挑戦者インタビュー: 藤井 秀和 ~理不尽なゲームを楽しむベテラン~

晴れる屋

by Jun’ya Takahashi


 ”ヴィンテージ神”への初代挑戦者となった藤井 秀和(千葉)さん。

 4月29日に開催された【ヴィンテージ神挑戦者決定戦】を使い慣れた『オース』で勝ち抜き、現”ヴィンテージ神”である森田 侑(東京)さんへの挑戦権を掴みとりました。





 藤井さんは、筆者が各地のトーナメントに参加し始めた10数年余り前から、あるときはプレイヤー、ときにはジャッジとして、関東周辺のコミュニティを支えてくださった方です。ここ数年間はお会いする機会がなかったのですが、昔と変わらず、優しく丁寧に、ヴィンテージと【第6期神決定戦】への心持ちをお話して下さいました。

 ベテランの”挑戦者”が語るヴィンテージと【第6期神決定戦】の姿、どうぞお楽しみください。



● 理不尽さを”お互い様だ”と楽しめること

-- 「ご無沙汰しておりました。まずはありきたりな質問になってしまうのですが、藤井さんとヴィンテージの出会いについてお聞かせください」

藤井 「あれは2008年くらいだったかと思いますが、東海道Vintageというイベントに参加したことがきっかけでした。名古屋、静岡、東京でいくつかの予選が行われまして。年に2回ほどの本戦に、いずれかの予選を通過したものが参加できるイベントでしたね。Chiban Dragon Conventionという草の根トーナメントを主催されていたアラジンさんが開催していた予選に、誘ってくれた友人と一緒に参加したのが最初だったと思います」

藤井 「最初は”パワー9”のないデッキで参加したのですが、足りないカードを借りながら続けているうちに、気がついたらちょっとずつ”パワー9”も揃ってきまして。それからかれこれ10年近くになりますか。長く楽しんでいます」

-- 「それまではスタンダードなどで遊ばれていたんですか?」

藤井 「そうですね。スタンダードやレガシー……その当時はAMCという大きなレガシーの大会が開催されていたので、主にレガシーをしていました。そこで知り合った人たちのなかにヴィンテージもやる人がいて、私も一緒にヴィンテージをやるようになったんです」





-- 「もう10年近く、藤井さんはヴィンテージと付き合っているとのことですが、その長い間、藤井さんが惹きつけられたヴィンテージならではの面白さを教えて下さい」

藤井 「《Ancestral Recall》《Black Lotus》など。ヴィンテージとは結局はすべてが理不尽なゲームなんです。でも、その理不尽さを”お互い様だ”と楽しめることですかね」

藤井 「例えば1ターンで終わることもあれば、何もできずにやりたいようにされてしまうこともある。こういった理不尽なゲーム展開でも、お互いにそういうことができる、あるいはそれが起こることを知っている、ので。お互いにそれを理解したうえで、理不尽な環境で遊ぶことができる。それが一番楽しいところかもしれません」

-- 「理不尽な内容でも、”お互い様”だから楽しめる、というのは面白いお話ですね」

藤井 「はい。たとえ1ターンで終わっても、よく回ったね、ついてたね、とお互いに気持よくゲームを楽しめるんです」



● 素直にプレイすること

-- 「すべてが理不尽。そんなヴィンテージのプレイングについてお聞きしたいのですが、普段から気をつけていることなどはありますか?」

藤井 「ああ。素直にプレイすること、ですね」

-- 「素直、ですか」

藤井 「はい。自分の手札に素直に、相手の行動にも素直に。裏を読むことはせずに割り切った対応を心がけています。というのも、ヴィンテージのプレイヤーって引いたものをそのままプレイする人が多いんです。なので、相手が何かをやってきたら、その行動の裏を読んだ駆け引きはせずに割り切った対応をすることにしています」


Mana Drain Force of Will


藤井 「こちらが仕掛ける立場でも同じですね。なにかしらの呪文が通ったならば、《Force of Will》を持たれていたら仕方がない、などと割りきって攻めることにしています」

-- 「対戦相手に素直な方が多いのならば、こちらも手なりに対応することはよさそうですね。しかし、こちらが仕掛けるときも素直なのは何故ですか?」

藤井 「これはヴィンテージの理不尽さにも通ずる話なのですが、仕掛けずに遠回りすることのリスクが大きいからですね。仕掛けるか否か。この判断を下す際に、待つことで現状が改善されるかどうか、を検討すると思います。相手の《Force of Will》を引き出すカードを待とう、手札破壊を待とう、などです」





藤井 「しかし、お互いにデッキが強力なヴィンテージでは、1ターン待つこと、相手に1枚のドローを与えることが大きなリスクになるんです。有利不利が覆るどころか、いきなり敗北する可能性だってあります。つまり、今仕掛ければ勝てそうだ、という状況が改善されることは少ないんですね。だから、仕掛けが失敗しても五分くらい、あるいは通れば勝てる、なんて状況では素直に仕掛けることにしています」

-- 「思えば、挑戦者決定戦の【決勝戦】でも、その割りきった仕掛けは見られましたね。」

藤井 「はい。あのときも何か1枚でもカウンターを持たれていれば負けてしまうけれど、通ればほぼ勝ち。待っていても改善するカードは少なかったし、何より相手の行動を受け止められるプランがなかったんですよね。なので、やっちゃえ、って仕掛けました」

-- 「納得です」



● 最低でもメインボードを1本取れる工夫をしなければならない



-- 「今回は挑戦者として”ヴィンテージ神”である森田さんに挑戦されますが、対戦相手の森田さん、【第6期神決定戦】という舞台へのコメントをいただけますか?」

藤井 「まず、【第6期神決定戦】については、メインボードを2本、サイドボードを3本という特殊な3本先取の方式が気になっています」

-- 「と、言いますと?」

藤井 「ヴィンテージには『発掘』を筆頭に、メインボードの勝率が異様に高くて、サイドボード後はそれが著しく下がるデッキタイプがいくつかあるんです。『発掘』が墓地対策に苦しむように、特定の対策カードが刺さるデッキたちですね。今回の神決定戦では、これらのデッキタイプに対して、どう立ち向かうかが難しいです」

-- 「メインボードが2本あるため、その2本を高い確率で取られてしまうからですか?」

藤井 「はい。それに加えて、サイドボード後に3連勝することがヴィンテージでは難しいからですね。これは先手後手の勝率の話なのですが、ヴィンテージってとてつもなく先手が有利なフォーマットなんです」


Black Lotus Mox Sapphire


藤井 「《Black Lotus》《Mox Sapphire》など、ヴィンテージには0マナのマナ加速があります。なのでお互いに1ターン目から沢山のマナを使うことができるのですが、使えるマナの差という意味では、先手の1ターン目だけは膨大な差が生まれるんです。後手もターンさえ回ってくれば《Mox Sapphire》などを展開できるのでマナの差はなくなるんですが、先手の1ターン目だけはどうしても先手だけが一方的に大量のマナを使うことができます。このマナの差は仕掛けるにしても対応するにしても大きく影響するため、先手と後手の勝率の差は大きいと言われています」

-- 「なるほど。メインボードを2本取られてしまうと、サイドボード後は少なくとも2本は後手で戦うことになるんですね。そして、その後手番はどのデッキでも致命的になると」

藤井 「そうですね。後手のゲームを確実に2本取り返さなければならない。これは結構厳しいな、と。だから、最低でもメインボードを1本取れる工夫をしなければならないと考えています。おそらくどのフォーマットよりも先手後手の差が大きいので、相応の対策は練らなければいけないな、と」

-- 「とても難しい問題に思えます。『発掘』を想定してメインボードから墓地対策を採用するなどは、デッキへの負担が大きそうですし」

藤井 「なので、あとはお互いの読み次第になりそうですね。それ次第で何を対策するべきかは限られてくるとは思うので」





-- 「相手が使いそうなデッキの読み次第という話題が出たので、最後に、森田さんへの印象をお聞かせ願えますか?」

藤井 「森田さんとは良き友人同士です。よく一緒に遊ぶ間柄なので、お互いの得意不得意を知っていることが今回のデッキ選択を難しくしていますね」

-- 「ちなみに、お互いにどのようなデッキを得意としているんですか?」

藤井 「私は色々なデッキを触るんですが、森田さんは『Fish』系のクロックパーミションが上手ですね。コンボデッキや『発掘』を回している姿は余りみたことがないかもしれません。本人も苦手と言っていたはずなので、今回も得意な『Fish』系でくるんじゃないかなーと思っています」

-- 「おお、では読み合いは一歩有利ですか」

藤井 「いや、それが難しいんですよ。ヴィンテージでもデッキ同士の相性はあるのですが、似たようなデッキタイプでも得意不得意が一変するんです。例えば『メンター』と『墓荒らし』はどちらも『Fish』系のデッキタイプですが、得意な相手も、不得意な相手も違います。カードプールが広いヴィンテージだからこそ起こることですね」


僧院の導師 死儀礼のシャーマン


-- 「ということは、森田さんがどんなデッキを使いそうかがわかっても、決定的な有利には繋がらないんですね」

藤井 「そうなりますね。私のほうが色々なデッキを使うので選択肢は多いのですが、それが森田さんの読みと一致してしまうと勝てなくなってしまうので、何をすればいいのやら悩んでいます。また、有利なデッキをぶつけることができても、それが有利なマッチアップとなるかは、お互いの構成次第なんです」

-- 「たとえばどういう状況でしょうか?」

藤井 「もしも私が『オース』で、森田さんが『メンター』を選んだとします。これはお互いに神決定戦の出場権を獲得したデッキで、一般的には『オース』が有利だと言われているマッチアップです。しかし、これを想定して《封じ込める僧侶》などをメインボードから採用されていると、この相性は逆転しかねません」


封じ込める僧侶 ドルイドの誓い


-- 「なるほど。特にメインボードへの意識が高まるであろう【第6期神決定戦】では、そういった手法もありえるわけですね」

藤井 「はい。有利なデッキ選択をするにしても、そういった構成での対策にはまらないようにしないと。そんなことを堂々巡りに考え続けています(笑)」

-- 「お互いに知り尽くした仲なのでなおさら難しいですね」

藤井 「はい。ただ、読み合いとは言っても、相手を欺くようなことは避けたいと思っています。口ではAだと言ったけどBを出すような。そういったわだかまりが残るような方法ではなく、お互いに気持ちよく決着できる試合を楽しみたいです」

-- 「本日はありがとうございました。気持ちのいい試合を楽しみにしています」





 およそ10年にもわたってヴィンテージと付き合ってきた藤井さんは、ベテラン中のベテランながら、今回の【第6期神決定戦】には挑戦者として”ヴィンテージ神”のタイトルに挑みます。

 理不尽なヴィンテージを紐解く割りきったプレイ。神決定戦という特殊な形式についての分析。

 終始、藤井さんの経験豊富さが窺えるインタビューになりました。

 しかし、そんな藤井さんにもデッキ選択と読み合いの複雑さには、苦悩の表情を見せていました。多くを知るからこそ悩み、相手を知るからこそ苦しい。そんな理不尽な選択、理不尽なゲームに挑戦します。

 それでも、きっと藤井さんは、神決定戦の舞台で最高の答えを見せてくれるに違いありません。

 これまで、そして、これからも。『理不尽さを楽しみ続けてきた』のですから!