Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2021/9/8)
新環境を攻略せよ
『Jumpstart: Historic Horizons』はヒストリックのメタゲームに大きな影響を与えました。ヒストリックのランク戦はまさにマジックの西部開拓時代です。誰しもが新しい部族デッキを試し、2~3枚のコンボデッキを研究し、『モダンホライゾン2』の目玉カードである《ドラゴンの怒りの媒介者》を使い倒そうとしています。
今週末に控えたヒストリックによるアリーナ・オープン。みなさんの期待感を高め、その準備のお手伝いができたらと思っています。この記事では、『Jumpstart: Historic Horizons』リリース以降に私が得た知見を共有し、アリーナ・オープンで人気だと思われるアーキタイプ、そして本大会で「稼ぐ」方法を概観していきましょう。
試す価値のある新しいアーキタイプは無数にあるように思います。マーフォーク、人間、シャーマン、リス、スリヴァー、ゾンビ、そして新規の各種コンボデッキ。デッキのコンセプトとなる《硬化した鱗》、《魂寄せ》、《縄張り持ちのカヴー》。さらには《無限の秘本》《海辺の斥候》《ダブリエルの萎縮》といったデジタル限定のカードの導入。このできたてホヤホヤのフォーマットはデッキビルダーにとって楽園でしょう。
しかし、この記事の目的にそぐいませんので、私のなかにあるデッキ構築欲は脇にどけておき、スパイクモードで話を進めていきます。根は競技プレイヤーですから、新環境における私の目標はいつだってその大会、あるいはミシックのメタゲームでのベストデッキを見つけることです。今回は、環境で地位を築き、ワイルドカードを消費しても使う価値があるとおすすめできるデッキを5つ紹介します。
メタゲームは発展途上の段階にあり、まだ確固たる形は見えていません。前環境のトップデッキであったジェスカイコントロールやジャンドサクリファイスはヒストリックのランク戦であまり見かけなくなってきています。どちらも新セットからの収穫が少なかった一方で、ほかの戦略はデッキパワーが大きく底上げされたからです。
ラクドスアルカニスト
調整を始めてまず手ごたえがあったのがラクドスアルカニストでした。驚異的な効率を誇る除去呪文、《邪悪な熱気》、そしてそれと同等のコストパフォーマンスを持つ脅威、《ドラゴンの怒りの媒介者》という2つの大きな強化を得ています。『Historic Horizons』のなかでトップクラスの呪文2枚と言って差し支えないでしょう。この2枚を使うならラクドスアルカニストこそがベストだと今は考えています。
従来の《灯の収穫》《血の長の渇き》《致命的な一押し》など、癖のあった除去に替わって《邪悪な熱気》が入りました。このデッキならば「昂揚」を高速かつ安定して達成でき、6点火力となれば環境のほぼ全てのものを破壊できるでしょう。
《ドラゴンの怒りの媒介者》の枠を作るため、土地、《死の飢えのタイタン、クロクサ》、《立身/出世》、《若き紅蓮術士》の枚数を削りました。メインデッキの《魂標ランタン》はミラーマッチやそのほかの墓地依存デッキへの対抗策であり、「昂揚」達成のアーティファクトにもなっています。
Twitchのコメントで《踏み穴のクレーター》はどうかと以前に指摘されました。「昂揚」達成に役立つエンチャントであり、《死の飢えのタイタン、クロクサ》《戦慄衆の秘儀術師》に速攻を持たせて攻撃させることができるようになります。ただ、まだ試せていないのが現状です。
サイドボードは《魔女の復讐》や《軍団の最期》を採り、部族デッキへの警戒を高めています。《大群への給餌》は《安らかなる眠り》や《アズカンタの探索》への対策としてラクドスカラーならベストカードです。
《ファリカの献杯》と《アングラスの暴力》は《セラの使者》入りの《不屈の独創力》コンボに対して用意しています。ただ、この枠に関しては自信が持てないので、別の除去呪文に使っても良いかもしれません。たとえば、デッキリストが公開される大会であれば、こういったエディクト呪文はドワーフやカニトークンを場に残すなどしてケアされてしまうでしょう。
サイドボーディングする際、《信仰無き物あさり》と《立身/出世》はよくサイドアウトします。《信仰無き物あさり》はサイド前でより有効なカードであって、そのマッチアップに効果的なカードだけがデッキに入っているサイド後は手札を整える必要性が下がるからです。
まとめると、ラクドスアルカニストはほぼどんな環境のトップデッキに対してもゲームプランを立てられる手堅いデッキです。
イゼットフェニックス
《邪悪な熱気》と《ドラゴンの怒りの媒介者》の登場を歓迎しているのはラクドスアルカニストだけではありません。そう、イゼットフェニックスも同じです。このデッキは高速かつ能動的であり、《ドラゴンの怒りの媒介者》の「諜報」で《弧光のフェニックス》を墓地に落したときの感覚はもう最高です。このデッキは本当に一度使ってみて欲しいと思います。
非常に素直な構成です。《邪悪な熱気》は火力呪文の枠に入りました。《ドラゴンの怒りの媒介者》はその「諜報」効果によって土地1枚を減らすことができ、《弾けるドレイク》《嵐翼の精体》といった従来の脅威の枠に食い込んでいます。
インスタント・ソーサリーの枚数を稼ぐ観点から《大将軍の憤怒》を3枚入れなくてはいけないのは残念ですが、『イニストラード:真夜中の狩り』で《考慮》という素晴らしいキャントリップが登場すれば入れ替わることでしょう。メインデッキの《呪文貫き》と《厚かましい借り手》は、ザン・サイード/Zan Syedがミシック#1に到達したときに使用していた《不屈の独創力》デッキを意識したものです。
サイドボードはその《不屈の独創力》デッキに強くするためのツールを揃えました。《削剥》はアーティファクトや厄介なタフネス3のクリーチャーに対する汎用除去としての採用です。2種のチャンドラは対コントロール用で、2枚目の《アゴナスの雄牛》は消耗戦用、特に《ドラゴンの怒りの媒介者》ミラー用です。
1枚だけ採用した《虚空の力線》は墓地利用デッキ対策として試しています。一方的な《安らかなる眠り》が強力であることに疑いはなく、ライブラリートップから引いてしまっても《信仰無き物あさり》で有効牌へと変換できます。
イゼットフェニックスは未知のメタゲームでこそ真価を発揮するので、そういうときに使いたいデッキですね。
人間
部族デッキのなかで、個人的に評価が高く、私に黒星を付けた機会が多かったのが人間です。
《エスパーの歩哨》、《イーオスのレインジャー長》、《サリアの副官》。3枚の大型戦力を獲得したことで人間デッキは環境の上位層へと食い込みました。特に非クリーチャー呪文の多いデッキからすれば、《エスパーの歩哨》《スレイベンの守護者、サリア》《精鋭呪文縛り》《イーオスのレインジャー長》という並びは見たくもないでしょう。
《不屈の護衛》と《不詳の安息地》により、全体除去でされるがままにはなりません。《イーオスのレインジャー長》は、必要に応じて《月皇ミケウス》や《巨人落とし》といった強力なシルバーバレットにアクセスさせてくれるのが非常に優秀です。
このデッキは粘り強く、個々のカードパワーが高めです。そのため、キーとなるクリーチャーが除去されてしまうと行くあてのない弱いクリーチャーだけが盤面に残ってしまうエルフやマーフォークなどとは違い、人間は妨害に強くなっています。
サイドボードに関しては説明するまでもないでしょう。《封じ込める僧侶》は《集合した中隊》、リアニメイト、もちろん《不屈の独創力》対策にも。《黒き剣のギデオン》は強烈なパンチをたたき込むコントロール泣かせのカード。《静寂の守り手、リンヴァーラ》はサクリファイス系、エルフ、ゴブリン、起動型能力を持つクリーチャーが多い各種デッキ対策として。《ドラニスの判事》は《精鋭呪文縛り》で追放したカードを唱えさせず、《ティボルトの計略》+《混沌の辛苦》のコンボデッキなどを完全にシャットアウトします。
攻撃的な部族デッキがお好きなら、この人間デッキを推薦します。
ジェスカイオパス
さて、お次は個人的にお気に入りのアーキタイプで、執筆時点ではもっとも勝率が高いものです。
『Historic Horizons』のなかでもトップクラスに強いカードだと確信を持って言えるのが《大魔導師の魔除け》です。クリーチャー、《硬化した鱗》、《魔女のかまど》などなど、考えてみるとたくさんのものが奪えることがわかります。《奔流の機械巨人》で「フラッシュバック」しがいのあるカードでもあるでしょう。
調整の手始めとして、チャレンジャー・ガントレットにチームで持ち込んだジェスカイコントロールに《大魔導師の魔除け》を4枚入れた構成を試しました。感触は悪くないものの、《邪悪な熱気》が登場したことで《ドミナリアの英雄、テフェリー》の信頼性が下がっていることがわかり、即座にゲームを盤石にできる手段がないのは問題だろうと考えました。
チャレンジャー・ガントレット当時のジェスカイコントロールはほかのジェスカイ系を意識して構成したものでしたが、今となってはランク戦でジェスカイ系を使うプレイヤーはいません。《神秘の論争》や《記憶の欠落》がここまで環境から減ったのであれば、ジェスカイオパスに戻っても良いだろうと判断しました。
《大魔導師の魔除け》を採用する以上、マナベースの調整は必須でした。《アーデンベイル城》を採用している余裕はもうありません。デッキの2番手の色を赤にするか白にするか決めなくてはなりませんでしたが、今回は赤を選択しています。今のメタゲームならば《神の怒り》よりも《神々の憤怒》のほうが明らかに強いと考えているためです。
《大魔導師の魔除け》の枠を作るため《覆いを割く者、ナーセット》は不採用としました。《覆いを割く者、ナーセット》は、環境に青系のデッキが少なく高速のクリーチャーデッキが多いと弱体化します。
全体除去と優秀な単体除去により、アグロとの相性は非常に良好。青の妨害呪文はコンボとの相性を向上させています。つまり、このデッキはまさに今求めている条件を全て達成しているデッキなのです。
サイドボードに目を移すと、《終局の始まり》や《サメ台風》といった瞬速の脅威が少ないことに驚かれたかもしれません。かつてはコントロールミラーのキーカードとなった存在です。しかし、今のコントロールミラーでは巨大なトークンを出しても《大魔導師の魔除け》によって奪われる可能性があり、そうなればなんとも虚しいですし、最悪のリソース交換になります。《大魔導師の魔除け》が瞬速のトークンの立場を悪くしたのです。
このジェスカイオパスは環境の最強呪文を豊富に採用していますし、使っていてとても楽しいデッキです。今のところアリーナ・オープンで使う最有力候補ですね。
ディミーアコントロール
最後になりましたが、この”メタをメタるデッキ”も忘れてはなりません。ジェスカイオパスや《不屈の独創力》コンボが環境を支配すると予想するのであれば、その2つをメタるディミーアコントロールを使うのも選択肢でしょう。
ほかのデッキと比べると、ディミーアコントロールにかけた調整時間は短いですが、それでもポテンシャルがあると思ったのでみなさんにシェアすることにしました。《神々の憤怒》が現環境で強力であるのと同じく、《ヤヘンニの巧技》も素晴らしいカードでした。
1マナの手札破壊に、打ち消し、《覆いを割く者、ナーセット》。ジェスカイ系のデッキがこれらを突破するのは困難でしょう。《軍団の最期》と《真っ白》は黒ならではの優秀なサイドカードです。
以上、5つのデッキをご紹介しました。私の知見が少しでも多くみなさんの参考になり、ヒストリック環境への備えとなれば幸いです。
『イニストラード:真夜中の狩り』が出るまではヒストリックを頻繁に配信していこうと思っています。配信に来ていただければ、調整過程をご覧になれます。何か訊きたいことがありましたら、気兼ねなく配信で尋ねてくださいね。