決勝: 藤田 修(東京) vs. 簗瀬 要(東京)

晴れる屋

By Atsushi Ito




 「シルバーコレクター」という呼び名は、最近のプレイヤーには馴染みがないかもしれない。

 1999年のアジア太平洋選手権 (APAC) にはじまり、グランプリ、プロツアー、日本選手権など……それら各種のフォーマットで開催された様々な大会で準優勝を収めた実績から、プロ現役時代の藤田はそう呼ばれていた。

 だがそれらの準優勝の歴史は、本人にとっては「最後の最後で勝ちきれなかった」という悔しい思い出とともに刻まれてきたかもしれないが、裏を返すと、同じ数だけ決勝まで勝ち上がり、決勝戦を戦った経験があるということでもある。

 そんな藤田が、このプロツアー『異界月』予備予選でも決勝戦まで勝ち上がってきた。そして、予備予選にシルバーはない。地域予選の権利は優勝者にのみ与えられる。すなわち、優勝とそれ以外なのだ。

 ならばもはや藤田に、2位に甘んじる理由はどこにもない。一線から退いたとはいえ、再びプロツアーに出られるものなら出たいであろう藤田が、まずは地域予選への参加資格を獲得するべく、幾度となく経験してきた「決勝戦」に臨む。

藤田 「最後もバントかー……きっつー!」

 一方の対戦相手、藤田と同じくバントカンパニーを駆る簗瀬もまた、2位に縁があるキャラクターの持ち主だ。

 というのも、関東最大の草の根大会である【PWC】の常連でもある簗瀬は、そこでの年間ポイントランキングで先月2年連続の2位となったばかりなのである。

 しかし、簗瀬とて強豪であることに変わりはない。何となれば、Magic Onlineのプロツアー予選を突破し、次週に開催されるプロツアー『イニストラードを覆う影』に、自身初となるプロツアー参加を予定しているのだ。

 となればここはプロツアー本戦に向けて弾みをつけたいところだが、準々決勝で大澤、準決勝で南の駆るバントカンパニーをそれぞれ倒してきている藤田の方が、複雑な同型対決の疲労も多い分、密度の濃い経験を積んでいる。

 有利が付く要素があるとすれば、《大天使アヴァシン》を含む数枚のスペル内容の差と、大胆に《進化する未開地》を排除したマナベースしかない。己の組み上げたデッキを信じ、簗瀬もまたプロツアーへの道を切り開かんとする。


 藤田と簗瀬。ともに1位を望みながらも2位にとどまったという経験の多い2人による、シーズン最後、たった一席の地域予選への参加権利をかけたバントカンパニー同型対決が、今幕を開けた。






Game 1


 簗瀬の先手2ターン目《薄暮見の徴募兵》に対し、藤田はデッキに12枚の2マナ域を擁するにもかかわらずアクションがなく、変身を許してしまう。簗瀬はこれ幸いと《爪の群れの咆哮者/Krallenhorde Howler》が持つクリーチャー呪文が1マナ軽くなる効果から《巨森の予見者、ニッサ》《森の代言者》と畳み掛ける。

 それでも簗瀬の《不屈の追跡者》プレイからの《爪の群れの咆哮者/Krallenhorde Howler》アタックに対し、《跳ねる混成体》でこれを打ち取った藤田は、次の簗瀬のターンのエンド前に《集合した中隊》をプレイ。《ヴリンの神童、ジェイス》《反射魔道士》を送り出し《不屈の追跡者》の成長を許さない。

 一方簗瀬もこの《ヴリンの神童、ジェイス》は即座に《ドロモカの命令》で処理し、《集合した中隊》の再利用を阻む。

 ここで藤田も《不屈の追跡者》をプレイしつつ手がかり・トークンを生成。続いて簗瀬も《不屈の追跡者》のプレイで応え、最序盤のマウントの取り合いで互いに主導権を握れなかったことで、ゲームは中盤戦へと突入する。



簗瀬 要


 まず仕掛けたのは簗瀬。6ターン目、藤田が《ヴリンの神童、ジェイス》を出して4マナ構えたエンド前に《跳ねる混成体》をプレイしてブロッカーを寝かせる。さらに自分のターンに7枚目の土地を置いて《巨森の予見者、ニッサ》を《精霊信者の賢人、ニッサ/Nissa, Sage Animist》へと変身させると、《森の代言者》《跳ねる混成体》《不屈の追跡者》の3体アタックを敢行したのだ。

 これには《集合した中隊》《森の代言者》《反射魔道士》をめくり、《森の代言者》を手札に返しつつ有利なブロックをする藤田だったが、ここで簗瀬の切り札が降臨する。


大天使アヴァシン


 《大天使アヴァシン》

藤田 「うわー!デッキに入ってるかー」

 だが藤田も焦らず返すターンにこの《大天使アヴァシン》《反射魔道士》で手札に返しつつカウンターアタックで《精霊信者の賢人、ニッサ/Nissa, Sage Animist》を落とすと、簗瀬も再び決め手に欠く戦線となってしまう。

 さらに藤田が《ヴリンの神童、ジェイス》を変身させ、メインで《集合した中隊》を再利用。《巨森の予見者、ニッサ》《森の代言者》をめくると、ここまで藤田が《集合した中隊》を3回プレイしたのに対して簗瀬は0枚。このテンポ差が《不屈の追跡者》が生成した手がかり・トークンの生け贄回数に結びつき、徐々にアドバンテージ差が生まれ始める。


集合した中隊不屈の追跡者


 とはいえ《森の代言者》《反射魔道士》など基本的に互いのブロッカーが強いため、藤田の側も迂闊には攻められない。対する簗瀬も《大天使アヴァシン》を抱えてはいるものの、藤田が4マナを立たせながらターンを返してくるので、《オジュタイの命令》の気配もあり無理攻めはできない。

 そして2人がそうして攻めあぐねている間にも、互いの場にどんどんパーマネントが並んでいく。

藤田 「早くもクソゲーが……なんなんやろなこれw」

 それでも藤田の側が《束縛なきテレパス、ジェイス/Jace, Telepath Unbound》《精霊信者の賢人、ニッサ/Nissa, Sage Animist》とコントロールしているため、どうにかして攻める必要がある簗瀬は、エンド前の《集合した中隊》《巨森の予見者、ニッサ》《跳ねる混成体》を戦場に送り出すと、《大天使アヴァシン》を構えながらのアタックで《束縛なきテレパス、ジェイス/Jace, Telepath Unbound》を落とすことに成功する。

 しかしそれも、互いに《不屈の追跡者》《薄暮見の徴募兵》《精霊信者の賢人、ニッサ/Nissa, Sage Animist》をコントロールした盤面においてはわずかな変化に過ぎない。

 引いた土地は手がかり・トークンに、マナはドローやクリーチャーカードに変換され、プレインズウォーカーは忠誠度を溜めつづける。





 バントカンパニー同型戦は、こうなってしまうと局面を打開するのがとにかく難しい。盤面は既に飽和し、もはやクリーチャーの数を数えるのも馬鹿らしいほどだ。

藤田 「なんやねんこのゲームw プロツアー (の放送) で見たら寝てまうな……」

 いったいこのゲームの終着点は、宇宙の深淵とはどこにあるのだろうか?

 そんなことを思わず考えてしまいそうになるほど果てしなく長い時間が経ったころ、藤田がおもむろに動き始めた。

 《ドロモカの命令》《不屈の追跡者》を除去しにいき、合わせられたフルタップの《大天使アヴァシン》《オジュタイの命令》でカウンターしつつ、《ヴリンの神童、ジェイス》を墓地から釣り上げたのだ。

 さらに藤田の《精霊信者の賢人、ニッサ/Nissa, Sage Animist》の忠誠度が7になった返しのターン、簗瀬のエンド前に藤田がなおも仕掛ける。

 《集合した中隊》を2連打。《不屈の追跡者》を2体、《跳ねる混成体》を2体呼び出し、さらに手札から《跳ねる混成体》をプレイしたのだ。

 これにより簗瀬のブロッカーを一挙に3体排除、実に7体分もの生物差を付ける。

 この時点で頭数差は13対6。ダメ押しに《精霊信者の賢人、ニッサ/Nissa, Sage Animist》が「-7」能力を起動すると、6体の土地が目覚め、加えて2枚の《伐採地の滝》が起動する。

藤田 「そろそろみんな疲れてる頃やろ?きっと足りてる。なんかあったら知らん」





 21体ものクリーチャーが、勢いよくレッドゾーンに送り込まれる。

 この圧倒的な物量に抗う術がないことは、簗瀬と同じくバントカンパニーを使う藤田が一番よく知っているのだ。

 一応《オジュタイの命令》を打ってはみる簗瀬だったが、到底生き延びられないとわかるとカードを畳み、50分にも及ぶ1ゲーム目がようやく決着したのだった。


藤田 1-0 簗瀬



Game 2


 《森の代言者》《不屈の追跡者》という動きの簗瀬に対し、藤田は《薄暮見の徴募兵》からの《反射魔道士》《不屈の追跡者》を手札に戻して盤面の優位を確保する。

 ならばと《巨森の予見者、ニッサ》を送り出す簗瀬だったが、返す藤田がメインで《集合した中隊》をプレイすると、6枚の束から飛び出てきたのは《跳ねる混成体》が2体!


跳ねる混成体跳ねる混成体


簗瀬 「ぎゃー、強い!」

 一方、3/3のアタッカー2体を確保しつつの4点アタックで一気にテンポを引き離された簗瀬も《不屈の追跡者》から盤面の再構築を試みるが、引けども引けども簗瀬のドローは土地ばかり。虎の子の《反射魔道士》を切るが、返すターンに《石の宣告》《森の代言者》を追放されると、簗瀬の戦陣は《不屈の追跡者》《反射魔道士》《巨森の予見者、ニッサ》といまいち頼りない。

 こうなると《跳ねる混成体》2体のアタックに《不屈の追跡者》をブロッカーとして差し出さざるをえず、さらに手がかり・トークンを生け贄に捧げて5/4としたところで、《ドロモカの命令》で次のターンには変身できる予定だった《巨森の予見者、ニッサ》を打ち取られつつ《不屈の追跡者》も相打ちにされ、《集合した中隊》が生んだ頭数の差を埋めることができない。



藤田 修


 《ドロモカの命令》《反射魔道士》を3/4にしつつ《大天使アヴァシン》を構えてどうにかしのごうとするが、藤田は満を持して《不屈の追跡者》《薄暮見の徴募兵》を送り出し、攻撃することなくアドバンテージ差を着実につけていく。

 毎ターン3枚以上カードを手に入れる藤田に対し、簗瀬のドローは1枚。しかもそれすらほとんどが土地で、《不屈の追跡者》なしではリソースに変換することもままならない。

 ほどなくして藤田がエンド前の《集合した中隊》からフルアタックを敢行すると、《大天使アヴァシン》をもってしても支えきれない軍勢を前に、簗瀬は右手を差し出すほかなかった。


藤田 2-0 簗瀬






 プロツアー『異界月』予備予選、優勝は藤田 修(東京)!

 おめでとう!!



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