対応でき、不利のないこのデッキは一躍有名になりました。そして…
禁止改定(9月28日)
主要な大会 | 優勝者 | デッキタイプ |
---|---|---|
シーズン・グランドファイナル | Austin Bursavich | オムナスアドベンチャー |
Red Bull Untapped Online Qualifier France | Noham Maubert | ラクドスエスケープ |
2020年9月28日の禁止制限告知により、遂に《ウーロ》が陥落。ミッドレンジ~コントロールを支えていたリソースゲームの王者が去り、環境は健全な方向へと舵を切ります。
当初は前環境と同じ4色《オムナス》は存在していましたが、《ウーロ》亡き後のマナフラッドに耐えきれず、早々と退場することに。
混戦を抜け出して現れたのはラクドスエスケープとディミーアローグでした。ディミーアローグは打ち消し呪文多めのクロックパーミッションスタイルであり、後詰めに《トリックスター、ザレス・サン》が控えていました。ラクドスエスケープは「切削」により墓地を有効活用でき、《死の飢えのタイタン、クロクサ》の存在によりラクドスカラーながら消耗戦に強いデッキとなっていました。
ですが、それらの上をいったのは4色アドベンチャーです。《オムナス》は拠点をアドベンチャーデッキへと移し、メタゲームの中心へと戻ってきたのです。
4 《森》
2 《山》
1 《平地》
3 《寓話の小道》
4 《ケトリアのトライオーム》
2 《ラウグリンのトライオーム》
4 《枝重なる小道》
2 《岩山被りの小道》
-土地 (26)- 4 《エッジウォールの亭主》
2 《巨人落とし》
4 《願いのフェイ》
2 《水蓮のコブラ》
4 《砕骨の巨人》
2 《厚かましい借り手》
4 《創造の座、オムナス》
4 《豆の木の巨人》
-クリーチャー (26)-
従来のアドベンチャーデッキと変わらずに《エッジウォールの亭主》《幸運のクローバー》のエンジンと「出来事」を組み合わせてアドバンテージを稼いでいきます。元々色をタッチしやすいアーキタイプであったため、《オムナス》はリスクなく投入でき、このクリーチャーが加わったことでパワーレベルは突き抜けたものとなりました。
特に《僻境への脱出》はキャストするのに使った分のマナを補充してくれるため、フリースペル感覚で5枚のカードが手に入るカードといえます。《オムナス》と《僻境への脱出》を順番にキャストするだけでマナと展開力に差が生まれるのです。伸びたマナの使い道として《願いのフェイ》の使い回しもあり、序盤から終盤まで隙のないデッキとなってしまったのです。
事実、2020シーズン・グランドファイナルの決勝戦はオムナスアドベンチャー同士のミラーマッチとなり、優勝したオースティン・バーサヴィッチ/Austin Bursavich選手はミラーマッチの増加を見越して《恋煩いの野獣》を減らしていたほどでした。
そして、今(10月12日~)
主要な大会 | 優勝者 | デッキタイプ |
---|---|---|
『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド(10月) | 佐藤 レイ(最多勝) | グルールアドベンチャー |
日本選手権2020秋 | 川田 一喜 | ディミーアローグ |
Red Bull Untapped 2020 World Finals | 小坂 和音 | グルールアドベンチャー |
『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンド(11月) | 行弘 賢(最多勝) | 緑単フード |
CFB Clash Championship | cftsoc | オボシュランプ |
Sekappy COLOSSEUM 2020 | 斉藤 徹 | グルールアドベンチャー |
『ゼンディカーの夜明け』チャンピオンシップ | Brad Barclay | ディミーアヨーリオン |
2020年に入って4回目となる禁止制限告知により、《オムナス》は活躍の場をパイオニア以降のフォーマットへと移しました。これまでアドベンチャーデッキの根幹であった《幸運のクローバー》と《僻境への脱出》がなくなったことで、ミッドレンジタイプのアドベンチャーデッキも消滅することとなったのです。
天敵であったオムナスアドベンチャーが消えたことでラクドスエスケープが環境の筆頭となり、緑単フード、セレズニアブリンクといったミッドレンジ帯の攻防が鍵を握りました。
ミッドレンジの頂点を極めたのはアゾリウスブリンクです。パーマネント対策こそセレズニアブリンクと同様でしたが、直接的なドロー呪文と《空を放浪するもの、ヨーリオン》によりアドバンテージ獲得手段が豊富であったのです。環境の大本命として、『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンドでも多くのプロプレイヤーが選択しました。しかし、それを見越したプレイヤーたちは異なった選択肢をとっていました。
3 《山》
4 《寓話の小道》
2 《進化する未開地》
4 《岩山被りの小道》
-土地 (22)- 4 《エッジウォールの亭主》
4 《山火事の精霊》
3 《漁る軟泥》
4 《砕骨の巨人》
4 《カザンドゥのマンモス》
4 《恋煩いの野獣》
2 《探索する獣》
-クリーチャー (25)-
2 《エンバレスの盾割り》
2 《運命の神、クローティス》
2 《焦熱の竜火》
2 《アクロス戦争》
2 《解き放たれた者、ガラク》
2 《怪物の代言者、ビビアン》
-サイドボード (15)-
素早く打点の高いダメージソースと《エンバレスの宝剣》による強襲、種類の異なる豊富なアドバンテージ獲得手段がミックスされたグルールアドベンチャーは、重いボードコントロール方向へと進んでいたアゾリウスブリンクの防御網を易々と突破してみせました。
日本のトッププロが調整を重ねたグルールアドベンチャーはこの大会を勝ち越しただけでなく、今なお環境トップとして存在するデッキです。2色土地の少なさから生じる色事故をマナソースを30枚に増やすことで解決しており、同時に「上陸」を持つクリーチャーによりマナフラッドすらも緩和していたのです。スペルランド影響もありますが、アグロながらデッキの半数をマナソースに費やしたことは英断といえます。
伸びたマナは《エッジウォールの亭主》《グレートヘンジ》によって有効活用でき、ショートレンジのゲームでは《エンバレスの宝剣》で制します。多少構成は変化したものの高いデッキパワーを有し、メタゲームにも適応できる柔軟さを持ち合わせています。
しかしグルールアドベンチャーはあまりに強すぎました。瞬時に包囲網は形成され(それでも勝っていますが)、駆逐されたはずの緑単フードが復権を果たしました。
4 《ギャレンブリグ城》
3 《眷者の居留地》
-土地 (23)- 4 《金のガチョウ》
4 《絡みつく花面晶体》
1 《漁る軟泥》
4 《カザンドゥのマンモス》
4 《恋煩いの野獣》
2 《打ち壊すブロントドン》
4 《意地悪な狼》
4 《貪るトロールの王》
1 《巨大猿、コグラ》
-クリーチャー (28)-
2 《鎖巣網のアラクニル》
2 《打ち壊すブロントドン》
2 《原初の力》
2 《強行突破》
2 《怪物の代言者、ビビアン》
1 《巨大猿、コグラ》
1 《精霊龍、ウギン》
-サイドボード (15)-
《金のガチョウ》《パンくずの道標》のエンジンはそのままに、《意地悪な狼》と《貪るトロールの王》がガッチリと盤面を支えます。除去ではなくサイズの優れたクリーチャーでグルールアドベンチャーの攻撃を受け止めることで、それ以外のミッドレンジやコントロールと相対した場合にはダメージソースとして運用できるようになっているのです。
単なるファッティデッキではなく、《パンくずの道標》《眷者の居留地》による消耗戦の強さも魅力のひとつです。デッキの半分近くがクリーチャーであるため、ひとたび定着すれば《グレートヘンジ》のドローが途切れることはありません。
ディミーアローグについても紹介しましょう。デッキパワーは十分であるものの、ラクドスエスケープの立ち位置によって有利不利が大きく変化するアーキタイプです。《夜鷲のあさり屋》まで含めた20枚前後のならず者を積極的に《トリックスター、ザレス・サン》へとつなげてゲームにフタをする戦略から一転、極端にクリーチャーを減らした2つの構築へと変化しました。
ひとつはこれまでの構築からクリーチャーを減らして呪文を増やしたスタイリッシュな構築。クリーチャーを極力瞬速持ちに寄せることで、隙をつくりにくくしています。《トリックスター、ザレス・サン》がパーマネント中心のメタゲームに強く、緑単フードやランプに対しては《グレートヘンジ》や《精霊龍、ウギン》を釣りあげてそのまま勝負を決めるほどでした。
3 《沼》
4 《ゼイゴスのトライオーム》
4 《清水の小道》
4 《欺瞞の神殿》
1 《ヴァントレス城》
-土地 (23)- 4 《盗賊ギルドの処罰者》
4 《空飛ぶ思考盗み》
4 《厚かましい借り手》
1 《老いたる者、ガドウィック》
3 《トリックスター、ザレス・サン》
-クリーチャー (16)-
1 《塵へのしがみつき》
4 《湖での水難》
2 《取り除き》
2 《無情な行動》
2 《ジュワー島の撹乱》
2 《無礼の罰》
2 《アガディームの覚醒》
1 《神秘の論争》
3 《物語への没入》
-呪文 (21)-
もう一方は《夢の巣のルールス》を「相棒」に据えたライブラリーアウトに主眼を置いた構築です。
3 《沼》
4 《寓話の小道》
2 《ゼイゴスのトライオーム》
4 《清水の小道》
4 《欺瞞の神殿》
-土地 (21)- 4 《マーフォークの風泥棒》
4 《遺跡ガニ》
4 《盗賊ギルドの処罰者》
4 《空飛ぶ思考盗み》
-クリーチャー (16)-
1 《塵へのしがみつき》
4 《湖での水難》
3 《無情な行動》
3 《アガディームの覚醒》
2 《神秘の論争》
1 《死住まいの呼び声》
1 《凪魔道士の威圧》
4 《物語への没入》
1 《海門修復》
-呪文 (23)-
2 《否認》
2 《タッサの介入》
2 《死住まいの呼び声》
2 《凪魔道士の威圧》
2 《絶滅の契機》
1 《塵へのしがみつき》
1 《神秘の論争》
1 《夢の巣のルールス》
-サイドボード (15)-
《遺跡ガニ》はタフネス3と堅く黒除去以外では対処しにくいため、1ターン目に出せればかなりの枚数を削ってくれます。こちらの攻め手が軽いこともあり、グルールアドベンチャーをメタった中速のボードコントロールデッキに強いデッキとなっています。相手にボードの対処を迫りつつ、要所を打ち消し呪文によって守り、隙を見て《物語への没入》でアドバンテージ差を広げます。瞬間的にアドバンテージを得る手段が多く、相手にリソースを復旧する時間を与えません。
環境後期では繋ぎとなる《心を一つに》が加わったことで、デッキの安定性が増しています。遅いゲームに強いデッキですが、現在はメインボードから《凪魔道士の威圧》を採用するなどしてクリーチャー戦でも引けを取らない構築となっています。
おわりに
最後に紹介した以外にも、エスパースタックスやティムールランプ(オボシュ)、ディミーアコントロールと今のスタンダードには多種多様なデッキが存在しています。現在は突出したデッキはなく、メタゲームは円滑に回っているようです。
来年1月に発売を控える『カルドハイム』には、どんなカードが収録されているのでしょうか。新たなスタンダード環境の到来が、今から待ち遠しいですね。
それではまた、来年のこの時間でお会いしましょう。よいお年を!!