はじめに
みなさま、「名カード集」へようこそ。
この「名カード集」では、時代を過去へと遡り、昔のエキスパンションの名だたるカードを紹介していきます。
今回はウルザ・ブロックを締めくくる強力セット、『ウルザズ・デスティニー』をご紹介しましょう。
『ウルザズ・デスティニー』ってどんなセット?
ウルザの運命を意味するエキスパンション、『ウルザズ・デスティニー』。ウルザ・ブロック最後のセットは、1999年6月に収録カード全143種類で発売されました。クリーチャーは一部を除きやや控えめな性能でありますが、その分呪文は強力無比なものが多くあります。『ウルザズ・サーガ』『ウルザズ・レガシー』に続き強力なアーティファクトが揃っており、さらに、有名なコンボのキーカードが誕生しています。
『ウルザズ・デスティニー』ではマナアーティファクトに加えて、ボードコントロール能力の高いアーティファクトが収録されました。2シーズンに渡りスタンダードに君臨した褐色の生物《マスティコア》や万能カード《火薬樽》です。特に《マスティコア》はアグロ~コントロールまでありとあらゆるデッキで採用されたクリーチャーであり、最強の名をほしいままにしました。
コンボの観点でいえば、《ヨーグモスの取り引き》と《補充》、《寄付》の3枚のビッグネームが並びます。《ヨーグモスの取り引き》は《ネクロポーテンス》の上位互換にして、マジック史上最も美しいコンボデッキとも言われたピットサイクルのキーカード。《ヨーグモスの取り引き》でカードを引き、《スカージの使い魔》でマナに変換し、《魂の饗宴》でライフを吸い尽くしていきます。
《補充》は『ネメシス』で大幅に強化され、メタゲームを補充デッキ一色へと染め上げました。現在ではレガシーでその活躍を見ることができますね。
変わり種の《寄付》はエクステンデッドで自身の名を冠したドネイト系デッキで一世を風靡しました。《Illusions of Grandeur》とのコンボはトーナメントシーンに強く爪痕を残し、姿を変えながらローテンション落ちまで活躍し続けたのです。
『ウルザズ・デスティニー』の名カードたち
《金属細工師》
(T):あなたの手札にあるアーティファクト・カードを望む枚数だけ公開する。これにより公開されたカード1枚につき、あなたのマナ・プールに(◇)(◇)を加える。
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『ウルザズ・デスティニー』で数少ない強力クリーチャーの1枚、それが《金属細工師》です。その立ち姿からコロ助やのび太の愛称で知られるこのマナクリーチャーは、3マナとやや重いものの、環境の後押しもあり大活躍しました。一つには着地を早めるマナ加速手段が複数あったこと、もう一つは天敵である火力を持つ赤が環境に存在しなかったことです。これら二つの理由により《金属細工師》はメタゲームの外枠より強襲し、世界選手権を制しました。
Kai Budde選手(現マジック・プロツアー殿堂)が制した世界選手権99の翌年、もう一人のレジェンドが偉業を達成しました。同じくマジック・プロツアー殿堂であるJon Finkel選手はティンカーやスーサイドブラウンと呼ばれた青い茶単デッキを手に、世界選手権で優勝したのです。
当時は《補充》と《すき込み》が蔓延した世界であり、マナ拘束に主眼が置かれ、クリーチャーに対するガードはやや下がり気味となっていました。ここに目を付けたのがティンカーであり、序盤に着地した《金属細工師》を武器にメタ外より強襲しました。たとえ土地が拘束されようともアーティファクトより湧き出るマナを武器に毎ターン《ファイレクシアの処理装置》からミニオン・トークンを生み出し、《マスティコア》は戦場を一掃したのです。クリーチャーだけではなく《ミシュラのらせん》などさまざまなマナの使い道があったことで、多角的な攻めを実現したデッキとなりました。
《ファイレクシアの抹殺者》
トランプル
《ファイレクシアの抹殺者》にダメージが与えられるたび、その点数と同じ数のパーマネントを生け贄に捧げる。
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さきほどのスーサイドブラウンのように、スーサイドと聞いて思いつくカードが『ウルザズ・デスティニー』にはもう1枚あります。《暗黒の儀式》により1ターン目から強襲する黒の速攻戦略の要である《ファイレクシアの抹殺者》です。今ほど除去呪文が充実していないことも相まって、最序盤に登場する5点クロックは脅威以外の何者でもありませんでした。ただ、一点を除いて。
《ファイレクシアの抹殺者》の致命的な弱点、それは火力に弱かったことです。当時よく見られた光景は1ターン目の《ファイレクシアの抹殺者》の返しでの《ショック》。ダメージを与えられるたびにその分だけパーマネントを生け贄に捧げる必要があり、戦場はまっさらという悲劇が繰り返されたのです。
とはいえデメリットを持ちながらも5点のクロックは魅力的であり、さらに《暗黒の儀式》との相性の良さからスタンダードの黒単色のアグロデッキ、スーサイドブラックの主力クリーチャーとして活躍しました。相手は選ぶもののそのスピードは他の追随を許さず、また、負ける時も速く、実に漢らしく美しいデッキだったのです。
さらに、コンボデッキにおけるサイドボードの主役にもなりました。コンボデッキの課題はサイドボード後の対策カードをいかに乗り切るか。そこでサイドボード後の対策カードかわすために《ファイレクシアの抹殺者》によるビートダウン戦略を採用したのです。黒を基調としたコンボデッキでは《暗黒の儀式》などのマナ加速を多用することもあり、スピードを武器に相手の裏をかいて対処手段を揃える前に押し切りましれた。
《不実》
《不実》が戦場に出たとき、土地を最大5つまでアンタップする。
あなたはエンチャントされているクリーチャーをコントロールする。
《支配魔法》のリメイク版にして、本家を追い越すテキストが追加されたのが《不実》。なんと1マナ重くなっただけでフリースペルとなったのです。ウルザ・ブロックがスタンダードにあった当時は強力な打ち消し呪文に加えて、フィニッシャーが揃っていた青の強い時代。このカードは隙のないボードコントロールカードとして活躍しました。
相手のターンにマナを構えるパーミッション戦略(打ち消し呪文を多用する戦略のこと)に合致しており、5マナ揃えば気兼ねなくキャストできる使いやすい仕様でした。対戦相手からすればゲームを終わらせるためにクリーチャーを出す必要がありながら、強力なクリーチャーを出して奪われて逆転、なんて頭の痛い展開もあったのです。当時の最強生物《マスティコア》をもっとも美味しく対処できたカードであり、フリースペルのため寝返ったが最後、一気に戦場を制圧されてしまうこともありました。
《すき込み》
土地2つを対象とする。それらを、オーナーのライブラリーの一番上に置く。
《すき込み》は1枚で相手のマナを減らし、さらにドローまで止める緑を代表するソフト・ロック呪文。ソフト・ロックと呼ぶにはやや強烈な能力であり、序盤に使われればゲームを決めかねません。序盤に《すき込み》をキャストことを命題に掲げて構築された緑コントロールがありました。
ウルザ-マスクス期のスタンダードではマナクリーチャーから《すき込み》をキャストするトリニティが隆盛しました。当時は1~2マナの優良マナクリーチャーが多数揃っていたこと、クリーチャーデッキと相性の良い《ガイアの揺籃の地》があったことで、このアーキタイプはメタゲームの一角を占めるまでになります。最速3ターン目に放たれるこのカードは《錯乱した隠遁者》や《ブラストダーム》といった強烈なダメージクロックと合わさることで、ゲームを決めるまでの時間を稼いでくれたのです。
《アカデミーの学長》
《アカデミーの学長》が死亡したとき、あなたは《アカデミーの学長》を追放してもよい。そうした場合、あなたのライブラリーからエンチャント・カードを1枚探し、そのカードを戦場に出す。その後あなたのライブラリーを切り直す。
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4マナと重いマナコストに1/2のちっぽけなサイズ。先頭に不向きな《アカデミーの学長》は、その死にやすさを全面に押し出した墓地に置かれたときの誘発型能力(PIG能力=Put Into a Graveyard)を持つクリーチャーです。エンチャントをキーにしたコンボ、特に自分よりも重いエンチャントを引っ張りだすのに適したクリーチャーでした。同時代のスタンダードで3つのデッキに採用された事実からも、その性能の高さがうかがい知ることができます。
冒頭で簡単に説明したピットサイクルは《ヨーグモスの取り引き》をキーにしたコンボデッキであり、このカードを出さないことには始まりません。いくら《暗黒の儀式》があった時代とはいえ、6マナと重く、手札から唱えるのは困難を極めました。
《アカデミーの学長》はこの過程をショートカットし、コンボ始動の起点となりました。《ファイレクシアの塔》や《高級市場》といった生け贄に捧げる手段があり、仮になくともブロッカーとして相手からすると攻撃を躊躇する非常に嫌らしい存在となったのです。
エンチャントなら何でも出せるため、《騙し討ち》やキメラコンボ(《繁殖力》+《菌獣の群落》+《アシュノッドの供犠台》)、エクステンデッドでは《適者生存》との組み合わせで活躍しました。今だったら《全知》を出すのが楽しいかもしれませんね。
まだある名カード
さて、『ウルザズ・デスティニー』名カード集、お楽しみいただけたでしょうか。しかし、「あの有名カードなくない?」「もっといいカードあるよ!」と思われた方もいらっしゃるはず。
もっと『ウルザズ・デスティニー』のカードについて知りたい方は、ぜひ、動画もご覧ください!
次回の「名カード集」では、『メルカディアン・マスクス』をお届けいたします。