はじめに
みなさま、「名カード集」へようこそ。
この「名カード集」では、時代を過去へと遡り、昔のエキスパンションの名だたるカードを紹介していきます。
今回は、ウェザーライト・サーガの始まりとなり、定番から珍品まで様々なカードを輩出した『ウェザーライト』をご紹介しましょう。
『ウェザーライト』ってどんなセット?
『ミラージュ』『ビジョンズ』に続いて発表されたセット。かつてマジックには三つのエキスパンションで大きな物語を形成する「ブロック制」という概念があったのですが、『ウェザーライト』は急遽このミラージュブロックに組み込まれることが決定したため、やや毛色が異なっています。
ど派手な有名カードは少ないようですが、モダンやレガシー、統率者戦で現在でも見かけるシブいカードや、当時環境を席巻したコンボのパーツを輩出しています。
現在のマジックでは当たり前となった、背景ストーリーを色濃く表現したカードが作られるようになったのもこのセットから。
遠い昔のようで今とつながっている、記念すべきこのセットの名カードをご紹介します。
『ウェザーライト』の名カードたち
《鋼のゴーレム》
あなたはクリーチャー呪文を唱えられない。
文字通り『ウェザーライト』の顔がこちら。何とも形容しがたい、特徴的な顔つきですね。
無色3マナで登場するクリーチャーとして3/4というスタッツは優秀。タフネス4という数字は現在の感覚でも「丈夫なクリーチャー」の部類に入ります。《稲妻》で焼かれず、戦闘でもパワー4以上のクリーチャーはパワー3以下のクリーチャーと比べ圧倒的に数が少なくなっており、多くのビートダウンデッキに対して有利でした。当時のセットに多く存在した「色に対するプロテクションを持ったクリーチャー」に対応できる無色のクリーチャーであることも重要です。
その力の代償として自分はクリーチャー呪文を唱えられなくなってしまいますが、もともとクリーチャーの少ないパーミッション系のデッキでは問題ありません。様々なコントロールデッキのブロッカー兼フィニッシャーとして採用されていました。
ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社開発部の主席デザイナー、Mark Rosewater氏が後に語った話によると、《鋼のゴーレム》はもともとカーンのイラストとして発注したものでした。しかし納品されたイラストが「優しい巨人」というカーンのイメージにそぐわないということで《鋼のゴーレム》というまったく別のカードとして発表されたという経緯があったそうです。もしこのイラストでカーンの物語が始まっていたら、私たちのもつカーンの印象は大きく違っていたかもしれませんね。
《精神石》
(T):(◇)を加える。
(1),(T),精神石を生け贄に捧げる:カードを1枚引く。
2マナで戦場に出て、以後無色1マナを生み出し続ける《精神石》は、序盤中盤ではなかなかのテンポアドバンテージ。マナ基盤が十分整った終盤ではドローに変えることもできて無駄がありません。デッキの色を選ばず搭載できることもメリット。コモンカードだったこともあって様々なデッキに採用されました。
現在ではモダンのエルドラージトロンをはじめとした、無色マナを重宝するデッキで使用されるほか、安価でどんなデッキにも入れられることから統率者戦でも見かけます。
後に「6マナで3マナを出し」「生贄に捧げると3枚ドローする」従来比サイズ三倍の《夢石の面晶体》や、同じく従来比二倍の《面晶体の記録庫》が登場しています。
《無のロッド》
アーティファクトの起動型能力は起動できない。
実にシンプルな一文で多くのプレイヤーを悩ませた《無のロッド》。 起動型能力とは「(コスト):(発揮される効果)」の形式で書かれた能力のこと。
例えば《稲妻のすね当て》などアーティファクト装備品は戦場に出すことはできるものの、新たにクリーチャーに装備することはできません。
起動に必要なコストを払うことさえ許されないので、生贄によるコンボを搭載したデッキの《ファイレクシアの供犠台》も文字通り置物。
《厳かなモノリス》にいたっては、タップしてマナを出すことはもちろん、自身をアンタップすることもできなくなります。
このカードが発表された当時は現在とルールが異なり、「マナ・ソースとしてプレイする」と書かれた起動型能力は「土地からマナを出す行為」と同じように扱われ《無のロッド》の効果を受けない、という時期がありました。しかし後のルール改定で「マナ・ソース」概念の廃止とともに、《無のロッド》は現在知られているようなマナ能力さえ許さない極悪なアーティファクトになりました。
現在ではレガシー、ヴィンテージでアーティファクトデッキを睨んでいます。統率者戦では、マナ加速が得意でマナアーティファクトに頼らない緑を含むデッキが相手のマナアーティファクトを停止させるために採用するなど、《精神石》と真逆の立場のカードになっています。
《中断》
プレイヤー1人を対象とする。ターン終了時まで、そのプレイヤーはインスタント呪文とソーサリー呪文を唱えられず、マナ能力でない起動型能力を起動できない。 カードを1枚引く。
白らしい相手の行動を制限するインスタントですが、その軽さ、範囲、キャントリップが強力な一枚です。相手のアップキープに唱えることで相手の行動を大きく制限するだけではなく、自身が強力なコンボを開始する前に唱えて相手の妨害を封じ込めることもできます。
さらにこのカード、オラクル変更前には「マナ能力さえ使えない」という旨のテキストになっていました。《ラノワールのエルフ》や《精神石》はもちろん、土地からでさえマナを出すことができず、事実上呪文がまったく唱えられない状態になってしまうのです。これだけ縛ったら追加ターンのようなもの。こんな呪文がたった2マナ。ドローもついてくるので、アドバンテージを失うこともありません。
ほどなくオラクル変更により弱体化してしまいましたが、それまでは大量のドローと墓地からインスタントを回収する呪文で相手をロックし続ける……といったデッキも存在したのだとか。
《水蓮の谷間》
水蓮の谷間が戦場に出るなら、代わりにアンタップ状態の土地を2つ生け贄に捧げる。そうしたなら、水蓮の谷間を戦場に出す。そうしなかったなら、それをオーナーの墓地に置く。
(T):好きな色1色のマナ3点を加える。
《Black Lotus》といえばマジックを象徴するカード。数多くの派生カードが作られ、最近では《宝石の睡蓮》が令和の《Black Lotus》として話題になりました。一方「ウェザーライトのロータス」が《水蓮の谷間》です。
こちらはタップすることで《Black Lotus》と同じく3マナを生み出す土地。好きな色マナを生み出せるのが土地としてのメリット。もちろんデメリットつきで、戦場に出るとき、アンタップ状態の土地二つを生贄に捧げなければなりません。
仮に《山》、《沼》が戦場にある時にこの土地を置くとしましょう。基本土地を置いた時と同じく3マナ出せる状態になるので、一見デメリットのようには見えません。
一度タップすると一色のマナ3つが一気に出てしまうため、違う色のマナが必要な場面や、軽い呪文をフェイズをまたいでたくさん使いたい場面では使いにくくなっています。一度の土地破壊で3マナ分のマナ基盤を失う、といった危うさもデメリットと言えるでしょうか。
とはいえ、1枚の土地から3マナ出るというのはやはり特別。土地をアンタップするギミックを持つ《パリンクロン》《草原のドルイド僧》といったカードとのコンボや、墓地から土地を回収する《世界のるつぼ》、《ラムナプの採掘者》といったカードとの相性の良さから、近年統率者戦での人気が高まっている一枚です。
その効果は本家本元とは比べるべくもありませんが、ロータスシリーズの美麗なイラストということでコレクションとしても人気があるようです。フレーバーテキストを引用して結びとしましょう。この「美につける値段は?」
まだある名カード
さて、『ウェザーライト』名カード集、お楽しみいただけたでしょうか。しかし、「あの有名カードなくない?」「もっといいカードあるよ!」と思われた方もいらっしゃるはず。
もっと『ウェザーライト』のカードについて知りたい方は、ぜひ、動画もご覧ください!
次回の「名カード集」では、『テンペスト』をお届けいたします。