Translated by Kohei Kido
(掲載日 2021/3/12)
プレイングだけでは届かない
みなさんお元気ですか?4度目となったリーグ・ウィークエンドで私がジャンドサクリファイスを選んだ理由とそれに至った思考プロセスについてお話ししたいと思います。
本題に移る前に、まずはマジックで勝つために必要なのは上手くプレイすること(そして少しばかり運がいいこと)だけではないということは改めて知っていて欲しいと思います。プレイングが上手くなるのはマジックで腕を上げるためにできることのほんの一部でしかなく、他にも大事なことはたくさんあります。
もし大会で勝ちたいなら以下のようなことも必要です。
全て大事なことです。大会で1つのプレイミスもしなくても、メタゲームを上手く読めずデッキ選びに失敗するだけで簡単に負けられます。たくさん準備をしても、それでもちゃんと英気を養って当日水分を取らないと、つまらないミスをしてしまうでしょう。
この記事のポイントはそういった要素の1つであるデッキ選びに着目して、私のリーグ・ウィークエンドでのケースを例として考えてみることです。
デッキ選択までの過程
デッキ選びは環境で最強のデッキを選ぶことばかりが正解ではありません。その大会で最適なデッキを選ぶことこそが重要で、それは必ずしも環境最強デッキではありません。
これはどういうことでしょうか?多くの場合メタゲーム上で存在しているデッキのデッキパワーに大きな差はなく、メタゲームは移り変わっていきます。「最強」デッキや流行りのデッキとしてデッキが台頭するとそれに対抗すべく、相性がいい新しいデッキや「最強」デッキに向けて調整されたデッキが出現します。そうやってメタゲームは毎週移り変わっていくのです。ときにはあまりにも強いデッキが出現してメタゲームが固まることもありますが、『カルドハイム』のスタンダードはまだその段階に達していません。
この大会のために私が最初に調整し始めたデッキはラクドスサクリファイスでした。『カルドハイム』の新カードはデッキに合っていて、過去に楽しめたデッキでもあったので魅力的な選択肢だったのです。
ラクドスサクリファイス(調整初期)
初めの方はメタゲーム上の立ち位置もとても良く、他のデッキに対して全て互角か有利だったと言ってもいいと思います。急速にメタゲーム上で数も増えていき、ジャンドカラーのサクリファイスデッキも出現しました。主な違いはミラーマッチで強力なメインデッキの《フェイに呪われた王、コルヴォルド》で、サイドボードに《運命の神、クローティス》も取ることができます。新たな「小道」の存在もあってマナ基盤は盤石でした。
でもスゥルタイ根本原理が出現したとき、突然全てが変わってしまいました。新たなこのデッキはとても強く、急速にスタンダードの最強のデッキに名乗りを上げました。不幸なことにラクドス/ジャンドがこのデッキに対してできることはありません。デッキリストとゲームプランを調整してみましたが、スゥルタイに対して上手く渡り合えるデッキを作ることができませんでした。
赤単や白単のようなアグロ、ナヤフューリーといったデッキがスゥルタイ根本原理をメタゲームから押し出さない限りラクドス/ジャンドをリーグ・ウィークエンドで使うことはできない、ということがこの時点で判明していました。だから他のデッキを試さざるを得ず、もしもメタゲームが変わったときにはまたラクドス/ジャンドを使える状態にしておこうと考えました。
そしてまさにそれが起きたのです。ローグがメタゲーム上に浮上し、リーグ・ウィークエンドの前の週にはアグロが流行しました。スゥルタイ根本原理は使いにくい環境です。何人かスゥルタイ根本原理を登録するかもしれないけど他のデッキには有利だからジャンドを使おうと思ったのはその段階です。
あの大会で使うデッキとしてはいい選択だったと思います。一週間前、一週間後では最適な選択ではなかったかもしれませんが、あの大会では正しかったのです。つまり大会登録デッキを選ぶというときに考慮しなければならないことはたくさんあって、全てはタイミングだということです。使いたいデッキの中で選ぶとしても、メタゲームの変化をしっかりと追って、大会で最適なデッキを選ぶことはとても重要です。
登録するデッキリストの75枚(95枚)について同じことが言えます。想定するメタゲームに合わせてデッキを調整することが大事で、(流行するデッキだと想定するなら)特定のデッキに対する対策カードの枚数を増やすことも許される場合があります。たとえ他の(流行しないと想定する)デッキに対するガードが下がるとしてもです。
ジャンドサクリファイス
それを踏まえて、これが私が使ったデッキです。
調整チームのメンバーは(サイクリングを選んだセバスティアン・ポッツォ/Sebastian Pozzoを除いて)ナヤフューリーを使うことを選んでいたので、私にとっては難しい決断でした。でもスゥルタイ根本原理は少なく、クリーチャーデッキ中心のメタゲームになるからジャンドが正しい、という直感を信じたのです。
サイドボード解説
《トーモッドの墓所》2枚
このカードは苦手な相手の1つであるサイクリングに対してとても強いカードです。ジャンドサクリファイスは相手のライフを脅かすほど速いデッキではないので、対戦相手が《天頂の閃光》を使えるようになったときにゲームが終了してしまうことが多いのです。《トーモッドの墓所》が2枚あると多くの時間が稼げます。《フェイに呪われた王、コルヴォルド》はこのマッチアップで強力です。
《魂標ランタン》ではなく《トーモッドの墓所》を採用したのは、《魂標ランタン》でカードを引くことは稀で、1マナの差で勝敗が分かれることも多いからです。
《モーギスの好意》1枚
このカードを始めて使った瞬間好きになりました。とても柔軟性があってローグに対して強いカードで、《恋煩いの野獣》が攻撃できないようにでき、《エッジウォールの亭主》を除去できます。赤単に対しても手堅いカードで、白単との試合では《歴戦の神聖刃》に対処できるので輝きます。このカードを「脱出」させるコストも安く、複数回使うことを想定できます。
《強迫》2枚 /《苦悶の悔恨》1枚
《苦悶の悔恨》を1枚以上採用する理由は《強迫》が弱いマッチアップで使えるからです。主にはナヤフューリーですね。
《夜鷲のあさり屋》1枚
デッキに最後に追加したカードです。このカードを使ってみるとすごく感触が良くて、複数の相手に対して強いカードです。サイクリングに対してとても強いカードです。相手が墓地を肥やして急速に成長していき、絆魂によって《天頂の閃光》の射程圏外に逃れられますからね。アグロにも強く、ナヤフューリーに対してもまあまあです。
大会本番
総合的に考えても、この大会で私にとって正しいデッキ選択でした。リーグ・ウィークエンドで当たったほとんどの相手デッキに対して有利でしたからね。土曜日は4勝2敗、日曜日は2勝2敗だったので6勝4敗で終えました。こういう成績を達成することは私にとってとても重要です。ライバルズ・リーグからの脱落を回避する可能性が高まるからです。
Day 1
選手名 | デッキ | 結果 |
---|---|---|
アレクサンダー・ヘイン | ディミーアローグ | 2-1 |
ベルナルド・サントス | グルールアドベンチャー | 2-1 |
オースティン・バーサヴィッチ | ディミーアローグ | 2-0 |
熊谷 陸 | ティムールアドベンチャー | 2-1 |
マシュー・アヴィニョン | 白単アグロ | 0-2 |
ヨエル・ラーション | 赤単アグロ | 0-2 |
Day 2
選手名 | デッキ | 結果 |
---|---|---|
サイモン・ゴーツェン | 赤単アグロ | 0-2 |
ルイ=サミュエル・デルトゥール | 白単アグロ | 2-1 |
マイク・シグリスト | 白単アグロ | 2-1 |
石村 信太朗 | スゥルタイローグ | 1-2 |
結果的に負けましたが、ローグと白単はジャンドサクリファイスにとって当たりたい相手でした。赤単は互角ですが、赤単との試合は残念ながら両方ともメインゲームが後手になり、相手の激しい攻めを可能にする手札にうまく対処できませんでした。大会で当たった相手のデッキのことを考えれば、どこかが違えば簡単に7-3できたはずです。でも6-4も全く悪い成績ではなく、結果には満足しています。
サクリファイスデッキの今後
今このデッキを使うべきなのかはわかりません。新しいデッキもたくさん出現しています。フューリー型ではない盤面を横に展開してくるナヤデッキが流行っています。《秘密を知るもの、トスキ》《フェリダーの撤退》《ヤスペラの歩哨》のようなカードを使っているデッキですね。ミッドレンジデッキが増えているということはスゥルタイ根本原理の立ち位置が良くなりそうで、ジャンドにとっては悪いニュースです。
ジャンドサクリファイスを使うとしたら試したいカードを挙げておきます。
《アクロス戦争》は4枚目として、《切り裂かれた帆》は人気を取り戻しつつある《グレートヘンジ》が問題であるためその解答として検討しています。
この記事を楽しんでくれていると私も嬉しいです。質問やご意見がありましたらお気軽にどうぞ。このご時世ですからみなさん安全に過ごしましょう。また次回!