『マジック・オリジン』が発売されてから一月余りが経ち、スタンダード環境は目まぐるしいメタゲームの変遷を迎えている。
「赤単アグロ」「緑白大変異」「青赤ライブラリーアウト」「《搭載歩行機械》アブザン」。
毎週のように更新されるメタゲームを追いかけることすら大変だ。
そんな激しい潮流にも負けず、今大会には多くの意欲作が見られた。そのすべてを紹介することはできないが、一際異彩を放っていたちょっと珍しい2つのデッキを紹介しよう。
■ 4色《先祖の結集》
「4色《先祖の結集》」というと、プロツアー『マジック・オリジン』で殿堂・三原 槙仁が使用し、先週末のWMCQ大阪予選でその全貌が明かされたこのリストが印象的かもしれない。
残念ながら1没してしまいましたが、多色ラリーは最近のスタンダードでは珍しく回してて楽しいコンボデッキでした。一人回しでも面白いのでガチャガチャするデッキが好きな人にお勧め。 https://t.co/8gzawmjnJQ
— ramiharu (@ramiharu) 2015, 8月 23
巨大な《ナントゥーコの鞘虫》で殴り倒したり、《囁きの森の精霊》から粘り勝ちを狙ったり、二人の両面プレインズウォーカーでがちゃがちゃ動いたり。まさにコンボコントロールが大好きな三原好みのテクニカルなデッキに仕上がっている。
ただ、「4色《先祖の結集》」に注目していたのは三原だけではなかったらしい。三原のガチャガチャコンボとは別の方向性で調整され、活躍する「4色《先祖の結集》」が当会場にいたのだ。
2 《森》 1 《島》 2 《平地》 2 《吹きさらしの荒野》 1 《溢れかえる岸辺》 4 《華やかな宮殿》 4 《砂草原の城塞》 2 《ヤヴィマヤの沿岸》 1 《コイロスの洞窟》 1 《ラノワールの荒原》 1 《マナの合流点》 1 《欺瞞の神殿》 1 《啓蒙の神殿》 1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 -土地(24)- 4 《シディシの信者》 4 《サテュロスの道探し》 4 《森の女人像》 3 《ヴリンの神童、ジェイス》 2 《異端の癒し手、リリアナ》 4 《血の暴君、シディシ》 4 《包囲サイ》 2 《鍛冶の神、パーフォロス》 1 《アンデッドの大臣、シディシ》 -クリーチャー(28)- | 4 《先祖の結集》 4 《オジュタイの命令》 -呪文(8)- | 4 《アラシンの僧侶》 2 《思考囲い》 2 《悪夢の織り手、アショク》 2 《先頭に立つもの、アナフェンザ》 2 《無慈悲な処刑人》 2 《護法の宝珠》 1 《悲劇的な傲慢》 -サイドボード(15)- |
とにかくタフ!!
《ナントゥーコの鞘虫》など単体では頼りないコンボパーツは全て排して、空いた枠は《包囲サイ》や《オジュタイの命令》という頼りがいのあるグッドスタッフに置き換えられている。
もはやコンボデッキというよりは、グッドスタッフにコンボが添えられているデッキだ。
高速で墓地を肥やすわけではなく、必要なコンボパーツを探すわけでもない。ゆったりと強力なカードで相手を迎え撃ち、お互いに消耗し合った末の《先祖の結集》でゲームを決める。
しかし、徒に強力なカードを右から順番に投入したデッキではないところにも注目してほしい。
《血の暴君、シディシ》と《包囲サイ》は、どちらも単体で活躍できるスペックを持ちながら、中盤以降は《鍛冶の神、パーフォロス》と併せて瞬殺コンボ要員としても活躍する。
一見すると浮いて見える《オジュタイの命令》も、ライフ回復によるコンボ完成までの時間稼ぎ、そして《ヴリンの神童、ジェイス》と《サテュロスの道探し》の2枚との強力なシナジーをもっている。特徴的な4枚の《シディシの信者》を再利用すれば、さながら《謎めいた命令》である。
強いカードをより強く使う。デッキ構築の基本ではあるが、強いカードを強いカードで引き立てることはなかなかできるものではない。若干4マナが多く、デッキが重たいことは玉に瑕だが、それに見合うだけのパワーを兼ね備えている魅力的なデッキだ。
■ 青黒赤《無駄省き》
《無駄省き》は第4回の”You Make The Card”(英語記事)という「みんなでカードをデザインする企画」で生まれたカードだ。対戦相手が手札を捨てるたび、捨てたカードの種類に応じて様々な効果を発揮する。黒の代名詞ともいえるハンデスがより楽しくなるエンチャントである。
これが印刷されてからというもの、多くのプレイヤーたちが《無駄省き》デッキを作ろうと奮闘しては散っていった。
手札破壊ばかりでは勝てない。
《無駄省き》を設置するだけで終えるターンが致命的。
対戦相手の手札が切れると何もできない。
ハンデスしている瞬間が最高に楽しいデッキは構築できるものの、その結果勝てるデッキにはなかなか辿り着けなかったのだ。そして、今大会にもその険しき道を歩く挑戦者がいた。
4 《沼》 2 《島》 1 《山》 4 《血染めのぬかるみ》 4 《汚染された三角州》 4 《欺瞞の神殿》 4 《悪意の神殿》 1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 -土地(24)- 4 《ヴリンの神童、ジェイス》 -クリーチャー(4)- | 4 《思考囲い》 4 《闇取引》 4 《コラガンの命令》 1 《ラクシャーサの秘密》 2 《衰滅》 1 《命運の核心》 1 《残忍な切断》 2 《タシグルの残虐》 4 《宝船の巡航》 4 《無駄省き》 2 《スフィンクスの後見》 2 《アルハマレットの書庫》 1 《リリアナ・ヴェス》 -呪文(32)- | 3 《否認》 3 《悲哀まみれ》 2 《蔑み》 2 《強迫》 2 《英雄の破滅》 1 《悪夢の織り手、アショク》 1 《悪性の疫病》 1 《無限の抹消》 -サイドボード(15)- |
このデッキでは《無駄省き》道・「《闇取引》の型」を採用している。
もしも対戦相手の手札が7枚すべてクリーチャーならば7体のゾンビを、7枚すべてが土地ならば14マナを、そして7枚すべてがそれら以外ならば7枚も追加で引くことができる恐怖のコンボだ。2ターン目に《無駄省き》を設置し、3ターン目に《闇取引》で速やかに気持ちよくなれる。
そして、《闇取引》によって墓地が肥えれば『探査』が捗る。《宝船の巡航》でドローを進めてもよし、《残忍な切断》で除去してもよし、《タシグルの残虐》でさらに手札破壊を叩き込むもよし、だ。《タシグルの残虐》は探査呪文の中ではマイナーだが、この《無駄省き》デッキならば光り輝く。
《無駄省き》道を歩む者にとって最大の難問である勝利手段は、《スフィンクスの後見》が担っている。《無駄省き》や《宝船の巡航》によって大量にドローするため、「青赤ライブラリーアウト」顔負けの削りっぷりを見せてくれる。
弱点とされていたパーマネントへの干渉力の低さ、ゲームプランの不安定さは、『マジック・オリジン』のカードたちにより見事に克服されている。
干渉力の低さは《衰滅》が補い、《ヴリンの神童、ジェイス》が安定したゲームプランを提供してくれる。《ヴリンの神童、ジェイス》は唯一のクリーチャーなので対戦相手の余った除去の的になってしまいそうだが、除去されても《コラガンの命令》で回収できるから問題なしだ。
《無駄省き》を2ターン目に設置できたゲームの爽快感は格別だ。手札破壊が好きな方は是非一度手に取ってみてほしい。