はじめに
お久しぶりです。Hareruya Hopesの宇都宮です。
今回、日本選手権2021 SEASON1でトップ8に入賞することができたので、記事を書かせていただくことになりました。入賞のカギは事前のメタゲーム予想とデッキ選択だったと考えています。この記事では、僕がどのように考えて「ザレスローグ」という一度環境から退場したデッキを選択したのかについて掘り下げていきます。
1. デッキを決める前に考えたこと
ここ最近のスタンダードで勝つためにもっとも重要なことは、正しいメタゲームの把握だと考えています。前回の禁止改定以降スタンダードは非常に健全で、多くのアーキタイプが環境に存在しています。
すべてのデッキをテストすることは難しく、可能であればデッキを絞ってからテストを開始したいと考えました。なのでまずは最初に、できるだけ詳しく環境の各マッチアップの有利不利と要点をリストアップしました。
次にトーナメントで勝つために必要な要素を考えます。今回でいうと当たる確率が高いスゥルタイ根本原理とティムールアドベンチャーに有利であること、対戦数が多いトーナメントなので不利なマッチが少ないこと、またそういったデッキを使うプレイヤーが少ないことを意識しました。
これらの要件を満たすデッキを選ぼうと考え、作成した各マッチアップのリストと上記の要件を照らし合わせた結果、ディミーアローグを選択することに決めました。
今回ローグを使用するに際し、予想したメタゲームとゲーム観は以下の通りです。
Tier1
スゥルタイ根本原理:有利
メインに重いソーサリーアクションが多く、カウンターを合わせやすい。デッキの構成上ローグに対しては不要牌が多い。
ティムールアドベンチャー:有利
こちらもスゥルタイ根本原理と同じくメインに重いソーサリーアクションが多いため、カウンターが効果的。軽くプレイできるカードが「出来事」しかなく、1ターンに1アクションになりやすい。
Tier2
グルールフード:微有利
『カルドハイム』チャンピオンシップの入賞リストには《アゴナスの雄牛》が入っていない。《金のガチョウ》+《パンくずの道標》など序盤にやられたくない動きはあるが、重いカードも多く動きをさばきやすい。
サイクリング:五分
こちらが墓地を肥やしてしまうため《天頂の閃光》のダメージが大きく、《型破りな協力》が定着すると攻撃が通らない。一方でサイクリング側はデッキの性質上「脱出」カードを使うことができず、《物語への没入》などの墓地枚数を参照するカードは最大値を出せる。
《アイレンクラッグの紅蓮術師》に対しては除去で対応できることもあり、上記2種のカードを徹底してカウンターすることで勝率を担保できるのではと考えた。
ディミーアローグ:微不利
メインは回った側が勝つ。一般的なルールス型に対しては、相手側が《遺跡ガニ》でライブラリーアウトを狙える点と《夢の巣のルールス》《アガディームの覚醒》でリソース負けしやすいため微不利な印象。
サイド後は《スカイクレイブの影》が多く落ちた側が有利。
Tier3
赤単:無理
メインからそもそも厳しいうえに、サイドには《アゴナスの雄牛》や《灰のフェニックス》などの「脱出」クリーチャーが完備されている。最後まで相性を改善することはできなかったが、日本のトーナメントでは数が少なく、ほかのデッキもアグロデッキ相手には気持ち対策カードを多めに入れる傾向があるので、トーナメント終盤になるほど人数が減ると予想していた。
白単:微有利
色の都合上「脱出」カードが極端に弱く、ほぼ採用されていない。破壊不能が厄介だが、サイド後の《激しい恐怖》などで対処することができる。
ナヤ:不明
型も多く、実際に対戦する際に相手のリストを見てアジャストすることを考えた。2マナ除去や《リムロックの騎士》《群れの番人》といった2マナパワー3クリーチャーの枚数、《アゴナスの雄牛》の枚数が多いほど厳しくなる。人数が少ないことを確信していたので重要視はしなかった。
Tier4以下
ラクドス:無理
「脱出」カードの枚数が桁違いなので、墓地枚数を参照するカードが有効に機能しない。人数が少ないことを確信していたため無視。
上記がメタゲームの予想です。全体的に「脱出」を使ったデッキがそこまで多くはなく、環境に存在するアーキタイプの多い現環境では、Tier2程度のシェアであるローグに対してサイドボードの枠を割く余裕がないだろうと考えました。
2. なぜザレスローグだったのか
ディミーアローグには2種類ありますが、現在の環境では《夢の巣のルールス》を「相棒」に据えたルールスローグが主流です。《夢の巣のルールス》を廃し、《トリックスター、ザレス・サン》を採用したザレスローグは環境から姿を消していました。
(余談ですが、日本選手権ではデッキを登録する際にアーキタイプを選択する必要があります。ただ、選択肢に『Dimir Rogue(Lurrus)』しかなかったので『Dimir Mill』になっているのです。いかにザレスローグが忘れ去られていたかがわかりますね)
もちろん僕もルールスローグからテストを開始しました。感触は悪くありませんでしたが、赤単への相性が少しでも良くなればと思いザレスローグもテストしてみることにしました。
デッキリスト:ザレスローグ
結局、最初に組んだリストをほとんど変えることはありませんでした。唯一の変更点は基本土地を氷雪基本土地にしたことのみです。これは《不詳の安息地》を《トリックスター、ザレス・サン》で奪うことを想定しています。
氷雪土地を使ううえでのデメリットは《傑士の神、レーデイン》のみで、ローグにはこのカードはそもそもそこまで有効ではなく、処理する手段も多く入っています。
単色アグロの小さなクリーチャーよりも《不詳の安息地》のほうが価値が高く、リスクも無視できるレベルだと考えました。
ザレス型の優位性
ルールス型よりクロックパーミッションな構成
《厚かましい借り手》や《サメ台風》を採用できるので、相手のエンドフェイズにクロックをプレイしやすくなっています。これにより仮想敵であるスゥルタイ根本原理やティムールアドベンチャーの展開を抑えつつ攻める方針がよりやりやすくなりました。
「脱出」への耐性
「脱出」はローグというアーキタイプの最大の敵です。どれほど有利マッチアップでも、「脱出」が機能し始めると敗北しうるのがローグの最大の欠点です。しかし、環境で見られる「脱出」カードは主に《アゴナスの雄牛》と《鎖を解かれしもの、ポルクラノス》の二種で、《トリックスター、ザレス・サン》や《厚かましい借り手》が有効だと考えました。
《アゴナスの雄牛》と《鎖を解かれしもの、ポルクラノス》はどちらもマナコストが重く、墓地に落ちればいいからとプレイしてくれるとカウンター+《トリックスター、ザレス・サン》のコンボで奪い取ったり、《厚かましい借り手》のバウンスで大きくテンポを取ることができます。バウンスでの対処は想像以上に効果的で、こちら側のクロックが大きければ気軽に再キャストする余裕がなくなることもあります。
結局、赤単との相性差は覆ることはありませんでしたが、これらの利点により環境の多くのデッキに対してルールス型よりもザレス型が優れていると考えました。また、先ほどルールス型には微不利と触れましたが、同型には弱くなってしまうことよりもトップメタに対してより強く意識することを優先しました。
デッキサブミッド直前まで本当にこれでいいのか不安でしたが、自分を信じることにして本戦に向かいます。
3. 本戦の結果と反省
ラウンド | デッキ | 結果 |
---|---|---|
ラウンド1 | 緑単 | 2-1 |
ラウンド2 | ジェスカイ変容 | 2-1 |
ラウンド3 | グルールフード | 2-1 |
ラウンド4 | スゥルタイコントロール | 2-1 |
ラウンド5 | スゥルタイ根本原理 | 1-2 |
ラウンド6 | 赤単 | 1-2 |
ラウンド7 | スゥルタイ根本原理 | 2-0 |
ラウンド8 | スゥルタイ根本原理 | 2-0 |
ラウンド9 | ナヤクラリオン | 2-0 |
ラウンド10 | ティムールアドベンチャー | 2-1 |
ラウンド11 | スゥルタイ根本原理 | 2-0 |
準々決勝 | スゥルタイ根本原理 | 1-2 |
予選を9-2で突破し、準々決勝で敗退してトップ8で終了しました。
ラウンド4、ラウンド7、ラウンド11と準々決勝の3本目は公式でフィーチャーしていただけました。たまたまスゥルタイに寄ったこともあり、映っているところでは3/4で勝ててよかったです。
序盤こそまったく想定していない相手と連戦することになりましたが、そこを越えたところで想定していた相手と当たり続けることができました。終盤は同じラインに苦手と考えていた赤単やグルールアドベンチャーの姿は少なく、事前の想定がかなり正確にできていたかなと思いました。
一方でデッキリストに関してはマナベースの部分で問題がありました。そもそも枚数が少なく、黒マナも多すぎるというボロボロの構成になってしまっていて、決勝ラウンドでは落とした2ゲーム両方で土地関連の問題が起こらなければ……というゲーム展開でした。
最初の仮組みの時点で適当に組んで、とりあえず回してから気づき次第変更するつもりでいましたが、なんだかんだ最後にはマッチを勝利で終えていたことが多く、マナベースの歪みを勝利で上書きされていたかもしれません。
どれほどデッキの立ち位置が良くとも、環境予測が当たっていようとも、自分のデッキが回らなければ勝利を掴むことはできません。今回はほかの部分の調整がうまくいっていたからこそ、より強くデッキの不備を感じてもったいなく思いました。
アップデートリスト:ザレスローグ
大会後にマナベースを整えたリストがこちらです。
4. 『ストリクスヘイヴン:魔法学院』後のローグ
今月末には新セットが発売されますね。魔法学院というテーマだからでしょうか、セット内に”ならず者”の姿は見えません。青黒の大学もなく、大きなアップデートが望めないので再び立ち位置が悪くなってしまう可能性もあります。
しかし、収録される呪文の中には何枚か採用しても良さそうなカードがありましたので、それを紹介していきます。
《才能の試験》
インスタントかソーサリーを打ち消し、相手のライブラリーから同名カードをすべて追放します。今の環境でも、《出現の根本原理》や《物語への没入》《アールンドの天啓》などデッキの核となるスペルは多く、新セットがインスタント/ソーサリー推しであることも併せて期待の1枚です。下環境にも影響を与えるカードだと思います。
《悪意の熟達》
デメリットつきの軽いモードが選べる万能除去です。軽く唱えたときが強いか弱いかはまだわかりませんが、1ターンに複数アクションを取りたいローグには合っていると思います。
《落第》
7から相手の手札の枚数分を引いた値分マイナス修正をかける2マナ除去です。これも実際に使用してないのでイメージが掴めませんが、うまく使えればメインの除去になり得る性能はあるような気がしています。
5. おわりに
もうすぐ新セットが発売され、このスタンダード環境も終わろうとしています。一過的なサイドボーディングガイドを載せるよりも、これからも通用するかもしれないトーナメントへの準備について焦点を当てて書かせていただきました。
さまざまなことにチャレンジしている最中で、普段の練習量を意識した方法とは異なるやり方で結果を出すことができたことは、これからもいろいろな大会に出るうえで大きな経験になったのは間違いありません。
また近いうちにいい報告ができるように頑張ります。ここまでご覧いただきありがとうございました。配信も始めましたので、良ければ観にきていただけたらと思います。