日本マジックのプロシーンでは長らく世代交代の必要性が叫ばれてきたが、これまで見えていなかっただけで、実は世代交代の波はすぐそこまで来ているのかもしれない。
その証拠に、このPPTQ「マドリード」の決勝戦まで勝ち上がってきたのは、高橋と今井。高橋も22才と十分若いが、今井に至っては何と齢16。「受験があるんで、一回やめないといけないんですよ」という生々しい言葉が、今年で30になる筆者の胸に突き刺さってライフはゼロを割った。それはともかく、受験が終わって学業の目途がついたらぜひともまたこの世界に戻ってきて欲しいところだ。
そんな2人の対戦はしかし、一見してスタンダードらしからぬ異質なものとなった。
何せ高橋のデッキは《ジェスカイの隆盛》コンボ。《森の女人像》に《撤回のらせん》を撃つという「テーロス」ブロックを最大限活用した形は、最近ではほとんど見かけなくなっていたが、メタゲームは回るものということか。
しかも手元には《ジェスカイの隆盛》のプレイマットを広げており、名刺代わりみたいになってるけど大丈夫?と尋ねると「いや、でも『信心』って結構大事なんですよ」と気にするそぶりも見せない。『タルキール覇王譚』が発売した当初から使用しているとのことで、シャッフルする手つきからだけでも一流のコンボデッキ使いたちに特有の滑らかさ、長い年月を経た者だけが醸し出す「慣れ」の空気が感じられる。
それもそのはず、実は高橋は今年の2月末にここ晴れる屋で開催された【PPTQ「ミルウォーキー」】でもトップ4まで勝ち上がっていた、正真正銘の「《ジェスカイの隆盛》コンボの達人」なのだ。
一方の16才・今井のデッキは先週【グランプリ・プラハ2015】で優勝したばかりの赤黒ドラゴンに《ゴブリンの熟練扇動者》が加わったもの。
しかし、《搭載歩行機械》を容易に乗り越えられるというのがこのデッキのメタゲーム上の優位性を支えていたところ、対戦相手である高橋のデッキは《搭載歩行機械》の「と」の字もない《ジェスカイの隆盛》コンボ。予想外のデッキを相手に今井がどう立ち回るかが焦点になりそうだ。
高橋と今井、次代を担う2人のプロツアーへの第一関門突破をめぐる戦いが始まった。
Game 1
先手・今井の《思考囲い》で明らかになったのは、
《森の女人像》
《オーラ術師》
《贈賄者の財布》
《群の祭壇》
《時を越えた探索》
に土地が2枚というもの。スタンダードでも滅多に使われることがないカードばかりの手札を前に、今井は苦笑するしかない。
今井 健太 |
今井 「わかんねーなー(笑)」
それも仕方のない話かもしれない。今井がマジックを始めたのは今年の4月とのことだ。そのころには既に『タルキール龍紀伝』まで発売しており、《ジェスカイの隆盛》コンボはほぼメタゲーム上に存在していなかったからだ。
それでも何となく危険そうな《群の祭壇》と、2枚目の《思考囲い》で《森の女人像》も落とした今井。
だが高橋は3ターン目、「占術」でトップに積んでいた《ジェスカイの隆盛》を着地させる。今井も《搭載歩行機械》を出すが、コンボデッキを相手に除去耐性などほとんど意味がない。
2枚目の《ジェスカイの隆盛》を設置された返しで何とか《嵐の息吹のドラゴン》を走らせるが、ここで高橋が自身のアップキープにプレイしたのは何と《回収》。
これにより序盤に《思考囲い》で捨てさせられた《森の女人像》を引き込むと、そのままプレイ。
今井にも「あれの召喚酔いが解けたらヤバイ」ということはわかるのだが、「呪禁」とエンチャントに対して、赤黒というカラーリングは悲しいほどに無力だ。やむなく《コラガンの命令》を構えてターンを返すしかなく。
高橋の時間が、始まった。
《ドラゴンのマントル》。《ジェスカイの隆盛》2枚でアンタップとルーティングが2個ずつ誘発。
《時を越えた探索》。2個ずつ能力が誘発。
《贈賄者の財布》。2個ずつ能力が誘発。
《宝船の巡航》。2個ずつ能力が誘発。
《撤回のらせん》。2個ずつ能力が誘発。
今井も《贈賄者の財布》をバウンスしようとしたところにスタックして《コラガンの命令》を差し込むのだが、もはやその程度で高橋は止まらない。
さらなる《宝船の巡航》。そして《予期》。再び《贈賄者の財布》に辿りつき、無限マナと無限ルーティングが確定する。
それでも《群の祭壇》は《思考囲い》で落としている。《回収》も《森の女人像》に使ってしまった。高橋に勝ち手段は残されているのか……?
あった。《双つ身の炎》。
「奮励」でプレイすると、速攻を持った無限パワーの《サテュロスの道探し》のコピー・トークン2体が走り、今井のライフを宇宙の彼方まで吹き飛ばした。
高橋 1-0 今井
Game 2
《搭載歩行機械》2体を並べ、《ジェスカイの隆盛》の返しで《雷破の執政》を送り出す今井だが、《思考囲い》が引けておらず、愚直に殴るしかない。
だが、高橋も苦しい。コンボパーツである《森の女人像》が見つからないのだ。
高橋 雅人 |
《贈賄者の財布》をプレイしてルーティングし、さらに《神々との融和》を撃つものの、見つかったのは《サテュロスの道探し》だけ。やむなくそのままプレイしてターンを終えるが、《コラガンの命令》(《贈賄者の財布》を破壊とディスカード) +《龍詞の咆哮》からのフルアタックを受け、ライフが4、場には5枚の土地と《ジェスカイの隆盛》のみという状況まで追い詰められてしまう。
高橋のラストターン。皮肉なことにそのドローは《森の女人像》だった。遅いよ!と思いつつ頭の中で勝ち筋を探す。あれしかない。
《時を越えた探索》。そしてたどり着いた。7ターン先の未来から、唯一の勝ち筋をたぐり寄せた。
《森の女人像》プレイ、すぐさま《双つ身の炎》で速攻を持ったコピーを生み出す。《撤回のらせん》は最初から持っていた。
そして万感の思いを込めて、《贈賄者の財布》をプレイ。
高橋の《ジェスカイの隆盛》との1年間が、報われた瞬間だった。
高橋 2-0 今井
PPTQ「マドリード」、優勝は高橋 雅人!おめでとう!!