はじめに
みなさま、「名カード集」へようこそ。
この「名カード集」では、時代を過去へと遡り、昔のエキスパンションの名だたるカードを紹介していきます。
今回はコモンからレアまで、トーナメントレベルのカードが目白押しとなった『ビジョンズ』をご紹介しましょう。
『ビジョンズ』ってどんなセット?
『ビジョンズ』とは、1997年2月に発売されたミラージュ・ブロックの1番目の小型エキスパンションであり、収録カードはほかの小型セットと比べるとやや多い167種類。エキスパンションシンボルはVの字を形取った三角形の旗であり、これは《戦争の三角》としてセット内に収録されております。
『ホームランド』と入れ替わりでスタンダード入りした『ビジョンズ』は実用的なカードが多く、スタンダードに多大な影響を及ぼしました。何よりプレイヤー心をくすぐったのは、コモンながら強力なカードが多数登場したことでしょう。動画でも紹介されていた《火炎破》や《大クラゲ》はその筆頭であり、安価でデッキの基盤となるカードが揃えられたのです。
また、キーワード能力ではありませんが新しいデザインのクリーチャーが誕生しました。戦場に出たときの誘発型能力(ETB能力=Enter The Battlefield)を持つクリーチャーです。古くは187クリーチャーとも呼ばれており、1枚でカード2枚分の仕事をする、まさにカード・アドバンテージを体現したデザインとなっていました。《大クラゲ》に始まり、モダンでも活躍した《永遠の証人》、最近のカードでは《スカイクレイブの亡霊》がこれに該当しますね。
誘発型能力とクリーチャーの抱き合わせ商法のためマナコストはやや高めとなりますが、仮に誘発型能力が効かない相手でもまったくの無駄カードにならないのも強みとなっています。因みにこの名称に用いられている187とはカリフォルニア警察の殺人事件コードであり、『ビジョンズ』のとあるカードが相手クリーチャーを除去しすぎたことからなぞらえてつけられています。
あなたのライブラリーからカード1枚を探す。その後、あなたのライブラリーを切り直し、そのカードをあなたのライブラリーの一番上に置く。あなたは2点のライフを失う。
そして、《吸血の教示者》が登場したのもこのエキスパンションです。詳しくは晴れる屋チャンネルにて紹介されていますが、『ミラージュ』の教示者と違いチューター先が限定されていなかったことで、アグロ~コンボまでさまざまなデッキにフィットし、まさに最強の教示者の名をほしいままにした1枚だったのです。
『ビジョンズ』の名カードたち
《資源の浪費》
土地を1つ生け贄に捧げる:あなたのマナ・プールに、生け贄に捧げられた土地が生み出すことのできる好きなタイプのマナ1点を加える。
事実上、1枚の土地から2マナ生み出せるようになる爆発力に長けたエンチャント。マナコストの重いカードや土地を含んだパーマネントリセット呪文と相性の良いデザインになっていますが、このカードはコンボデッキに採用されてこそ輝いたのです。初のトーナメントレベルコンボデッキとしてMike Long氏が制作したプロスブルームは、ブロック構築で行われたプロツアーパリ97を制しました。
《資源の浪費》と『ミラージュ』の《自然の均衡》を組み合わせることで瞬間的に使えるマナを増やし、《死体の花》へと繋げます。これにより手札もマナへと置換できるので、《繁栄》を何度も打って手札を増やし、最後は《生命吸収》によって締めくくります。
プロスブルームはキーカードが多いものの、《吸血の教示者》のおかげで集めやすく、コンボスピードが平均4ターンとブロック構築にしては速すぎるものでした。そのため《資源の浪費》はミラージュ・ブロック構築で禁止カードとなり、フレイバー・テキスト通り砂へと戻ってしまったのです。
《ネクラタル》
先制攻撃
ネクラタルが戦場に出たとき、アーティファクトでも黒でもないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。そのクリーチャーは再生できない。
その誘発型能力から不幸にして殺人事件コードと紐づくきっかけとなり、187クリーチャーの語源となったのがこの《ネクラタル》です。カード自体が使いやすく、当時のスタンダードは5CGなどクリーチャーデッキが多かったこともあり、除去対象に困らず大活躍しました。相手のクリーチャーを除去しつつ自分の場にクリーチャーが残るため、2対1交換の強さをわかりやすく表したカードといえますね。
その後のエキスパンションでもマナコストやクリーチャーのサイズを変えながら、いくつもの《ネクラタル》の後継者が登場しました。ここに挙げた3枚はスタンダード環境で特によく使用された後継者であり、《骨砕き》や《叫び大口》に至ってはリアニメイト呪文と組み合わせてデメリットすらもメリットへと転化したクリーチャーとなりました。次の次元の《ネクラタル》は、どんなデザインになるのでしょうか。
《クウィリーオン・レインジャー》
あなたがコントロールする森を1つ、オーナーの手札に戻す:クリーチャー1体を対象とし、それをアンタップする。この能力は、各ターンに1回のみ起動できる。
能力は非常にシンプルであり、「《森》を手札に戻す代わりにクリーチャー1体をアンタップする」だけとなっています。しかし、マナ・クリーチャーや後の《貿易風ライダー》のように起動型能力にタップコストを持つクリーチャーと相性が良いことから、クリーチャーベースのシステムデッキを支える基盤となりました。また、一見デメリットと思われがちな《森》を戻すコストはマナロック状況の打開となるため、《冬の宝珠》とセットで使用して相手だけ縛ることも可能だったのです。
スタンダードより5CGやセニョールストンピィ、エクステンデッドに移りトレードウィンド・サバイバル、現在はレガシーにてエルフデッキに採用されています。エルフデッキではマナ・クリーチャーや《ドライアドの東屋》と合わせて序盤からマナを増やしていきますが、自身がエルフであるため《樺の知識のレインジャー》や《遺産のドルイド》のおかげでマナソースとして使えるようになっています。
《税収》
対戦相手1人を対象とする。あなたのライブラリーから平地カードを1枚探す。そのプレイヤーがコントロールする土地の枚数があなたよりも多い場合、あなたはあなたのライブラリーからさらに平地カードを1枚探してもよい。それらのカードを公開し、あなたの手札に加える。その後あなたのライブラリーを切り直す。
条件を満たせば継続的に基本土地を補充してくれる《土地税》はあまりに強すぎたため、サーチ枚数を調節し一度きりとリデザインしたのが《税収》です。インスタントになったことでタックスエッジのようなコンボデッキでは運用できませんでしたが、後手のときに相手のターンエンド時にプレイしたりフェッチランドと組み合わせることでアドバンテージをとることができました。手札に加えるのが基本土地の平地に限定されていないので、デュアルランドもサーチできるのもポイント高めとなっていますね。
当時のスタンダードの白単ウィニー(アグロの別称)は土地を20枚以下に切り詰めたレシピが散見されます。構成自体が軽めだったこともありますが、それを可能にしたのがこの《税収》。最低でも1枚、打ち時を見極めれば2枚の《平地》が手に入るため、3マナまで確保することも容易かったのです。
土地を減らしたことで構造上マナフラッドに陥る可能性を最小限に抑えつつ、同時に《ハルマゲドン》《大変動》からのリカバリー手段を手にしています。また、手札が増えるため《浄火の鎧》とも相性が良く、回避能力を持つ「シャドー」クリーチャーで攻めるアーマー・スキンにも採用されました。
《ゴブリン徴募兵》
《ゴブリン徴募兵》が戦場に出たとき、あなたのライブラリーからゴブリン・カードを望む枚数だけ探し、それらのカードを公開する。あなたのライブラリーを切り直し、その後それらをその上に望む順番で置く。
マジックを始めた当初、このカードと出会ったときの胸の高鳴りはなにものにも代えがたいものでした。ドローがずっと有効牌(ゴブリン)になるなんて!しかし、現実はそう上手くいきません。相手のパーマネントに対処する必要もあれば、状況とかみ合わないデッキトップに詰まれたゴブリンを眺めては、ため息を漏らすしかありませんでした。強そう、しかしファンデッキの域を出ない。それが《ゴブリン徴募兵》だと思われていたのです。
エクステンデッドなどにはラッキースライと呼ばれたゴブリンデッキが存在していましたが、「序盤から一直線に相手のライフ目がけて突き進む、止まれば負ける」それこそがゴブリンの本能であり、それのみが戦略と我々は思っていました。しかし、世界選手権03で日本勢がみせたゴブヴァンテージは、その常識を大きく覆したのです。
デッキ名の通りアドバンテージエンジンを持つゴブリンであり、クリーチャーの宿命だった全体除去に弱いという概念を打ち砕いたデッキであります。《ゴブリン徴募兵》と《ゴブリンの首謀者》のコンボによってマナカーブに沿った展開とドローを実現したのです。その基盤を支えたのは生きた《メダリオン》である《ゴブリンの戦長》と《スカークの探鉱者》であり、コストを軽減しつつ不要になったゴブリンをマナへと変換できたため、引いた先から次々とゴブリンが戦場へと現れたのです。
いくら除去しても次から次へと現れるゴブリンの群れ。油断していると《ゴブリンの戦長》に率いられた《ゴブリンの群衆追い》によって一撃20点オーバーなダメージが入ってしまう初見殺しなデッキとなりました。ゴブヴァンテージはその爆発力と持続力は環境随一のデッキとなり、実際に同大会で使用した全員が4-2以上の成績を収めた勝ち組デッキだったのです。相手の妨害がなければちっぽけな《ゴブリン徴募兵》1枚で4ターンキルできるといわしめ、環境を変えたデッキとなりました。
あまりに暴れすぎた《ゴブリン徴募兵》はエクステンデッドで禁止となり、レガシーでも発足当初から使用できません。現在使用可能フォーマットはヴィンテージや統率者に限られますが、またその雄姿をみたいものですね。
まだある名カード
さて、『ビジョンズ』名カード集、お楽しみいただけたでしょうか。しかし、「あの有名カードなくない?」「もっといいカードあるよ!」と思われた方もいらっしゃるはず。
もっと『ビジョンズ』のカードについて知りたい方は、ぜひ、動画もご覧ください!
次回の「名カード集」では、『ウェザーライト』をお届けいたします。