はじめに
みなさま、「名カード集」へようこそ。
この「名カード集」では、時代を過去へと遡り、昔のエキスパンションの名だたるカードを紹介していきます。
今回はスリヴァーやスパイクの生まれ故郷となった『テンペスト』をご紹介しましょう。
『テンペスト』ってどんなセット?
『テンペスト』とは、1997年10月に発売されたテンペスト・ブロックの大型エキスパンションであります。「大暴風雨」を意味するエキスパンション名通り強力なカードが目白押しであり、『テンペスト』加入後はさまざまな戦略が生まれました。ビートダウン(アグロ戦略)に限らず、コントロールやコンボまでも恩恵を受けたエキスパンションだったのです。
同エキスパンションは、現在の主席デザイナーであるマーク・ローズウォーター/Mark Rosewater氏がデザイナーとして念願のデビューを果たした記念すべきセットとなっています。多くの優秀なスタッフと作り上げた『テンペスト』は(セットに入らなかったものを含め)アイデアの宝庫となっているとのことで、「原案を遡るとテンペストに行き着く」というものが非常に多いそうです。
キーワード能力は攻撃に特化した「シャドー」とコントロールなどマナの多い戦略と相性の良い「バイバック」です。前者は《浄火の鎧》や後の《憎悪》といった強化呪文と組み合わせることで圧倒的な速度を武器とし、後者は《ミューズの囁き》や《死体のダンス》などマナフラッドの受けとなり、繰り返し使えることで圧倒的なアドバンテージを築き上げました。
また、『テンペスト』は(一部ですが)極端に強力な色対策カードがデザインされたエキスパンションでもあります。画像を見てもらえばわかる通り、プレイした瞬間に勝敗が決まりかねないほどの効果となっておりました。複数枚採用することはもちろんのこと、ミラージュ・ブロックで登場した《教示者》と組み合わせることで安定してプレイすることが可能となり、より一層強力なサイドボードとして機能したのです。
『テンペスト』の名カードたち
《魔の魅惑》
いずれのプレイヤーも、点数で見たマナ・コストが3以下のクリーチャー呪文を、そのマナ・コストを支払うことなく、それらが瞬速を持っているかのように唱えてもよい。
《魔の魅惑》は特定のクリーチャーをただでキャストできるようになるエンチャントですが、ほかのプレイヤーもその恩恵に預かってしまうため単にクリーチャーを出すだけでは有利にはなりません。そこで複数のクリーチャーを組み合わせることで循環エンジンを形成するコンボデッキで活躍しました。3マナ以下でドロー効果を持つクリーチャーをただで使い、パーツを集めたのです。
エクステンデッドではドロー能力を持つ《ワタリガラスの使い魔》+《洞窟のハーピー》でデッキを掘り進め、《リシャーダの巾着切り》で相手のパーマネントを削りきったり、ライフを増やした後に《蛆たかり》が勝負を決めました。マナ加速に加え、複数のサーチ呪文があったことで3ターンキルも狙えたのです。
そして、レガシーでは、このアルーレンでタイトルを掴んだプレイヤーがいます。Hareruya Hopesの鈴池 史康選手はアルーレンを使用して、見事第16期レガシー神になりました。
レガシー版のアルーレンには《自然の怒りのタイタン、ウーロ》が加えられており、単体で《洞窟のハーピー》と強烈なシナジーを形成しています。フィニッシャーも《寄生的な大梟》と使い勝手が良くなりました。
《魔の魅惑》はクリーチャーの選択肢が増えれば増えるほど強力になる1枚であるため、これからも進化が見込める1枚なのです。
《ジャッカルの仔》
《ジャッカルの仔》にダメージが与えられるたび、それはあなたにそのダメージに等しい点数のダメージを与える。
赤単色の攻撃的なデッキ、スライの黄金期はこのクリーチャーとともに始まったといっても過言ではないでしょう。1マナ2/1と優れたマナレシオを持ちますが、代償としてこのクリーチャー自身へのダメージがコントローラーにも移ってしまいます。肉弾戦は得意ではありませんが、打ち消し呪文をすり抜ける低コストとブロッカーを薙ぎ払う火力のサポートもあって、このカードはスタンダードやエクステンデッドで攻撃的な赤いデッキの主役として大活躍しました。
このちっぽけな猟犬はマナカーブの最先頭を走り、赤の持つ火力と相まって、多くのダメージをたたきだしプレイヤーを勝利へと導きました。相手のクリーチャーを焼き、殴る。このシンプルながら強力なストラテジーに則ったスライは、この年の世界選手権でトップ8に3名が残る大活躍をみせたのです(しかも内2人は完全同一レシピ)。
《再活性》
墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それをあなたのコントロール下で戦場に出す。あなたは、その点数で見たマナ・コストに等しい点数のライフを失う。
墓地からクリーチャーを戦場へと出すリアニメイト戦略の語源となる《再活性》。そのマナコストの軽さから早ければ1~2ターン目に高コストクリーチャーが現れ、そのまま勝負を決めてしまいます。また、自分以外の墓地も対象にできるため、除去や手札破壊、あるいはミラーマッチにおいて墓地におかれた相手クリーチャーすらも美味しく利用できる破格の呪文です。
エクステンデッドでは、『オデッセイ』の加入により《納墓》を得てリアニメイト戦略の最速パターンが確立され、ベンツォが誕生しました。《納墓》+《再活性》の組み合わせは2ターン目に《新緑の魔力》を出現させ、環境にある除去呪文が弱かったこともあり、そのままゲームを決めてしまったのです。チーム「Your Move Games」によってデザインされた同デッキは、プロツアーニューオーリンズ01においてトップ8 に2人を送り込む大成功となりました。
現在では優秀なクリーチャーが増えたことで、リアニメイトはより強力な戦略となっています。レガシーでは《グリセルブランド》を釣り上げることで、アドバンテージを稼ぎながら、絆魂によりダメージレースすらも有利にすすめることが可能となっているのです。
《ミューズの囁き》
バイバック(5)(あなたがこの呪文を唱えるに際し、あなたは追加の(5)を支払ってもよい。そうした場合、その解決に際し、このカードをあなたの手札に加える。)
カードを1枚引く。
《ミューズの囁き》は《選択》にも劣る効果ですが、「バイバック」があるため使い減りしないドロー呪文です。バイバック・コスト込みで6マナとカードを引くにはかなり割高のマナコストになりますが、このカードは1枚でマナのある限りドローすることができるようになっています。インスタントのため打ち消し呪文を多めに採用したパーミッションスタイルと相性が良く、相手の挙動によって打ち消したりドローを進めたりと隙なく動くことが可能だったのです。
ランディ・ビューラー/Randy Buehler氏(現マジック・プロツアー殿堂)は2シーズンに渡り、同じタイプのパーミッションデッキで優れた成績を残しました。98年にはユーロブルー、99年はドロー・ゴーですが、いずれのデッキも大量の土地と打ち消し呪文、少ないパーマネントコントロール呪文と、《ミューズの囁き》によって作られていたのです。瞬間的に複数枚ドローすることはできませんが、じわじわと手札を増やして相手の行動を制限していく、実に青らしいデッキはこの1枚によって確立していたのです。
《死体のダンス》
バイバック(2)(あなたがこの呪文を唱えるに際し、あなたは追加の(2)を支払ってもよい。そうした場合、その解決に際し、このカードをあなたの手札に加える。)
あなたの墓地にある一番上のクリーチャー・カード1枚を戦場に戻す。そのクリーチャーはターン終了時まで速攻を得る。次の終了ステップの開始時に、それを追放する。
《死体のダンス》は「バイバック」付きのリアニメイト呪文であり、相手の攻撃をチャンプブロックしたり、自壊能力を持つクリーチャーと組み合わせることで、繰り返し使い回すことが可能でした。さらに速攻が付与されるため攻撃時に誘発型能力を持つクリーチャーと相性が良いことはもちろんのこと、パワー20以上のクリーチャーによる1ショットキルコンボを実現いたしました。
本来ならば、アングリーハーミット2やアングリーグールといった《死体のダンス》で《縫合グール》を釣り上げるコンボデッキを紹介すべきかもしれませんが、ここではもっとも美しい黒単色デッキの一つ、ヤコブ・スレマー/Jakub Slemr選手の黒単コントロールをとりあげたいと思います。
ヤコブ・スレマーの黒単はテンペスト・ブロック+ウルザ・ブロック期に活躍した黒単ベースのコントロールデッキであり、手札破壊とクリーチャー除去に加えて、パーマネントコントロール能力と複数のリカバリー手段を持ち合わせたデッキでした。ベースがコントロールでありながら、採用されているカードが複数の戦略を持ち、高い次元で構築されていたのです。
《死体のダンス》は中盤以降のボードコントロールを担いながら、ゲームをロックアップするフィニッシャーにもなりました。火力による押し切りを狙う赤系には《ボトルのノーム》によるブロック&ライフゲインが、クリーチャーの打点が武器の白系や緑系には《ファイレクシアの疫病王》が踊り、コントロールデッキに対しては戦場に《ファイレクシアの疫病王》がいることが条件になりますが、《貪欲なるネズミ》による手札ロックがあったのです。ドロー手段が乏しかったこともあり、《死体のダンス》は貴重なマナの使い道を確保してくれました。
まだある名カード
さて、『テンペスト』名カード集、お楽しみいただけたでしょうか。『テンペスト』は優良カードに溢れており、《筋肉スリヴァー》や《直観》など紹介したいカードがまだまだ溢れています。
もっと『テンペスト』のカードについて知りたい方は、ぜひ、動画もご覧ください!
次回の「名カード集」では、『ストロングホールド』をお届けいたします。