今回の「ちょっと珍しいスタンダードのデッキたち」では、『マジック・オリジン』に収録された挑戦的なカードを使用したデッキに注目してみた。
「これは噛み合えば最強でしょ!」
「いやいや、そんなにうまくいくわけないし……」
皆さんもカードリストを眺めるたび、こんな押し問答が頭の中で繰り広げられているのではないだろうか。考えられる限り最高にブン回った姿に心を惹かれつつも、実際に7枚引いた時のがっかり感が怖い。
そんな悩みを克服して、一つの形へと組み上げたのが今回紹介する2つのデッキだ。
《一日のやり直し》と《ニクスの星原》。
『マジック・オリジン』の「お題カード」とも言えるカードたちはどのように料理されたのだろうか?
■ 《一日のやり直し》コントロール
まずは『焼き直し版《Timetwister》』こと《一日のやり直し》だ。
これまでの「お互いに7枚引きなおす系」と一線を引くのは、”あなたのターンであるなら、ターンを終了する。”という一文が付け加えられているところ。つまり、たとえ7枚引き直しても、潤沢な手札を使う権利は相手に先に与えられてしまうのだ。
このデメリットこそが《一日のやり直し》を一筋縄ではいかないカードに仕立てている。コンボデッキで手札をダンプし続けることはできず、クリーチャーデッキでも相性は悪く、コントロールならば対戦相手の手札も回復するため並のドロー呪文のほうがうまく働くに違いない。少し考えただけでも気難しいカードだということが分かってきた。
それでは、ここで一度《一日のやり直し》と相性がいいであろうデッキの要素を挙げてみることにしよう。
1. カードの消費が早く激しい
2. インスタントタイミングのカードが多い
3. カードをより多く使うことが勝利に繋がる
2. インスタントタイミングのカードが多い
3. カードをより多く使うことが勝利に繋がる
こんなところだろうか。1番や3番の要素はコントロールを除く大抵のデッキに当てはまるが、そのうえで2番の要素を満たすことはとても難しい。
うーん、と頭を悩ませたところでこちらのデッキを見て頂きたい。
8 《山》 4 《戦場の鍛冶場》 4 《神秘の僧院》 3 《シヴの浅瀬》 3 《凱旋の神殿》 2 《天啓の神殿》 1 《マナの合流点》 -土地(25)- 4 《魂火の大導師》 4 《嵐の息吹のドラゴン》 -クリーチャー(8)- | 4 《乱撃斬》 4 《稲妻の一撃》 4 《神々の憤怒》 4 《一日のやり直し》 4 《極上の炎技》 3 《軍族童の突発》 4 《かき立てる炎》 -呪文(27)- | 4 《僧院の速槍》 4 《大歓楽の幻霊》 2 《岩への繋ぎ止め》 2 《灼熱の血》 2 《対立の終結》 1 《軍族童の突発》 -サイドボード(15)- |
そう、「火力系コントロール」と組み合わせてしまえばいいのだ。一般的なコントロールデッキの手札の消費が緩やかなのは、相手に対応するカード(除去、カウンターなどなど)が多く含まれているからだ。しかし、それが「火力系コントロール」ならば、対応する呪文の枠には対戦相手のライフを狙える火力呪文が揃っている。
つまり、対応すべき脅威があればそれを焼き、それがなければ対戦相手を焼くことができるのだ。こうして手札は毎ターン順調に消化される。
ただ、一般的なコントロールデッキの目線で話すならば、これはあまり賢い戦略とは言えない。なぜなら相手のカードをすべて捌きながら対戦相手を焼ききるほどのリソースなど用意できるわけがないからだ。半端に対戦相手のライフが減ったうえで殴り負けるか、対戦相手の場は捌いたものの対戦相手のライフがたんまりと残ってしまうか。このどちらかの未来が待っている。
そこで輝くのが《一日のやり直し》だ。
並のカードならば補填できないリソースでも、このカードならば簡単に埋め合わせてくれる。また、多くの火力呪文はインスタントなので、ターンが終了してしまうこともさほどのデメリットにはならない。
これまでも青赤の形はちらほらと見られ、今回のような《魂火の大導師》が加わった形へと、アイデアは着実に進歩し続けている。《魂火の大導師》は火力呪文が多く採用されたデッキにおいて最高級のカードであるとともに、《神々の憤怒》とのコンボは横に並べるクリーチャーデッキへの強力なアンチとして活躍する。
このデッキならではというカードの選択はとても綺麗だ。このデッキの製作者は今大会を5勝2敗で惜しくもTop8を逃してしまったが、何か一つの改良できっと足りない1勝は簡単に手に入るだろう。
これからの活躍に期待がかかるデッキだ。
■ 緑白《ニクスの星原》
10 《森》 5 《平地》 4 《吹きさらしの荒野》 4 《豊潤の神殿》 -土地(23)- 4 《万神殿の伝令》 2 《ニクス毛の雄羊》 4 《クルフィックスの狩猟者》 2 《加護のサテュロス》 4 《開花の幻霊》 1 《狩猟の神、ナイレア》 -クリーチャー(17)- | 2 《神々との融和》 2 《ドロモカの命令》 4 《豊穣の泉》 4 《払拭の光》 2 《ナイレアの弓》 4 《ニクスの星原》 2 《空位の玉座の印章》 -呪文(20)- | 4 《正義のうねり》 2 《消去》 2 《暴風》 2 《神聖なる月光》 2 《抑制する縛め》 2 《悲劇的な傲慢》 1 《垂直落下》 -サイドボード(15)- |
さあ、『マジック・オリジン』が繰り出す2枚目のお題は《ニクスの星原》だ。
「ニクス」といえば『テーロス』の神々が住まう天上の世界。その能力も『テーロス』らしくエンチャントに関係する強力なものとなっている。
ひとつは、墓地からエンチャントを釣り上げる能力。
もう一つは、《オパール色の輝き》能力。
肝の釣り上げる能力は設置した次のアップキープに誘発するため若干のラグがもどかしいものの、マナコストの制限すらない破格の性能だといえる。そんな《ニクスの星原》をどう使ったものかと悩んだ末に、多くのプレイヤーが辿り着く結論は緑黒白の3色で構築することだ。
「星座」能力と相性がとてもいいため、既存の緑黒星座に《ニクスの星原》を加えた形などは誰しもがイメージしやすい。《破滅喚起の巨人》と《ニクスの星原》のどちらをタッチするか、《クルフィックスの洞察力》などの補助呪文を何枚採用するのか。悩むポイントはこのあたりだろう。
しかし、今回紹介する緑白《ニクスの星原》は、3色の誘惑を振り切った綺麗な2色で構築されている。この理由はおそらく《豊穣の泉》にある。
一般的な3色の構成にするとタップインの土地が増えるので、1ターン目に《豊穣の泉》を置いて2ターン目に起動することが難しくなる。「じゃあ《森の女人像》でも積めばいいじゃん」というのは真っ当な意見だが、《オパール色の輝き》能力の条件達成や、墓地にエンチャントが少ない状況でも《ニクスの星原》の釣り上げる能力を使い続けられることを考えると《豊穣の泉》も捨てがたい。
また、これはややマイナーな状況かもしれない。《ニクスの星原》デッキの弱点として、《オパール色の輝き》能力でクリーチャー化した《ニクスの星原》を除去されてしまうと機能不全を起こすことがある。そのような状況で《豊穣の泉》があると、《豊穣の泉》を生贄にすることで《オパール色の輝き》能力を解除することができるのだ。
ちょっとした小技でしかないが、効果的な瞬間はきっとある。
3色から2色へと色を減らすことで問題視されることは、デッキに採用される1枚1枚のカードが弱くなってしまうことだ。攻撃手段、防御手段ともに安定性と引き換えに弱まってしまう。現にこの緑白《ニクスの星原》は《破滅喚起の巨人》を失ったことで、トークンデッキに対して弱体化しているはずだ。
しかし、それでも緑白の2色の構成でも許されるのは、《払拭の光》がもつ万能性にある。壊されてしまうリスクはあるものの、基本的にはどんなパーマネントにも対応できるのは頼もしい。
2色か3色か。これは《ニクスの星原》だけでなく様々なデッキでも議論を呼ぶ話題だ。その多くは「安定の2色か、強力な3色か」という対比で語られる。今回のデッキでいえば《豊穣の泉》と《破滅喚起の巨人》の有無は重要なトピックだった。
ついつい強力なカードに惹かれて色を増やしたい気持ちは誰しもにあるが、そこを冷静に見極め、敢えて2色で構築された緑白《ニクスの星原》は素晴らしい。デッキの動きが派手になるようなワクワクする期待はないものの、いぶし銀な調整にはまた違った高揚感があるものだ。