”ヴィンテージ神”こと森田 侑(東京)さん。
昨年末に開催された【ヴィンテージ神決定戦】を優勝して”ヴィンテージ神”のタイトルを獲得し、いよいよ目前に迫る【第6期神決定戦】では、朋友の藤井 秀和(東京)さんと初めての防衛戦を戦います。
筆者とは初対面だったのですが、快く朗らかに、ヴィンテージというフォーマットの楽しさと奥深さ、【第6期神決定戦】への心構えについてお話してくださいました。
”ヴィンテージ神”が語るヴィンテージのあれこれ、どうぞお楽しみください。
● 偶然《Bazaar of Baghdad》が1枚、家から出てきまして
-- 「はじめまして。さっそくなんですが、私はヴィンテージというフォーマットに触れた経験がないんです。《Ancestral Recall》や《Black Lotus》などのパワー9には興味はあるのですが、いざと手を出す機会もなかなかなくて。森田さんは何をきっかけにヴィンテージを始められたんですか?」
森田 「私はもともとスタンダードでよく遊んでいたんですが、ある日に偶然《Bazaar of Baghdad》が1枚、家から出てきまして。当時はかなりの円高だったこともあって、試しに4枚揃えてみるか、と残りの3枚を購入したのがきっかけですね。」
-- 「まさか《Bazaar of Baghdad》が出てくるとは。それは素晴らしい偶然でしたね(笑)」
森田 「はい。あまり無いことだと思います。ただ買って揃えてはみたものの使う機会がないなぁ、と悩んでいたところ、ちょうど晴れる屋さんの旧店舗でヴィンテージをやろう、と仲間一同で盛り上がりまして。それから『発掘』を組んで遊びはじめたんです。すると、これがとても面白くて。ヴィンテージの魅力を知ってからは、すぐに他のデッキも組みたくなってしまい、勢いのまま《Ancestral Recall》《Black Lotus》《Mox Sapphire》を揃えました(笑)」
-- 「スタンダードもプレイされていた森田さんが魅了されたヴィンテージ。他のフォーマットにはない、ヴィンテージならではの魅力とはなんですか?」
森田 「それはもう《Black Lotus》や《Ancestral Recall》が飛び交う環境ですから。とにかく派手なところが楽しいですね。あとは、1枚でも強力なカードがとても多いので、もうダメだ、と諦めかける局面でも逆転できたりするんですよね。『戦場に何もないし手札も1枚もない……あ、《ヨーグモスの意志》引いた!』みたいに(笑)こんな大逆転がよくあるんです」
-- 「勝敗が決まるまで、最後の最後まで楽しめるのは素晴らしいですね」
森田 「はい。ただ、だからこそ逆に勝ちを確信できる場面も少なくて、最後まで1つのミスやトップデッキが勝敗に直結します」
-- 「なるほど。他のフォーマットならば形勢が決してしまうと、緩手の1つや2つでは逆転はなかなか起こらないものですが、ヴィンテージではそれが起きてしまうんですね」
森田 「そうですね。なので、いい意味でも悪い意味でも気が抜けません。そんなゲームの動きの派手さが魅力ですね」
● 『ヴィンテージならではのセオリー』を身につけることが大事
-- 「強力なカードが飛び交う派手なゲーム。そんなヴィンテージをプレイするうえで森田さんが気をつけていることってありますか?細かいプレイングや特定のカードの扱い方でもいいのですが」
森田 「《精神的つまづき》を警戒することは大事ですね。レガシーでもよく使われている《Force of Will》を気にする人は多いのですが、《精神的つまづき》は軽んじられている節があって。例を挙げると、基本的なことですが、『《Ancestral Recall》を持っているときに、相手の《精神的つまづき》を警戒して、《狼狽の嵐》も使えるマナが用意できる次のターンまで待とう』とか」
森田 「そんな《精神的つまづき》のやり取りが大事です。そこを間違えると、こちらの《Ancestral Recall》は打ち消されて、対戦相手の《Ancestral Recall》は通ってしまうなんてことにもなりかねません。そうなるとさすがに負けてしまいますからね」
-- 「強力なカードをお互いに持っていますが、その使い方だけでなく、それを妨害するカードへの警戒も怠ってはならないと」
森田 「そうですね。あと、自分が《精神的つまづき》を使うときにも注意が必要です。何を打ち消すかも大事ですし、何より相手のデッキによって《精神的つまづき》の使い方が変わるので」
-- 「そうなんですか。それはどう変わってくるのでしょう?」
森田 「例えば相手が『メンター』であれば、《精神的つまづき》の対象となる1マナの呪文が沢山はいっているので、こちらの都合に応じて《精神的つまづき》を温存してもいいんです」
森田 「でも、相手が『オース』だったときには、1マナ呪文を見かけたら積極的に《精神的つまづき》を撃っていく必要があります。彼らは1マナ呪文がとても少ないため、撃つ機会を逃すと、《精神的つまづき》をずっと手札に抱えてしまうリスクがあるんです。なので《定業》が格好の対象になりますね。《定業》を見逃したばかりに、相手のデッキに1枚ずつしか入っていない制限カードの《Ancestral Recall》か《渦まく知識》を待つことは避けたいですから」
-- 「ただ使っても便利で強いカードですが、相手に応じて細かな使い方があるのですね」
森田 「はい。1枚1枚のカードがとても強いので、それらをより活かすための『ヴィンテージならではのセオリー』を身につけることが大事ですね。対戦相手のデッキタイプと中身を予想して、それに対して戦略を練る。そんなことに気をつけています」
-- 「『ヴィンテージならではのセオリー』ですか。その心得のあるなしは、どれくらい勝敗に関わってくるものでしょうか?」
森田 「影響はとても大きいと思いますね。制限カードが幾つかあるので、それを引いた引かないといった次元で有利や不利が生まれることもありますが、基本的には、その決定的な呪文に繋げるまでの細かいやり取りでゲームの形勢が動くんです」
森田 「《精神的つまづき》もそうですし、私が【ヴィンテージ神決定戦】で使用したような『メンター』ですと《噴出》などは、『セオリー』を知るものと知らないものとでは使い方も効果も変わってきます」
-- 「効果もですか」
森田 「《噴出》は《島》を2枚手札に戻す代替コストがあるので、追加のマナと追加のドローのどちらも必要なターンで使用すると効果的です。戻した《島》を置くことで擬似的なマナ加速ができますから。ただ、その追加されるリソースのどちらかの必要性が欠けていると、途端に微妙なカードになってしまうんですね。もちろん相手のターンで撃つと戻した土地を置けないので、効果も当然変わってしまいます」
-- 「これも『セオリー』を知るべし、という好例ですね」
森田 「《精神的つまづき》も《噴出》も制限カードではないので最大4枚までデッキに積むことができます。つまり、それらを使うタイミングはデッキの中のどのカードよりも多いんです。制限カードだけでなく、よく使うカードの細かい使い方を知っていることも大事ですね」
-- 「話が少しそれますが、1枚1枚のカードが強いヴィンテージのゲームの速度ってどれくらいなんでしょうか?1~2ターン目に決着がついてしまうような超高速なイメージがあるのですが」
森田 「たしかに1~2ターン目で決着するゲームもなくはないのですが、おそらく皆さんが想像しているほど多くはないですね。ほとんどのデッキには《Force of Will》などの妨害がはいっているので。ゲームの決着は早かったり遅かったりとまちまちですが、早いというイメージでいうとどのデッキも初動は早いですね」
-- 「初動ですか」
森田 「はい。《Black Lotus》や《Mox Sapphire》などマナ加速が豊富なので、どのデッキも1ターン目や2ターン目に派手な行動を起こすことができるんです。でも、そこに対応する《Force of Will》や《精神的つまづき》がゲームを遅らせるといった感じですね」
-- 「なるほど」
森田 「ただ、初動が早いということは、それをいなされれば息切れも早いということで。序盤でお互いにカードを使いきったあとはグダグダと長引いてしまうことも多いんです。なので、ゲームの決着は、早くもあり、遅くもある、とまちまちになります。《Black Lotus》からの仕掛けを《Force of Will》で捌いて、それから数ターンお互いが何もしない、なんてことも珍しくありません。その間に《瞬唱の魔道士》が殴りきってしまうこともあるくらいですから(笑)」
-- 「それは本当にグダグダですね(笑)」
● 駆け引きに夢中になって浮足立つことがないようにしたい
-- 「それでは最後に、挑戦者の藤井さんへの印象と、【第6期神決定戦】に臨む意気込みを聞かせてください」
森田 「藤井さんとは、普段から同じコミュニティで遊んでいる仲なんですよ。私は『Fish』が好きなんですが、藤井さんは『コントロール』が好きなんです」
-- 「そうなんですか。手の内を知り尽くした間柄なんですね」
森田 「はい。藤井さんはとても手強い方です。もしも対戦相手がヴィンテージを普段からプレイされていない方であれば、『ヴィンテージならではのセオリー』を知る自分が有利かな、とも思えるのですが、藤井さんが相手だとそうはいきません」
森田 「また、プレイだけでなく、好みのデッキの相性も不安ですね。例えば私が【ヴィンテージ神決定戦】で使った『メンター』で、藤井さんが【第6期ヴィンテージ神挑戦者決定戦】で使った『オース』を選んだとすると、メインボードはボコボコにされちゃうんです」
-- 「お互いに好きなデッキを選んだ場合、それでは不利なマッチアップになってしまうと」
森田 「サイドボード後には《封じ込める僧侶》で少し有利にたてるのですが、メインボードは全然駄目ですね。なので、藤井さんが『オース』でくることを見越して、私が『オースに強いデッキ』を持ち込むかもしれない。でも、藤井さんもそれを予想して……と、そんな読み合いになりそうです」
-- 「お互いに手の内を知っているからこそ、ややこしいですね(笑)」
森田 「はい(笑)ただ、私としては、駆け引きに夢中になって浮足立つことがないようにしたい、と思っています。変に相手を読みすぎて自分からコケるのもなんですし。先ほどの《精神的つまづき》の話ではないですが、ヴィンテージではそれぞれのデッキが独自の細かい『セオリー』を持っているので、急にデッキを変えても満足に使えないと思うんです。ましてや動画配信される場で、慣れていないデッキを使ってミスするのもかっこ悪いですし(笑)」
-- 「もし有利なデッキを選べたとしても、プレイが疎かになっては本末転倒ですしね」
森田 「そうですね。構築次第では同じデッキタイプでも特定のデッキに強く作ることはできますし。変に気構えすぎることなく、自分が得意なデッキ、好きなデッキで楽しめたら後悔はありません」
-- 「本日はありがとうございました」
強力なカードが飛び交うヴィンテージを持ち前の『セオリー』で勝ち抜いてきた森田さんの前に立ちはだかるのは、旧知の間柄である挑戦者の藤井さんです。
同じく『セオリー』を知る者同士。同じコミュニティーで楽しむ友人同士。
そして、ヴィンテージ最強の証--”ヴィンテージ神”の看板を争う、王者と挑戦者である2人の戦いが今、幕を開けます。
森田さんはどのような戦略で難敵を迎え撃つのでしょうか?現”ヴィンテージ神”の覚悟と選択に注目しましょう!