はじめに
みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームの富澤です。
前回は人気沸騰中のナヤウィノータと、各デッキの対策手段をご紹介しました。《軍団のまとめ役、ウィノータ》の攻撃力の高さに加えてミッドレンジプランをとれる柔軟さまで持ち合わせているため、一筋縄ではいかないようです。
さて、今回はチャレンジャーガントレットと$5K SCG Tour Online Championship Qualifierの大会結果を振り返っていきます。
先週末の注目デッキは?
まずは先週末の注目デッキを確認していきましょう!
先週末開催されたチャレンジャーガントレットにおいて使用者全員が5-1、4-2、4-2と大きく勝ち越し、さらに決勝ラウンドへと進んだアーキタイプがありました。それがナヤアドベンチャーです。
ベースは以前と同様に「出来事」カードと《エッジウォールの亭主》によるパッケージ、スタッツの優れたクリーチャー、そしてゲームを決める《スカルドの決戦》になります。サイドボードを見渡しても違いはわずか1枚のみであり、かなり完成された印象を受けます。ここではMPL昇格を決めたサム・パーディー/Sam Pardee選手のリストをみていきます。
これまでのナヤアドベンチャーといえば《クラリオンのスピリット》によるトークン戦略を軸にしたやや悠長なデッキでしたが、ナヤウィノータが登場したことで大きく変化しています。《クラリオンのスピリット》の代わりに《エシカの戦車》が加わったことで下準備もなしに、安定してダメージを刻めるようになりました。
1枚でカード3枚分以上の働きをする《エシカの戦車》は消耗戦にも強く、《クラリオンのスピリット》よりも対処の難しいカードです。本体が残ればこれをサポートしながら攻撃を続けるだけで、リソース差は歴然となります。
単体除去を増やしたことで、ナヤウィノータとグルールへの意識がうかがえます。ナヤアドベンチャーの特権である《巨人落とし》は《エシカの戦車》と《軍団のまとめ役、ウィノータ》を的確に落としつつ、アドバンテージへと繋がる1枚。ほかにも《黄金架のドラゴン》や《長老ガーガロス》など現在のメタゲームで無駄になるマッチはありません。
全体除去や《出現の根本原理》と同様に《精鋭呪文縛り》は、ナヤウィノータにも効果的です。コンボの核となるカードを追放すれば、このカードが稼ぐ2ターンはビートダウンするに十分な時間となるためです。《火の予言》も絡ませて的確にダメージを通していきましょう。
サイドボードには現環境必須の《レッドキャップの乱闘》に加えて《封じ込める僧侶》が採用されています。この《封じ込める僧侶》こそ、ほかの2名のデッキと違う1枚なのです。レガシーではリアニメイトや《全知》対策として知られるクリーチャーですが、スタンダードでは《軍団のまとめ役、ウィノータ》を咎めるカードとなります。
特筆すべきは瞬速であり、このために相手視点ではほかのインスタントと混同してしまいます。ナヤウィノータ側の戦場にクリーチャーが並べばゲームを決めるために、《軍団のまとめ役、ウィノータ》の生存に焦点を置いてしまいがちです。《封じ込める僧侶》は《無私の救助犬》など守るカードの裏をかく対策であり、致命的な一手となりえます。
チャレンジャーガントレット
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
トップ4 | サム・パーディー | ナヤアドベンチャー |
トップ4 | 茂里 憲之 | イゼットコントロール |
トップ4 | アーネ・ハーシェンビス | タッチ黒マグダグルール |
トップ4 | 佐藤 啓輔 | ナヤウィノータ |
トップ12 | マッティ・クイスマ | タッチ黒マグダグルール |
トップ12 | デイヴィッド・イングリス | タッチ黒マグダグルール |
トップ12 | イアン・ビレル | スゥルタイ根本原理 |
トップ12 | ヤン・メルケル | ナヤアドベンチャー |
トップ12 | ガヴィン・トンプソン | マグダグルール |
トップ12 | ョアン・モレイラ | ディミーアローグ |
トップ12 | ローガン・ネトルズ | ナヤアドベンチャー |
トップ12 | サム・ロルフ | タッチ黒マグダグルール |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
年間を通じてチャンピオンシップで好成績を残した24名のみが招待されるチャレンジャーガントレット。参加者の多くはナヤウィノータを本命と見据えた結果、決勝ラウンドへは1名しか進めませんでした。
このイベントはリーグ入りをかけた個人戦ですが、全デッキリストをみるに2つのチームが浮かび上がってきます。ひとつは先ほどご紹介したナヤアドベンチャーを持ち込んだサム・パーディー、ヤン・メルケル/Jan Merkel、ローガン・ネトルズ/Logan Nettles、ガヴィン・トンプソン/Gavin Thompsonの4名(ガヴィンのみマグダグルール)。もうひとつはアーネ・ハーシェンビス/Arne Huschenbeth、マッティ・クイスマ/Matti Kuisma、サム・ロルフ/Sam Rolph、デイヴィッド・イングリス/David Inglisからなるタッチ黒マグダグルールを選択したチームです。
デッキこそ違うものの、この2つのチームに所属していたプレイヤーは全員リーグ入りが確定しています。これらの調整チームがいかに高い精度でメタゲームを解析し、デッキを作り上げたかを示すエピソードといえそうです。
メタゲーム
デッキタイプ | スイスラウンド | 決勝ラウンド |
---|---|---|
グルールアドベンチャー系 | 8(内タッチ黒4/青3) | 5(内タッチ黒4) |
ナヤウィノータ | 4 | 1 |
ナヤアドベンチャー | 3 | 3 |
ディミーアローグ | 3 | 1 |
スゥルタイコントロール | 2 | 0 |
イゼットコントロール | 1 | 1 |
スゥルタイ根本原理 | 1 | 1 |
サイクリング | 1 | 0 |
ティムールルーカ | 1 | 0 |
合計 | 24 | 12 |
一番人気となったのはグルールアドベンチャーでしたが、通常の2色はわずか1名のみとなります。ほかは《軽蔑的な一撃》や《レイ・オヴ・エンフィーブルメント》をタッチした3色構成となりました。
出場者全デッキリストはこちら。
タッチ黒マグダグルール
タッチ黒マグダグルールは両面土地と《ヤスペラの歩哨》+《厚顔の無法者、マグダ》のマナベースにより、色マナ事故のリスクを最小限に抑えつつ、デッキパワーの向上に成功しています。ベースは変わらずマナ加速から《エシカの戦車》や《黄金架のドラゴン》へと繋ぎ、「出来事」カードと《エッジウォールの亭主》でコツコツとリソースを稼いでいきます。
ナヤウィノータに対してショートレンジでのゲームをしかけるため、これまでのマグダグルールよりも押し切りを意識した構築となっています。4人のリストの中からよりビートダウンに寄せたアーネ選手の構築をみていきます。
《ヤスペラの歩哨》+《厚顔の無法者、マグダ》から最速3ターン目に降り立つ金色のドラゴンは、ブロッカーを飛び越えて5ターンでゲームを終わらせてくれます。この高速クロックを除去や《エンバレスの宝剣》でバックアップしていくことが勝利への最短ルートとなります。
もともと《恋煩いの野獣》や《砕骨の巨人》といった軽いマナ域かつ高パワーなクリーチャーが揃っていますが、ボードにクリーチャーを並べてチャンプブロックしてくるデッキも増えてきたため打点を通す工夫もみられます。必殺の《エンバレスの宝剣》はもとより、《解き放たれた者、ガラク》はトランプルを付加することで並みいるチャンプブロックを無効にしてゲームに勝つまでの時間を縮めてくれます。クリーチャーと違い、単純な除去以外の対処手段を要求する点も相手にとっては苦しいところとなります。
サイドボードに採用された《レイ・オヴ・エンフィーブルメント》こそ、黒を入れ主たる理由となります。《軍団のまとめ役、ウィノータ》対策ならば赤の《レッドキャップの乱闘》が筆頭でしたが、マイナス修正のため《無私の救助犬》の上から除去できる分優れています。
また、アーネ選手以外が使用したのはやや黒が濃く、よりミドルレンジ寄りの構築です。《嘘の神、ヴァルキー》はクリーチャー限定の《精鋭呪文縛り》であり、《軍団のまとめ役、ウィノータ》などの致命的なクリーチャーを追放し、ビートダウン完遂までの時間を稼いでくれます。
《ヤスペラの歩哨》のおかげで複数の色マナを生成できるため、《帰還した王、ケンリス》を奪えばさまざまなリソースへと変換できるようになっています。中~長期戦ではプレインズウォーカーへとしても使えるため、無駄になりにくいカードです。
イゼットコントロール
茂里 憲之選手が選んだのはナヤウィノータとマグダグルールを睨んだイゼットコントロール。火力と打ち消し呪文で相手の攻撃をさばき、ドロー呪文でアドバンテージを稼ぐ王道のコントロールデッキです。コントロールを確立してからゲームエンドまでが非常に早く、クリーチャーベースのデッキで対抗するのは非常に難しい今回のメタゲームを読みきった構築といえます。
状況に応じて土地として呪文としても使える使い勝手の良いカードである《棘平原の危険》。《エッジウォールの亭主》や《厚顔の無法者、マグダ》、《水蓮のコブラ》など軽いながらも放置できない強力なシステムクリーチャーが増えたことで評価が上がった1枚です。
デッキは2~3マナの火力と打ち消し呪文を中心に構築されており、対戦相手の脅威を最小限度のマナで対処できるようになっています。しかし、1対1交換を続けるだけではゲームは進まず、土地を連続で引いたりすればすぐに逆転されてしまいます。ドロー呪文を2マナ以下にすることで、隙を作らずにリソースに差をつくれるように構築されているのです。
コントロールを確立した後に求められるのは完全無敵のフィニッシャーであり、このデッキでは《キオーラ、海神を打ち倒す》が当てはまります。マナコストこそやや重いものの攻防一体のカードであり、ナヤウィノータやグルールの多いメタゲームでは非常に効果的です。8/8の呪禁と除去耐性があるため、クリーチャー主体のデッキではほとんど対処できません。
クリーチャートークン自体に回避能力はないものの、英雄譚がII章へ進めば強制的に対戦相手のクリーチャーを《睡眠》状態に陥らせて攻守を入れ替えます。返すターンに複数のクリーチャーを展開されようとも干渉手段とIII章の効果により、ブロックは非常に難しくなります。クリアになった戦場を《ストーム・ジャイアントの聖堂》とともに攻撃へと向かえば、わずか2ターンで削りきってしまいます。
メインボードがクリーチャーデッキにシフトしているため、サイドボードではディミーアローグやスゥルタイ根本原理への対策が多めに割かれています。《灰のフェニックス》は使いやすいクロックであり、「脱出」により除去に強いのが魅力です。《サメ台風》は手札を減らさず隙をつくらず、しかもインスタントタイミングでクロックを生成できる至れり尽くせりなカード。サイズにこだわり過ぎずにある程度早めにクロックを形成することで対戦相手にプレッシャーをかけ、ゲームを動かすきっかけになるカードでもあります。
$5K SCG Tour Online Championship Qualifier
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Alexander Rosdahl | スゥルタイ根本原理 |
準優勝 | 江原 洸太 | タッチ黒マグダグルール |
トップ4 | Drew Christensen | スゥルタイ根本原理 |
トップ4 | Henry Mildenstein | スゥルタイ根本原理 |
トップ8 | Mikail Nogueira | ティムールルーカ |
トップ8 | Remi Fortier | タッチ黒マグダグルール |
トップ8 | 浦瀬 亮佑 | ナヤアドベンチャー |
トップ8 | piroki | ラクドスサクリファイス |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者175名で開催された$5K SCG Tour Online Championship Qualifierはスゥルタイ根本原理を使用したAlexander Rosdahl選手が優勝しました。ナヤウィノータをメタったアドベンチャーデッキが増えたことで、軽い干渉手段を増やしてボードコントロールに特化した構築のスゥルタイ根本原理が有利なフィールドへと変化したようです。2週間続いたナヤウィノータ天下も終了し、これでメタゲームは一周したようです。
メタゲーム
デッキタイプ | 使用者数 | トップ16 |
---|---|---|
グルールアドベンチャー | 53 | 4 |
ナヤウィノータ | 21 | 0 |
スゥルタイ根本原理 | 15 | 5 |
イゼットドラゴン | 13 | 0 |
ナヤアドベンチャー | 11 | 2 |
ティムールアドベンチャー | 10 | 2 |
ディミーアローグ | 9 | 0 |
緑単アグロ | 6 | 1 |
赤単アグロ | 4 | 0 |
その他 | 33 | 2 |
合計 | 175 | 16 |
コンボとミッドレンジプランが両立したナヤウィノータが隆盛したことで受けて捌くデッキは苦境に立たされ、太いダメージソースと妨害の両方を兼ね備えた緑系のクリーチャーデッキが台頭しました。栄華を極めたナヤウィノータは完全な負け組へと追いやられますが、グルールも使用者数の割りに勝っていません。この変化こそスゥルタイ根本原理が待ち望んだものであり、トップ8に3名を送り出すことに成功しました。大会上位を見る限り、コントロールの仲でもフィニッシャーの質でスゥルタイ根本原理が頭一つ抜けていたようです。
トップ8デッキリストはこちら。
スゥルタイ根本原理
イゼットコントロールと同じく、さまざまな干渉手段を使用してボードを支配していく王道のコントロールデッキ。攻撃手段をクリーチャーのみに頼ったデッキには特に強く、序盤から終盤まで除去や打ち消し呪文が揃っており隙はありません。プレインズウォーカーのような非クリーチャーパーマネントですら《古き神々への拘束》が用意されています。
最大の特徴は定番であった《狼柳の安息所》の不採用です。マナ加速と入れ替わったのは豊富な干渉手段であり、単体除去8枚に加えて《ジュワー島の撹乱》が3枚採用されています。メタゲーム上マナクリーチャーを絡めた早い展開が多くなったことで《狼柳の安息所》でマナを伸ばしてより重いカードを使うよりも、1対1交換を続けてゲーム自体をスローダウンさせる方向へとシフトしています。
マナ加速が減ったことで、全体除去もマナコストを前倒しで採用されています。《死に至る霞》は黒き《燃えがら地獄》といえるカードであり、《無私の救助犬》にひっかからないのがポイント。タフネス2以下の戦場をきれいさっぱりと洗い流してくれます。
単体除去の採用枚数が増えたことでボードを的確にコントロールできるようになり、《絶滅の契機》が使いやすくなっています。
おわりに
圧倒的な支配力を誇ったナヤウィノータでさえも、周囲のガードが上がりきってしまえばスイスラウンドを勝ち抜くことさえ困難を極めます。これはどのデッキにも共通することであり、メタゲームにそったデッキ選択と構築が求められます。次はどのデッキが抜きん出るのでしょうか。
今週末もスタンダードの情報をお届けしたいと思います。それでは!